『涙ダイヤモンド』「ちくま800字文学賞」応募作品
「なんで、言ってくれなかったの!」
エリは僕を責めた上にそばにあった缶ジュースの残りを僕の顔にかけた。顔がジュースまみれだ。
「それは僕にだって、知られたくないことが、あるんだ……」
「最低!」
もう僕らは終わってしまったのだろうか。悲しい。そう思っていると彼女は大泣きしていた。僕まで悲しくなる。僕から溢れた涙が重い。エリの涙もきらきら輝く宝石のようになって。待てよ。僕から溢れた涙も宝石の様な何かになっている。
「ねえ、この涙。宝石みたいだね」
翌日、僕とエリは宝石商に涙が固まった何かを見せた。すると、その何かは間違いなくダイヤモンドだということがわかった。僕らの涙が価値のある物になってしまった。
「どうする?」
「どうするもないじゃない! わからないわよ!」
またしても彼女は泣いた。涙が幾つものダイヤモンドとなって地面にころんころんと落ちていく。なぜか僕まで悲しくなって、ダイヤモンドが溢れた。
それから僕らは喧嘩をしては泣いてを繰り返してしまい、ダイヤモンドはスーツケース一つ分くらいに増えてしまった。持っていても仕方がない量になってしまったので、半分近くは宝石商に売り払った。お陰でお金には困らない生活ができる様にはなったが、どこか心が晴れない。彼女もそんな感じだった。僕らの心はちっとも幸せになれないのに宝石とお金だけが増えていく。
「私たちは幸せじゃないよね」
「そうだね」
「この際だから別れようよ」
「それは嫌だ」
そう言っても、エリはどこかへと行ってしまった。僕は悲しいけれど涙は出なかった。いつかこうなることはわかっていたから。
それから彼女とは会わなかった。生活は続いているが、感情が表に出なくなってしまった。しばらくしてようやく思い出した。僕がエリと一緒にいたかったのは、彼女といる時だけ笑ったり泣いていたりしたからだ。僕はなんで忘れていたんだろう。ダイヤモンドの涙がきらりと溢れた。