【連載】ポジティブ対談 第4回 西島数博さん
大山峻護のポジティブ対談
~コロナ禍を乗り越える為のメッセージ〜
第4回 西島数博さん
『歩いていれば景色が変わり、
そこに希望が見えてくる』
この対談は『ビジネスエリートがやっているファイトネス』の著者・大山峻護が各界で元気に輝きを放ち活躍しているこれはと思う人達をゲストに迎え、コロナ禍の今だからこそ必要なポジティブメソッドをみなさんにお届けするもの。第4回は世界的なバレエダンサーとして活躍し、今ではダンサー、演出家、振付家、プロデューサーとマルチに活躍する西島数博さんです。どうにもならない困難な時はいったん休む。そして、多くに流されず、足踏みせず、自分のペースで、希望を探しながら前を向いて歩こう……。そんなお話です。
■最悪な状況でもいいところは必ずある
大山峻護(以下、大山) 1年経ってもコロナが終息しようとしませんが、西島(数博)さんはこのコロナ禍をどう感じましたか?
西島数博(以下、西島) 僕はもともとクラシックバレエ出身なのですが、今はバレエのほか、ストリートダンスやブレイクダンスなど色んなジャンルのダンスをミックスした舞台をクリエイトするのがメインの仕事となっていて、このコロナ禍でも『ドラマティック古事記2020』という神話をテーマにしたミュージカルの公演を7月~8月に行いました。ただ、2020年は、エンターテインメント業界にとって公演中止、延期などが続いた厳しい一年であったことは確かですね。
大山 そのような中、業界的にメンタルダウンする人も多かったと思うのですが、西島さんはいかがでしたか?
西島 僕のことで言えば(コロナが流行することに対して)あまり驚きはしませんでした。これまでも東日本大震災もあったし、9・11のテロもありました。こんな、どこで何が起こってもおかしくない時代の中で、何も起きない平和な時のほうが実はなかなか難しいことなのだと思っています。
大山 冷静ですね。
西島 今こういう事が起きている(コロナが世界的に流行している)、「もしかしたら今までの生活を考え直す必要がある、人間にとって大事な時期なのかな?」とは思いました。ただ、それに対してネガティブになったり、めげたりはしませんでしたね。
なんというか、受け止めるしかないですよね。誰が悪いわけでもないですし……。であれば、次に繋がる新しいことを考えるほうがいい。
「じゃあどうする?」と考えるところに人間の生きている意味があると僕は思っています。
大山 大打撃を受けたエンターテインメント業界の真っ只中にいても、そんなふうに考えられるのがすごいなと思うのですが……。
西島 先程も言ったように、公演が中止になったり、延期になったりすることは確かにありました。ただ、それならそれで、別にできることはあると思ったんです。
YouTubeを始めたのもコロナがあったからできたことです。もともとやりたかったことではありましたが、これを機にやろうと始めたんです。
大山 なるほど、あのYou Tubeチャンネル(「NISHIJIMA DANCE CHANNEL」)はコロナを機にスタートしたんですね。
西島 そう。コロナがきっかけなんです。逆にコロナがなかったらまだ始められていなかったなと思っています(笑)
大山 この連載でもいろんな人に話を聞いてきましたが、その道のトップを走っている人はみなさん前向きです。
西島 そういうふうに考えると、僕は基本的に、最悪な状況でも何かできることや、いいところを見ようとする癖のようなものが昔からあるのかもしれません。
小さい頃は世の中に悪い人なんていないみたいなところがあって、周りの人から「あいつはとんでもない奴だ」と言われるような人でも「どっかにいいところがあるでしょ?」と思っていました。
大山 ポジティブですねー(笑) 僕は西島さんとご一緒すると温かくて、心地よいエネルギーを感じるのですが、西島さんの周りにいる人もみなさんそのような感じなのでしょうか?
西島 周りにいる人も大体ポジティブな人が多いというか、「(僕に)似ている人が多いよね」と言われる事はよくあります。ただ、それは意識して集めているわけではなく、必然的にそうなっているのかなと思います。だからネガティブになりようがない、といったところが実際あるのかもしれないですね(笑)
■不安を感じるときは2割の人とだけ話せばいい
大山 周りにたくさんポジティブな人がいるのも小さい頃からなのでしょうか?
西島 それに関しては、どちらかというと、いつも一人でいるほうだったかもしれません。
ただ、それも寂しいというものではなくて、本当に多くの人とつるまなかっただけなんです。小学校の時に遠足に行っても一人でお弁当を食べているみたいな感じでしたが、周りをよく見ると何人か同じような人はいるんですね。そんな人達と仲良くなる傾向にあったように思います。
大山 根本が強いんですかね。僕なんかはすぐに頼りたくなったり、依存したくなったりしがちですが、不安を感じることはないでしょうか?
