「琉球語」だと誤解を招きます!「琉球諸語」です#31
琉球諸島の言語は「琉球語」なのか「琉球諸語(るーちゅーしゅぐ/りゅうきゅうしょご)」なのか、どう呼べば良いのかと質問されることが多いので、できるだけ分かりやすく解説してみます。
2009年にユネスコ(国連教育科学文化機関)が琉球諸島には6つの言語があると発表しました。
上記サイトを開き上段にSearch toolsとあるのが見えますでしょうか?そこの下にCountry or areaとあります。その右の⇓をクリックしてJapanを選択して下さい。すると6つの琉球諸島の言語が登録されているのがGoogle map上で確認できます。
私はそれを基に琉球諸島の言語地図を作成し、大学の講義でも使用しており、またそれは学術書などにも掲載されています。
下記の言語地図を見て頂ければ一目瞭然ですが、琉球諸島には北から
奄美語
国頭語
おきなわ語(うちなーぐち)
宮古語
八重山語
与那国語
と、6つの言語があり、これらは互いに通じ合わないほど異なります。
そしてその総称は上記の言語地図にもある通り「琉球諸語」といいます。
はい、ここまではSNS上で何回か書いてきましたが、そうは言っても「琉球語」でも「琉球諸語」でも良いだろうというコメントなどもあるので、ここで、はっきりさせておきたいと思います。
上記地図を見てお分かりのように「琉球語」というと、どこの語を指すのか分からないということです。
例えば誰かに「琉球語でありがとうございますは何というの?」と聞かれたら困ることになります。
なぜかというと、例を上記6つの言語の「ありがとうございます」をあげると分かりやすいでしょう。
奄美語(名瀬言葉)では「おぼこりだりょん」
国頭語(与論言葉)は「とーとぅがなし」
おきなわ語は「御拝(にふぇー)でーびる」
宮古語は「たんでぃがーたんでぃ」
八重山語は「にふぁいゆー」
与那国語は「ふがらっさーゆー」
と、以上6つの言語で述べましたが、お互いの言語は通じ合わないほど異なります。
これでお分かりの通り
「琉球語でありがとうございますは何というの?」
と質問されたならば
「琉球語?琉球諸島には6つの言語があるんだけど、どの語を指しているの?」
としか返答できず困ってしまいます。
さらに「琉球語」という語はややこしい
もう一つ問題なのが、これまで琉球語=おきなわ語(うちなーぐち)という認識で琉球の知識人や学者達が論文などに記してきていることです。
「琉球語」と書くと、琉球諸島には言語は一つしかないのか、それとも複数あるのか理解できません。
「琉球語」という語は、私の尊敬する沖縄学の父と言われる伊波普猷(1876-1947)も多数の論文に記しています。
彼は「琉球語」と書き、おきなわ語のみを解説したり、別の論文では宮古や奄美などの南北琉球の言語を含めたりと曖昧なのですが、しかしながら、その大半は琉球語=おきなわ語という認識で書いている論文が非常に多いです。
例えば伊波普猷のデビュー作と言える明治期に著した『古琉球』は有名ですが、その中に「琉歌の頭韻法」という項目があり、その6行目に「琉球語」とありますが、引用する語彙はすべておきなわ語です。その文献が下記の写真です。
さらに、伊波普猷が沖縄学の第一人者として認められていた頃『琉球語大辞典』(昭和七年 未完の草稿)という3,674語収録する辞典を残しましたが、その辞典は「琉球語」と銘打ってはいますが掲載される単語は、ほぼおきなわ語のみで、その最初のページが下記の写真です。
さらに伊波普猷の弟子筋にあたる比嘉春潮(1883-1977)も琉球語と書き、おきなわ語のみしか記さない論文がありそれが下記です。
引用:比嘉春潮全集 第三巻p116
さらに近年、と言っても1999年に出版された『琉球語辞典』(半田一郎)は本当に素晴らしい辞典で、私はこの辞典がないとおきなわ語の執筆ができないといえるほど重宝しています。
この辞典も、「琉球語」と銘打っていながら中身は9割以上、おきなわ語のみを掲載しています。
はい、少し難しくはなりますが、首里と那覇の言葉は学術的には、
日琉祖語・日琉語族・琉球語派・北琉球語群・おきなわ語・首里/那覇変種
と定義できます。
上記「琉球語派」が「琉球諸語」にあたると考えることができます。
難しい学術的な話はさておき、一般の方に認識して頂きたいのは、
例えば那覇の言葉でしたら「琉球諸語」の中の「おきなわ語」の中の「那覇変種」となり、
他にも、例えば石垣島の白保の言葉は「琉球諸語」の中の「八重山語」の中の「白保変種」と言え、
また、奄美大島の笠利の言葉は「琉球諸語」の中の「奄美語」の中の「笠利変種」と言えます。
「変種」という言葉は聞きなれない言葉だと思いますが、要するに「方言」と同じ意味です。
「方言」という言葉はネガティブなイメージや、言語と混同されたりと誤解を招くことが多いので、「変種」という呼称が琉大名誉教授の宮良信詳氏などが提唱しており、私もそれに賛同しています。
また「琉球諸語」という語を冠した書籍は恐らく私が沖縄大学から頼まれ編集・執筆・企画をした『琉球諸語の復興』(芙蓉書房 2013)が世に出た最初でしょう。
上記本は私が主催したシンポジウム「島々の唄者たち」という琉球を代表する唄者たちの唄も収めたDVDも付録としてありますのでお薦めです。
さて、まとめですが、「琉球語」というと琉球の6つある言語のどれを指すか明確ではないので「琉球諸語」というべきだというのが結論です。
何度も繰り返しますが「琉球語」だと琉球のどこの言語を指すのか分かりません。
「琉球諸語」と定義することにより複数の言語が琉球諸島に存在するのだということがかなり明確になります。
良たさる如、御願さびら(ゆたさるぐとぅ、うにげーさびら。宜しくお願いします)。
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