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「日本人のための「書く」全技術極み」

「日本人のための「書く」全技術極み」(藤吉豊 小川真理子 翔泳社)

編集者・ライターの著者による、文章術の本。書籍を企画したり、インタビューをしたり、文章を書いたりする上での基本的なコツを書いた教科書のような内容で、ライターにとっても、編集者にとってもいい本であると思った。章の最後に、その章に関するプロの方のインタビューが載っているが、これがとても面白く、いいインタビューのお手本のような内容だった。このインタビューだけまとめても、いい本になるような気がした。

 100点の文章=「内容70点:書き方15点:見せ方15点」(34ページ)

 【内容の質を高める6つのポイント】
①読者の役に立つ内容
  その文章を読むことによって「良い効果」が得られる。
②独自性がある内容
  書き手独自の視点、新しいアイデアが盛り込まれている。
③意外性がある内容
  今までの常識とは異なるノウハウが提示されている。
④信頼性がある内容
  内容を裏付ける客観データや1次情報が明記されている。
⑤即効性が期待できる内容
  短期間で効果が得られる情報が提示されている。
⑥読者に関係のある内容
  多くの人が「自分にも関係がある」と感じる内容、環境や条件を問わず誰でも同じ結果が得られる内容が書かれてある。
(36ページ)

 本書の筆者である文道の2人は、現役ライターとしてビジネス書、実用書の編集協力(執筆協力)に携わっています。私たちの知る著者は、ひとりに例外もなく、
 「自分の持つノウハウ、知見、知識を読者の人生に役立てたい」という貢献意欲を持っています。前述したように、本を読むおもな目的は、「知識を得る」こと。読者にメリットを与えるのが説明的文章(ビジネス文書、実用書など)の役割です。(39ページ)

 「自分の感想」と「役に立つ情報」をセットにする
 書き手の個人的、主観的な感想を述べただけでは、読者の共感を得ることはできません。
 説明的文章に求められるのは、
 「この本を読むと、何かを得られそう」
 「この本を読むと、何かができるようになりそう」
 「この本を読むと、得をしそう(損をしないですみそう)」
という読者の期待に応えることです。(40ページ)

 エピソードを思い起こすときの4つのポイント
 「個人の出来事」「個人の感情」を思い起こすときのポイントは次の4つです。
(1) 失敗した出来事(苦労した出来事)を掘り起こす
 「失敗談(苦労話)は自分の評価を下げる」と思われがちですが、まったく逆です。読者は「マイナス(失敗)」から「プラス(成功)」に転じるプロセスに引き込まれます。
 失敗談や痛い思いをした出来事を開示すると、「信頼」「親近感」「共感」につながります。
 反対に、自慢話は読者の反感を買います。
 「読者の役に立つ」ことが最優先ですから、「自分の存在を多くの人にアピールしたい」「自分の有能さを知ってもらいたい」という自己顕示欲を表現する必要はありません。
(2) はじめて体験した出来事を掘り起こす
 自分がはじめて体験したこと、はじめて知ったことは、それをまだ知らない人、体験したことのない人にとって貴重な情報となります。
(3) 自分が不満に思っていた出来事を掘り起こす
 書き手の不満は、読み手の不満でもあります。
 自分の不満、不安、悩みを明かし、その解決策を提示することで、同じ悩みを抱える読者の役に立つことができます。
(4) 自分が勘違いしていた出来事を掘り起こす
 自分が勘違いしていたこと、思い違いをしていたこと、間違いを指摘されたことがあれば、読み手も同じ勘違いをしている可能性があります。(45-46ページ)

 多くの読者が興味を示すテーマは、次の8つです。
 【読者が興味を示しやすいテーマ】
・仕事
・人間関係
・お金
・病気(健康)
・勉強
・恋愛(結婚)
・食べもの
・美容
(61ページ)

 良い原稿と悪い原稿の違いは「熱量」にある
文道: 著者から上がってきた原稿を読んだとき、よく書けている原稿とそうでない原稿には、どのような違いがありますか。
O氏: 大きく2つあって、ひとつは「熱量」の違いです。私は「文章は熱量がすべて」だと考えています。熱量というのは、著者の思いの強さです。
(中略)
文道: 2つ目の違いは?
O氏: 「下心があるか、ないか」です。下心というのは、「自慢したい」「褒められたい」気持ちのことです。
(68-69ページ)

