【インタビュー】小ネタがモルだくさん! 見里朝希監督が『モルカー』の先に見据えているもの
昨年、福岡インディペンデント映画祭(FIDFF)ではプログラムの1つとして見里朝希監督特集を実施。見里監督が学生時代に制作した『恋はエレベーター』から、WIT STUDIOで制作した『Candy Caries』までの6作品を上映しました。
もちろんその6作品の中にはシンエイ動画と制作した『PUI PUI モルカー』も。当日は『 #モルカー 』にも出演の見里瑞穂さん(監督のお姉さん)が、モル声優にしてご先祖さまこと「つむぎ」とリモート出演、先がけて行っていた「モルカー人気投票」から1位の発表に上映と、楽しい時間になりました。
そして今年の開催に向けて作品の公募を開始(3/15まで)。それに合わせて見里監督のインタビューも公開しました!映画祭への応募が現在につながっている見里監督の軌跡から、あらためて確認しておきたいことまで“モルだくさん”な内容になっています。じっくりご覧ください。(聞き手:真狩祐志)
※本記事は映画祭公式サイトの再掲です。https://fidff.com/interview/1930/
アニメーションへの関心 武蔵美での制作は?
真狩:制作するより前の話からですけど、いつ頃から作品としてのコマ撮り(ストップモーション)や #アニメーション に興味を持つようになったんでしょう?
見里:4、5歳くらいで『ニャッキ!』や『ピングー』には触れていましたね。でもその頃はコマ撮りとは全く分からずに見ていました。みんな他の子は『 ポケットモンスター』とかを見ているのに、それらがナラティブではない(注:セリフなしの)作品だったからか、普通の子より言葉を話し始めるのが遅かったみたいです。それで言葉を学ぶ学校に通ってもいましたね。
真狩:集中力というか没入感がスゴかったんですかね。これはお姉さんからの情報なんですけど、母方のお祖母さん(宇野かずこさん)が現役の画家なのもあって絵を描くようになったと聞きました。魚の図鑑も作っていたとか。
見里:そうですね。絵やマンガを描くことに興味を持ったのは小学生の頃です。もともと祖母からスケッチブックをもらって絵を描き始めたので、影響はあるかなと思います。何も描かれていない真っ白な本をもらって、それに描いてシリーズもののマンガを作ったりしました。
魚の図鑑は小1の時ですね。それを作っている途中で、自由研究の時に2年生が作っていたクオリティーの高い大砲の工作を見てしまい、自分でも作りたくなってしまいました。トイレットペーパーの芯とかティッシュの箱とかで、急遽「大砲」ということにしてしまって、もったいないことをしました。
魚の図鑑は今でも未完成のまま残っています。小5、小6の時には「週刊フライデー」という、毎週マンガを更新するのにも参加していました。金曜日あたりに教室の後ろにあるロッカーに置いていたんです。周りの子から「絵を描くのが上手い」と言われて描いていって、それはそれで楽しかった思い出でした。
真狩:中高はどのように過ごしてましたか?
見里:中学生になってからはそれほど絵を描かなくなりました。中学の頃はオタクという言葉が校内で流行り始めていて、そのように自分が言われるのは嫌だったのもあり、絵を描くことから離れていた時期があって……。それでも美術の授業は好きだったので、絵を描きたい気持ちはありました。
高校生の頃もそれは変わらずに、自分から絵を描こうというのはなかったです。ただ高2の時に、何気なく机にラクガキをしていたのを見た友達から「上手いからその道に進めばいいじゃん」と言われたのがピンと来ました。その友達がペンタブレットを持っていたので、自分も中古で買ってPCでも描くようになりました。美大を目指したいと思うようになったのはそこからですね。
真狩:なんとなく『ブルーピリオド』っぽくなってきました(笑)。
見里:そうですね(笑)。予備校は新宿の河合塾美術研究所に通いましたけど、やっぱりうまくいかずに1浪しました。でも1浪してから絵を描くことの楽しさを見いだせるようになって、予備校で出される課題とかもうまくいくようになりました。予備校でやっていたのは映像系ではなくデザイン系で、授業もデッサンとか色彩構成とかの基礎的なものです。
制作としてのアニメーションに興味を持ったきっかけは、浪人の時です。現役の時もアニメーション制作のワークショップに参加してたのが楽しかったので、予備校内でちょっとしたお祭りみたいなのがあった時に作ってみました。
各人が自分の作品を作ってギャラリーに展示するんですけど、別々のモニターにイヌとサルのキャラクターが映っていて、画面を向き合わせて食べ物を投げあっているような作品(『犬猿の仲』)にしました。映像だけではなく空間まで体験できるインスタレーションのようなものにもなって、グランプリまで受賞しました。
