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本を書こう

0.本と私

ご縁があって、コロナ前に本(技術書)を出版し、ありがたいことに重版となって、第5刷のご連絡をつい最近いただいた。Amazonの売れ筋ランキングのベスト100に(とは言っても最下層のカテゴリーで)載ったり載らなかったり、まだしぶとくがんばっている。(Amazonのランキングは謎が多く、パソコンで見るのとスマホで見るのとでだいぶ違うが。)
拙著を手に取って下さる方には、感謝の気持ちしかない。ただ売上部数はわずかであり、執筆に費やした時間を考えると印税も大したことはない。(紙版に比べて電子版の売上が意外に多いのは驚きだったが。)現在、懲りずに2冊目を出版する準備を進めている。

1.なぜ本を書くか

費用対効果を考えると、本を書くのはコスパが悪い。それでもお勧めする理由は二つある。

(1) 普段は接することのない人に読んでもらえる可能性がある

出版後も、誤植の指摘や、使用許諾などで出版社から時々連絡がある。一番印象的だったのは、使用許諾を求めてきた読者の方が、本の内容をベースに動画を作って下さったことだ。コロナ禍で教育実習に行けなくなり、その代わりに高校生に見せる動画を作りなさいとの課題が出たそうで、それに拙著の内容を使っていただいた。その動画を拝見したが、自分にはとても作れそうにないもので、頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。

(2) 自分の知識を整理することができる

野口悠紀雄さんの本に、何かを勉強したかったらそれについてブログなどを書いた方がいいと書いてあったように思う。その通りで、わかっているつもりでも、書いてみると知識が不十分であることに気づかされて、勉強になる。書くことは人のためでもあるが、自分のためでもある。

2.誰が書くべきか

〇あなたが有名人や大御所なら:
誰かゴーストライターに書かせましょう。最後にその本に「監修:(ご自分の名前)」とつければ、ネームバリューできっと売れることでしょう。

〇単にお金を稼ぎたいなら:
本なんか書かずに働きましょう。費用対効果があまりにも悪すぎます。

〇編集者が仕事先に突然押しかけて原稿の催促をしたり、原稿を出しても「こんな少ないページ数では薄すぎて売れません」とダメ出しされたり、出版後にAmazonのレビュー欄に心無いコメントを書かれても耐えられるなら:
あなたこそ本を書くべきです。がんばりましょう。

3.誰と書くか

当たり前だが、単著か共著かで、それぞれ長所と短所がある。
単著:最初から最後まで一貫したスタイルの本にしやすい。完成までに時間がかかることが多い。
共著:適切な割り振りと工程管理ができれば、単著より早く完成させることができる。まとめ役がスタイルの統一をしたり、遅筆の人を催促したりする必要がなる。

4.いつ書くか

「いつ」には、著者の側のタイミングと、本の内容のタイミングがあると思う。
執筆にはある程度の時間が必要であるし、長い人生、本どころではない状況になることも少なくないと思う。個人的には、誰でも書けそうな内容の本を書くのに若い人が時間を費やすのはどうかなと思うけれど、若くても優れた本を書く方もおられるし、年を取れば良い本を書けるようになる訳でもない。
内容のタイミングは、世の中のニーズが高まっているときに(あるいはその少し前に)、その内容の本を出せればベストなのであろう。

5.何を書くか

「自分が書きたいこと」と「自分が書けること」は必ずしも一致しない。それらは「世の中が求めていること」とも必ずしも一致しない。この三つがなるべく重なることが望ましい。ネームバリューがある著者なら、自分で世の中のニーズを新たに作り出したり、また話は違うのだろうけど。

既にある本の改善、例えば「昔のこの本の、ここがああだったらなあ」みたいなことであれば、市場調査をある程度すれば可能である。本の企画を考える上で類似書の探索は必須である。ただ、そのような改善本が、著者にとって書きたい内容とは限らない。

