「ロングゲーム」
「ロングゲーム」(ドリー・クラーク 伊藤守 桜田直美 ディスカヴァー・トゥエンティワン)
新進気鋭の経営思想家の著者による、長期戦略の重要性を語る本。著者はビジネススクールの教授で、著作が11カ国語に翻訳されて、ブロードウェイに出資して、スタンダップコメディアンとして舞台に立ち、グラミー賞を受賞したジャズアルバムのプロデューサー(18-19ページ)という、何だかものすごい人である。副題にあるように「今、自分にとっていちばん意味のあることをするために」何をすべきかが書かれている。
自分が何を望んでいるかを明確にする。
何でも引き受けて自分を忙しくするのをやめる。
正しい目標を設定する。新しいことに挑戦する。
いい人たちとつながり、自分もいいことをする。
目標を達成するまでの道は複数ある。
人生のコーチングを受ける上で、とても良い本である。
自分の時間、自分の人生をどう使うのか。意識的に選択すれば、あなたは巨大な力を手に入れることができる。
「自分はこれに賭ける」と決め、行動を起こし、そして待たねばならない。
私はこれを理解して、「忍耐」を受け入れることができるようになった。(19ページ)
この「ロングゲーム」で私が目指したのは、成功へのプロセスを「すべて明かす」ことだ。長期にわたる成功を達成するまでには、どんなことが待ち受けているのか。その現実を包み隠さず明らかにしたい。
最初のステップは、「意味のある人生」の定義を決めることだ。意味のある人生を送るには、まず自分にとっての意味のある人生とは何かということを、きちんと理解しなければならない。
(中略)
そしてもう一つのステップは、「欲しいものはほぼすべて手に入る」と理解することだ。ただし、すぐには手に入らない。きちんと計画を立て、忍耐強く、着実に前に進んでいけば、いつか目指していた場所に到達することができる。
(中略)
目先の利益の誘惑に負けず、不確実ではあるが、価値のある将来の目標に向かって努力を続ける---これが、「ロングゲームをプレイする」ということだ。(20-21ページ)
人生には、成功と失敗を分ける選択がある。たとえ読者が一人もいなくても、自分のアイデアを世間にぶつけるためにブログを書き続けるという選択。スピーチの依頼などまったくなくても話し方教室に通うという選択。たとえ誇れるような業績が何もなくても、成功者ばかりの集まりに参加してネットワークづくりをするという選択。
もちろん、1週間や1カ月で目に見える成果が出るわけではない。1年たっても、何も変わらないこともあるだろう。大きな目標は、短期的にはとても不可能に見える。そして率直に言えば、実際に不可能だ。
しかし、ほとんどの人が気づいていないのは、たとえどんなに小さな行動でも、たしかな戦略をもって毎日続けていれば、たいていのものは手に入るということだ。しかも、予想より早く手に入ることが多い。
さあ、さっそくロングゲームを始めよう。(26ページ)
私たちはえてして、かつてうまくいった道、あるいはうまくいくはずの道や、自分が求めるべき道を見つけると、何があってもそれにしがみついてしまう。自分がどんなに惨めになっても手放すことができない。しかしレベッカも、ついに気がついた。「銀行の仕事なんてどうでもいい。私はただ、パリに住みたかっただけなんだ」と。あとから考えれば、本当の自分も、本当にやりたいこともはっきり見える。しかし、この「忙しさがすべて」のような社会で暮らしていると、それに気づくのは難しい。
1971年、カーネギーメロン大学でコンピュータ科学と心理学の教授を務めるハーバート・サイモンがこんな予言をした。「情報があふれる世界では、情報の豊かさが、ほかの何かの不足を生み出す。(中略)それは情報を受け取る人の集中力だ」。(41ページ)