 ライターの仕事を始めた頃、上司から「ライターの仕事は、100の情報を集め10に絞ってまとめること」と教わりました。
 少ない情報で文字数の多い文章を書くと、内容が薄くなります。
 多くを集めて情報を絞っていくことで、中身の濃い記事ができます。したがって、できるだけ「多く」の情報を集める必要があります。(75ページ)

文道: 文書や詩がうまくなるには、やはり量を読むことが大事なのですか?
牧村: 量ですね。僕は詩だけにとどまらず、俳句や短歌、もちろん小説や歴史・民俗学の本も好きで読んでいます。いろんなジャンルの言葉から影響を受けています。(119ページ)

 すぐに使える6つの型
 本書では、さまざまな文章に応用できる6つの型を紹介します。
 【論理的な文章を書くための6つの型】
①逆三角形型 (結論→説明)
②箇条書き型 (結論→ポイント)
③PREP法 (結論→理由→具体例→結論)
④論文型 (序論(問題提起)→本論(現状分析)→結論(解決策))
⑤ブログ型 (特徴→きっかけ→理由→アドバイス)
⑥レビュー型 (概要説明→印象(引用)→コメント)
(149-155ページ)

 「書き出し8パターン」を使ってみる
 【文章のプロも使っている書き出し8パターン】
・パターン① 会話から始める
・パターン② 動きのあるシーンから始める
・パターン③ 疑問を投げかける
・パターン④ 状況、現状を説明する
・パターン⑤ 格言、名言を使う
・パターン⑥ 意外な事実から始める
・パターン⑦ 音から始める
・パターン⑧ 損得勘定に訴える
(183-184ページ)

①すでにわかっていること(既知の情報)には「は」
 まだわかっていないこと(未知の情報)には「が」
 主語をあらわす言葉が既知のときは「は」、未知のときは「が」を使います。
・「は」の場合 伝えたい情報は、「は」のあと。
・「が」の場合 伝えたい情報は、「が」の前。
【例文2】
「田中さんはエンジニアです」
【例文3】
「田中さんがエンジニアです」(210ページ)

 出版できる人とできない人の2つの違い
文道: 土井さんは出版プロデューサーとして、「本を出したい」と考えている人を数多く見ています。著者デビューできる人とできない人では、どのような違いがありますか?
土井: 大きく2つあって、ひとつは、著者の独自性を的確にあらわす「キーワード」が見つかるかどうかです。
(中略)
文道: 著者になれる人となれない人の、2つ目の違いは?
土井: 受け身の人は、著者には向いていない気がします。著者は「本を出す人」「文章を書く人」であると同時に、「チームを引っ張っていくリーダー」です。(215ページ)

 ピーター・ティール(電子決済サービス企業「ペイパル」の創業者)が指摘するように「人間は模倣で成り立ってる」ので、人は他人に感化されやすい。ですが、「すでにあるものに憧れて、自分も同じようになりたい」と考える人は、著者としてはふさわしくありません。
 著者の役割は、未来を創作することです。ですから著者には、「社会に新しい風、新しい仕組み、新しいコンセプトをもたらしたい」という意思とビジョンが必要です。(216ページ)

文道: 読者に行動をうながすコピーライティングのコツを教えていただけますか?
土井: 人には必ず、損失回避性があります。損失回避性とは、「得を求めるよりも損を避けたい」という心理傾向のことです。ですから、読者に「これをしても損をしない」、あるいは「これをやらないともっと損をする」と訴えかけることが重要です。
 たとえば僕が経営者に「これからのビジネスのためにも、海外視察に行ったほうがいいですよ」と助言をしても、ほとんどの経営者は行かないんです(笑)。なので僕は、伝え方を変えました。「もう1回ハネムーンに行くと思って、奥さんと一緒に海外視察に行ってください。ビジネスのヒントが見つからなかったとしても、奥さんは100%喜びます」
 見事に、ほとんどの経営者が海外視察に行くようになりました(笑)。奥さんが喜ぶ以上、「損にならない」ことがわかったからです。
 読者の損失回避傾向に問いかけながら、強迫感を与える強い言い回しは避けて、柔らかい表現に言い換えることも大切です。(221ページ)

