東通工 (現ソニー) による国産2台目にして、既に録音再生機器の基本となる多機能を備えた 〜 『A型』テープレコーダー試作機
『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (11)
日本のメカトロニクス機器の原点ともいえる、国産初のテープレコーダー『G型』の開発と、ほぼ同時期に東京通信工業 (現ソニーの前身、以下 東通工) 入社2年目の若き技術者・木原信敏によって研究開発が進められていた機器がもう一つありました。
それが、一般家庭への普及を念頭に製作された『A型』テープレコーダーでした。
国産初のテープレコーダー『G型』開発のお話はこちら↓
小型化を目指した『A型』テープレコーダー
『G型』テープレコーダーの試作機が完成し、生産体制を整えるため製造部隊へと『G型』が移された1950 (昭和25)年2月、ソニー創業者の一人井深大は、木原の開発した『G型』試作機を見てこう言います。
「G型もいいけど、もっと小型にならないかね、
もっと軽くならないのかね。」
東通工初の「テープレコーダー」ということもあり、信頼性を第一に考えた結果、頑丈な作りの筐体で重さも約40kgというサイズに対する懸念は、開発者である木原も同様に考えていた問題でした。
木原はすぐに小型化を実現すべく、試行錯誤を積み重ねながら短期間で、この『A型』テープレコーダー試作機を組み上げたのです。
残念ながら『A型』テープレコーダーは、東通工全体が『G型』の販売戦略に注力していたこともあり、この時点では製品化にはならず、社内での「技術見極め用」のテープレコーダーとして使用されることになります。
優れた作りの『A型』テープレコーダー
しかし、試作止まりとは言え、この『A型』テープレコーダー、今日の録音再生機器の基本となる多機能を既に取り入れているという、非常に優れた作りになっていました。
1モーター、7号リール、2ヘッド。試作機ながら、30分の録音、早送り、巻き戻し機能も備え、マイク録音のみならず、すでにラジオのエアチェックまで可能にし、ヘッドフォン端子までも備わっており、未知の機械であったテープレコーダーの東通工による国産2台目の機器としては、驚きの完成度で充実したスペックを備えていました。
東通工では『G型』が完成し販売が開始されたとはいえ、この頃はまだ、「テープレコーダー」の一般家庭への普及は愚か、官公庁や裁判所になんとか採用された程度で、教育関係機関などにも普及が進む前で、世間では「未知の機械」でしかなく、自分の声を
「録音したらすぐに聴ける」
という、今では当たり前になったことも、当時では想像することも難しく、まさに驚きでしかなかったような時代だったのです。
“ G型がいちおう開発できると、「君、君、G型もいいけど、もっと小型にならないかね、もっと軽くならないのかね。そうすれば安く、もっと売れると思うんだがね」。G型はいいから次のものを早く開発してくれよ、というわけです。
私も井深さんと同じように考えていましたから、「G型は製造のほうに任せて、新しいテープレコーダーの開発をやらせていただきます」と即座に返事をしていました。”
『ソニー技術の秘密』第2章より
『H型』として生まれ変わる『A型』
既に後のテープレコーダに実装される基本的な仕様を含むこの『A型』テープレコーダーは、研究開発の過程で多くのテープレコーダに関するデータの取得に使用され、後の「磁気記録のソニー」の基礎を作り上げることに貢献します。
『A型』テープレコーダーはその後、井深大、木原信敏の両名が願った
小型軽量化による一般家庭への普及
を念頭に改良が加えられ、東通工におけるテープレコーダー販売数を急成長させることになる、次の『H型』テープレコーダーの原型として使用されることになり、『A型』テープレコーダーはその姿を改め生まれ変わることになるのです。
『A型』を改良し『H型』として生まれ変わるお話はこちら↓
文:黒川 (FieldArchive)