「それでは釈放前教育を始めます! 10年100回通い詰めた全国刑務所ワチャワチャ訪問記」
「それでは釈放前教育を始めます! 10年100回通い詰めた全国刑務所ワチャワチャ訪問記」(竹中功 KADOKAWA)
吉本興業の元専務の著者による、刑務所での釈放前教育の話と、刑務所がどうなっているかについての本。この著者は、吉本興業の謝罪・広報マスターとして有名であり、以下の本も面白かった。
吉本のお笑いの世界にいたという経歴を生かして、刑務所の釈放直前の受刑者に対して、コミュニケーション能力などの釈放前指導導入教育を行っているそうである。第二の人生としてこのような方向性があるんだなと、非常に面白いと思った。
本の中身であるが、刑務所の現状や問題点、面白話が非常に濃密に書かれていて、さしあたり刑務所に用事がない読者にとってはやや情報過多な感じがした。ただし、「第2章 それでは釈放前教育を始めます!」の部分は、著者が考えたと思われる「コミュニケーション授業」4時間について詳しく説明してあり、非常に面白かった。
前項で書いた2つのミッション「出所者が二度と刑務所に戻らないこと」「出所者が再犯で被害者を作らないこと」を叶えるために、「出所後の社会とは人に助けられ、人を助ける所だ」、そして「それぞれの人間の足りるところと足りないところを補い合う関係が重要だ」ということを話すことは決めていました。平穏無事な社会生活を過ごしてもらうためには「コミュニケーション力」を身に付けることwが大切だと考えたからです。(90ページ)
1コマ目ではコミュニケーションの重要性を話し、続いて「自分を知ろう~自分史を書こう」という授業を行います。授業は「自分が自分自身にインタビューする」というものです。(中略)長い間、刑務所の中にいたせいで、言葉のキャッチボールのやり方を忘れていますので、まずは自分へのインタビューから慣れてもらうのです。
2コマ目では、娑婆では自分の持つ「個性」や「魅力」が人間関係を良くしてくれるので、それを見つけることと、「自分は自分を好きになろう」という話をします。自分を認めて、そして他人との良い関係を構築していく。これが「コミュニケーション上手に幸あれ」というネタです。
3コマ目は「やわらか頭を作ろう」ということで「なぞなぞ大会」を開きます。私も受刑者も3コマ目になると、友だちというほどではないですが、色々なやり取りで少し馴染んだ感じが出てきます。(中略)ただこれが単なる「なぞなぞ大会」では終わらないところは、後の項で説明します。途中からみんなの目がまん丸になります。(答えがひとつでない問いを投げかけ、WIN-WINになるような解決策、交渉術やアイディアを出していく))
そして4コマ目は「ストップ・ハラスメント」ということで、今や数十種類ある「ハラスメント」の解説をします。みんなには「昔はよかったけど、今はアウトというのがハラスメント!」ということを学んでもらいます。ここまで来ると浦島太郎状態の受刑者も現代のおじさんと同じように「ボクは納得できないけど、嫌がる人がいるんやな!」ということがわかり、「よく理解できないけど、時代が変わったんや」というような「理解」が始まります。(93-94ページ)
なんだか、定年間際のサラリーマンへのセカンドキャリア教育に通じるところがあるのかも知れない。そんなことを言うと、「刑務所と会社は同じじゃない」と、お叱りが来そうだが。