福岡インディペンデント映画祭2020開催レポート
11月19日(木)~23日(月)の5日間に渡り、福岡インディペンデント映画祭(以下、FIDFF)を開催し、無事に閉幕することができました。
▼福岡インディペンデント映画祭
2009年スタートした自主制作映画の上映を通じて、国内・海外の映像制作者の発表と交流、育成を進めること目的とした映画祭です。
「アジアフォーカス・福岡国際映画祭」の協賛企画としてアジアの映画祭との交流も積極的に行っています。
まず、観客の皆さま、作品出品者とスタッフ・出演者の皆さま、各財団の皆さま、今年も講評を引き受けてくださった犬童一心監督、有形無形で様々な支援を下さったすべてのみなさまに、心から感謝申し上げます。
今年で12年目を迎え、映画祭としては成熟期に入ってくる段階ですが、昨年からの新会場・福岡市科学館での2スクリーン上映、そして六本松 蔦屋書店様でのイベント、更には感染対策も…と、まるで一回目のような気持ちで試行錯誤を積み重ねる5日間でした。
全国で新型コロナウイルス感染者が再び急増し「我慢の三連休」と言われた期間でしたが、授賞式とグランプリ作品上映プログラムは、感染対策のために一席空けの状態ではあったものの、観客席と補助席がいっぱいになるほどの盛況となりました。トップ写真は、授賞式で今年のグランプリを獲得された「グラフィティ・グラフィティ」の松尾監督と主演の渡邉梨香子さんの挨拶の様子です。
このnoteでは、今年のFIDFFの記録として主要プログラムを振り返り、特別プログラムは別途レポートでご紹介いたします。
映画祭1日目 11月19日(木)
10時20分、映画祭代表・金石智宏のスピーチで幕を開けたFIDFF2020。今年の開幕プログラムは加藤允哉監督作品の『業の階段』と『東京葬華』でした。
昼過ぎには『うんこマン』『新世界の竜』の佃光監督が監督第1号の来場者として到着!
FIDFFでは毎年、映画祭のメインビジュアルをサインボードにし、来場された関係者の方にサインと写真撮影をお願いしております。
FIDFFにはこれから羽ばたく映像作家の方が多くいらっしゃるので「サインは初めてで…」と緊張気味の方も…。
しかし、これまで何度も入選されている佃光監督。サイン第1号は見事『うんこマン』となったのでした。サインの手つき、記念撮影の表情にもさすが常連監督…という余裕が見えます。
この日の最終プログラムは「ホラー・ミステリー特集」。2本目に上映した『はらい』のクォン・ヒョクジュン監督が来場してくださり、今年初めての舞台挨拶。
海外との行き来が自由にできず、今年は韓国や台湾からのゲストが不在という中、大学入学以来15年にわたり日本で生活し、会社員として務める傍らで映画作りを続けている韓国出身のクォン監督が、貴重な国際派監督として映画祭に花を添えてくださいました。
映画祭2日目 11月20日(金)
この日も前日に続き、惜しくも優秀作品から漏れた力作、特別プログラム、そして夕方からは優秀作品の上映が続きました。(特別プログラム「DOKUSO映画館コラボレーション上映」レポートはこちらから)
第1プログラムでは各地の映画祭で受賞・入選が続く『ランチメイト症候群』の浜崎正育子監督が登場。
第2プログラムでは飛行機トラブルに巻き込まれつつも無事に到着した『平らな和』小山亮太監督。前日から会場入りして熱心に作品を観賞し、上映後のQ&Aでは毎回挙手もしてくださっていた『私の神様』鶴岡由貴監督(主演の花田優里音さん、角村響さんからの、心のこもったメッセージも読んでくださいました)。
第3プログラムでは次の時代を担うポテンシャルを秘めた『グラデーション』椎名零監督…と、フレッシュな顔ぶれもお馴染みの顔も次々と登場し、徐々に映画祭の雰囲気が高まりだします。
特に小山亮太監督は『平らな和』のカンバッヂを持参し、無料配布してくださるという嬉しい出来事も。その後、会場では「平らな和バッヂもらった?」という声をあちこちで耳にするように。
第5プログラムの『夢幻紳士人形地獄』上映後は、海上ミサコ監督、主演の皆木正純さんを筆頭に、出演陣・スタッフが大集合。
