青い初恋
初恋は忘れられないものである。
高卒で清掃員として働き、一人で黙々と作業をしていた時のことである。その日は、初夏の清々しい空気が渡り、綺麗な青空が広がっていたのを記憶している。空き缶の回収をしていると、突然、声を掛けられたのだ。その人が言うには、自分も清掃員としてアルバイトをしているため、もし相談事があれば聞くとのことであった。最初はからかわれているだけだと考え、その人が去った後、会話で中断していた作業を腸が煮えくり返る思いを抱きながら進めていたが、しばらくして全くの他人から相談に乗ると言われたことが、毎日を無味として働いていた心に染み渡り、人の優しさに触れて、仕舞いには道具置き場で一頻り泣いていたのであった。
その後もその人とは仕事場で度々会うことがあり、その毎に会話を重ねていったが、次第に、私は、何を思ったのか、その人に対して恋心のようなものを持つようになった。一応、ここでは恋をしたということで話を進めるが、恋をすると不思議なことが起こり始めるのだ。まず自分の容姿を気にするようになる。次に相手がいつもの場所を通るのか気になる。と、兎に角不思議なことが起こり始めるのだ! そんなことをして約一年間、恋する毎日を送っていた私であったが、別れは突然訪れたのだ。
忘れもしない、七月八日のことである。恋をしても尚、毎日の無味を忘れられず、仕事に耐えることが出来なくなり、電話を入れたその日付で仕事を辞めてしまったのだ。私の恋心は仕事の重圧に負けたのだ。それから、その人に会うことは一度もなかった。別れの挨拶もしなかった。
後悔したことと言えば、その人の名前を全く知らないまま仕事場を離れてしまったということである。当然、連絡先も交換していない。仕事場だけに咲いた恋の花であった。
夏が来る度に思い出してしまうのは未練故か、それとも一つの笑い話か。私はもう二度と恋をしないであろう。何故ならば、初めて人を恋した時の気持ちに勝る恋は無いと思うからである。初めて一所懸命になった。初めて人と会うことに幸せを感じた。色々な思いが初恋には込められているのである。其れ以上の恋は、今後現れないであろう。それに、忘れたくても忘れられない恋は、もう、ゴメンだ。
良い思い出でもあり、悲しい思い出ともなった私の初恋話は終いにしようと思う。
心の臓 破かんばかりの 恋をして
此岸に咲くは 恋忘れ草