方向性を決めた『コラライン』 多摩美にも憧れる
真狩:そして武蔵美(武蔵野美術大学)に進学ですね。アニメーションを学べるのは映像学科やデザイン情報学科(通称:デ情)などもある中で、視覚伝達デザイン学科(通称:視デ)を選んでいます。
見里:アニメーションに興味はあったんですけどイラストレーションにも興味があって、視デに入った方が将来的に就職の選択肢も増えそうだなと思いました。視デを選んだ決定的な理由は、オープンキャンパスに行った時に卒業制作の『アトミック・ワールド』を見たことです。
真狩:谷田部(透湖)さん(『シン・エヴァンゲリオン劇場版 』副監督など)の『木の葉化石の夏』とか竹内(泰人)さん(『カムカムエヴリバディ』タイトル映像など)の『オオカミはブタを食べようと思った。(オオカミとブタ)』とかも見てましたか?谷田部さんは映像学科で竹内さんは大学院の映像コースでしたけど。
見里:『木の葉化石の夏』は見ています。確か自分が2年の時の卒制ですね。『オオカミはブタを食べようと思った。』はテレビとかで話題になってた当時に知りました。
オープンキャンパスで見た作品は各学科全体ではなくて視デだけだったと思います。他の作品も印象に残るものが多かったですね。藝大(東京藝術大学)や多摩美(多摩美術大学)のにも行ったりはしたんですけど、「視デでもアニメーションを作ることができるんだ!」とスゴく感銘を受けて、入りたいと思うようになりました。
真狩:先ほどの『アトミック・ワールド』は今津(良樹)さんの作品ですね。この話あとで面白いのでまたその時に(笑)。
見里:(笑)。今津さんの代の視デは卒制でアニメーションを選ぶ人が多くて、一時は「視デアニメーション」と呼ばれるくらいブランドができあがっていたんですよ。でも自分が入った代では関心を持つ人が少なくて、減ってしまったように思います。卒業後に行ってみても同じなので、なんとか当時の熱を取り戻してほしいです。
入学してすぐ実技でアニメーションを制作できるかと思ったら、視デは基礎から学ぶ学科でした。みんなで裸足になって外に出て目隠しして歩くとか、ひたすら筆で線を100枚描くとか、よく分からないこともしてましたね(笑)。今となっては本当に言葉以外のやり方で伝えるための感覚を磨く授業だったんだなと思いますけど、当時は早くアニメーションを作りたいと思っていました。
真狩:『コララインとボタンの魔女』(注:監督は『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』などのヘンリー・セリック。キャラクターの顔などに3Dプリンターで出力した素材も使われている)に感銘を受けたのも、大学に入ってからのことでしたかね?
見里:そうです。1年の時に友達に教えてもらってから、いつかコマ撮りも作りたいと思っていました。ちなみにモルモットを飼い始めたのも大学に入ってからで、「ミルキー」と名づけました。
それでもまだ1年の時はアニメーションなのかイラストレーションなのかで揺らいでいる部分もありました。勉強も基礎ばかりでなく実践もやりたいと思ったので、アドビのMaster Collection(現:Creative Cloud)を買って、After Effectsを独学で習得していって、冬に初めて自主制作しました。その作品は原宿のデザインフェスタギャラリーで、自分自身をテーマにする「僕10」というグループ展をやった時のものです。
自分自身のクセ毛をテーマに作りました(『Natural Wave』)。それを展示した時はクセ毛をコンプレックスに思っていて、なかなか中学の時とかでも人に相談できないことでもありました。自分で縮毛矯正としてアイロンをかけたりした苦労とか扱いづらさを、上映で共感してもらえたことに感動したんです。それでアニメーションを通して、メッセージやエンターテインメントを発信していきたいという気持ちが強くなりました。
2年の時はレシピという課題があって沖縄のも作ったりとか、それからしばらくはアニメーションにして提出していってましたね。ICAF(インター・カレッジ・アニメーション・フェスティバル)にもスタッフで参加して、「こんなに日本全国で学生がアニメーションを作っているんだ!」と、その熱量に感心しました。
特に多摩美のグラフィックデザイン学科(通称:グラフ)は久野遥子さん、冠木佐和子さん、姫田真武さんなど、本当にクオリティーが高くて、その頃にはグラフにも憧れを持つようになりました。
羊毛フェルトとの出会い そして東京藝大院へ
