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自民党総裁選入門 第二話
前回のあらすじ
コロナ感染拡大をきっかけに、支持率の低下が止まらない菅政権。そこに、新時代の旗手、岸田文雄が党内人事改革を掲げて立ち上がった。ターゲットは菅さんのバックにいる自民党のボス、二階幹事長。自民党の新旧時代の熱い戦いが繰り広げられるのかと思いきや、なんと菅さんが出馬見送りを表明。自民党どうなっちゃうの?!
未来人河野太郎
前回、菅さんが身を引く決意を固めるまでの話を書きましたので、今回は他の候補者について書こうと思います。岸田さんが出馬を表明してからしばらくして、そういえばあの人は出馬しないのだろうかと気になった人がいました。河野さんです。河野さんは以前から「総理大臣になりたい。」とはっきり言っていました。8月中は目立った動きがなかったので、菅さんの下についていれば官房長官に抜てきされることを見越して、ワクチン担当大臣の仕事に専念すると思っていました。しかし、菅さんが出馬を見送ったことで状況は一変します。どうするのかと思っていたら9月10日に出馬を表明しました。河野さんが総裁になったら衆院選では自民党が圧勝するだろうと、その時は単純に思いました。河野さんはなんと言っても発信力があります。インターネットを駆使して国民に直接語りかけるので、以前から親しみやすさを感じていました。また、新型コロナウイルス対策についても、ファイザー、モデルナという信頼性の高いワクチンを日本で接種できるのは、外務大臣を経験した河野さんの交渉力があってのことだと思っています。
河野さんの実績を評価するため、アジア各国のコロナ死者数とワクチン接種率を比較してみました。私は専門家ではないので、Googleで調べられるデータしか手元にないのはご了承ください。
コロナ死者数は、NHKの特設サイト「新型コロナウイルス」に載っていた9月25日のデータ、ワクチン接種率はGoogleで検索した時に表示されるJHU CSSE COVID-19 Dataの9月20日のデータを元にしました。このグラフを見ると、日本はコロナ死者数の割に、ワクチン接種率が高いことが分かります。カンボジアも高いですが、カンボジアで主に使用されているのは効果と安全性に疑問が残る中国製のワクチンです。感染拡大が深刻な国で確保が難しいファイザー、モデルナのワクチンを日本で接種できるというのは、人道的視点で考えると複雑な思いですが、それを実現した日本政府の実行力と、国際社会における信用度は高く評価すべきだと思います。私は東京五輪を開催するか否かという時に国際社会での立ち位置を気にしていましたが、他の国との約束を守ることは、後々効いてくることだと思っています。
話を戻します。実行力もアピール力もある河野さんが総裁になれば、衆院選も安泰だと思っていました。しかし、実際はそこまで単純ではなかったようです。河野さんは自民党の中でもかなり野党に近い自由主義的な考えを持っています。例えば、原発に変わるエネルギー源を積極的に模索したり、女系天皇を容認する考えを展開したりと、保守派が多い自民党の中ではかなり浮いた存在のようです。河野さんが出馬を表明することで頭を抱えたのが、実質的な上司にあたる、派閥トップの麻生さんでした。麻生さんが率いる志公会の中でも、河野さんを支持しない議員が現れ、同じ派閥から出馬する河野さんを応援しないという仲間割れのような状態になってしまったのです。
国粋主義者高市早苗
順番が前後してしまいましたが、高市さんが出馬を表明したのが9月8日、河野さんの2日前です。高市さんについては調べれば調べるほど、ああ、この人を当選させるには覚悟がいるなという思いが強くなる一方でした。高市さんの基本理念を見ると『国の制度設計については、「行き過ぎた結果平等」を廃し、「機会平等」を保障するべきだと考えています。』と書いてあります。きれいに書いてありますが、これはきついですね。いや、私はいいんです。一応、人並みにがんばって生きてきた自負はあります。しかし、この国の弱者と、弱者を守る正義の味方を甘く見てはいけません。弱者は容赦なく人を傷つけるんです。「弱者切り捨て」などと言われて集中砲火を浴びるのが目に浮かびます。高市さんはメディアとの対決姿勢も見せています。「高市さんを日本初の女性総理に!」なんて言っている人を散見しましたが、そんな生易しい人じゃないですね。同じ女性議員でも野田さんは女性目線で発言をしますが、高市さんはそういうところがまったくありません。物事の白黒をはっきりさせるまで対決姿勢を崩さない生粋の国粋主義者と見るべきでしょう。高市さんの特筆すべき点は国防への意識の高さです。サイバー攻撃に対する対策の強化や、敵基地無力化技術の開発などを強く主張しています。先に言ってしまうと私はけっこう保守派です。国防は重視しています。2年前の2019年、私は香港を訪れました。集会やデモ行進にも参加しました。香港民主化運動のテーマソング「願栄光帰香港」は、今聞いても胸が熱くなります。興味があったら聞いてみてください。いい曲ですよ。この歌ですが、今香港で歌うとそれだけで逮捕されます。香港国家安全維持法で中国共産党に完全に統治されてしまったからです。
