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「死ぬときに後悔しない生き方」

「死ぬときに後悔しない生き方」(内藤いずみ 総合法令出版)

在宅ホスピス医の著者による、これまでの患者さんとのエピソードと、後悔しない生き方のメッセージの本。いろいろ考えさせられる、いい本だと思った。

 背伸びをせずに、のんびりと、何かに心奪われることなく過ごす。人は死を前にしたとき、それさえできればいいと考えるものなのかも知れません。とても些細で、どこにも特別な部分はなく、けれど何物にも代えられない、その人だけの願いなのです。(36ページ)

 「まだ死にたくない」「まだ逝ってほしくない」。そうした気持ちから離れられずにいると、お互いが極度に密着した、強すぎる依存的な関係を作ってしまう場合があります。お互いに手を離すことができないままにお別れがやってきて、悲しみや苦しさだけが大きくなってしまう。いのちを大いなるものに委ねるべき時が来たことを認められなくなります。
 「私が育てた子どもなんだから大丈夫、私がいなくなっても立派にやっていく」
 「お母さんにたくさんのプレゼントをもらった。これからは大丈夫だから」
 どこかでそうした思いを持ったほうがいい。それは相手のことを思わないということではありません。お互いを信じて、「死んでほしくない」「死にたくない」という自分だけの思いから、少し離れるということです。(43ページ)

 自分に残された時間が少ないと知ったとき、それでも「やりたい」と思えるほどに好きなこと。なかなか見つけることはできないように思います。それが瀬田さんには4つもあった。とても素晴らしい人生を歩んできた証ではないでしょうか。好きなことがたくさんあるということは、幸せに直結するのだと思います。
 私たちは普段から、「あれをしたい、これをしたい」と言いながら生きています。けれど本当に好きなことは何かと聞かれて、すぐに答えられない人もいるのではないでしょうか。
 見つからないのであれば、いまからでも作りましょう。それが仕事になったり、人の役に立つような大それたことであったりしなくてもいい。好きなことをしている時間はとても尊いものですし、その時間があるからこそ、ほかの時間もがんばることができます。(53-54ページ)

 自分の思いを邪魔するものがなくなったとき、人には、自然と自分の中から湧き上がる願いがあります。繰り返しになりますが、それが何なのかは人それぞれです。ある人は「自分の本音に向き合いたい」と願いました。またある人は、「家族のためにもっと働きたい」と言いました。「もっともっと楽になりたい」という人もいました。
 自分の死を悟ったときに何を優先するか。元気なうちに考えておくべきだということもありますが、実際にそうなったときに「自然と出てくる思い」を大切にするということでもいいのだと思います。(63ページ)

 人生の最期まで、自分らしく生きていくことができる。それはとても幸せなことだと思います。反省や後悔、未練を飛び越えて、それまでと同じように生きる。それは自分の人生のすべてを肯定することになるのではないでしょうか。
 私たちは、もっと自由に、他人を意識し過ぎることなく生きていけばいいのだと思います。多少周囲に迷惑を掛けたり嫌われたりすることになっても、それはそれで仕方がないことなのではないでしょうか。(76ページ)

 いろいろな人たちと、すこしずつくっついて、離れる。また別の人とくっつく。一度離れた人と、またくっつく。その積み重ねによって、人生は厚みを増していくのだと思います。たくさんの関わりの中で、たまたま最期の時間を一緒に過ごしてくれる人がいる。友人でも隣人でもいい。あるいは医者でもいいのかもしれません。瞬間、瞬間に自分を思ってくれる人がいれば大丈夫。普段生きていく中で、ちゃんと人とのふれあいを大事にしておけば、自然とそうなるのだと思います。(82-83ページ)

 自分の選択を、確固たる意志として「これでいいんだ」と確信することができる。これは何物にも追い詰められずに、自分の人生を迷いなく生きることができる条件なのかなと思います。
 きちんと自分で考えて選んだのだから後悔しない。進まなかったほうの道は考えず、いま歩いている道を正解にする。そういう生き方をしてきた人は、自分の最期が近くなったことを知っても、揺るぎません。病気になったらなったで、残された時間でどうやって人生を締めくくればいいのかと考えるのだと思います。(88-89ページ)

 生まれ育った環境が違う人同士が出会って、夫婦になります。一緒に暮らしはするけれど、そこにいるのはひとりの人間と人間です。お互いがお互いの力になるためには、依存し過ぎてはいけないと思います。
 これはみんなできているようで、実は難しいことではないでしょうか。「いつも相手の助けを期待してしまう」ということだけではありません。「あの人がいるから」「あの人が言っているから」といった視点ばかりで考えてしまう。もちろん必要な考え方ではありますが、行き過ぎると、それも依存になってしまいます。
 頼り、頼られるけれど、もたれ掛からない。まずはそれぞれ自分という人間がいて、お互いにそれを認め合い、尊重しながら支え合っている。そうした生活ができると、2人の生き方がはっきりとしていくのだと思います。(100-101ページ)