彼にとって、忙しさは社会的なステータスではなく、単なる苦役だ。「いつも忙しさをアピールするような生き方には、大いに疑問をもっている」と、私に話してくれた。
「そういう人たちは自分の人生をコントロールできていない。とてつもなく成功している人に何人か会ったことがあるけれど、誰もが穏やかで、落ち着いていて、こちらの話をすごく集中して聞いてくれた。彼らはすべてをコントロールしているようだ。自分もああいうふうになりたいね」(43ページ)
「一番大切なのは、ToDoリスト的な思考を捨てることだ。ToDoリストをつくると、どうしてもあとからどんどん足していくことになってしまう。それではいつまでたっても終わらなくて当然だ」
(中略)
「まず自分にとって一番大切なものを決め、その予定を真っ先にカレンダーに書き込む。それより重要度が低いものは後回しだ。重要性がまったくないものについては、そもそもスケジュールに入れない。排除する。ほかの人に任せる。断る。ToDoリストではなく、カレンダーを基準に行動すれば、自分の一日の主導権を取り返すことができるんだ」(46ページ)
他人の要求にばかり応えているとスケジュールがグチャグチャになる。私は、自分のステータスが上がると、お誘いやオファーへの対応を変えるようになった。
・相手の都合に合わせて自分のスケジュールを変えない。自分にとって都合のいい日時のときだけ承諾する。
・こちらの近所まで来てもらう。あるいはすでに相手の近くに行く用事があるときに会うことにする。
・ただ理由もなく人に会うことをやめる。会う相手は厳選しなければならない。仕事上の有力なつながりがある人か、会って面白そうな人だけにする。(51-52ページ)
「何かをするかどうか決めるときは、『すごい!最高!絶対やる!何があってもやる!』と感じないのであれば、やらないのが正しい」と友人は言ったという。
この二択は極端すぎると感じるかもしれない。(中略)
しかしその結果、「人生が極めてシンプルで簡単になった」と彼は言う。そして今の彼は、自分にとって本当に意味のあるプロジェクトのためにほとんどの時間を使っている。(56ページ)
そこでテリーが行ったことを、私たちもお手本にしなければならない。彼は自分にとって大切な価値を定義し、その価値を基準に今回のチャンスを分析した。彼にとっては、お金は大切な価値に入らない。もし入っていたら、即座にオファーを受けただろう。彼が大切なのは、家族との時間と、本当に興味がある仕事をやることだ。自分の価値観がはっきりしていたおかげで、テリーは意志を貫くことができた。(59ページ)
人生は何が起こるかわからない。今の決断が、どういう結果につながるかを予測できない。だが、自分にとって本当に大切なことなら、それでも可能性に賭けなければならない。
トムが昇進を断った2年後、「もう夢が叶うことはないだろうとあきらめかけた」ちょうどそのとき、ある女性と出会った。トムは彼と結婚し、二人の子どもに恵まれた。(62ページ)
「何か大きな欠点をもつことは、偉大さを達成する唯一の方法だ。欠点をもつことを拒否すると、無難な結果しか手に入らない」(64ページ)
自分の身は自分で守り、無駄な予定が侵入してこないように気をつけなければならないということだ。時間は貴重だ。貴重な時間は正しく配分しなければならない。(66ページ)
私がエグゼクティブ・コーチングで使っているチェックリストには四つの項目がある。それぞれについて見ていこう。
①トータルでかかる時間はどれくらいか?
(中略)
②機会費用はどのくらいか?
(中略)
③身体的コスト、心理的コストはどんなものがあるか?
