「自分の仕事をつくる」

「自分の仕事をつくる」(西村佳哲 晶文社)
https://www.shobunsha.co.jp/?p=1689

魅力的なモノづくりの現場を訪ね歩き、その働き方の秘密を伝えるノンフィクション・エッセイ。「社会は働き方から変わる」という確信のもと、働き方研究家としてフィールドワークを重ねる著者による、ワークスタイルとファイルスタイルの本。いろいろな分野のこだわりの職人の働きぶりというか考え方に触れることができて、思っていたよりも面白い本だった。
「時間をかけることによってのみ達成できる仕事が確実にある」(48ページ)、「いま私たちがあたり前のように使っている、机やトンカチ、ボタンやポケット、コップなどのデザインは、人類が長い時間をかけて重ねたトライ&エラーによる知恵の集積なのだ」(83ページ)、「才能とエネルギーを、あなたが信じることに使おう」(95ページ)、「考え方を考える、ということを教えています」(111ページ)、『講義で佐藤(雅彦)氏は、階段教室を埋める五〇〇名の学生たちに、「何を凄いと思うか、何を美しいと思うか。そういうことは、人に教えるものではないし、教えることのできないものです。自分はいま、その後のことを教えています」と語りかけていた』(112ページ)、『ファシリテーター10カ条
(1)主体的にその場に存在している
(2)柔軟性と決断する勇気がある
(3)他者の枠組みで把握する努力ができる
(4)表現力の豊かさ、参加者の反応への明確さがある
(5)評価的な言動はつつしむべきとわきまえている
(6)プロセスへの介入を理解し、必要に応じて実行できる
(7)相互理解のための自己開示を率先できる、開放性がある
(8)親密性、楽天性がある
(9)自己の間違いや知らないことを認めることに素直である
(10)参加者を信頼し、尊重する
(「ワークショップ」中野民夫、岩波新書より)』(121ページ)、
『働き方を訪ねてまわっているうちに、その過程で出会った働き手たちが、例外なくある一点で共通していることに気づいた。彼らはどんな仕事でも、必ず「自分の仕事」にしていた。仕事とその人の関係性が、世の中の多くのワーカー、特にサラリーマンのそれと異なるのだ』(142ページ)、『魅力的な物事に共通するなんらかの法則を見出そうとする時、彼(佐藤雅彦氏)がとる手法は「好きだけど理由がわからないものを、いくつか並べてみる」というもの。慶應大学の講義ではこの手法を要素還元という名前で紹介していた』(147ページ)、「パンは手段であって、気持ちよさだとかやすらぎだとか、平和的なことを売っていく、売っていくというか、パンを通じていろんなつながりを持ちたいというのが、基本にあるんだと思います」(169ページ)、『甲田氏はインタビューの中で、「この仕事には矛盾がなかった」と語っていた。ここで語られる矛盾とは何か。仕事をめぐるダブル・バインドについて、少し考えてみたい。「ダブル・バインド(二重拘束)」とは人類学者のグレゴリー・ベイトソンが提唱した理論だ。(中略)母親の目や表情は冷たく、言葉とはまるで逆のメッセージを発していたとしよう。このような状況をダブル・バインドという。(中略)自分の行う仕事が他人に与える矛盾、それが生み出すダブル・バインド的な状況に、自覚的でありたい』(171-172ページ)、『「みなさんは自分の仕事に対する解像度を上げるために、何か心がけていることはあるか?」という質問を投げてみた。(中略)森本氏は次のように答えてくれた。「自分がとことん馬鹿になれることを、忘れないことです。」』(218ページ)、などなど。
働き方やマネージメント、モチベーションなどについて広く論じていて、2003年出版の本なのに新鮮で非常に面白かった。逆に言えば、我々の働き方がこの20年間進歩していないのかも知れない。

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