世界初のトランジスタから全て一貫生産を実現!井深大の願いを叶えた日本初のトランジスタラジオ「TR-55」
「ソニー技術の秘密」にまつわる話 (31)
1955 (昭和30)年1月、
東京通信工業 (現 ソニー、以下 東通工) 創業者・井深大がトランジスタラジオの開発を宣言した「1952年」にちなんだ型番を持ち、また「国連ビル」の愛称で呼ばれた、東通工初のトランジスタラジオ『TR-52』が完成します。
ジャンクション型のトランジスタ五石使用、スーパーヘテロダイン式受信機で、四角いプラスチックの筐体に四角の穴が多数開いているもので、それが国連ビルのように見えるため 「国連ビル」というニックネームが付けられていたのです。
しかし、プラスティック筐体モールド(金型)設計の問題で、キャビネット前面の白い格子状のプラスチック部分が、気温の上昇とともに、全体が黒色の箱から次第に浮き上がってしまい、筐体にねじれが発生するという不具合が確認され、正式発売を目前に販売を断念してしまいます。
これに驚いた 井深大 は、当時、東通工の技術者・木原信敏が『トランジスタ』の応用研究を行い、ラジオの開発チームとは別に、独自にトランジスタラジオ小型化の試験を行っていたことを知っており、
「トランジスタ・ラジオの研究を引き受けてくれないか」
と声をかけたのです。
こうして、戦時中に真空管電圧計を発明し、東通工の中で回路に一番詳しい 安田順一 (やすだ じゅんいち) 率いる「ラジオ研究チーム」に木原は参加することになります。
回路設計(エレクトロニクス)、機構設計(メカトロニクス)、外のデザインなどを考えた配置については全てを担当。回路は「ラジオ研究チーム」の技術者・狩野政男 (かりの まさお) が開発してきた、小型化した中間周波トランス、オーディオトランス、スピーカーを流用し、木原の流儀を採り入れて決定されました。
配線は、先に販売されていたリージェンシー社の四石トランジスタラジオを参考に、プリント基盤を用いてハンダづけすることにし、プリント配線用の図面も木原が書き上げて、下請け工場に注文、銅板のエッチングをしてもらい、なんとかプリント配線基盤を完成させます。
また、トランジスタ・ラジオ用のポリバリゴンは、30 x 30 x 15のTrackingless(トラレス)VCの試作開発を三美電気に依頼。
“私は、安田さんのグループとは別に、独自にトランジスタ・ラジオの小型化の試験をしていましたが、当時、真空管のポータブルラジオは電気のポリバリコン(ポリエステルの大きな誘電率を応用した可変コンデンサー)を使って小型化していましたので、トランジスタ・ラジオにもぜひ使いたいと測定をしました。しかし、高周波側と局発側のバリコンのキャパシティ変化カーブがトランジスタには使えないことが判明しました。
これはメーカーに相談して開発してもらおうと、工場長の樋口さんに頼んで三美電気を訪問することができました。社長の森部一さんに会い、トランジスタ・ラジオ用のポリバリコンを開発していただくことになりました。昭和三〇年二月のことでした。”
「ソニー技術の秘密」第3章より
以後の電気回路ではスタンダードな仕様となる「プリント配線の基板化」はこの時日本初となり、このプリント回路方式を見た盛田昭夫 は、
これからの電気回路はこれが主流になる
と判断し、プリント基盤材料を輸入しての生産販売を開始したのでした。
この当時の日本には存在していなかった、プリント基板に必要な接着剤を、 盛田昭夫 はアメリカのラバーアンドアスベスト社より輸入、同時に「プリント基板用接着剤付銅箔」を共同開発し、技術援助契約を結び、「回路用銅箔製品」および「工業用接着剤製品」の製造・販売を行う『ソニーケミカル株式会社』を設立し、ボンドマスター、テープなどの製品製造販売を行っていました。
トランジスタラジオを『トランジスタ』から全てを一貫生産を実現したのは世界初となり、トランジスタ製品の普及と販売に注力した東通工は、
"「トランジスタから一貫生産し、発売したのは東通工が世界で初めてである。このようにトランジスタの開発、製造技術の確立とトランジスタラジオの完成は、我が国電子工業の歴史において画期的な出来事となった。即ちこのラジオのトランジスタ化によって従来の真空管がトランジスタに置き換えられる事が技術的に証明されたからである。」"
『ソニー技術の秘密』第3章より
と大きく評価されることになったのです。
井深大のトランジスタラジオ開発の夢を叶え、財力的にもブランド的にもソニーの基礎を作り上げた『TR-55』は、日本初のトランジスタ・ラジオとして国際観光ホテルで公表され、1955 (昭和30) 年4月18,900円で販売されました。
1956 (昭和31) 年4月には、使用するトランジスタに完成したばかりの『PNPアロイ型トランジスタ』を追加し、外観を同じく出力ワット数を上げ音質を向上し、短波放送の受信にも対応したトランジスタラジオ『TR-5』も発売(18,900円)されています。
文:黒川 (FieldArchive)
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