(中略)
④これをしなかったら1年後に後悔するだろうか? (69-73ページ)
未来は誰にもわからない。未来をコントロールする力も限られている。それでも、時間軸を少し延ばして考え、1年後(あるいは5年後、10年後)の自分の気持ちを想像すれば、たとえ完璧な正解ではなくても、よりよい決断をすることならできる。
長期の思考を身につけたいなら、取捨選択のスキルを磨くことが大切だ。その場限りのことに貴重な時間を使ってはいけない。(74ページ)
とりわけ、ある一つの物語が特に印象に残った。マリオンが17歳で、大学進学のために家を出ようとしていたときのことだ。母親は旅立つ娘を呼び止めると、最後に一つのアドバイスをした。「何をすべきか迷ったら、いつも面白そうなほうを選びなさい」と。(82ページ)
人生の意義を見つけるときに役に立つ質問をもう一つ紹介しよう。
それは、「自分はどんな人間になりたいのだろう?」と、自らに問いかける質問だ。(92ページ)
しかし、ロングゲームで大切なのは、「バカげた目標は、今だからこそバカげて見える」ということだ。永遠にバカげた目標であるとはかぎらない。「自分にとって究極の成功とは何か?」と考え、あえて「極端な目標」を立ててみよう。(95ページ)
「お金」に最適するのではなく、自分の「興味」に最適化することが大切。自分の「興味」がわからない人は、自分に次の質問をしてみよう。
「今していることの中で、一番楽しいものは何だろう?」---自分の時間の使い方を観察し、自発的に行っていることを見つける。それがあなたの興味の対象である可能性は高い。
「そもそもなぜこの分野に進んだのか?」---最初の動機を思い出す。
「否定的な意見に耳を貸さないようにするにはどうするか?」---いつでも目標まで一直線に進めるわけではない。「普通はやらない」からって、間違っているとはかぎらない。
「自分はどんな人間になりたいか?」---「理想の自分」なら経験していることを決め、それに向かって努力する。
「大きく考えるにはどうするか?」---「現状」を基準に考えると、できることの範囲が狭くなる。「理想の未来」を基準に考えよう。(102ページ)
「私たちは従業員に、進行中のプロジェクトだけでなく、グーグルに大きな価値をもたらす新しい何かに、自分の時間の20%を使ってもらいたい。従業員はよりエンパワーされ、創造性とイノベーションを加速させることができるだろう。私たちは、いつもこうして最も大きな進歩を達成してきた」(105ページ)
正しいときに正しい場所にいると、想像もしていなかったようなチャンスが目の前に現れることもある。
(中略)
すべての経験が結果につながるわけではない。どれが結果につながるかを事前に見分けることもできない。(113ページ)
挑戦に大切な六つのポイント
①正しいサポートを手に入れる
②コーチを雇う
③期限を決める
④学び続ける
⑤負けても勝てるようにする
⑥10年単位で考える
昔からよく言われているように、「人間は1日でできることを過大評価し、1年でできることを過小評価する」。
(121-127ページ)
ここでのカギは、自分の立ち位置を認識することだ。そのうえで、今は目の前の仕事に全集中するべきなのか、それとも目先を変えたほうがいいのかを戦略的に判断する。(132ページ)
顔を上げて新しいチャンスを「探すモード」なのか、下を向いて目の前のことに「集中するモード」なのか。この二つを混同してはいけない。(137ページ)
キャリアを四つの波で区切って考える
①学ぶ
②創造する
③つながる
④収穫する
第四の波「収穫する」には賞味期限がある。期限がきたら、また新しいことに挑戦し、新しい何かを創造しなければならない。
(139-152ページ)
オランダの研究者アプ・ダイクステルホイスによると、メリットとデメリットを「意識的に検討する」よりも、「無意識の思考にまかせる」ほうが、いい結果につながるという。(160ページ)
そもそも「ワーク」と「ライフ」を分けて考える必要はあるのだろうか?この二つを組み合わせて、どちらもさらに充実させることができるとしたら? (167ページ)
そのとき私は、子どものころの母の言葉を思い出した。同級生の誕生日パーティや楽しい冒険に呼ばれずに嘆いていると、母はよくこんなことを言っていた。「招待されたいなら、まず自分から招待しなければダメよ」。このアドバイスは大人にも有効だ。(178ページ)
あなたは、図々しい人たちの一員になってはいけない。「1年間は何も頼まない」という姿勢を徹底していれば、相手もあなたに下心があるとは考えなくなるだろう。あなた自身も、下心をもたなくなる。本物の人間関係を築こうという心の余裕が生まれるからだ。(188ページ)
