想いを込めて、戦艦武蔵のプラモデルを作った話(前)
ずっと作っていた戦艦武蔵のプラモが完成したので、今回はこのプラモに込めた想いみたいなのを書いてみたいと思います。
今回製作したのは、フジミ模型 「1/700 帝国海軍シリーズ No.2 超弩級戦艦 武蔵 フルハルモデル」です。久々に艦艇のプラモに触ったので、最近のトレンドが分からないのですが、特にストレスを感じること無く組むことが出来ました。大和型戦艦の美しい姿をよく再現したプラモデルと思います。
何よりフルハルで安価なのが良い。ありがとうフジミ模型さん…
スマホに残っている記録を見ると、制作に着手したのは、2020年8月13日(!)
完成したのは2022年6月23日(!!)
なので…
2年近く作っていますね…
途中でウクライナ戦争への想いを込めてRODEN社(ウクライナのプラモ会社)のプラモを急いで完成させたりしたものの、いくら何でものんびりとやり過ぎました…
今回は特にゴリゴリにエッチングパーツを使うつもりもなく、さっくりとライトに完成させるつもりだったのですが、仕事が急に忙しくなったり、家族の一大イベントが有ったり、そして何より、異動に伴う転勤…
こんな感じで月単位で製作を停めざるを得なかったことが何度も有りましたが、それでも続けられたのは、「毎朝、通勤前にプラモの写真をSNSに投稿する」というよく分からない縛りを設けたためでした。(毎朝すみませんでした…なんでこんなことをしたのかは、別途書きます)
さて、この模型のコンセプトの一つは上記の通り「ライトに素早く」だったのですが、それは叶わず…
しかし、当初の狙い通り実現できたこともありますし、長く製作を続けていく過程で、新たに目指したいことが出来たりもしました。幾つか書きたいと思います。
コンセプト1「強そうでカッコいい武蔵を作る」
これは当初からの目標でした。
武蔵に限らずですが、大和型戦艦に関する戦記、もしくは乗員の方の伝記を読むと、多くの場合、武蔵(大和)に関わった様々な人達の「武蔵(大和)を初めて見た時の感想」が書かれています。
そこで必ずといって良い程、述べられているのは「とにかく大きくて凄い艦だと思った」というものです。
また、「こんな大きい艦に乗れて幸せ」や「この艦は絶対に他の艦に負けない」、「この艦は沈まない」など。
そして、これは武蔵ではなく、大和の本で読んだのですが大和が竣工した1941年12月16日は日米開戦の12月8日のすぐ後だったことから、「大日本帝国は大和の完成を待って、日米開戦したんだ」と思った乗員の方もいらっしゃったそうです。
開戦後の大和型戦艦の運命を知る我々にとっては、その当初の期待と実際のギャップが「大和型戦艦」という軍艦の持つ悲劇性を、より高めることになっています。
一方で「軍艦」という存在は、関わる人達に、「この艦なら自分たちは負けない」という感情を呼び起こさせることも、ある意味、仕事の一つだと思います(それは反対に「この艦に、自分たちは敵わない」と相手に思わせることでもあります)
今回私は軍艦としての、その「仕事」を再現してみようと試みました。
即ち、私が作る今回の武蔵は、大きくて、美しくて、カッコ良くて、多くの人が「国の命運を託すことが出来る」と信じた、誇りに満ちた姿で完成させたいと思いました。
このコンセプトを目指す為に、ウェザリングによる赤錆などの「汚れ」の表現は極力控え目にして、ダメージ表現を施すことはしないことにしました。また「入渠中」という設定ですが、戦闘時の海軍旗を掲げ、旗旒信号(後述)で、麾下の艦隊各艦に指示を出す「カッコいい」「頼もしい」姿を再現しています。
如何でしょうか。
良ければ感想を聞かせてください。
コンセプト2「最初にシルエットを作り、製作中も美しい姿を楽しむ」
このコンセプトは今回のプラモで重要な位置を占めていますので、少し長めに書きます。
「プラモデル」という趣味は、十人十色の楽しみ方があると思いますが、私がプラモを作る理由は、自分の好きなカッコいい軍艦や飛行機の姿を見たいからです。
例えば、パーツとパーツを組み合わせていく時の爽快感(『組み味』という味わい深い言葉が有ります)を求める方もいるようですが、私は組んでる最中はどちらかというと「作業は辛くても仕方がない」と思っていて、「完成後の美しい姿を楽しみたい」と思っている人です。
