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幻の中華オペラ歌手の店玉蘭

驚きの出会い



8年前のこと、世界の狭さに驚愕したことがありました。

高校の先輩が、ある中華料理屋さんの投稿に「いいね」を押していました。よくみたらうちのご近所で、いつも枝垂れ桜を見に行くお寺のすぐ近く。こんなところに中華料理屋さんあった??しかも、写真を見るとすごく古い!もし、あることを知っていたとしても入る勇気無いくらいボロボロの見た目です。ところが、検索してみると、口コミ評価はめっぽう高い!著名人も足を運んでいるらしいことがわかり
行ってみました。
いつも通る車の抜け道沿い!本当にあった!
投稿にあった写真通りののれん!
玉蘭!
生で見るとますますボロさがわかります。ちょっと勇気を出して、よっしゃ!と、暖簾をくぐったら、中も、想像以上に古い。昭和のまま時間がとまっています。
50代か60代くらいのオヤジさんが1人厨房にいる。
いらっしゃい〜!
事前調査によれば、ここの火山チャーハンが辛くて有名らしいので、それと、高菜タンメン、餃子を注文。

オペラのポスターが


お料理を待つ間、よくよく狭い店内を見回してみると、うちの同居人が
「なんで、三部作のポスターなんてあるの?」
と言うので、目線をたどると確かにそこにはオペラのポスターがありました。そしてこれももちろん古い!
額縁に入ってはいるものの、料理の油で色もベトベトした感じになってます。
よくよく見ると1982年 プッチーニ三部作 演出粟国安彦 指揮 福森湘 キャストには懐かしい名前ばかり!!なにこれ?早速オヤジさんに質問
「なんでここにオペラのポスター貼ってあるの?」ときくと
「ここの持ち主がオペラ歌ってたから」
は??
「邱玉蘭っていう」
振り向いた厨房側の壁にご本人の写真が、、
「ここは玉蘭さんの店だから玉蘭」
オヤジさんの説明を聞きながら、頭の中でぎょくらん、ぎょくらんと唱えているうちに、私の過去のトンネルがすごい勢いで繋がりました!
玉蘭さん!!!!!
昔、ブル先生こと、畑中先生のレッスンでお会いしたことがあった。まだ私が大学卒業してすぐの頃でした。玉蘭さんとレッスンが続いていた時に畑中先生は
「今日は玉蘭さんがお昼作ってくれるのよ、食べていかない?」
と誘ってくださった。でも、まだ若くて小心者だった私は、大先生と活躍中の先輩と、ましてその人の作ったお料理をいただく勇気はなく、いつも失礼していたっけ。あの、玉蘭さんだ!
彼女のお店なんだここ!!

粟国さんの思い出


知ってます私!玉蘭さん!畑中先生のレッスンでご一緒したことあります。
その言葉にオヤジさんも身を乗り出して来ました。
よくよくみると、プッチーニのポスターの横にもバタフライのポスターなどあり、
台湾のオペラハウスのこけら落としになぜだか、ここのオヤジさんも同行たらしく、その話が始まりました。
その時のこと、覚えていますとも!あの頃私はスタッフ関係者だったし、
「粟国安彦さんてね、ビールを燗で飲むんですよ、そしたら台湾のお店の人もびっくりしてね、、」
なんと!まさか、ここで、この業界人しか知らない話が出てくるとは!!
「あの時、舞台監督のS原さんって人が、、」
知ってますよ!よーく知ってます!そして、忘れもしない粟国さんのお葬式の日、私は関係者としてお手伝いに行っていました。
「あのお葬式の日、雪でね。死んでからも演出するね〜って言ってたんですよ」
そうだった!あの日確かに雪だった。
ずーっと昔のあの日、このオヤジさんと私は同じ場所にいた。
他にも懐かしい名前が次から次へと出てきます。
ずーっと遠くに行ってしまっていた思い出がみるみるうちに鮮明によみがえりました。
さて、いよいよ本命のタンメンとチャーハンが来てまたびっくり!
シビれる大盛り!
しかし、美味しい〜っ!
あの時、私が遠慮してしまった玉蘭さんのお料理も、この味だったのだろうか?
2人で汗だくになりながら、完食!
食べてる間にオヤジさんの台湾話は続く続く。
この人にとってもきっと素敵な思い出だったのね。
なんという出会い。
私の高校の先輩が昨日「いいね」したことが、思わぬ展開。
ずーっと近くに住んでたのに知らなかった。いや、知る人しか知らない、こんな場所にこの店構え。
感動の余韻に浸りつつ帰り道、お寺の石垣の元には彼岸花。
「やっぱりブル先生が亜紀ちゃんに食べさせたかったんじゃないの、玉蘭さんの料理」
そうかもしれないね。
きっとそうだね。
また行こう!今度は歌手の友達も誘って!

玉蘭さんの写真
タンメン
火山チャーハン
餃子

そして思い出に


それから何回か足を運んだのですが、ある日突然閉店となりました。
オヤジさんはどうしているのか?
閉店したらあっという間に解体し、更地となって、お店があったことも幻だったのではないかと思えてしまいます。
でも、このお店の思い出は消えることのない大切な思い出です


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