眠れない夜の文章

 眠れない夜に、こうしてキーボードを叩くという悪い癖は、もう半年ほど前に治したつもりになっていた。

 最近、少し、心がおかしな方向に傾いているのが分かる。寂しさが——僕を望ましくない行動に駆り立てる寂しさが——どういうわけか強くなっている。

 寂しさを強く感じる時、僕の持つ様々な欲が、しょぼしょぼ、しょぼしょぼと凪いでいく。もう何も食べたくない。眠りたくもない。

 分かり合えそうな気がした人は、過去に何人かいた。彼女は僕の内面を理解しようと努めてくれたし、僕もまた、彼女の内面を理解しようと努めた。少なくとも、努めているつもりだった。

「こうも複雑な形をしていると、ぴったり重なるものを探すのも一苦労ね」

と、呆れながら彼女は言った。しかし、その呆れたような物言いの中には、前向きな響きがあった。今頃になって僕は、彼女のそうした前向きさに救われていたのだと気づく。いつもそうだ。相手の本当の魅力に気付けるのは、いつも別れた後だ。

 だから、僕は小説を書かずにはいられない。


 特に7月に入ってから、心が少し重たい。今週は特に重たい。

 こういう時には、耳を済ませて内側から聞こえてくるささやき声を聞くことにしよう。

 今月は、なんてったってジュリアス・シーザーの月、ジュライだ。僕だって、少しばかり強い男になってもいいだろう。

 僕の言う、強い男。それは、当たり前のように呼吸をする人間のことだ。ふと、陽炎の先を見つめるたびに、死が頭の片隅にチラつくことのないような人間だ。

 今の1秒を生きたなら、次の1秒も生きる。それを平気で二十億回ほど繰り返していける、そういう状態に戻ろうじゃないか。

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