長期のネットワークづくりで目指すのは、来週や来年の仕事につなげることではない。尊敬する人との間に関係を築き、彼らと過ごす時間を増やすことが本来の目的だ。それがどんな形になるかはわからない。しかし、正しい部屋に、正しい人たちと一緒にいれば、チャンスが生まれる素地が整うだろう。(193ページ)
特定の目的をもたず、ただ相手を助けること。面白い人たちと意義深い関係を築くことだけを考えて無期限のネットワークづくりを行うこと。するとチャンスが向こうからやってくる。私もそうやってグラミー賞のステージに立つことになった。(201ページ)
うまくいかないときはどうするか
拒絶されても、あるいはまったく反応がなくても前に進む。これは言うのは簡単だが、行うのはとてつもなく難しい。そんなときに欠かせないのが、次の三つの質問だ。
「なぜ私はこれをしているのか?」
「ほかの人はどうやって成功したのか?」
「信頼できる人は何と言っているか?」(228ページ)
挑戦が報われることもあれば、そうでないこともある。それでも挑戦しなければならない。成功とは、自分の仕事で卓越した能力を発揮することだ。だが、たとえ卓越した能力があっても、打席に立たなければ、その能力を発揮することはできない。
短期的には拒絶されることもあるだろう。その理由はさまざまであり、あなた自身とはまったく関係ないこともある。あの編集者あは、私の文章には力があると感じたが、自分の求めているものではないと判断したのだろう。しかし長期で考えれば、「統計」はあなたの味方だ。打席に立つ回数を増やせば、ヒットの数も増える。(244ページ)
当初、思い描いていたとおりには、うまくいかないかもしれない。どんなに優秀で、どんなに才能があっても、予想外の出来事に翻弄されることもある。ただ単に、選ばれないこともある。どうしてもアップルで働きたいと思っていても、夢はかなわないかもしれない。その失望をずっと抱えたままなら、たしかにアップルで働けないのは「失敗」だ。
しかし、その経験を糧にして、違う道を考えることもできる。
(中略)
誰かがあなたを雇うかどうか決めるのは、あなたにコントロールできることではない。自分がどうにもできない要素だけで自分の価値を決めてはいけない。
目標を達成するまでの道は複数あったほうがいい。そうすれば、あなたの運命を勝手に決める門番から力を取り戻すことができる。あなた自身もよりクリエイティブに考えられるようになる。(250ページ)
「夢は何でもいいの。本を書きたい。起業したい。一人旅がしたい。でも、これだけははっきりしている。カレンダーに予定を書き込まなければ、それを実行することは絶対にない。やらなければいけないことは次から次へとやってくる。だから開始日を決めていない人は、そのたびに夢を先延ばしすることになるの」(255ページ)
たいていの目標は失敗する。大きな目標なら特にそうだ。ここで大切なのは、失敗してもあきらめないことだ。目標への道は一つではない。別の道は必ずある。
(中略)
障害は避けられない。成功するには障害を乗り越えることが不可欠だ。障害を飛び越えてもいいし、障害の下に穴を掘ってもいいし、障害をばらばらに壊してもいいし、あるいは単に迂回してもいい。選ぶのはあなただ。
選んではいけない道はただ一つ、それはあきらめることだ。(258ページ)
目の前の誘惑に打ち勝つコツは、衝動を「冷ます」ことだ。(264ページ)
自分を鍛え、本当に大切なことを優先できるようになる方法はあるのだろうか?
答えは「ある」だ。秘訣はごくシンプルで、「ただ始めるだけ」でいい。ただし、とても小さく始めること。
「本を書く」「新しいスキルを学ぶ」などの問題は、あまりにも大変そうで、始める前にあきらめてしまうことだ。机に向かって300ページも黙々と書くなんて、自分にできるのだろうか? 答えはもちろん「できない」だ。
大きな目標は、まず小さく分割しなければならない。
(中略)
「やることが簡単であれば、モチベーションに頼る必要はない」と彼は言う。そこで彼が提案するのは、「小さな習慣」を確立することだ。抵抗する気が起きないほど小さな習慣であることが望ましい。
(中略)
苦手意識があること、やりたくないことがあるのなら、「小さく始める方法」を考えてみよう。
(265-266ページ)
私たちには魔法の力が必要だ。来た道を振り返り、自分が達成したことを祝福しなければならない。そうすれば、さらに旅を続ける気力がわいてくる。(277-278ページ)
大きな夢をかなえたいなら、目に見えない地道な努力を今から始めなければならない。目先のことしか考えない人からは、無駄な努力だと言われるかもしれない。しかし続けていれば、いつか指数関数的な成長を経験することができる。
大切なのは忍耐力だ。ここで必要なのは「受け身的な忍耐」ではない。自分の身に起こることを黙って耐え忍べと言っているのではない。簡単な道を拒否し、意義のある行動を選ぶためには、もっと「積極的な忍耐力」が必要になる。(281ページ)