大暑の筆先
こうして、ああして。
文章をねりねりしていく。
悲しいなあ、悲しいなあ。
隣の芝が青いのだ。
土潤溽暑。
草熱れに白南風の吹く。
筆を取る。ペン先のインクすら蒸発しそうな暑さ、と書き、ああだめだ、用紙を丸める、くずかごへと投げつける。
苦しいなあ、苦しいなあ。
隣の花が赤いのだ。
蝉時雨。抜け殻に這う朝顔の蔓。
赤翡翠。ピョロロと鳴けば雨の空。
新しい用紙を広げて、表面をすべるは筆先ではなく、小さな羽虫の足先であると。
こうして、ああして。
文章をねりねりしていく。
今の時期は、どうもいけない。やっぱりインクが蒸発して上手く書けないのだ。
ふと、用紙に小さな水滴が落ちた。