西島 それはありますよ。あまりにも僕の考えと真逆の考えの人に意見をぶつけられると不安になります。根本的に考え方が違うというか、そんな人たちに意見をぶつけられると、「なんでわかってくれないのか?」「どうして?」と不安になるみたいな感じでしょうか……。それは何年か前まですごくありました。でも、その考えを捨てたんです。
大山 「考えを捨てる」とはどういうことでしょうか?
西島 ダンサーは35歳ぐらいがピークとよく言われます。僕は、その頃から舞台を企画することもやりながら、自分も出演するということが増えていきました。
企画という部分から、ビジネス関係の方々と関わることも増えて、時々意見が合わないこともありました。
多くの人が関わる舞台は、出演者も、演出家も、スポンサーも、それぞれ同じ方向を向いていかなければならないところがあって、それが少しでも違う方向にずれてしまうと、なかなか良い舞台が作れないんですね。
大山 それでどうしたんですか?
西島 そこで、最終的に思ったのは、例えば、10人の会話の中で、10人ともが同じ考えになるのは難しいけれど、おおよそ2割の人(2人)は波長のあう人がきっといる。その2人とじっくり話したいと考えたんです。
大山 なるほど。僕も時々みんなに好かれようと思ってしまうことがあるんですが、そんなことは実際にありえないですものね。
西島 8割は合わないけれど、2割は波長の合う人がいる。その人と話そうと思えば気持ちが随分楽になりますし、前に進むことができます。
自分と違う意見を聞きすぎてしまうと傷つくのは、結局は自分ですから。
大山 その考え方は大事ですね。「周りの人に合わせすぎてしまうのが日本人」みたいなところがあって、このコロナ禍ではそれで疲れている人もきっと多いと思います。でも、自分と考えの合う2割の人と話をすればいいと思えれば心は随分楽になると思います。
■その場からいったん離れることも大事
西島 困難な状況やどうにもならないと思うようなことに直面した時には、あまり受け止めすぎないこと。また、「やばい、やばい、どうしよう」と思ってしまったら、いったん考えることをやめて、その問題から離れることも大事なことだと思っています。
大山 渦中にいると何も見えないものが、離れることで俯瞰して見られるようになりますよね。僕は網膜剥離や右腕を折られたりなどケガが多くて、必然的に格闘技から離されてしまうこと多かったのですが、その離れた時期に格闘技以外の世界の人と話したり、繋がれたりして学ぶこと多かったので、今思えばそれが自分にとって「いい時期」だったと思っています。
西島 実は僕もケガが、自分を見直す大きな転機になっているんです。
もともと僕はケガをしないタイプでしたが、16年前ぐらい前に本番中に舞台の上で、膝の後十字靭帯を損傷したことがありました。
それは、寺山修司原作の舞台だったのですが、舞台上にうっすらと水を張ったプールを作って、そこで演技をするものでした。その舞台が始まったばかりの2日目に、水で足を滑らせてケガをしてしまったんです。
大山 僕も17歳の時に後十字靭帯の断裂をやったことがあるのですが、後十字靭帯を痛めると動けないですよね。
西島 僕の場合は損傷だったので、何とかギプスで固めて、その後の20回位ある残りの公演をやり切りました。
大山 でもそれって後遺症が残るような、ダンサー人生にもかかわってくる決断ですよね。
西島 そうですね。実際にその後はいろんな意味で大変でした。その時はバレエ団のプリンシパルをつめていたり、エンターテインメントの舞台もあり、それにテレビドラマの仕事みたいな感じで結構忙しく働かせていただいていました。
そこにきてこのケガで、膝の調子も悪いのでいったんダンスをお休みしようかとなったんです。その時にダンサーをやめて俳優に専念するという道もありました。しかし、僕自身はやはりダンサーとしての表現者であり、俳優をやりたいわけじゃなかった。といっても、ダンサーとしても膝が思うように動かない状態だったので、「一回フラットにしよう」と思ったんです。
そして、バレエ団も芸能事務所も辞めて、いったん一人になってみることを選びました。
大山 それもすごい決断ですね。
西島 でもそうすることで、少しずつリハビリをする時間もできて、舞台も自分の体の調子とバランスを取りながら冷静に向き合えるようになっていきました。そうして徐々に階段を上がるように仕事を始めていくと、それまでより自分のできることが広がり、もっとスケールの大きな仕事が入ってくるようになったんです。
つまり、いったんフラットになって(今いる場所から離れることで)、新しい自分を見つけられたんですね。
大山 そう考えると離れる判断って本当に大切ですね。
■120%全力より70%、80%を目指す
大山 そんな経験から得られたものってなんだと思いますか?
