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「フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者」

「フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者」(シャルル・ぺパン 永田千奈 草思社)

フランスの人気哲学者の著者による、2時間で読める西欧哲学入門の本。哲学というともっと重厚な感じがするが、この本はフランスのバカロレアの哲学試験の受験参考書であり、10人の哲学者について、その紹介、各哲学者からのアドバイス、さらには問題発言も、ごく手短に紹介している。

1 プラトン

 「哲学とは死に方を学ぶことだ」というのは、死によって肉体の限界から解放されるのを待つまでもなく、思考によって永遠のイデアに到達せよという意味である。ギリシャ語で肉体は<soma>だが、墓は<sema>である。プラトンにしてみれば、肉体は魂の墓場なのだろう。といってもこの肉体という墓は一時的なものでしかない。死は魂を肉体から解放してくれる。(11ページ)

2 アリストテレス

 プラトンとアリストテレスは両極端な二つの人間のあり方を体現している。プラトンは理想主義者で、完璧を目指し人間の理想を極限まで高めようとする。アリストテレスの人間観は、リアリストで、不完全ながらも欠点をいかに減らしていくかを具体的に考える。(26ページ)

3 デカルト

 デカルトはたとえ話の名人だ。実際、「何かになったつもりで考える」のは、思考の実験として実に便利な方法なのである。「方法序説」で彼は、「暫定的道徳」として四つの箴言をあげている。不安と向き合うための四つのルールなのだが、ここにも「つもりで考える」がある。
 一つ目。その国の慣習に従おう。
 二つ目。何かを決断するときは、それが最善策であるというつもりで遂行しよう。
 三つ目。自らの欲求を満たすために努力しよう。だが、それができないときは、世界の秩序ではなく、自らの欲望のほうを変化させよう。
 四つ目。真理を求めよう。(55-56ページ)

4 スピノザ

 スピノザは死の直後に刊行された代表作「エチカ」のなかで、自由裁定を主張する人間を、斜面にあり、転がらずにはいられない石にたとえている。人はこの石のように、自分の意志と関係なく転がり落ちていくのに、自らの意志で転がっているつもりでいるというわけだ。これもまたスピノザの人間中心幻想批判である。(65-66ページ)

5 カント

 科学が私たちに教えてくれることは「間違い」ではないし、時に生活に有益なものであるが、「真理」ではない。私たちは、自分たちの能力の範囲でしか世界を知ることができない。これが「純粋理性批判」の主旨である。(83ページ)

6 ヘーゲル

 だが、ひとたび人間が精神の存在を理解すれば、芸術は歴史において最初の役割を失う。ヘーゲルはこれを「芸術の死」と呼んだ。もちろん、芸術家が一人もいなくなるわけではないが、普遍的な歴史の進化のなかで芸術が重要な役割を担う時代はすでに終わったというわけである。そして芸術に代わって、精神の本質を表すのが哲学であるとヘーゲルは言う。(101ページ)

7 キルケゴール

 一八三一年、ヘーゲルが死んだ年にキルケゴールはコペンハーゲンの大学で神学を学びはじめた。すべてはこの一行で言い尽くしたようなものだ。キルケゴールは神秘的な信仰の騎士であり、時にスキャンダルを引き起こした。いずれにしても「超・理性」として、理性の神学を真っ向から批判しつづけたのがキルケゴールである。(110ページ)

8 ニーチェ

 ここからニーチェの有名な「私たちが芸術をもっているのは、私たちが真理で台なしにならないためである」[ニーチェ「権力への意志」原佑訳、ちくま学芸文庫]という言葉が出てくる。真理には善も悪もなく、世界は狂気と逸脱の陶酔でしかない。人間の恐怖と苦しみは、神からあらかじめ与えられたものではなく、ただ私たちの存在そのものが悲劇なのである。それがニーチェにとっての真理だ。
 こうした真理と直接向き合ったら、私たちは生きてゆけない。だが、幸いなことに私たちには芸術がある。ギリシャ演劇はこの真理を私たちが耐えられる形、むしろうっとりとするような形で垣間見せてくれる。(127ページ)

9 フロイト

 フロイトの最大の功績は、能動的無意識の発見だろう。私たちは禁忌と倫理観に支配された文明社会で生まれ育ち、欲動を抑圧してきた。この抑圧の司令塔が「超自我」である。抑圧されたあらゆる欲動は、無意識の奥底、「エス」[欲動の蓄積される場所]の奥で、満たされる機会をまっている。(136ページ)

10 サルトル

 この完全な自由という概念を、サルトルは「存在」ではなく「無」としてとらえていた。サルトルが革命的なのはこの点である。人間は今の状態ではない。より正確に言うなら、「人間は今ある状態の自分ではなく、今その状態にないもののすべてでありうる」、サルトルのすべてはこの不思議な一文に込められている。(148-149ページ)

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