原作ファンと思しき方も客席には見えて、華やかかつ熱のこもった舞台挨拶になりました。
映画祭3日目 11月21日(土)
三連休の初日となる3日目からは、第2会場の「実験室3」も開放し、2スクリーン体制での上映がスタートします。
(特別招待プログラム 中村哲医師 追悼上映会のレポートはこちら)
第1会場の第1プログラムでは「映画活動家」として各種メディアや田辺・弁慶映画祭でも活躍する松崎まこと監督(『ヒロイン』)。
青山大学の映画部長として活躍した『山田』馬淵有咲監督、そして主演の辻智輝さんの新旧映研(映画部)人が登場。両作品とも、銃撃&流血シーンが出てくるのがこれぞ…!という趣。
第2プログラムからは本格的に授賞作品の上映がスタート。『ちっぽけな衝動』(佐藤悠玄監督&中谷基行助監督)チームと『Share the Pain』(中嶋駿介監督、有佐さん、藤主税さん)チームが揃った舞台挨拶。
翌日の授賞式に出席ができない有佐さん(俳優賞)のため、サプライズで授賞式が開催されるという一幕も。
第3プログラムは、レインボー賞『帰り道』(東海林毅監督、翻訳・松田慎介さん)、コメディー賞『あの娘の神様』(田中聡監督、葛堂里奈さん)、技術賞『苦界』(吉田卓功監督)の各チームが勢ぞろい。
『帰り道』の登場人物は九州帝国大学の医科生という想定…という話が東海林監督から出ましたが、奇しくも会場は九州大学の六本松キャンパス跡地で、ちょっとした縁があったのです…。
第5プログラムでは、今回の『ふるさと3・4・5』の岩本祐雅監督、『あの子の秘密』片岡けんた監督、『万置き姉弟』(佃尚能監督、江部公美撮影監督、森りささん)チームが場を沸かせてくれました。
特に現在中学3年生で、今回の最年少応募監督の岩本さん。普段は生徒会長を務めていることもあってか、緊張しつつも最後まで姿勢を崩さず、会場を訪れた家族・先生に立派な姿を見せたのでした。
第2会場では、第3プログラムの『コメディー特集』がさすがの盛り上がりを見せました。木曜日から福岡入りしている『うんこマン』『新世界の竜』佃光監督と西橋和明さん、英語字幕担当の松田慎介さん、そして先に第1会場で上映があったばかりの『ちっぽけな衝動』監督でもあり『ネイバーフッドインベイジョン』主演の佐藤悠玄さんと、アングラな雰囲気漂う実験室も一気に明るく。
この『うんこマン』かぶりもの、子どもが喜ぶこと間違いなしのグッズです。
映画祭4日目 11月22日(日)
4日目は授賞式・グランプリ上映が行われる日とあって、この日は朝から作品関係者が続々と来場し、会場の賑やかさはピークを迎えました。(授賞式の様子、釜山独立映画祭 招待作品上映の特別レポートは各リンクより)
第2会場では、まず第2プログラムで『ANOTHER』平岡亜紀監督、そして『Canal try』岩崎賢作監督が登場。岩崎監督のご友人も来場され、実験室も賑やかに。奇しくも人生の「分岐点」を描いた両作品を、みなさん堪能されたご様子でした。
第3プログラム『タイムカプセル』上映には、出演の安住啓太郎さん、そしてプロデューサーの中西忍さんが登場。制作の裏側も色々とわかる、参考になるポイントが多いトークになりました。
第1会場の第2プログラムは、20・40・60分部門グランプリ作品がそろい踏み。『Blumen und Funken』の鬼木幸治監督、『ファミリーファミリー』の主演兼監督の大川裕明さん、ピースケさん、泉水美和子さん、まつだぴろしさん、そして『子供は天使ですか』の川西薫監督が登壇。
第3プログラムは100分部門グランプリの『はい、ええ転です。』。上野祐嗣監督、主演の平野高資さんをはじめとする作品関係者の登壇で、関西の空気が会場を一気にジャック。
第4プログラムは、アニメーション&ドキュメンタリー特集。それぞれタイプの異なる短編アニメと、『ダイオウイカ大解剖』のインパクトはかなり強烈で、インディペンデント作品の強さと作家のこだわりが前面に出る時間でした。
舞台あいさつでは長野県から駆け付けた『ダイオウイカ大解剖』元木伸一監督、同じく長野からお越しの『たらら』滝澤弘志監督、京都から駆け付け、制作のヒミツを楽しく紹介してくれた『昨日はすべて返される』さとうゆか監督、そしてアニメーション賞の『蘆屋家の末裔』吉田惇之介監督が勢ぞろい。