 普段から、整理をしていくことが大事だと思います。「いつ死んでも大丈夫なように!」と勢い込むことはありませんが、恥ずかしいと思うものや心残りになるものは整理しておく。仕事でも人間関係でも同じです。そうした時間が重なることで、恥ずかしくない人生を送ることができるのかもしれません。(125ページ)

 最期に家族や大事な人に伝えたいこと。どんなことが思い浮かぶでしょうか。先々についてのこと、いままでのこと、いろいろとあると思います。きっとどれだけ話しても伝え切ったということはないでしょう。
 患者さんやそのご家族たちを見ていると、最期に伝えようとするメッセージはいくつかの言葉に集約されるように思います。それは「ありがとう」「ごめんね」「さよなら」の3つ。(134-135ページ)

 嫌いな人、ケンカ別れをした人、すべてと和解しなければいけないわけではありませんが、ずっとこころのどこかでチクチクと気に掛かっているような相手はいないでしょうか。すぐにではなくても、少しずつ、少しずつ絡んだ糸をほぐしていくことができればいいなと思います。(144ページ)

 自分の人生は有限であるという事実を、忘れてはいけないと思います。100歳なのか、あるいは50歳なのかわからないけれど、絶対にそのときが来るのだということを、普段から受け入れておく。常に考える必要はありませんが、ときどきは思い出してほしいと思います。(149-150ページ)

 親しい人が亡くなったとき、もちろん大きな悲しみに襲われます。けれど時間が経つに連れて、だんだんとその悲しみは色を変えてきます。そうしたとき、あるいはそのことを想像したとき、「忘れてしまうこと」に対しての罪悪感や後ろめたさに苦しんでしまう人もいます。「自分はなんて冷たいんだ」「あの人を忘れて笑っているなんて」と。
 けれど、それは「忘れる」ということではありません。大切な人が自分の中に深く根差した。普段思い出さなくても大丈夫なほどに、一体化したということです。(169ページ)

 大人がしっかりと説明してあげることができれば、子どもはちゃんと受け入れます。現代ではこうした経験が少なくなっていますが、本来あるべきものです。大人が子どもの目を覆ってしまってはいけません。交通事故だったり、もがき苦しみながら亡くなっていくような凄惨な現場であったりすれば配慮が必要だと思いますが、安らかに亡くなっていく姿は見せたほうがいいと思います。最後の瞬間だけではなく、その経過も含め、「死とはこういうことだ」と見せる。親がそのことを恐いと思っていなければ、子どもに見せても大丈夫です。(179-180ページ)

 死に逝く人たちは肉体的にどんどん弱っていくので、そばにいる人の目にはかわいそうに見えてしまいがちです。けれど、目の前のその人の意志は、最期までキラキラと輝き、周りの人たちと関わり合い続けます。ちゃんと会話をして、私たちを楽しませたり、学びをくれたりします。心配されるだけの存在ではないのです。
 だからかわいそうだと思う必要はありません。老いても、病気をしても、障害があっても同じ人間です。お互い最期まで平等に、同じいのちとして対峙していけばいいのです。(198ページ)

 最期に後悔しないためにどうすればいいか。つまるときろ、今日やるべきことを今日やっておくということしかないのかもしれません。その大切さと難しさは誰にとってもの課題だと思います。
 やらなければいけないこと、誰にでもたくさんあると思います。けれどすべて片づけるのは難しい。だからその全部を先送りにしてしまうのではなく、何かひとつだけでいいから、今日やっておく。そうした考え方ができればいいのだと思います。(207ページ)

 最近は「終活」という言葉をよく聞きますが、ちょっとすっきりしない言い方だと思います。言葉の奥のほう、目標のように「死」があって、そこに向かって生きている。「いま」を生きるという感じがしません。だから楽しくありません。
 そこを少し違う形で捉えることができないかなと思います。私は終末期のケアをしていますが、そこで大事なのは、「いまを生きているいのち」を支えることです。当然ですが、何かを終わらせよう、片づけようとしているわけではありません。
 私たちの目標は死ぬことではなく、いまを生きることです。最後の日のために今日何をすべきか、ということではなく、今日をクリアにしておくことで、明日をもう少し深く生きることができる。そうした準備ができればいいなと思います。(222-223ページ)

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