西島 僕はダンサーなので、一番はやはり、自分の体の感覚がわかるようになったことでしょうか。ハードな動きをしても、「これ以上やったらケガするかも」というように自分をコントロールできるようになりました。
前であれば勢いでバババッとやっていたものが、足裏の感覚などを感じながら、より丁寧に動くようになり、そうすることで、踊っている自分を心地よく感じられるようになったと思います。
大山 自分をよりわかるようになって余裕ができたということなのでしょうか。
西島 そうですね。(自分の体を)コントロールして動いているのが、観ている人へちょうど良い感覚となって伝わることに気付いて、自分が気持ち良く動くよりも、お客様がより心地好く観ていただけるように、という部分が大きく変わってきました。動きの感覚で言うと120%でやるのではなく、80%とか70%でやるみたいな感じです。100%はもう出さなくていいんです。
大山 僕もこれまでいろんな人の話を聞いていましたが、達人と言われる人たちはまさにその域ですよね。「いかに抜くか」。若いころはフィジカルも強いので、「200%出してしまえ」というふうになりがちで、僕なんかはそれでケガを繰り返してきたので、この考えが現役時代欲しかったですねー。
西島 そうですね(笑) 僕も早くそれができていれば、ケガをすることはなかったんですが、でもそれがあるからこその今であって、35歳で引退だと思っていたものが、今は50歳になっても踊れると思えるようになってきている。やっぱりケガにも意味があったのだと思いますね。
大山 まさにそうですね。西島さんはコロナの時も、ケガしている時も、多くに流されず自分に合う場所、心地よい場所を、自ら選択して、物事をポジティブ変換してきている。今日はホントにいいお話を聞けました。ありがとうございます。
最後にこれを読んでくれているみなさんにメッセージをお願いできますか?
西島 今いろんな環境に直面している人がいる中で、一概には言えないのですが、僕はどんな状況ににあっても、希望をもってゆっくりでもいいので歩いていくことが大事かなと思っています。
絶望に打ちひしがれている時でも、いったん休んでみて、それから歩いてみるでもいいんです。
足踏みしているとその景色は変わりませんが、ゆっくりでも歩いていけば、景色は絶対に変わってきます。
希望というものは歩いていないと見えてこないと僕は思っています。これを読んだみなさんにもそんなふうに思ってもらえたらいいなと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
西島数博(にしじま・かずひろ)
宮崎県出身。3歳より伊達バレエ団バレエスクールにてバレエを学ぶ。91年フランスカルポー賞国際バレエコンクール第1位受賞後、ヨーロッパで100回を越える舞台に出演。バレエ以外にも「スーパーダンスバトル」「ジャン・コクトー 堕天使の恋」「スターダスト・イン・上海」など数々の舞台をはじめ、TVドラマ「池袋ウエストゲートパーク」や、「流転の王妃・最後の皇帝」、映画「るにん」などにも出演。舞台・映画・TVドラマ・CM等、表現力の高いアーティストとして活躍するほか、企画プロジェクト「ジャパン・ダンス・イノベーション」を立ち上げ、プリンシパルダンサーとして活躍する傍ら、芸術監督から演出・振付・出演まで手がけるマルチなダンスアーティストとして常に躍進し続けている。
西島数博オフィシャルブログ
https://ameblo.jp/nishijima-kazuhiro/
YouTubeチャンネル「NISHIJIMA DANCE CHANNEL」
https://www.youtube.com/channel/UCdNDyXMRpLSFm9o-E-xMB9Q
【西島数博 出演舞台インフォメーション】
西島数博プロデュース
最新作『ーINORIー』宮崎公演
PIANO 吉川隆弘
DANCE 西島数博
映像CREATION 酒生哲雄
賛助出演 伊達バレエ団・バレエスクール
2021年 2月26日 (金)
18時半開場 19時開演
メディキット県民文化ホールイベントホール
チケット全席指定 8000円(税込)
【150席限定】※特典付き
⭕チケット申し込み⭕
メディキット県民文化センター内チケットセンター
(宮崎県立芸術劇場)
TEL:0985-28-7766
窓口営業・電話予約 午前10:00~午後6:30
※月曜日休館(ただし、月曜日が祝日の場合、翌日休館)
★12月26日よりチケット販売予定
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