見出し画像

「頭にきてもアホとは戦うな」

「頭にきてもアホとは戦うな」(田村耕太郎 朝日新聞出版)

元参議院議員で、国立シンガポール大学の教授である著者による、タイトル通りの内容の本。冒頭に書いてある「限られた資源を無駄使いするな」(2ページ)は、まさにその通りだと思う。嫌な相手からの攻撃をどうやり過ごすか、そして本来やるべきことに集中するかについて、ヒントが書いてある本である。国会議員時代のエピソードも多く書いてあるが、軽く読めて面白い。マンガ本も出ているようである。

 2012年2月1日に英ガーディアン紙に掲載された、スージー・スタイナー記者による、多くの死者を見送ったオーストラリアの看護師ブロニー・ウェアさんの話が印象深い。彼女は自分が緩和ケアに働いていたときに見聞したことをまとめて「死ぬ瞬間の5つの後悔(The Top Five Regrets of the Dying)」という本を出版した。その中のトップが、
 他人の期待に応えようとするばかりの人生ではなく、自分が真に生きたいと思う人生を生きる勇気を持っていたかった(I wish I'd had the courage to live a life true to myself, not the life others expected of me)。
 というものだという。これを読んだときに「洋の東西を問わず、自分の人生を生きるのは難しいんだな」と思った。人生が限りなく続くように思えるときに「自分が何のために生きているのか?」を考えるのは困難だ。なぜなら「そんなことはいつか考えればいい」と思えるからだ。
 しかし、死ぬ間際に、残された人生がわずかなものと悟ったときに「何のために生きてきたのか?生きるべきだったのか?」を考え抜かずにはいられない。このトップ1の後悔から我々は学ぶべきだろう。(164-165ページ)

 人はできるだけ多くの人に好かれたいと思っているし、実際、慕われたほうがいいに決まっている。それには何も反対しない。ただ、「他人の気持ちはコントロールできない」という、ある意味、冷徹な前提を認識した上での話だ。
 私の持論は、何事も「自分がコントロールできるものに力とエネルギーを集中すべき」というものだ。自分がコントロールできないことについて、あれこれ悩んだり、心配したり、イライラしたりしても仕方がない。そして基本的に他人の気持ちはコントロールできない。これは家族でも友人でも恋人でも社員でも同じだ。
 人に好かれたいという思いに振り回されて"自分の人生"を生きなかったら、私にはその時間は無駄に思える。他人に好かれたり慕われたりすることはとても大事だが、それに振り回されていたらとても不幸だ。(167ページ)

 シリコンバレーでは「大失敗ほどレジュメに書くべき最高にクールなことはない」と言われる。「失敗したことのある人間でないと信用できないし、大きな失敗ができるということは相当な実力がある証拠であり、また、その大失敗から学べる人間であり、学んだことはかけがえがない」と思われるのだ。
 自分を責めたりすることより大事なのは、自分の目的をはっきりさせることである。それを強く思えば、冷静になれる。「実績を残して他の部署に行きたい」「早く昇進したい」「成長して会社を辞めて起業したい」「昇進も待遇もそこそこでいいから、波風立てずに安定した生活を送りたい」「会社のお金で、または、自分でお金を貯めて、留学したい」。皆、社会人生活をしていていろんな思いがあるはずだ。これを強く思えば、たいていの嫌な思いや失敗は乗り越えられる。(188-189ページ)

 意外にいいのはトイレと風呂の中だ。長居して家族に迷惑をかけなければ、そこも自分と対話できるスペースである。空間的に狭いほうが自分と向き合い追い込むのにベターだ。
 飛行機の座席のスクリーンもその役割を果たすといったが、トイレや風呂の鏡の中の自分と向き合うのもいい。自分に見せる自分の表情には本音が出ている。
「お前は本当に今のままでいいのか?」
「本当は何がしたいんだ」
「お前の中で一番大切なものは、価値は、何なんだ?」
「今、全力を尽くしているか?」
「怠けていないか?」
「本当にその仕事が好きなのか?」
 などと問いかける。そのときの表情で自分の中を知ることができる。いくら強がっても、本気でないときは自分の表情を直視できないものだ。(201-202ページ)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?