真狩:ICAFの武蔵美プログラムで『恋はエレベーター』が上映された時に見里さんを知りました。『あぶない!クルレリーナちゃん』も上映されてたんですね。
見里:『恋はエレベーター』は3年の時に芸術祭の企画に向けて自主制作したのが最初です。断片的にはICAFのジングルとして上映されたりもしていて、完成版が4年の時に上映されたことになります。その時に『あぶない!クルレリーナちゃん』も上映されました。
『あぶない!クルレリーナちゃん』は3年の時に東北新社の中島信也さん(現:代表取締役社長)がやっている映像デザインという授業で、ACCのCMを作ってみるのがあったのがきっかけです。2DやAfter Effectsでの作業に慣れてきたところでしたけど、『コララインとボタンの魔女』を見てコマ撮りを作ってみたいと思っていたことから、ようやく手をつけました。
コマ撮りは2Dと違って材料費、機材、撮影部屋とお金がかかるイメージがあったので、なかなか手を出せずにいました。それなりに安い価格で気軽に作れることに気づいたのは、たまたまユザワヤで羊毛フェルトを見て魅力を感じてからですね。『あぶない!クルレリーナちゃん』はACジャパンCM学生賞(現:広告学生賞)で優秀賞をもらいました。
コマ撮りというと粘土(クレイ)のイメージも強いですよね。予備校でも藝大対策として水粘土を使った課題もあったりしましたけど、すぐ指紋がついて汚くなってしまったりで苦手意識があって、個人的には難しかったです。羊毛フェルトは針で刺して絡めて作れる素材なので、指で押しても人形(パペット)に指紋がつかないし、柔らかい動きもできて、スゴくいいなと思っていました。
真狩:これは篠原(健太)さんからの情報なんですけど、武蔵美の時はDragonframeを持っていなかったように聞きました。
見里:『あぶない!クルレリーナちゃん』の時は持ってなかったですね。たまたまデジカメにオニオンスキン(注:1枚前の写真を透過して表示する機能)があって、それで撮影したものをAfter Effectsで編集していました。
『コララインとボタンの魔女』は本当に衝撃を受けて、最終的にBlu-rayを買ったくらい好きな作品なので、どうやって制作したのか情報を探っていってDragonframeを知りました。『あたしだけをみて』ではDragonframeを使っています。
真狩:その『あたしだけをみて』がスゴいらしいと耳にしたので、TOHOシネマズ学生映画祭に見に行きました。卒業制作展後に初めて映画祭で上映されるのもあって。
見里:4年の時は就職活動も気にしていて、進路相談室にも行って話もしたら「映画祭で賞を穫れば就職の役に立つ」とも聞いたので、作品を応募していくようにしました。『恋はエレベーター』は女子美(女子美術大学)がやっていたこどもアニメーションフェスティバルで入選したんですけど、あまり色んな映画祭を知らなかったのもあって、そこまで応募してはなかったですね。
『あたしだけをみて』を制作していた時は「これで人生の半分を変える!」みたいな気持ちだったので、色々と積極的に調べて応募していました。TOHOシネマズ学生映画祭はショートアニメーション部門でグランプリも獲りましたし、そこで色んな人たちとコミュニケーションして他の映画祭を知ったりもしました。自分の中で映画祭の知識が広がっていく感覚がありましたね。こどもアニメーションフェスティバルでは審査員特別賞でした。
多摩美の大学院も受験 藝大院に入ってみたら……!
真狩:武蔵美を卒業してからは、就職ではなく大学院で藝大の映像研究科アニメーション専攻に進学することになりましたね。
見里:藝大院のアニメーション専攻は武蔵美2年の時に、友達から渋谷のユーロスペースで修了制作展(注:先に校舎のある横浜でも開催)をやっていると聞いて知りました。その時に見たのは5期生の作品で、当真(一茂)さんが羊毛フェルトで作っていた『パモン』とかが印象に残っています(注:同じく5期生である小野ハナさんとのユニット・UchuPeopleで『ポプテピピック』に制作参加など。なお小野さんは『モルカー』にも制作参加している)。
それを知ったのは、同時期に同じ渋谷のアップリンクでやっていたタマグラアニメ博(注:グラフこと多摩美のグラフィックデザイン学科ならびに大学院の同研究領域で制作されたアニメーション作品の上映会。卒業制作展や修了制作展とは別)を見に行っていたからでもありました。
就職活動は他の人よりは少ないですけどしていました。先ほども話したようにグラフのアニメーション作品に憧れていたのもあって、野村(辰寿)先生がいるロボットも受けました。野村先生が『STRAY SHEEP』の作者だったからでもあります(注:このほか『ジャム・ザ・ハウルネイル』、『ななみちゃん』など)。それで野村先生に手紙を書いてみたら見学する機会を得られて、制作中だった『あたしだけをみて』も冒頭だけ見てもらったらスゴく褒めてくれました。