プラモという趣味は製作に(普通は)2〜3週間、そして、完成後は1日か2日は片付け、次のプラモの資料などを読み初めて、直ぐに別のプラモに取り掛かる、というルーチンが多いです(私の場合)
また、プラモ趣味の人なら共感していただける方も居ると思うのですが、7〜80%くらいまで作業を進めると「はぁ…早く次のプラモ作りたいなぁ…」なんて思ってしまったり…笑
こういう(私の)プラモの作り方は、大好きなモチーフの姿を愛でる時間が少なく、場合によっては、プラモを作ることに「飽きて」、最終的にモチーフに対してネガティブな感情を持ってしまう流れになっています。
この「やり方」というか「プラモとの付き合い方」について、何とか出来ないかな、という想いが以前からありました。
大好きなモチーフとなるべく長い時間、良い関係を保ちつつ付き合うにはどうすれば良いのか…
この問題の解答として、考えついたのは「なるべく早く、完成のシルエットが出るところまで組んでしまうこと」です。
さて、艦艇の模型の作り方の主流は以下の通りです。
「艦橋、砲などの艦艇の各パーツごとに製作して精度を高める」→「最後に一気に組み上げる」
このやり方は効率的ではあるものの、完成形のシルエットを目にすることが出来るのは、「最後に一気に組み上げ」た後になります。
上述の通り、美しい姿が現れると頃には模型作りに少し疲れて、飽きた状態です。
そこで今回、私は以下のやり方を試してみました。
「最初に一気に組み上げる」→「各パーツの精度を高めていく」
例えば、今回、2020年8月13日に製作を開始しましたが、8月20日には、艦橋、煙突、主砲までを取り付けて、大和型戦艦のシルエットが分かるまでは組み上げてしまいました。
その後、よほど取れやすそうなパーツ以外はエッチングパーツを含めて、なるべく取り付けた上でシルエットを作り上げました。
そして、いったん塗装に移り、その後、各部位の気になる所にアフターパーツ、エッチングパーツなどを組み込み、さらに追加部分は塗装して、全体を「均して」いくように組み立てていきました。
既にお気付きの方もいるかと思いますが、つまり、これは戦車のプラモの作り方です。
戦車プラモの作り方を、何とか艦艇のプラモにも持ち込めないか、と今回は実験してみた訳ですね。
製作に2年近くかかりましたが、初めの1週間で大和型戦艦の美しいシルエットまでを作り上げることができましたので、2年間、毎日ずっと、大和型戦艦の美しい姿を楽しむことが出来ました。
一旦、高い所に登って、山の稜線から良い景色を見ながら、ずーっと歩いているような感じでしょうか。
美しい大和型戦艦のシルエットを眺めながら、各部位の精度を高めていくやり方は、とにかく楽しくて、当初の目的だった、テンションを高く保ちつつプラモを製作することについては成功したと思います。
そして、意外と製作も困らなかったな、という実感が有ります。
例えば…
艦艇の模型は最後の組み合わせの際に接着剤のはみ出しに気をつける必要が有り、接着剤の使用はなるべく少量とする必要があります。
その為、各パーツの接着強度が弱くなりがちなのですが、「接着→塗装」順だと、強度を確保しやすい上に、塗装によって汚いところを塗りつぶす事が出来、リカバリもし易いという事にも気付きました。
この最初に「ある程度シルエットまで作っちゃう」というのは、なかなか良い「プラモとの付き合い方」と感じましたので、今後も色々なジャンルのプラモデルで試していきたいと思っています。
コンセプト3「ファレホで筆塗りする」
これも挑戦の一つ。
私はファレホが好きです。
特に、エアブラシ専用に希釈された「ファレホ・エア」を、敢えて筆塗りで塗るのが好きで、基本的にプラモは全てこの方法で塗っています。
ファレホ・エアは既に希釈されていますが、それを更に「プラの表面をギリギリ弾かないくらい」まで水で希釈して塗り重ねていくと、最終的に何とも形容し難い美しい「艶」が現れます。
美しい武蔵を作り上げるために、この「ファレホの艶」を活用したいと思いました。そのため、多くの艦船模型モデラーさんが使用するエアブラシではなく、今回、私は筆塗りを敢行しています。
さらには、下地にランダムにカラフルな色を塗って、その上から基本色を塗って微妙なテクスチャを着ける技法を使っています。
この技法は武蔵プラモの前に作った第一次世界大戦のイギリスの複葉機プラモで試したものです。
