「ユーモアは最強の武器である」
「ユーモアは最強の武器である」(ジェニファー・アーカー ナオミ・バグドナス 神崎朗子 東洋経済新報社)
スタンフォード大学ビジネススクールの人気講師の著者による、ユーモアの大切さを説く本。アイスブレイキングの部分とか、日本でそのまま使えるだろうかという部分もあったが、ユーモアはストレスや逆境を乗り越える力となることや、生まれつきの才能ではなくて習得できるスキルだなどの主張は非常に面白く参考になった。
そういうとき、リーダーとして何を語るかは重要ではないことに、僕は気づいた。口先でなんと言ってもだめなのだ。みんなのよりどころとなったのは、僕の態度だった。リーダーは失敗を認め、本当に大切なことは何なのかを行動で示す必要がある。
しかも健全なユーモアのセンスをもって---すなわち、ユーモアがもたらす知的な視点や共感や人間性をもって事に当たるのが、不測の事態に対処し、新たな現実に適応するためには不可欠なのだ。大切なのは言葉じゃない。行動と態度こそが物を言う。(序文iii)
さらに、彼はドゥー・サムシング(DoSomething.org)と組んで、コメディアンたちにキャンペーンへの協力を求めた。たとえば、アジズ・アンサリとクリス・プラットは、ちょっぴりふざけた感じの(だが心のこもった)公共広告で、学生たちに「がんに興味をもって、唾液検査を受けよう」と呼びかけてくれた。(10-11ページ)
このギャラップ調査では、人びとが1日に笑う/微笑む回数は、23歳ごろから急激に減り始めることが明らかになった。(31ページ)
しかし、まさかと思うかもしれないが、「面白いこと」よりもはるかに重要なのは、自分にユーモアのセンスがあることを伝えることなのだ。(42ページ)
ユーモアは遺伝暗号によって「ある」か「ない」かが決まるものではなく、トレーニングと実践によって強化されるスキルなのだ。(45ページ)
ユーモア監査
あなたの日常のユーモアをチェックしてみよう
(中略)
1. 最近、腹の底から笑ったのはいつですか?
2. 日常生活で、あなたをいちばん笑わせるのは誰/どんなことですか?
3. 最近、誰かを笑わせたのはいつですか?
4. あなたのまわりでいちばん面白いと思う人は誰ですか? あなたのユーモアをわかってくれる人は誰ですか?
(60-61ページ)
行動科学の研究には、仕事上でユーモアを用いることによって、次の4つの効果が強まることを示す豊富な事例がある。
・パワー 地位が高く知性が優れている人という印象を与え、相手の行動や意志決定に影響を及ぼす。こちらが提案したアイデアを覚えてもらいやすくなる。
・つながり 知り合ったばかりでも信頼感が生まれ、打ち解けることができる。長く続いている間柄なら、なおさら満足感を覚える。
・創造力 それまで見落としていた関連性に気づきやすくなる。リスクのあるアイデアや型破りなアイデアを思い切って提案できる。
・レジリエンス ストレスが緩和され、挫折から立ち直りやすくなる。(65-66ページ)
ユーモアのセンス、すなわちユーモアを発揮しユーモアを解する能力があることは、知的能力測定と相関関係にあることが、研究によってたびたび明らかになっている。
(中略)
ユーモアは嘘いつわりのない知性の証だ。ティナ・フェイはこう語っている。「どれくらい頭がいいかは、その人がどんなことで笑うかを見ればわかる」(73ページ)
ユーモアを使うことによってあなたの発言は興味深く感じられ、相手の記憶に残りやすくなるのだ。(76ページ)
失敗を気にしなくてもいいという安心感があると、大胆になり、大きなリスクをとる勇気が湧いてくるのだ。(93ページ)
ユーモアの基本---事実とミスディレクション
原則1 ユーモアの核心は事実にある
原則2 あらゆるユーモアには、驚きとミスディレクションが潜んでいる (108-110ページ)
やはり昔からの名言にもあるとおり、喜劇とは悲劇に時間を加えたものに等しいのだ。(123ページ)
これから紹介するシンプルなテクニックを使えば、設定からオチまでうまくつなげられるはずだ。
誇張する
コントラストを生じさせる
できるだけ具体的な表現を使う
比喩を用いる
「3のルール」を守る (126-137ページ)
ふだんの生活でも、舞台の上でも、笑いを取るもっとも簡単な方法のひとつは、以前うけたジョークや面白かったできごとを引き合いにだすこと。このテクニックはコールバックと呼ばれる。何かで笑いが起こったら、聞き耳を立て、ネタとして覚えておこう。あとでチャンスを見つけて、すかさず使うのだ。(143ページ)
優れたコメディには、メロディとリズムがある。たくさん観ているうちに、きっと調子がつかめるはずだ。