結局、他の会社だけでなくロボットもダメだったところ、野村先生からグラフの大学院を薦められたので受けることにしました。就職活動しながらも『あたしだけをみて』を作る時間が取れないのは嫌だと思って、制作に専念することに決めたからでもあります。ただ藝大院も受けていて合格して、そちらに行くことにしました。
見里:武蔵美の頃はアニメーション制作の設備がなかったので、『あたしだけをみて』の制作は自宅の横にあるアパートを使っていました。藝大院は設備があることに憧れを抱いて行きたいと思うようになったんです。受験の時に思ったのは学科試験や実技試験もあるんですけど、一番大事なのはポートフォリオですね。『あたしだけをみて』のおかげで入れたんじゃないかなと思います。
真狩:藝大院の在籍中に伊藤(有壱)先生(注:『ニャッキ!』など)に聞いてみたら「教えることないんだけど」って言われましたよ(笑)。
見里:そんなそんな恐縮ですよ(笑)。クロッキーとかの実技試験があまり上手くいかなくて「終わったな」と思ったら合格できていたので、ポートフォリオの影響でしょうかね。実技試験はポートフォリオが本当に本人が制作したものかを確かめるためにやっているんじゃないかとも思います。
真狩:そして藝大院に入ってみたら、先ほどの『アトミック・ワールド』の今津さんがいたんですね(注:アニメーション専攻の歴代の修了生には、昨年の話題としては『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』シリーズディレクターなどの唐澤和也さん、東京パラリンピック2020開会式・映像ディレクターなどの牧野惇さんがいる)。
見里:武蔵美でお世話になった陣内(利博)先生から今津さんも受けると聞いていたんですけど、本当に入学してました(笑)。藝大院に入れたので施設とか環境は存分に使おうと思いましたね。1年次に『Candy.zip』を作ったのは『あたしだけをみて』で羊毛フェルトに飽きていたのと、新しい素材にも挑戦したかったからです。
実はこのタイミングで『モルカー』の企画も考えていました。『Candy.zip』とは別に企画書も用意して藝大院でプレゼンもしたんですけど、モルモットを車にするという案は実現しませんでした。ちなみに『Candy.zip』で作中のPCの壁紙にモルモットを使っています。先ほど話したミルキーですね。『あたしだけをみて』ではスマホがモルモットになっている時に、ミルキーの声を使っています。
見里:『Candy.zip』は人形などの立体を使うのではなく平面の作品です。カットアウト(注:切り絵。映像編集で使われる意味とは別)の素材としてプラ板を使う挑戦ができたのはいいんですけど、肝心の世界観や物語に時間をかけられなくて、個人的には満足いかない作品になってしまいました。1年次は色んな授業を受けながら作っていたので、制作期間自体は長くとれなかったんですよね。
なので2年次では、より物語に特化した作品にしようと思いました。1年間まるまるとれるので、修了制作の『マイリトルゴート』も「人生の半分を変えるために作る!」という気持ちで制作に集中することにしました。先ほど粘土に苦手意識があるという話をしましたけど、オオカミの内臓とかに活かしてみたら、視覚的な気持ち悪さを伝えることができたので良かったです。
真狩:武蔵美に在籍していた頃のような面白かった思い出はありますか?
見里:武蔵美の頃とは違って周囲もスゴい人が多かったので、緊張感を持ちながら制作できました。そのような中でもワイワイやって楽しい思いをしたこともあります。みんなで修了制作展の告知としてピクシレーションも作りました。
それでもやっぱり藝大院の在籍中は制作で精一杯だった思い出が多いですね。横浜だったのもあって自宅から遠いですし。『マイリトルゴート』の制作中は簡易ベッドとか持ち込んでいて、自宅に帰るのは1週間に1度とか、ずっと制作の日々を送っていました。
できるだけ徹夜はしないように心がけていて、夜は11時か12時には寝て、朝は8時には起きてはいたんですけど、午前中は海外作品を見たりしてサボってたこともあります。就職活動は始めから諦めて、修了後の1年間はフリーランスかなと思っていましたね。修了後はしばらく予備校の先生をやっていました。ポートフォリオの話もしています。
アニメーションとコマ撮り 作品をPRするには
真狩:幼少の頃から学生時代までを追想してきたところで、ちょっと趣向を変えます。見里さんは基本的にアニメと言わずアニメーションと言いますよね?
