迎えの宴

　簡素なつまみと酒を持ち寄って、たわいもない話を広げていく。笑いながら、涙しながら、事の終わりからよもすがら、事の始まる際きわまで一向ひたすらに話し、そうして皆で同じ日を迎える。
　迎えの宴と銘打って、友と集い酒を酌くみ交わす。誰が一番に映せるかと杯さかづきに酒を満たし、その面おもてに満月を迎えて互いの命を祝い合う。まほらまと化した宴に、鬼の出る幕は何処いずこにも非あらず。
　月露げつろ、窓の外より入り来て、一行いっこうを唯ただ見るばかり。
　時に一人二人と意を合わす。願わくは、乙女来たりて箏こと鳴らし、快然の間をより麗しくと、更に進んで杯を満たす。一行、乙女の姿を暫しばし想う。その性さがは天女のように清く、またその姿は花のように儚くあれと様々な理想を抱き、甲斐の有無を考えずにただ時を過ごす。
　夜も更ふけて月は傾き、薄雲の衣を纏いて空に寝そべる。
　一行、話尽きて踊り明かす。岩戸の前のアメノウズメの如く、またオロチ退治のスサノオの如く、また世阿弥ぜあみの如くと姿を変え、己おのが齢よわいを忘れて火照ほてる身体を無我夢中に舞い踊らす。一人踊れば皆で笑い、皆で踊れば宴は満潮。笑い尽きるまで狂い咲き、その花に誘われて胡蝶が舞う。やれ目出度めでたや目出度やと拍子合わせ声合わせて歌い出す。しかし、縁もたけなわ、月は薄く消えかけ空が白しらむ頃、まほらまも無へと帰きす。各々おのおのの日常に、ケの日へと向かう明朝に、またの望月にとあと一杯の契ちぎりを交わす。日が昇る空の青さは万里を越え、皆の頭上へと横たわる。
　嗚呼、遠く近しい我が友よ。この空の見ゆる限り、我らは何処にいようと友である。決して気を伏ふす勿なかれ。もし伏す事があるならば、我が友よ、一言二言の話をしよう。たとい一月ひとつきかかろうと。其その口より言祝ことほぎ出いずるまで杯を交わそう。さもなくば、我が口より言祝ぎ申して直ただちに予祝よしゅくの宴を開くことになろう！　その時は大いに話し、唄い、笑い、泣き、また踊り明かそう。
　一行、それを聞きアハハと一笑いっしょう。次の満月へ、ちろりと過ごす日々へと帰した。