「金利を見れば投資はうまくいく」
「金利を見れば投資はうまくいく」(堀井正孝 クロスメディア・パブリッシング)
運用キャリア30年以上のファンドマネージャーの著者による、投資における金利の重要性を述べた本。「「金利」は金融市場における「炭鉱のカナリア」である」(3ページ)に始まり、金利と景気との関係を述べ、「(それ以外の)経済指標から今の景気を判断するのは意外に難しいのです」(44ページ)
と述べている。3つの金利(短期金利、長期金利、社債)の説明(第2章)や、景気サイクルと金利の関係(第3章)など、金利と景気について丁寧に説明している。
ただ「ちなみに、日本では現在、政府の為替介入はほとんどありません」(129ページ)など、2年前の出版時と現在とでは状況がかなり違っている部分もあった。
誰しも、「いつまで景気(相場)は上がり続ける(下がる)のか」、「いつ売れば(買えば)いいのか」を知りたいはずです。
しかし、景気の転換点とは、景気サイクルの季節が移り変わってはじめて確認できるものなのです。それは気象庁の梅雨明け宣言に似ています。晴天が続いてから「梅雨が明けたと思われます」と過去形で梅雨明けを振り返ります。
しかも、日々新たな材料(ニュース)が湧き出る中、今、ピシャリと次の転換点を予測することは、まず不可能です。
ただ、今ある材料を使って、あり得るだろういくつかの景気シナリオを描く(景気予測を立てる)ことは可能です。そして、今後、日々の新たな材料を加えて、シナリオの修正や絞込みを行うことで、そのシナリオの実現性を高めていくことならできるはずです。
「金利」は金融市場における「炭鉱のカナリア」です。
投資で成功を目指すなら、金利の何に注目すべきか、どのような金利の変化に敏感になるべきか、そして、金利の変化に気づいた時、シナリオ(予測)をいかに修正できるか、時には新たなシナリオを描けるか、が景気の変化・転換点を知る要となります。(146-147ページ)
コロナショック以降のインフレ率の高騰は、COVID-19対策が主因です。(158ページ)
政策金利の予測を知るには、主に2つのデータがあります。
①FOMCメンバーの政策金利の見通し
(中略)
②FF金利先物
(160-161ページ)
ただ、この(黒田日銀総裁の)金融緩和策が、金融政策サイクルの法則に、今までにない事態を生んでいます。
2000年代までは景気後退期に向けて長短金利差が縮小し、景気が回復すると拡大するという、金融政策サイクルのセオリー通りの展開となっています。金利はしっかりカナリアとして働いていました。
しかし、2013年頃から景気回復局面に入ったにもかかわらず、本来拡大するはずの長短金利差は縮小を続けています。
日銀は、デフレ脱却のため、債券の流通市場から国債を購入し、市中に資金を供給します。しかし、供給された資金の運用先として国債の需要が高まるのに、政府がいくら国債を発行しても、市中の国債残高は増えず、需給の関係から、国債利回りが低下します。そればかりか、金融緩和の継続から、資金の運用先は、短期国債から10年長期国債にまでおよび、2012年以降は景気回復局面においても10年国債利回りまでもが低下するという前例のない事態が起きてしまいました。
日本の長短金利差はもう、景気の先行指標として役立たないのでしょうか?
(227-229ページ)
前述した通り、日銀の異次元金融緩和を続けたことで、2021年末時点で国債流通残高約1000兆円のうち、半分以上である約521兆円の国債を日銀が保有しています。
米国同様に、利上げでインフレを抑止できればいいのですが、日本では、日銀がこの膨大な額の国債を保有している限り、利上げができそうにありません。
2020年度の日銀の損益計算書を見てみると、経常収益は2.4兆円で、当座預金への支払い利息等の費用を引くと経常利益は約2.0兆円となっています。同年度の三菱UFJグループ(傘下の証券会社等も含める)の経常利益が約1.1兆円であることを考えると、実は一大優良企業なのです。
この企業を支える主な収益源は、国債からの利息収入です。保有長期国債の利回りを計算すると0.213%で、当座預金の利息利回りの0.047%を上回っていて、まさに、この長短金利差が収益源となっています。
しかし、利上げで、この長短金利差が縮小または逆転(マイナス)したら、日銀は一大赤字企業になってしまいます。
仮に、CPIが日銀の目標である2%となって政策金利を2%程度まで引き上げ、当座預金利息は2%になったとしましょう。保有長期国債の利回り0.213%に変化無いことから、△1.787%の逆ザヤ状態となります。金額にすると、年間約△8兆円の赤字です。保有長期国債は平均残存期間が7年程度と言われていることから、総額で△8兆円×7年=△56兆円の損失が発生することになります。企業の資本にあたる純資産約4.5兆円では、とてもまかなえない金額です。
日銀が、簡単には利上げに踏み切れない実業が、ここにあると思われます。(242-243ページ)
金融政策を表す構成値に注目し、投資環境スコアを作成してみましょう。
使用するのは、政策金利、10年国債利回り、社債スプレッド、米ドル指数、という4つのデータで、<表9-1>記載の通り、全てセントルイス連邦準備銀行のHP(https://fred.stlouisfed.org/)から入手できるものです。そして、投資環境スコアを作るには、5つの項目を使います。
政策金利 (Effective Federal Funds Rate) FEDFUNDS
10年国債利回り (10-Year Treasury Constant Maturity Rate) DGS10
社債スプレッド (Moody's Seasoned Baa Corporate Bond Yield Relative to Yield on 10-Year Treasury Constant Maturity) BAA10Y
米ドル指数 (Trade Weighted U.S. Dollar index: Major Currencies 2005年12月まで)(TWEX MMTH)
Nominal Broad U.S. Dollar Index (2006年1月以降)(TWEX BGSMTH)
①直近 ②1年前
政策金利 前年差(①-②) ③<=0.25の場合+2
③> 0.25の場合-2
長短金利差 水準(①) ③>=1の場合+2
1>③>=0の場合0
③<0の場合-1
長期金利 前年差(①-②) ③>=0の場合+2
③<0の場合-2
社債スプレッド 前年差(①-②) ③<=0の場合+2
③>0の場合-2
米ドル指数 前年差(①-②) ③<=1の場合+2
③>1の場合-2
投資環境スコアは、-10から+10で表され、数値が大きいほど投資環境が良好であることを意味します。(254-257ページ)