見里:基本的にはそうですね。自分でも分からなかったんですけど、藝大院に入ってからアニメとアニメーションとで言葉に違いがあるのを知りました。アニメの方はジャンルとして商業的に扱われているものではないかと思うんですよね。アニメーションの方は作品として、クリエイターによるものとして扱われているのではないかと思っています。
海外でもアニメは日本の作品ジャンル的な名称になってますよね。海外の映画祭に触れていくうちにアニメは日本の言葉なんだと気づいた感じです。アニメーションはディズニーとか海外をベースとした話として聞いたりしているので、アニメという言葉は日本特有なのかなとも思います。
真狩:商品展開寄りがアニメ、制作過程寄りがアニメーションといった使われ方をしているのとは別に、ルック(絵柄)としての使われ方もあるのでややこしいですね。見里さんの作品の場合はルックが海外寄りなので、アニメではなくアニメーションということになるんですけど。
その両方を使い分けた方が良い理由としては、日本語でアニメと書いていたら自動(機械)翻訳される時に、そのままローマ字で“anime”と訳されてしまう問題もあるからです。海外で日本寄りの“anime”的なルックの作品が増えてきたと言っても、日本にも見里さんのように海外寄りの“animation”的なルックの作品もあるわけで、自動翻訳で対応できていない限りは意識して使い分けておく必要もあるのではないかと思います。
1つの例として、見里さんがNHKのEテレに出演した「高校講座(美術I 第19回 アニメーション ~動かす表現~)」は、藝大院の1年次に収録だったんですね。
見里:Facebookで依頼が来たんですけど、『あたしだけをみて』を色んな映画祭に出して、入選したり受賞したりというのをシェアしていて、色んな人に見てもらえた結果になります。
真狩:番組ではアニメとアニメーションの使い分けも面白かったんですよ。ミケさん(CV:山口智充さん)はアニメ、見里さんとシシド・カフカさんはアニメーションって言ってますね。ナレーターは見里さんを紹介する時はアニメで、シシドさんが制作する時はアニメーションと言っています。ナレーターというよりも、番組ディレクターが原稿を用意していると思いますけど。
番組中でシシドさんと作る時、使ったのはカメラのダイヤルだけですか?収録時間内に終わらせようと思ったら、フレーム(コマ)数が少なくないと厳しいですよね。
見里:自分は傍で見てただけですね。シシドさんがアニメートして撮影したので。アドバイスする際にサポートしたりはしましたけど。Dragonframeとかは用意されなかったので、カメラの液晶モニターから人形を見て撮影していました。
真狩:それで最後に見里さんの出演が終わってから、シシドさんがアニメと言ったところでアニメーションと言い換えてるのがポイントなんです。いやこれは良い教材ですよ。アニメとアニメーションとのせめぎ合いで謎の緊張感もあって(笑)。そもそも教材である一方、メタな視点でも勉強になりますから。
見里:(笑)。自分がアニメと言う時は、親しみを持ってもらう場合ですね。Twitterの字数制限とかは気にしてません。「アニメじゃなくてアニメーションと言うように」と言われた時もあった気もしたんですけど、具体的な違いが何なのかまで考えたことはなかったです。
真狩:最近よく言われる #多様性 の話にも当てはまるはずなのに、その違いが重要視されていない感じですね。自動翻訳の問題も含めて、ややこしくても違いを分かっていれば、情報の解像度も上がりますし役に立ちます。
真狩:その「高校講座」からの話の流れで……。コマ撮りの場合は必ずしもカクカクさせたくてさせてるわけではないですよね?
見里:コマ撮りはヌルヌル動いてしまうと3Dだと思われてしまうんですよね。3Dだと今は実写かと思われるようなものまで作れるようになっているじゃないですか。一方で3Dでも『レゴ・ムービー』とか『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』とか、あえてフレーム数を減らしてコマ撮りっぽく見せている作品もあって。
真狩:その辺りは『モルカー』の配信イベントや東京アニメアワードフェスティバルの短編1次審査でも話していたことですね。実際に『モルカー』が放送された時でも「コマ撮りでこんなことができるんだ!」って新鮮に思ってくれた人が多くいたのはいいんですけど、同時にコマ撮りが知られていないのではないかという……。
見里:コマ撮りクリエイターにとっては肩身が狭くなるのではという懸念はありましたね。伊藤先生も一時期は「コマ撮りが滅びるんじゃないか」と話してたりしましたし。
真狩:逆に見里さんはヌルヌルというよりは、カクカクさせることを意識しているということですか?見里さんのように羊毛フェルトのような柔らかい素材も使っている場合、ヌルヌルさせにくいとは思いますけど。先ほどの篠原さんのようにフィギュアを使っているのとか、堀(貴秀)さんの『JUNK HEAD』みたいな硬い素材だったらヌルヌルさせやすいですよね(注:『JUNK HEAD』の制作に使われた機材は『モルカー』でも使われている)。
