FIDFF2021 作品紹介⑥ - 台湾短編映画特集
はじめに
今年からの試みとして台北にある国立台北芸術大学の映画制作学科が主催する学生映画祭「關渡映画祭(關渡電影節,Kuan-Du Film Festival)」と交流上映を実施いたします。すべての作品が日本初上映です。
台北芸術大学は台北市の北部に位置する国立の芸術大学です。
美術学科や舞踊学科など複数ある専攻の一つとして映画制作学科(Dept. of Filmmaking,ここでは映画制作学科と訳します)があり、大学がある場所「關渡」にちなんだ「關渡映画祭」を2009年から運営しています。
關渡映画祭は台湾では数少ない学生映画祭として、台湾で学ぶ学生(台湾人だけでなく、香港や東南アジアの華僑系もいます)から毎年多くの応募がある映画祭で、国内外での入選・受賞歴がある作品など力作が数多く上映されます。また面白いのが映画祭の開催目的です。
国立台北芸術大学の映画制作学科の学生が映画祭の運営に参加することで、映画祭がどのように企画され、どのようなプロセスを経て行われるのかを、直接参加することで理解することも目的としています。
また、映画祭のさまざまな活動を通じて、学生たちは海外の映画学校と交流し、視野を広げる役割を担っています。
つまり自分たちがフィルムメイカーとして映画祭に参加する前に、自ら映画祭の仕組みを学ぶ教育の一環として行われているのです。
もちろん台北芸術大学の学生自身も制作側として多くの作品を生み出しています。そのため映画制作学科のカッコいいクレジットが、映画のエンドロールの最後に流れてくる作品を台湾各地の映画祭でも頻繁に目にします。このロゴを見るたびに、コアな映画ファンは「あ!この作品も台北芸術大!」と一目で分かるのです。(個人的に音声さんが一番前なのが好き)
作品概要
今年上映する關渡映画祭からの推薦作品は3作品です。
『See you,Sir(原題:主管再見)』は昨年から今年にかけて台湾の映画祭を席巻している話題作。監督自身の兵役中(台湾は18歳以上の男性に兵役の義務があります)の経験をもとに作られた作品で、「中華圏版アカデミー賞」とも言われる「金馬獎」の短編部門にもノミネートされました。
本作の林監督は今年の高雄映画祭の特別プログラムの制作や桃園映画祭では特集上映が組まれるなど、まさに台湾で話題の新人監督。
監督だけでなく、主演の「ヤマハ」を演じる李曆融さんは、無名ながら昨年の台北映画祭の新人賞を受賞しています。この時には演技力も高く評価されただけでなく、記者会見での初々しい振る舞いも話題になるなど、いろんな面で話題に事欠かない作品です。
『一方通行(原題:單行道)』は、登場人物が二人、セリフも少なく静かに進んでいく映画ですが、台湾などの中華圏ならではの「ある風習」にラストシーンでグッとくる映画です。
ネタバレを避けるためあまり触れられないのが残念ですが、映画を見終わった後には、じんわりと胸に温かいものが残る良作です。
『Red(原題:紅色 )』は、母国のインドネシアに家族を置いて出稼ぎ労働者として台湾で働く女性が主人公の作品です。
今の台湾社会では多くの外国人労働者が働いており、中でも東南アジアからの移民が介護職や工場での勤務など、台湾社会にはなくてはならない存在となっているのが現状です。実際に台北で暮らしていると、東南アジア出身と思しきヒジャブを被った女性が、車椅子のお年寄りと一緒に出歩いている姿を日常的に目にします。
今回はこのようなリアルな台湾の社会背景をもとにストーリーが展開していくのもあり、新たな台湾社会の一面が垣間見える作品になります。
なぜこの映画をFIDFFで上映するのか?
これまで私自身が日本で見てきた台湾映画は、どこかふわふわとしたロマンチックなものだったり、理解が難しいアート的な作品など、正直台湾映画に対して少し苦手意識がありました。(もしかして同じような感想をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません)
しかし、この2年で台湾各地の映画祭で多くの台湾短編映画を見て回った結果、多くの方が見て楽しめるエンタメ性がある作品だけでなく、監督の伝えたいメッセージや、台湾社会の問題点に鋭く切り込んだものなど、自分の中にあった台湾映画のイメージを覆す作品に出会いました。
それと同時に、日本国内で台湾短編映画を見る機会が少ないことに改めて気づいたこともあり、「もっと日本での上映機会が増えますように!」という願いも込めて特集上映を企画しました。今回は3本のみの紹介ですが、本当は紹介したい作品たちが山ほどあります。
個人的なオススメポイントはここ!
ここ数年でさまざまな点で注目を浴びるようになった台湾ですが、台湾のことが気になっている方、台湾のことが好きになった方にぜひご覧いただきたいと思っています。
わたしは現在台湾に来て2年ちょっとのヒヨッコですが、常々感じるのが台湾の方々は想像以上に日本に関心がある方が多いと感じる反面、わたし自身を含めて日本人はあまり台湾について知らないのでは?と感じています。
そして国土面積でいうとほぼ九州ぐらいの台湾ですが、文化や言語、民族的な話、政治面などとても複雑な要素が入り組んだ社会です。だからこそ、知れば知るほど興味が尽きない面白い場所だなぁと日々感じています。
そして、多くが商業作品ではなく自由に制作できる短編映画は、監督自身の目線で台湾で暮らす人々や生活をベースに、社会の問題点や過去の歴史的な出来事をベースにダイレクトに描いている作品も多く、これまで知らなかった台湾の一面を知るだけでなく、さらに興味を持つきっかけをわたしたちに与えてくれるものであると考えています。
そして今回一つのチャレンジとして、劇中のセリフのほとんどが中国語(台湾華語)」ではなく、台湾で「台語(tái yǔ)」と呼ばれる台湾語(閩南語)で描かれている『See you,Sir』の日本語翻訳には台湾語のセリフには( )をつけて表記をしています。
そのため「どのような時に台湾語を喋っているのか」を注目しながら作品を見ていただくだけでなく、台湾の言語という点でも興味を持つきっかけになれればと思っています。
台湾は台湾語だけでなく、いろんな言葉が溢れる多言語社会です。
台湾で中国語を学び始めた筆者は「え?これは中国語でなく台語だったの?」みたいな場面によく遭遇します。
台北などの北部に住む方や若者の中には台湾語ができない方も多いようですが、それでもほとんどの人が台湾語のいくつかの単語は知っています。
ちなみに伝統市場などローカルな場所に行くと台北であっても台湾語は多く耳にしますよ!
今回の上映される三作品は、日本で最初で最後の上映になる可能性も高いものばかりです。貴重な機会ですのでぜひ会場に足をお運びいただければと思います。
(執筆:Aika TACHIBANA)