文道: 土井さんは、ご自身が講師を務める「ゼロから始める文章を書かない文章講座」の中で、「文章術の9割は自制心である」とアドバイスされています。自制心はなぜ必要なのでしょうか。
土井: 言い訳をしないため、文章をムダに長くしないためです。(222ページ)

 明朝体とゴシック体を使い分ける
文道: 中面の書体(フォント)を決める際、ゴシックと明朝の使い分けはどうしていますか?
斎藤: 本文の場合、ざっくり言うと、「ベーシックに見せたいなら明朝」、「少し新しさを加えたいならゴシック」ですね。(248ページ)

文道: 斎藤さんが考える理想の誌面は?
斎藤: 仕掛けやルールを細かく設定して、インデザイン(デザインソフト)を駆使して、手が込んでいるのにシンプルに見えるデザインが究極ですね。
 たとえば、椅子に座ったときに、「いい椅子だな」と思わせる椅子より、「椅子に座っている」ことさえ感じさせない椅子のほうが完成度が高いと僕は思うんです。椅子って、「座り心地のよい椅子に座る」ことだけが目的になることは少ないですよね。椅子に座ったら、その先の行動に目的があるので、たとえば本を読むとか、絵を描くとか、「椅子に座ってから行うことに集中できる椅子」こそが、一番いい椅子だと思っています。(254-255ページ)

 【推敲の11のチェック項目】
①書かれている内容に間違いがないか、論理が破綻していないか点検する。
②文字を削って、1文を短くする。
③改行や空白行で余白をつくる。
④誤字・脱字をなくす(とくに固有名詞には注意)。
⑤句読点を適切に打つ。
⑥漢字、ひらがなの比率を適正にする。
 (漢字対ひらがなの適正な比率は、2~3割対3~7割)
⑦表記を統一する。
⑧用語を統一する。
⑨不快感をともなう表現、差別語を避ける。
⑩主語と述語の関係を見直す。
⑪重複表現を避ける。(259ページ)

 音読は読み飛ばしをなくし、誤字脱字が見つけやすい
 推敲は声に出して読む(音読)のも有効dえす。
 音読は多くの文章のプロたちが推奨しています。
 【音読のメリット】
・読み飛ばすことができないため、誤字脱字を発見しやすい。
・声に出すことで、読みやすさや文章のリズム、句読点の位置などを確認できる。(277ページ)

文道: ゲラを読むときに注意していることはありますか?
柳下: お腹いっぱいにならないようにしてますね。ゲラを読んでいるときは、カツ丼を食べないようにしたり(笑)。要するにどこまで集中力を保つかが大切なんです。
 校正は肉体労働の一面があります。8時間ずっと座り続けてやりますから。重いものを持ち上げることはありませんが、脳という特殊な臓器を使う肉体労働です。ブドウ糖と酸素が常に脳に供給されるように意識しています。一定のクオリティを保つには、ボキャブラリーの多さよりも、ブドウ糖のほうが大事かもしれません。(292ページ)

 この経験からもいえるのは、文章がうまくなりたいのなら、量を大切にすること。とにかく書くことです。
 文章のプロたちの多くも「文章を上達させたいなら、とにかく書きなさい」と口を揃えています。
 やみくもに書くのではなく、正しいノウハウ(知識)を知った上でたくさん書くことが大切です。(299ページ)

 文章の基礎を身につけたい場合には、まずは多読をするよりも、「これ」という本を繰り返し読むほうが効果的です。(315ページ)

 【「書く力」があると満たされる4つの欲求】
・承認欲求 自分の書いた文章が「誰かに」読んでもらえる。
・知的欲求 知らないこと、興味のあることを知ることができる。
・経済的欲求 文章力と年収は比例関係にある。
・貢献欲求 誰かの力になることができる。
(322ページ)

 愛語は仏教(禅)の言葉です。
【愛語の意味】
 やさしい言葉、慈愛に満ちた言葉、愛情のこもった言葉

 強い言葉で人の心をこじ開けるのではなく、思いやりのある穏やかな言葉で相手を励まし、勇気づけようという教えです。
 愛語のベースは、相手の心に親愛の情を抱かせる思いやりです。(330ページ)

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