見里:それはありますね。でも他の人より自分はヌルヌルさせてる方ではないかとは思います。羊毛フェルトのような柔らかい素材を使って、顔の細かい表情とかをやっていきたいですね。表情の細かさに関してはピクサーの影響を受けているとは思います。コマ撮りは1枚の写真であっても、それが物体であることがはっきり伝わると思うので、フレーム数を減らしてカクカクさせることで手作り感を出せるんじゃないですかね。
フレーム数を調整するか否か 名称の個人差と規模
真狩:配信でも #ゲーム でも #VR でもフレーム数が増えていってて、大画面ではフレーム数が少ないとカクつきが目立ってしまう問題もあったりします。そのためにフレーム数を補完したり分割したりですね。
2Dでも作画枚数の話でアニメが少なめならリミテッド、アニメーションが最大ならフル(24フレーム相当)と言われてきました。でもフレーム数が増えていっているとなると、フルでもリミテッドということに……。
見里:自分の作品でも液晶テレビで見ると、勝手にフレーム数が補完されてヌルヌル動いたりしています。だからといってあんまり自分はコマ撮りでフレーム数を増やしたくないですね。人間の手で命を吹き込んで動かすスタイルを今後も大事にしたいです。若干カクついてチープに見えてしまったとしても、手作り感としてポジティブに捉えてもらえるんじゃないかと思っています。3Dと差別化できていっている感じはするので、コマ撮りの価値を見いだせてもらえてるのではとも思います。
真狩:アニメーションは絵を描くことが前提みたいなところもありますけど、本来は撮影したのを動かすことが前提であるはずなんですよね。昔は2Dでも絵を描いた後でセルをフレーム単位で撮影していたわけですから。なかなか分かってもらいにくいところとしては、タイムラプスとピクシレーションの違いとかも。
見里:そうですよね。ちゃんと説明するとなると難しいところがあります。タイムラプスは撮影前にカメラで一定の間隔を置いた設定にしていて、撮影後はフレーム数を調整しませんけど、ピクシレーションはコマ撮りなので、撮影後に制作ソフトでフレーム数を調整するという感じでしょうか。タイミングをずらして、実写では不可能な動かし方をさせるのがアニメーションとしての魅力ですし、「嘘」が許される世界なんじゃないかなと思います。
真狩:それから人形劇とコマ撮りの違いについてはどうですかね?これは2Dや3Dでもライブ配信後にキャプチャーしていたモーションのフレーム数を調整するかしないかの話でもあるんですけど。
見里:人形劇は実写で動かすことを指してませんかね?コマ撮りしているのならアニメーションなので違いはあると思います。立たせることができない人形で、支えているものを編集で消して動いているように見せるという、ある意味「嘘」をついているものはアニメーションと言えるのかもしれないですね。確かにそこら辺の境目は難しいんじゃないかと思います。
コマ撮りできない素材を使って「嘘」をつくのも、手作り感を出すことにつながるんじゃないでしょうか。かといって実写でもできてしまうものをアニメーションにしてしまうと、それはアニメーションでやる意味があるのかと、必然性を問われてしまうようにも思います。
真狩:先ほどのアニメが商品展開寄り、アニメーションが制作過程寄りという話の例としては、現状として見里さんは制作過程寄りから商品展開寄りにもなりました。その前の段階として学生時代にネットで作品を公開する時、タイトルには「自主制作」とか「インディー(ズ)」とか一緒につけていたとは思うんですけど、どうしてました?
見里:最初は「自主制作」って書いてましたね。というのも、その時にYouTubeとかで見ていた作品のタイトルに「自主制作」って書かれていたのが多くて、その影響かなとは思います。本当に少人数で作ったというのを証明するために使われてるんでしょうかね。
でも最近はシンプルに「短編」と書くようにしていました。わざわざ「自主制作」って書かなくても、それなりの人数で作ったのが分かってもらえると思ったからです。それで徐々に情報量を減らしていくようになりました。
真狩:SNSでは、人気の出た人はタグ荒らしみたいになってしまうんで、そうしたハッシュタグを使わないでほしいという意見も見られます。
見里:それもあるかもしれませんね。ある程度「自主制作」や「短編」を作っている人だと分かってもらえるようになっていったから、自分は名称を縮めていったのかなとも思います。こればかりは個人差があると思いますけど、知名度が上がって情報量が多くなったから減らすというのもあるかもです。自主制作なのは分かってますし、クドくなってしまったりとか。逆に分かりやすさもあるんで、その辺りも難しいですね。
真狩:個人差のほかに前提にしている規模でも違うところがあるかもしれません。例えばアニー賞だと2019年まで、映画の同時公開館数で1000館未満の作品をインディペンデント部門で扱っていました。でも日本だと多くても300館から400館なので、アニー賞では普通にインディペンデントになってしまうという……。
またゲームでは開発費が10億円だとしたら、1億や2億ならインディー(ズ)になるのかという話にもなっているようです。アニー賞も制作費で分けるようになったみたいですけど。
作品から商品へ 気になる今後の制作環境は?