緑の単色の機体でしたが、この技法で単色の塗装にとても良い表情が出ましたので、今回の「ウェザリングをあまり施さない美しい武蔵」には良いかな、と思い試してみました。
結果としては「一勝一敗」。
まず、「軍艦色」を塗る上部構造物の部分ですが、こちらはグレーが下地色をかなり反映してしまい、赤青緑などの原色系の色を目立たなくするには、厚塗りが必要となってしまいました。
つまり「敗」。グレーというのは、本当に「透ける色」なのだと今回実感しました。
グレーにテクスチャを着けるなら、下地には白と黒のランダムな模様を小さく塗っていくのが良いかも、と思いましたので、次に艦船模型を作る際はリベンジしたいと思います。
一方で、甲板や艦底については、単色ながらも狙い通りの微妙なテクスチャを着けることが出来だと感じています。つまり「勝」。
甲板については、カラフル下地の上に甲板色を塗粧後、フラットクリアをコーティングの上、暗めの塗料で「レイテ沖海戦のときの黒い甲板の武蔵」を、下地のテクスチャを活かしつつ再現したつもりです。あんまり真っ黒にしちゃうと、ちょっとオモチャっぽくなってしまうので、急遽施されたような塗りムラがあるような塗粧としています。
艦底については広い面積の赤い艦底色(ファレホのハルレッド)に、下地のテクスチャを活かして良い表情を出しつつ、「ファレホの艶」を出すことが出来ました。
甲板については「勝」、艦底については「完勝」です笑
さて、これは少し「負け惜しみ」的では有るのですが、「敗」の軍艦色の部分ですが、厚塗り気味になったことで、何となくの「禍々しさ」みたいなのが出たように感じています。
まるで宮崎駿監督の雑想ノートに描かれている兵器のような、ドロドロとした負の情念のようなものを持った輪郭になったなぁ、と何となく思っています。
「美しさ」+「禍々しさ」というのは、狙ってやった訳ではないとはいえ、実は軍艦の本質に迫っているのではないかな、と自賛しています笑
また、軍艦というといかにも「鋼鉄」という感じがしますが、実際の艦艇などの船舶は、ペンキで塗装されていて、現存の船に乗って塗装を見てみると「わ~厚塗り〜」という感じがすることがよく有ります。
そういう「船」な部分も厚塗りによって、(偶然ながら)再現出来たかな、なんて思ってます。
ま、つまり、「敗」の部分も良い味になったかな、と自己肯定をしています。
こんな感じで試行錯誤しつつ毎回、ファレホの筆塗りを楽しみつつ研究しています。
ファレホはメジャーな塗料ですが、使用法は、日本のスタンダードな塗料とはやはり大きな違いがあり、かつ、あまり研究もされていないように感じています。
「自分がファレホの使い方を日本で1番知っているパイオニア」と錯覚出来るのも私が好きなところです笑
今回も色々と得るものがありました。これからもファレホの研究を続けていきたいと思います。
コンセプト4「観る人の視点を考える」
首都圏で働いていた頃、超絶艦船模型モデラーさんの作品を観る機会があったのですが、その際、とても困惑してしまいました。
「凄すぎて、どこを見れば良いのか分からない」という感覚に陥ったのです。
各パーツの精度は素晴らしく、バランスも完璧なのですが、なんというか、「どこの部分も凄すぎ」て、「どこに焦点を合わせて見れば良いのか」を掴むことが出来なくなりました。
これは、艦船模型は全体としては小さいモノなので、視界の中に船体が全て入ってしまうからではないか、と思います。
どこかを集中して見る、というのは意外と難しいもので、意識的に眼球のピントを絞るのは、精神的にも身体的にも結構な力が要るものです。
模型雑誌では「見どころ」みたいな部分は解説を付けてアップの写真で載っていますし、SNSでは製作者の皆さんの見せたい部分がアップの写真で撮られて載せられているので、それを何も考えずに見れば良いのですが、実際の艦船模型の「モノ」と対峙して観た時に、私は「見どころ」をしっかりと把握することが出来ませんでした。
私達が「カッコいい模型」と思っているものは、実は「カッコいい模型の写真」なのではないか、などと思ってしまったのですが、その話は一旦置きましょう。
こんな感じで、特に力を入れずに、ナチュラルに視界に入ってくる船体から、眼球に力を入れて視野を狭くし、ディテールに焦点を当てる、というのは意識しながらでないと難しくて、それなりの「手法」が要るのではないか、というのが、超絶艦船モデラーさんの作品を観た時に得た気付きです。
