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「グッド・ライフ」

「グッド・ライフ」(ロバート・ウォールディンガー マーク・シュルツ 児島修 辰巳出版)

ハーバード成人発達研究の責任者の著者による、同大学の84年にわたる史上最長の幸せ研究についての本。この本についての記事をたまたま見つけた。

数世代にわたり多くの被験者に対して調査をしてそれをまとめ上げるのは気の遠くなるような作業であり、そのような研究をされている方々には頭が下がる思いである。幸せのために重要なのは良い人間関係であり、それを作るのに遅すぎることはないという冒頭のメッセージは、多くの読者を勇気づけるものである。人間関係のためのいろいろなメッセージがあり、また改めて読みたいと思えるいい本だ。

 ここで種明かしをしてしまおう。幸せな人生は、複雑な人生だ。例外は、ない。
 幸せな人生は喜びにあふれている……けれど、試練の連続だ。愛も多いが苦しみも多い。それに、幸せな人生とは偶然の賜物ではない。幸せな人生とは、時間をかけて展開していく一つの過程だ。波乱、安らぎ、楽しさ、重荷、苦闘、達成、挫折、飛躍、それに恐ろしい転落がつきものだ。そしてもちろん、幸せな人生も必ず死を迎えて終わる。
 陳腐な話に聞こえるのは百も承知だ。
 それでも、はっきり言おう。幸せな人生は楽な人生ではない。完璧な人生を送る方法など存在しないし、あったとしたら、ろくなものではない。
 なぜかって? まさに困難や苦労こそが、豊かな人生---幸せな人生---をもたらすからだ。(9ページ)

 実のところ、よい人間関係は非常に重要だ。八四年にわたる本研究や他のさまざまな研究の知見をもとに、生きるためのたった一つの原則、人生において投資すべきたった一つのことを集約すると、次のようになる。
 健康で幸せな生活を送るには、よい人間関係が必要だ。以上。(18ページ)

 人間の健康や行動に関する科学的研究は、一般に「横断研究」と「縦断研究」の二つに大別される。横断研究はある瞬間の世界を切り取って観察するもので、ちょうどケーキを薄切りにして材料を確かめるのに似ている。
(中略)
 他方、縦断研究は長期にわたって被験者の人生を追いかける。つまり、縦断研究は時の経過とともに人生を観察・分析する。(21ページ)

 「幸せとは何か」という質問に対する人々の答よりも重要なのが、幸せな人生をめぐる通説だ。通説にはいろいろあるが、代表格は幸せは達成するものという考え方だ。幸せを、まるで額に入れて飾る賞状のようにとらえている。また、幸せは人生の最終目的地のようなもの、という通説もある。障壁を乗り越えて幸せになったら、あとは悠々自適になるという考えだ。
 だがもちろん、そうはいかない。(27-28ページ)

 代表的な縦断研究を紹介しよう。これらの研究の被験者数を合計すると数万人になる。
(中略)
 どの研究の知見も、人のつながりの重要性を示している。家族や友人、地域社会とのつながりが強い人のほうが、そうでない人よりも幸せで、肉体的にも健康だ。自分が望む以上に孤立している人は、他者とのつながりを感じている人よりも早い時期から健康状態が悪化する。また、孤独な人は短命だ。悲しいことに、他者とつながりを持てないと感じる人が世界中で増えている。(31ページ)

 研究チームは、本研究の被験者たちの人生を八〇代まで追跡した時点で、中年期の状況から八〇代で幸せで健康な生活を送る人とそうでない人を予見できるかどうかを検討したいと考えた。そこで、被験者が五〇歳のときの全データを集めて分析した。すると、老年期の状態を予見していたのは、中年期のコレステロール値ではなかった。人間関係の満足度だったのだ。五〇歳のときの人間関係の満足度が高い人ほど、(精神的にも肉体的にも)健康な八〇歳を迎えていた。(33ページ)