予算が桁違いのNHK「ダイオウイカ」撮影プロジェクトと競い、見事に撮影に成功した元木監督、そして各アニメーション作品の技法など、どの話も興味深すぎて、とても15分では足りない舞台になりました。
映画祭5日目 11月23日(月)
最終日の5日目は、朝から閉幕までほとんどの上映プログラムに作品関係者が訪れて舞台挨拶ラッシュとなりました。
(この日行われた公開プログラム「犬童一心監督のムービー・ラボ」のレポートはこちら)
第2会場第1プログラムでは『車輪は回る』公文辰也監督、『Voice~伝える先に見えるもの』本間洸貴監督、『ここからは離れない』柳澤公平監督がそろい踏み。
第2プログラムは『いつか道脇さんが、道の中央を歩くその時まで』寺崎義人監督。
第3プログラムは佐賀・福岡から駆けつけてくれた『音と風と夏休み』(江口寛武監督)チームの皆さん。そして『夢幻紳士人形地獄』にも出演されている『夜を駆ける』出演の森川陽月さんが登場。
第4プログラムでは『僕だけは知っている』主演の野上天翔さん、青木美沙都さん、そして『ホーミング』中村圭吾監督と、夕方まで会場の熱気が冷めることはありませんでした。
第1会場・第1プログラムでは『うつせみ』脚本の小堀京二さんが登壇。小堀さんは神戸インディペンデント映画祭(KIFF)のスタッフもされており、代表の斉藤さんと共に映画祭を熱心に見学されていました。このような所にも、近年関西からの面白い作品が多く生まれている理由が見て取れます。
第2プログラムでは、安定の実力で今回も優秀作品入りを果たした『適度なふたり』柴田有磨監督。各地の映画祭で入賞が続く『焦げ。』比嘉一志監督。そしてあいち国際女性映画祭グランプリにも輝き、精力的に新作の制作を進める『わたしのヒーロー』佐藤陽子監督が登壇。それぞれ異なる形で家族を描いた作品を特集したプログラムでしたが、各監督の熱意と想いにはほとんど差がありませんでした。
第3プログラムは『審判』田中博士さんが登壇。田中さんら、今回大活躍の「バウムアンドクーヘン」軍団。特に三連休の間は第1・第2の両方で連日会場を盛り上げてくださるなど、みなさん大活躍でした。
英語タイトルの作品が3つ並んだ第4プログラムでは、『Wish for You』から大川祥吾監督、主演の前川茂輝さん、助監督の原田円さん。『ASTRO AGE』の小川貴之監督。そして『One Cut in the Life』の発地新太郎監督、録音の木原広滋さん、助監督の冨田智さんの7名が登壇。徐々に福岡を離れる人々が多くなる時間帯、ハイレベルな作品と真摯な言葉で観客を惹きつけてくれました。
そして第5プログラムは『POUR』上映と鈴木貴士監督の舞台挨拶。トリを飾るのにふさわしい繊細さを持つ長編作品と共に、福岡インディペンデント映画祭2020は幕を閉じました。
福岡インディペンデント映画祭 総来場者数
映画祭全体としては、プログラム当たりの来場者数は過去と遜色ない程度になりましたが、これを1プログラム平均50名に上積みできるように、さらなる努力しなければ…と改めて痛感した次第です。
▼福岡インディペンデント映画祭2020 総来場者数
1,260名(計43プログラム)
2021年の映画祭は、コンペティションはお休みとなりますが、2020年の授賞作と特別招待プログラムを中心にしたプログラムになる予定です。
また福岡インディペンデント映画祭ではボランティアスタッフも募集しています。学生、会社員、フリーランス(映像関係者も)、主婦、海外在住者など「映画が好き」という共通点で集まったスタッフが運営しています。
中には、普段は東京在住であるにもかかわらず、映画祭の開催に合わせて帰省するスタッフや、学生時代にボランティアとして参加したメンバーが社会人となって復帰することも増えてきました。
来場された監督・関係者の方々と近くで触れあい、いろんなお話を聞けるのもスタッフの醍醐味です。是非一度参加したい方はFIDFF公式Twitterのメッセージや映画祭HPまでご連絡ください。
(執筆:大塚大輔・Aika TACHIBANA 編集:Aika TACHIBANA)