少女の信心
その少女は朝五時に起きる。
まだ日も昇らない中、軽い洗面を済ませ、そして自室の棚の上に置いてある簡素な祭壇に向かって、神に対してお祈りをする。今日という日を迎えることが出来たことへの感謝と平和の祈りを捧げる。こうして少女の一日が始まるのである。
少女の考えは奇妙であった。少女は朝食を取る代わりと言って朝日が昇ると日光を全身に浴びていた。また少女は神のことについて話すのが好きであった。神は全宇宙を隅々まで漂っているだの、神を自分の外に見るのではなく、自分の内に見るのだの、そして神と一体となって共にあるのだなどと言ってはよく教会の神父を困らせていた。これらの考え方は全てとある本から来ている。少女はそれを読んで、そして内容の全てを信じきっていた。それ故に、人と考えが合わず、いつもひとりぼっちでいた。しかしひとりぼっちになっても少女は信じ続けた。
私は神の子。愛であり、光である。
少女は呟き続けた。
*
その青年はささやかな物書きであった。
青年は廃教会でその少女に出会った。
少女は無表情であった。しかしそこに親しみを覚えた。少女はとても話したがりであるかのように思えた。特に神のことについてよく話した。青年は少女の話に内心思うことがありつつも、最後まで根気よく聞いてあげた。
廃教会の歴史、神のこと、時間の存在など、二人は日が暮れるまでたくさんの話をした。少女が会話の合間に見せる小さな反応は無表情ながらもとても面白いものだった。
別れ際、少女は笑顔を見せた。青年はその笑顔を見てとても嬉しかった。しかしその後、少女は光に包まれて消えてしまった。それを見て青年は驚いた。
*
少女は一日を終える。やはり神に対して、今日一日を無事に過ごせたことを感謝する。そうしてベッドに入り込む。少女はベッドの中で神のことについての考えを反芻していた。この少女はどこまでも神が大好きなのである。たとえそれが本からの影響だったとしても。
少女の心はどこまでも純粋であった。それ故の盲目的なまでの信仰心。少女はその本の内容が楽しみだった。それこそが真理だった。望みだった。世界だった。理解されない悲しみと孤独を超えて、神と共にいることを選んだ。読者はこの少女の在り方をを幸せと見るか、不幸と見るか。
少女の話は以上である。
作者あとがき
この掌編小説は私の書いた連載小説『死の天使の光輪』(未完)の補足として書きました。スピリチュアル色が強い作品ですが、序章だけでも読んでいただけると幸いです。(2022/09/05)
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