 幸せな人生とは、夢のような社会的成功をつかんだ先にあるわけではない。大金を手に入れれば向こうからやってくるものでもない。幸せな人生はあなたの目の前にあるし、手を伸ばせば届く。そして、幸せな人生は、今ここで、すぐに始められる。(37ページ)

 ポジティブな人間関係は、人間のウェルビーイングに不可欠だ。(41ページ)

 選択肢のある人生が幸せとは限らない(43ページ)

 アランのストーリーは、人間関係の力について本研究が得た教訓を生き生きと語るものだ。また、大事な真理を思い出させてくれる。誰の人生にも、自分の力ではどうにもならないこととどうにかなることが混在している。一人ひとりが、配られた手札で道を切り拓いていくほかない。(59ページ)

 人間関係は、人生において何かを達成するための足がかりや、健康や幸福の基礎になるだけではない。人間関係を育むこと自体が人生の目的だ。(67ページ)

 著者2人が運営に関わるライフスパン研究財団(www.lifespanresearch.org 英語のみ)のために開発した、自分の心を探る簡単にして効果的なエクササイズだ。気が向いたらぜひやってみてほしい。(74ページ)

 人生の中盤では、次のような疑問がわいてくるものだ。
・他人と比べ、自分はうまくいっているのだろうか?
・マンネリに陥っていないか?
・自分はいいパートナー、いい親だろうか? 子どもといい関係を築いているだろうか?
・人生はあと何年あるのだろう?
・自分の人生には、自分のためだけではない大きな意味があるだろうか?
・自分にとって本当に大切な人は誰だろう? 本当に大切な目的は何だろう? (そして、彼らのために、その目的のために、自分にできることは何だろうか?)
・人生でやりたいことは、他にもあるだろうか? (96ページ)

 二〇〇三年に行われたある研究で、二つの被験者グループ---高齢者のグループと若者のグループ---に、新型カメラの広告を見せた。広告は二種類あり、どちらにも同じかわいい鳥の写真が使われていたが、コピーは違っていた。

 広告A---「特別な瞬間をとらえよう」
 広告B---「未知の世界をとらえよう」

 被験者には、好きなほうを選んでもらった。
 高齢者のグループは「特別な瞬間」のほうを、若者のグループは「未知の世界」のほうを選んだ。
 しかし、別の高齢の被験者グループに「自分が思っているよりも二〇年は健康なまま長生きすると想像してください」と伝えると、高齢者のグループは「未知の世界」のほうを選んだ。
 この研究は老いについての根本的な真理を示している。つまり、自分に残されていると考える時間の長さが、物事の優先順位を決めるのだ。時間がたっぷりあると思えば、未来のことをたくさん考えるようになる。時間があまりないと思えば、今この瞬間を大事にしようとする。(101ページ)

 そこで、筆者らが研究と臨床の両方を通して見つけた、生き生きとした関係を取り戻すための効果的な人付き合いの原則を紹介する。
 提案1 寛大になる
 提案2 新しいダンスのステップを習う
 提案3 好奇心を強くもつ
(142-146ページ)

 人はしばしば、自分の自由になる時間について矛盾した感覚をもっている。一方では、やりたいことをする時間どころか、すべきことをする時間すら足りないという「時間不測」の感覚がある。他方では、未来のどこかの時点で「余剰時間」を手にできるはずと考える傾向がある。いつかきっと、やるべきことに忙殺されない時期がやってくる、と考えるのだ。(157ぺーじ)

 「注意は愛の最も基本な形だ」と言われる。レオが被験者の中で注意を向けることに長け、存在感があり、なおかつ最も幸福度が高い人物であることは、偶然ではない。(163ページ)

 人生を歩む途中で、絶対的確信をもって言えることはせいぜい二つか三つしかない。その一つは「人生や人間関係の苦難に直面するとき、準備ができていると感じることはまずない」という事実だ。本研究の二世代にわたる被験者たちの人生が、その証拠だ。(187ページ)

 WISERモデル---人間関係の問題を解決に導く5ステップ
W Watch 観察
I Interpret 解釈
S Select 選択
E Engage 実行
R Reflect 振り返り
(194ページ)

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