真狩:それはさておき自主制作において、アニメーションはアニメよりも映画祭やコンテストで注目されることが多いですね。たびたび話に出てきたように、見里さんは映画祭やコンテストから制作のオファーにつながっていきました。
見里:そういう話を色々ともらえるようになったのは、映画祭の存在が大きいと思います。応募したことによって、巡り巡って色んな人に知れ渡って仕事の相談が来るようになりましたから。
京橋のアートスペースキムラでやっているASK?映像祭で『あたしだけをみて』が大賞を獲った時は、WIT STUDIOと知り合うことになりました。大賞を獲った翌年に個展ができるんですけど、その時に来てたんですね。藝大院の修了後に何かできたらということで今に至ります。
一方で『モルカー』を作ることになるシンエイ動画とは『マイリトルゴート』で色んな賞を獲っているうちに知人を介して知り合いました。それから「オリジナルコンテンツを作ってほしい」という依頼になります。
『モルカー』は先ほど話したように藝大院で企画していた中の1つで、シンエイ動画には5つくらい案を出した中で目に留まったというところです。ただその時は映画祭に応募する短編のような感じで考えていたんですけど、「子供向けとして大勢の人の目に触れる作品にしたい」というアドバイスからシリーズものになりました。ちなみに『モルカー』の制作現場も、『あたしだけをみて』の制作で使った自宅の横にあるアパートです(笑)。
真狩:この1年『モルカー』の話は色々とあちこちで出ていましたし、発売になるアートブックも読んでみたいですし、聞いてみたいこととしては……。放送順はオーダー通りだったんですかね?ネットの反応を見て変えるとかなかったんですか?
見里:放送順は決めたままで、タイトルも変えてないですね。あらかじめ12話分を納品していました。2Dだと放送当日に納品するとかあるじゃないですか。コマ撮りだと無理ではないかと思います。
真狩:偶然だったんですね……!とらうとさぁもんさんのTwitterマンガ『モルカーにジョイマンが出演した回』から、ジョイマンの高木(晋哉)さんが「どっきり スッキリ」とツイートするまでの流れが見事にカッチリとハマったのは奇跡的でした。
それから当映画祭で実施していた「モルカー人気投票」の話を忘れるところでした。3位はTwitterの字数制限で一部を割愛にしていたので、この場で補足しますと第2話の「銀行強盗をつかまえろ!」に加えて、第8話の「モルミッション」と第10話の「ヒーローになりたい」も同数で並んでいます。
ネットでは第5話の「プイプイレーシング」より第9話の「すべってサプライズ」が人気になってきていて、そのまま1位として反映されたような感じです。再放送で毎回サブモルカーが紹介されてたのもありそうです。
見里:そうですね。徐々にサブの名前とかが明かされていってたので。それを見たことによって、作品の見方が変わったのかもしれないですね。最終話の「Let'sモルカーパーティー」もサブが多いんですけど、「すべってサプライズ」は最初にサブが多く登場した回だからでもあるんでしょうか。
真狩:ヒットしたので商品監修も大変そうだなと思ってました。実際どうでしょう?
見里:ぬいぐるみの監修とかをやっていて、上がってきたものをチェックして返していくのに時間がかかりました。それでも徐々にシンエイ動画と外観の共有ができていくことによって、自分での監修の頻度は減っていきました。ゲームの場合は3Dモデルの監修もしてますけど、それは入念にやったりしましたね。
3Dのモデルデータは360度でクルクル回転させるものではなく、画像で来たものにPhotoshopで赤入れして戻しています。ぬいぐるみの場合は、縫い目の形でどうしても再現できない部分とかできてしまったりする一方で、3Dの方が比較的に形の修正がしやすくて楽だったような気がします。
コマ撮りと2Dとの連携 今後ARを使うとしたら?
真狩:続いてWIT STUDIOで制作した『Candy Caries』なんですけど、映像と楽曲どちらが先なんですかね?歌詞が内容とあっているので……。それと『Candy.zip』でやり残したことがあって作ってみたとか?