・オチの前に一拍置く
・身振りで示す
・盛り上げる
・オチのセリフを繰り返す
・語り口と内容をマッチさせる
・堂々とやってのける(145-147ページ)
ダイレクトメールへの反応に関する一連の有名な研究において、ドイツのマーケティング・広告研究者ジークフリート・フェーゲレは、90%の人びとは手紙の本文よりも追伸を先に読むことを突きとめた。つまり手紙を受け取った相手は、追伸の文を読んで第一印象を抱くということだ。(166ページ)
脳は驚くほどの速さで判断を下す。その速さは、まさに驚異的だ。
(中略)
2秒というのは極端に感じるかもしれないが、初対面のときに相手に与える印象は、その後の相手との関係に大きな影響を及ぼすことがわかっている。(170-171ページ)
そこでヘンリーは、中央情報局(CIA)の「シンプル・サボタージュ・フィールド・マニュアル」を虎の巻としている。アメリカ政府関係者が考案した、テロ組織を内側から破壊するためのマニュアルだ。もともと第二次世界大戦中に戦略事務局(OSS)が開発したこのマニュアルは、CIAいわく「業務を円滑に進行させない方法を教える」ためのガイドだった。
ではアメリカきいての優秀な情報部員たちが、テロ組織の運営や効率性を妨げるために考案した戦略の実例を紹介しよう。ターゲットとして、典型的なアメリカ企業の役員会議を想定してもいい。
委員会では「さらなる調査および検討」のためとして、可能なかぎりあらゆる事項に言及する。委員会はできるだけ人数を増やし、5人以下にならないようにする。
演説をぶつ。できるだけ頻繁に長々としゃべること。「要点」を語る際には、長大なエピソードや個人的な体験を織り交ぜる。
やりとりや議事録、決議の文言を決めるに当たっては、的確な文言をめぐって細部まできっちりと詰めていく。
本題とは関係のない話題をできるだけ多くもち出す。
前回の会議で決まったことを蒸し返し、決議の妥当性についてあらためて問い直す。
(180-181ページ)
だからこそ、この組織が成功するには、大胆かつ斬新なアイデアを生み出すための、健全で超生産的なプロセスがきわめて重要だ。テラーが発見したもっとも効果的なアプローチのひとつは、意外な方法だった。みんなにしょうもないアイデアを出させるのだ。(205ページ)
私たちは誰でも努力をほめられたいとは思っているが、白々しいお世辞を聞いたとたん、脳の警戒レーダーが作動する。それよりも遊び心のあるやり方で、思いがけずほめられたり評価されたりするほうが、型どおりの賛辞よりもはるかに意義深く感じることがあるだろう。それは、相手が自分の努力にちゃんと注目していただけでなく、特別なやり方でほめてくれるほど気にかけてくれていたことが伝わるからだ。(251ページ)
以上のとおり、世界のさまざまな国や分野のリーダーたちのストーリーを紹介してきたが、そこには共通点がある。称賛に価する成功を収めた(ゆえに、おそらくエゴも強い)高名なリーダーは、きわめて深刻な状況においても陽気さを忘れず、望ましい成果をあげていることだ。
学術的なデータも、このようなエピソードを裏付けている。ユーモアは劇的な状況においてさえも(むしろ、なおさら)効果を発揮するのだ。(257ページ)
即興コメディにおいて何よりも重要なルールのひとつは、「イエス、アンド」というコンセプトだ。相方が何を言おうと(はっきりとでも、ぼんやりとでも)、こちらはつねに同意して、言葉を付け加える。(270ページ)
ユーモアの失敗から立ち直るには、3段階のプロセスがある。
失敗に気づく
原因を突きとめる
まちがいを正す(324ページ)
・言ってはいけないジョークをわきまえる
・情報通信メディアを使い分ける
・状況に応じて切り替える
・自分が陥りやすい落とし穴を避ける
(335-337ページ)
ユーモアの偉大な力は善いことのために使うこともできれば、悪用もできるということだ。(342ページ)
人びとが最期の日に口にした願いごとを聞いていくうちに、そこにはいくつかの一貫したテーマがあることに、ジェニファーは気づいた。すなわち、「大胆さ」「自分らしさ」「いま、この瞬間」「喜び」「愛」の5つだ。
(349ページ)
本書の落としどころにも近いですよね。俯瞰して、こう言っています。「でも大事なのは、面白くなることじゃない」と。
つまり、いろいろなことを学んだあとは、あまりそれにとらわれずに、世の中に対する自分の見方を変えてみるんです。あまりがんばりすぎず、結果にこだわらずにね。そうやって物の見方をちょっと切り替えるだけで、ほかのあらゆる点で人生がよりよく豊かになっていきます。(364-365ページ)