中国共産党が次に狙っているのは台湾です。台湾の蔡英文総統は、有事の際には中国と本気で戦うつもりでいますね。なぜ日本が台湾のようにならないかというと、単純に沖縄に巨大な米軍基地があるからです。先日、その米軍基地に届くミサイルを北朝鮮が開発したようで、こんな状況で国防が気にならない方がおかしいと思っています。そのような背景もあり、高市さんは保守派の人から熱狂的に支持されています。本当に熱狂的です。それを見て、逆に不安になった私です。高市さんの支持者を見ていると、トランプ前大統領を思い出します。今年の1月、トランプ前大統領が選挙の不正を訴える大規模なデモ行進を行ったわけですが、最後はコントロールが効かなくなって、トランプ支持者が暴徒化し、議会を襲撃しました。国民性が違うので日本ではあそこまでいかないと思いますが、水面下での争いが絶えなくなるでしょう。アメリカ大統領選挙のニュースでバイデン支持者が言っていた言葉を思い出します。「面白い政治はもうたくさんだよ。」
どっちつかずの正義
党内改革を掲げて立ち上がった岸田さんですが、それ以外に強く主張していたことと言えば、「国民の声を聞く」くらいでしたね。菅政権が強引に政策を実行してきたことを意識していたのだと思います。健康危機管理庁の話はいつの間にか消えて、「緊急時に政府の指示で動かすことができる医療機関を平素から用意する」という現実的な話になっています。かなり中立的ですね。3人が出馬を表明した時点で、左翼の河野さん、右翼の高市さん、中道の岸田さんという構図を思い描きました。それと同時に思い出した言葉があります。
「政治は中道を行かなければなりません。」
三島由紀夫の戯曲「わが友ヒットラー」でヒトラーが言うセリフです。ヒトラーと言っても第二次世界大戦の話ではなくて、1934年、ヒトラーがまだ首相だった頃の話になります。当時のナチ党の中で極右勢力だった突撃隊の幕僚長、エルンスト・レームと、党内左派の社会主義者、グレゴール・シュトラッサーを、ヒトラーが一度に粛清したんですね。三島由紀夫はこの事件を元に、政治は、極左、極右を切り捨て、中道を行かなければならない。という主張を展開します。最初に読んだのは高校の時でしたね。正直なところ、まったく理解できていませんでした。昨年読み直して面白いなと思い、今まさに、誰に投票するかを考える基準にしているわけです。文学は不思議な力を持っていますね。
この理論で考えると、中道の岸田さんが総裁にふさわしいということになります。岸田さんの発言には様々なものがありますが、「国の一体感、社会の安定を目指していく。」というのが最も岸田さんらしいと思っています。
靖国参拝という地雷
9月13日、ぼんやりとテレビを見ていたら岸田さんが出てきました。記者から、総理になったら靖国神社に参拝するかどうかを聞かれていました。一字一句覚えているわけではないですが、「その場その時の情勢を踏まえて、適切な対応を取ろうと思っています。」というようなことを言っていました。しびれましたね。これ以上ないくらいあいまいな回答でした。靖国参拝については、いろいろと思うところがあります。基本的な考えを言ってしまうと、総理大臣には参拝してほしいと思っています。靖国神社には、太平洋戦争で戦死した軍人が祀られています。太平洋戦争は、最終的に多くの犠牲を出して、日本が敗北した戦争です。歴史として反省しなくてはいけない点はいくらでもあります。ただし、当時の軍人は、日本の平和と国民の幸せを願って、戦い、そして死んでいきました。大戦の是非とは別に、当時の軍人と国の歴史に敬意を払うのは、国のトップとして当然のことだと思っています。ただし、ただしですよ。毎年毎年、政治家の靖国参拝は物議を醸してきました。いちいち報道することでも批判することでもないと思っていますが、結果的にデリケートな案件になっていることは事実です。しかも、靖国参拝は思想的な要素が強いです。政治家が靖国神社に参拝してもしなくても、日々の暮らしは変わりません。それならば、公の場でわざわざ立場を表明しないのが得策だと思います。岸田さんは、経済政策やエネルギー政策についてはきちんと意見を言っていますが、靖国参拝については、ぎりぎりまで中立を保っていましたね。最後は参拝を表明しましたが。このことから、岸田さんは決定的な対立を避け、思想よりも実益で物事を判断する人物であることが伺えます。物足りないと思う方も多いと思いますが、この国では、発言一つで政治家や重要な役職につく人が辞任に追い込まれます。そのことを踏まえて、世論やメディアとの衝突を極力避ける。これは政治家にとって必要な力だと思いました。小心者と言われそうですが、私は、理想を貫くことより、少しでも多くの人が幸せになることの方が大事だと考えています。