過去に類似したものがない全く新しい本や、今までにない切り口の本は、書く側はきっと楽しいだろうけれど、本当にニーズがあるのかという懸念はある。そこはプロの編集者に判断していただくしかないし、プロでも読み誤ることはあるだろう。

6.どこから出版するか

出版には商業出版と自費出版があるが、ここでは商業出版を念頭においている。有名人であれば、出版社の方からお誘いが来るのだろうが、そうでなくても出版の方法はいろいろあると思う。ざっと探しただけでも、紙の本であれば以下のようなものがある。

幻冬舎ルネッサンス新社
(コンテスト情報や、執筆お役立ち情報などあり)
https://www.gentosha-book.com/
ほんたま
(優れた出版企画に対して編集者からオファーが来るマッチングサービス)
https://hon-tama.com/
近代科学社Digital
(専門書をプリントオンデマンドで出版)
https://www.kindaikagaku.co.jp/kdd/scheme/

いまは電子出版の方法がいろいろあるから、その気になれば一人で出版までこぎつけることも不可能ではない。すぐに出版でき、著者の取り分(印税)も紙の本の場合よりはるかに多い。
kindle direct publishing
https://kdp.amazon.co.jp/ja_JP/
gumroad
https://gumroad.com/
leanpub
https://leanpub.com/

ただ、だからと言って「もう出版社は不要」という意見には賛成できない。編集の力を甘く見ない方がいいと思う。よほど訓練された人ならともかく、書き上げた原稿と、売り物になる書籍との間には相当の距離がある。原稿を読んでもらって、フィードバックをもとに修正したり、読みやすくわかりやすくするための工夫をするプロセスを踏まないと、買っていただける本にはなかなかならないと思う。(もしかしたら、いわゆるスキルマーケットで編集も依頼できるのかも知れないが、やったことがないので何とも言えない。)

7.企画書をどう書くか

本の企画書については、例えば以下の本には、出版企画書の例が載っている。ここまでがんばらなくてもいいかも知れないが、やはりある程度の調査は必要である。

「Editor's Handbook 編集者・ライターのための必修基礎知識」(編集の学校/文章の学校 監修 雷鳥社)
http://www.raichosha.co.jp/book/write/wr25.html

・タイトル
・サブタイトル
・キャッチコピー(帯文)
・本書の内容
・著者名
・著者プロフィール
・監修者/監修者プロフィール
・企画意図
・企画の背景
・構成案(目次案)
・読者ターゲット
・類書
・類書との差別化
・体裁など
・原稿完成の予定
・企画者の要望
・この本を制作するために有利な条件

8.どう書き続けるか

本を書くことについての本はいろいろある。(ここでは小説などではなく、技術書や専門書を書くことを念頭に置いている。)工程管理をきちんとして、執筆のペースを守ることが重要で、それはわかってはいるが、実行するのはなかなか難しい。

「読む・打つ・書く」(三中信宏 東京大学出版会)
http://www.utp.or.jp/book/b577413.html
「学術書を書く」(鈴木哲也、高瀬桃子 京都大学学術出版会)
https://www.kyoto-up.or.jp/books/9784876988846.html
『専門家のための「本を書こう!」入門 』(山内俊介 遠見書房)
https://tomishobo.com/catalog/ca66.html
『できる研究者の論文生産術 どうすれば「たくさん」書けるのか』(ポールJ・シルヴィア 高橋さきの 講談社)
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000147753

9.おわりに

どんな小さな図書館や本屋さんでも、一生かかっても読み切れないほどの本が置いてある。そこにさらに新たな一冊を追加することにどれほどの意味があるのだろうかと思わないでもない。でも、本や情報を消費するだけでなく、生産する側にもなった方がきっと楽しいと思う(とてもしんどいけれど)。

出版業界が大海原なのか、釣り堀くらいのマーケットなのかはわからないけれど、これを読んで、我こそはと思う釣り人が現れることを期待する。

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