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火事で効果満点の製品紹介?!ニューヨークの新聞記者達を驚かせた 〜 ビデオ・デンスケ 『DV-2400』

『ソニー技術の秘密』にまつわる話 (42)

1964 (昭和39) 年、ソニーの技術者・木原信敏ら開発チームによって、革命的な小型化とコストダウンを果たし、世界初の家庭用ビデオテープレコーダーとして誕生した『CV-2000』が家庭や学校へ普及していくにつれ、テレビ番組を録画するだけではなく、自身でも撮影するという需要が高まり、

自分でも撮影してもらおう

と、ポータブル式小型VTRとビデオカメラの開発がスタートします。

しかし、画期的に小型軽量化されたとは言え『CV-2000』は19kgと個人でカメラと一緒に持ち歩くには難があり、『デンスケ』の愛称で放送業界に普及した『M型』テープレコーダーのようなゼンマイモータではVTRは回せない。さらに、もっと小型の撮像管も必要でした。

これを解決したのが、同時に開発されたビデオカメラ 『DVC-2400』でした。

カメラ側が同期信号を出すという逆転の発想と、1モーター駆動による小型軽量化により、1967 (昭和41)年7月、世界初となる携帯用ビデオテープレコーダー『ビデオ・デンスケ (DV-2400)』は完成します。

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VTRとカメラのセパレート型ながら、撮影された映像はそのまま『CV-2000』で再生可能という互換性もあり、AC、DC、車載の3電源方式の『DV-2400』は、ビデオカメラを「持ち歩き自分で撮って楽しむ」という新たな映像文化を提供したのでした。

" 昭和四一年七月に、世界初の携帯用ビデオ・テープレコーダー「ビデオ・デンスケ」を完成して一般に公開しました。これは新聞に、「ビデオ・デンスケは、トランジスタ・テレビで培われた小型化回路と、テープレコーダーによる直流モーターの技術、回転ヘッドの技術を駆使した、世界で最初の電池で作動する携帯用ビデオ・テープレコーダーで、放送局や業務用の取材活動に著しく貢献する」と報道されました。"

ソニー技術の秘密』第4章より

一度きりのフィルム撮影が主流の頃、繰り返し録画再生できるビデオテープの優位性は大きな話題となったのです。

1967 (昭和41)年7月13日には、アメリカ・ニューヨーク5番街のソニー事務所で、ニューヨークの報道関係者に向けて、この『ビデオ・デンスケ (DV-2400)』の発表会が開かれ、木原もソニー創業者の一人盛田昭夫のサポートとして同行していました。

その時のことです。

盛田昭夫が報道関係者に向けて製品の説明をしていると、通りの向かい側にあるソニー・ショールームの地下室あたりから白煙がモウモウと立ち上がり、そのうちに梯子車が到着して消防活動が始まり、あたりは大混乱となったのです。

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幸いなことに、火事の原因はクーラーのモーターの過熱とのことで、軽いボヤ程度で終わったのですが、木原はこの時の様子を商品説明を行っていた『ビデオ・デンスケ』を担ぎ道路まで出て行き、消防隊の活動をビデオに記録していたのです。

商品説明会の場に戻った木原は、すぐにこの実況ビデオを再生し報道関係者達に、たった今起こった火事の様子を映し出した映像を見せます。
これに驚いた報道関係者達は

「素晴らしい機械が出現した。
このビデオ・デンスケは本当に役に立つ機械だ」

と、発表会はこの話題で持ちきりになり、翌日のニューヨーク・タイムズ朝刊では、『Trial by Fire Tests New Sony TV Unit 』のタイトルで報道されたのでした。

The Sony Corporation put on a most successful but wholly unexpected demonstration of its new portable video tape recorder here yesterday.

中略 〜

All at once, fire sirens sounded. Mr.Morita glanced outside and said, "There's a fire on Fifth Avenue."
Immediatrly Mr. Morita and the associate did a double take, grabbed the TV tape recorder and dashed out of the office. The Sony showroom diagonally across the street at 585 Fifth Avenue, near 48th Street, was on fire.
The two men filmed the firemen opening the freight elevator on the sidewalk and rushing into the showroom with hoses and firefighting gear.
They also filmed the crowd that gathered.
Then, after making certain that everything was under control, they returned to the office and showed the film. It was of top quality and may be useful to insurance officials when full damage is assessed.

「The New York Times」1966年7月14日より一部抜粋

この出来事の効果もあり、『ビデオ・デンスケ (DV-2400)』は、世界で最初の電池で作動する携帯用ビデオ・テープレコーダーとして広く認知され、放送局や業務用の取材活動に活躍したのでした。

文:黒川 (FieldArchive)


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