さて、後ほど述べますが、私はこの武蔵のプラモは家族、特にうちの小さな子供たちに観てもらおうと思い、製作しました。
模型に触れる経験をさほどしていない我が家の子供たち(私の他の模型に触れているので他の子よりは多いでしょうが)に焦点を合わせてもらうためにどうすれば良いのか、を考えた時に思い浮かんだのは、「身近なものを置く」「特に人を置く」というものでした。
今回はビーバーコーポレーション社の「1/700日本海軍 小型輸送潜水艦 波104」に付属している水兵フィギュア(なんと300体も付いてる!)を使用しています。
水兵さんなので、白い服を着せても良いのですが、ちょっと、不思議な感じを狙って、「現代の造船所の工員さん」をイメージした青い服の人たちを、いくつか配置してみました。
設定としては「第二次世界大戦時の戦艦武蔵が修繕のため、現代の造船所のドックに入渠したら?!」みたいなのを考えています。
台座はドックの渠底を意識し、ダイソーの透明小物入れをひっくり返して、タミヤ テクスチャーペイントでコンクリートらしい質感を再現しました。
また、整備中の内火艇や艦載機なども置いて、にぎやかな渠底にしてみました。盤木はもう少し小さくしても良かったかなぁ、と思っています。
そして「現代」なので車も作ってみました。なんでドックに車がおんねん、というツッコミもあるかと思いますが、造船所によってはドックにスロープが付いていたりして、直接、渠底に車が入り込めるドックも有るんですよね。
モデリウム社の「1/700 TSFシリーズ自動車Aセット」を今回は使用したのですが、ポイントを絞って塗装するだけで、みるみる「車」になってきて凄いと思いました。
そして塗装を終えた車を内火艇や艦載機の横に置くと、大きさに対して、リアルな実感が伴ってきました。「細やかに小さく作る」というのは、「大きなものを再現する」ということなんだということを今回、理解しました。
なお、この「青い作業服の工員さん」の立っている場所は、私が是非見てほしい部分の近くとなっていて、言ってみれば矢印のような役割を果たしています(岡部いさくさんのイラストみたいな感じ)。いくつか「見所」の部分を挙げてみましょう。
①艦橋背面のラッタル:
ここは大和と武蔵を区別する時に必ず挙げられる重要な部分ですよね。
武蔵のラッタルには大和と違って踊り場が無く、真っすぐに上まで伸びています。この長いラッタルを造船所の工員さんに登ってもらうことで、青い服を追いかけて観る人に「あ、これは武蔵なんだ」と分かってほしい、という狙いがあります。
子供達には例えば、どこかで大和の模型を観た時に、「あれ、後ろの階段が家に置いてあるお父さんの模型と違うなぁ」なんて思ってくれたら良いなぁ、なんて仄かに思ってます。
②艦尾飛行甲板のリノリウム歩行帯
ここも大和と武蔵の違いを述べる上では外せない部分。逆ハの字に伸びる大和と違い、平行に伸びる武蔵の歩行帯の上を工員さんに歩いてもらいました。
③緑色の土嚢
「レイテ沖海戦時の武蔵の土嚢は緑色だった」という説を目にしたことが有ります。色々と調べたのですが、刊行されているものでは、雑誌「丸」2015年11月号「レイテ沖海戦時の「大和」型ディテール」(奥本 剛氏)内の写真解説で「土嚢を緑で塗装するよう指示が出ているため」と書かれているのみ…後は研究者の方のツイートしか確認できていません。
随分と調べたのですが、詳細は分からず、単に模型的な面白さを考えて土嚢は緑色にしています。どうして、入渠時に土嚢が積んであるんだ、というツッコミについては、まぁ、ご容赦ください…
④旗旒信号
旗甲板に信号旗かけを置いて、こちらは水兵の方に旗を挙げてもらいました。3文字の説話信号は調べるのに苦労したのですが、今はほぼ解読できる資料を手に入れています。良ければ解読してみてください(この文章の最後の方に答えを載せておきます)
その他、人がいるところは視線を誘導する「見どころ」となっていますので、ネット上では写真ですが、是非色々と見られてみてください。
因みに子供たちの反応は「人がいる!」「この飛行機、こんな大きさなんだ!」となかなか上々でした。
(後編へ続く!)
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