見里:映像が先です。やまだ豊さん(注:『東京リベンジャーズ』劇伴など)が本当にいい感じに曲を当てはめてくれたので、さすがだなと思いました。『Candy.zip』がというよりも、企画内容がプラ板にあっていたからですね。物語や世界観において、素材との必然性があるかまで考えているつもりなので。
『あたしだけをみて』を映画祭に出していた時に、審査員から「羊毛フェルトじゃなくてもいいんじゃないか」と聞かれたこともありました。確かにそうだなと思って、同じような理由から『Candy.zip』ではプラ板をキャンディーに見立ててみたんです。なので素材と物語の必然性は今後も大切にしていきたいと思いました。
『Candy Caries』で挑戦したのは『Candy.zip』でもやっていたプラ板を使ったカットアウトに、2Dを融合させることでもありました。WIT STUDIOでの制作ということで力を借りて、コマ撮りだけでは限界のある演出を2Dでカバーしてもらった感じです。
真狩:そういえば見里さんはTVPaint Aninationも持ってましたね。WIT STUDIOは2DでTVPaintを使っているので、制作するに当たって相性が良さそうだとも思いました。
見里:TVPaintを買ったのは『マイリトルゴート』の制作中なんですけど、絵コンテやVコン(ビデオコンテ)のためですね。2Dで作ることになっても、すぐプレビューができるので便利だと思いました。『あたしだけをみて』も最初は2Dで作ろうとしていた時があって、別のソフトで作画して布にチャコペンで写して色を載せていました。コンテに関してはStoryboard Proにも興味はあります。
真狩:てっきりコマ撮りに使うことも考えて買ったのかと思ってました(笑)。カメラをつなげるのでDragonframeみたいな使い方もできますし。アナログのカットアウトと2Dの融合としては、デジタルでもLive2Dとかのカットアウト系ソフトも使ったりできると思いますけど、どうですかね(注:デジタルのカットアウトは、ゲームではパーツアニメーションと呼ばれている)。
見里:TVPaintはコマ撮りにも使えるんですね……!デジタルとの融合に関しては、コマ撮りではできない表現ができるのであれば積極的にやっていきたい気持ちはあります。でもコマ撮りでやると負担になるのを補うかたちでは使いたくないですね。手で動かして魅力になっているところをデジタルで処理してしまうともったいないので。
アナログであるがゆえに大変そうだと思ってもらえるのは、ある意味コマ撮りが得している部分でもあると思うんです。つまり作者の熱量の見せどころとしてコマ撮りが役に立っていると思うので、別のデジタル処理で手を抜いているように見られないように気をつけたいです。
真狩:2Dと作業するに当たっては、タイムシートを覚えるべきかどうかという問題もあります。ただ自主制作してきた人はVコンから始めますし、それを見てもらえば分かりますよね。
見里:タイムシートは覚え切れてないですね。演出は全て自分で指示しているので、Vコンを作っていく上でもタイムシートは使ってません。Dragonframeに読み込んだVコンを見ながら撮影していくだけですし。今後ちゃんと対応していかないといけないのかもしれないですけど。
真狩:あらためてWIT STUDIOに所属したことで、2Dだけでなく3Dの制作環境も試せるようになっています。
見里:そうですね。それによって制作の幅を広げて規模の大きいコマ撮り作品を作っていけたらいいなと思っています。
真狩:3DというとVRとかで #メタバース が喧伝されているところで、VRをワークスペースとして3Dの作業と同じように2Dの作業が内部で行われるような例も増えてきていますね。アバターを使うかどうかは別として。
その一方で #AR だと実写やコマ撮りでも使えるので、人形の後ろにVコンを表示してロトスコープもできます。ロトスコープというと2Dでトレースする話が主で、3Dでもモデリングやアニメーションで使えるのが知られてなかったりしますけど。
見里:ARでコマ撮りですか。ロトスコープだとアニメーターがアドリブできなくなると思っています。撮影の最中に手前より奥にある人形の動きを、アニメーターの思いつきに任せてみたら喜んでもらえました。アニメーターもモチベーションを保てないでしょうから、工場のようにならずにアニメーター自身も楽しめて、発見や遊びも取り入れていけたらいいですね。
真狩:スマートグラスのように身につけても重くないデバイスが普及したら、使い勝手が良くなるかもしれませんね。ロトスコープとは言わないまでも、各々の人形と一緒にVコンをシーンやカットごとに配置してアニメーターに動かしてもらうこと自体は、演出意図の共有として楽になるはずなので。
見里:3Dと同じになってしまわないかちょっと不安ではあるんですけど、便利にはなるだろうなとは思いました。ただ便利さに頼りすぎないようにバランスは取りたいところです。位置情報を把握できてるというのであれば、地震で人形が倒れたりセットが崩れたりするのを恐れなくてすみますし、コマ撮りの可能性は広がるんだろうなとは思います。
真狩:色々と話せて有意義でした。ありがとうございます。それでは最後に、今後に向けたコメントを宜しくお願いします!
見里:このたび監督特集というかたちで、まとめて自分の作品を上映してもらえたのは、福岡インディペンデント映画祭が初めてだったのではないかと思います。それに関しては良い経験になりまして、感謝しています。今後も見る人を飽きさせない作り方にこだわっていきたいですし、色々な面白さとかメッセージを作品で届けていけるようにしたいと思っています。
『モルカー』も当時ここまでヒットして人気になるとは思っていなかったので、商品展開までしてもらえて、現実味が結構ないような状態ではあります。ファンの人たちに色んなモルカーを作ってもらえたことにも可能性を感じました。今後も機会をもらえれば作りたいと思っていますので、応援お願いします!
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