クラシックギター音楽と民俗音楽のクロスオーバーの新発見をしたかも!?というお話
民俗音楽研究は、クロスオーバーの発見の歴史と言っても過言ではありません。研究者が範囲を広げて調べてみると、「その地で生まれた固有の音楽」と思われた歌や曲が他の地域でも見つかることがよくあるからです。そして、それぞれの曲の年代が推定できると、曲のたどってきた軌跡が分かり、人々の暮らしぶりまで想像できることもあるのです。
民俗音楽での地域間のクロスオーバー
アイルランドとイギリス諸島のクロスオーバーの例は、枚挙にいとまがありません。例えば、アイルランドのリール曲の有名なものは、スコットランドの作曲家が作ったものであることはよく知られています。
また、アイルランドのいくつかのスリップジグ曲は、イングランドの9/8拍子のジグから取ったもので、さらにイングリッシュカントリーダンスに遡れる曲もあります。こうした事例は、16世紀から19世紀にかけて、民俗音楽には印刷物と口承伝承の相互作用がつきものであったことを示しています。
例えば、「人間の権利 The Rights of Man(『フィドルが弾きたい!』P54掲載曲)」といったナポレオン戦争にちなむアイルランドのいくつかのホーンパイプ曲が南イングランドでも見つかっています。こうした大きな戦争は、アイルランドとイギリス両島の人々の生活と文化に大きな影響を及ぼしたことを示しています。
民俗音楽とクラシック音楽のクロスオーバー
クラシック音楽に詳しい人なら、民俗音楽にポルカ、マズルカ、ワルツがあると分かれば、ふたつの音楽が同時代に存在していたことが理解できるしょう。
このようなダンスのリズムにおけるクロスオーバーは分かりやすいのですが、メロディのクロスオーバーの例となると多くは見つかっていません。
最近では、モーツアルトの小品のメロディが、南イングランドのワルツに取り込まれ、大西洋を渡りアメリカの賛美歌になったという新発見がありました。(→詳しくは、『クロスオーバーするクラシック音楽と民衆の音楽~②イギリス諸島編』をご覧ください。)
今回の新発見とは
私の末娘はクラシックギターを習っています。先日、娘はスペインのギターの作曲家の曲集を先生から借りて家に持ち帰りました。娘は、その中に、面白いタイトルが付けられたある曲に興味を引かれ、YouTubeで聴いてみたところ、家で聴いたことのある(つまり、私がよく弾いている)メロディとそっくりなことに気づき、私に教えてくれました。
私はすぐにそれがトラッドの何の曲であるかを特定でき、さらに、ギターの作曲家の経歴やいくつかの論文を読んでみたところ、確かに関連性も見いだせました。
トラッドの曲の解説もいくつか読んでみましたが、ギター曲に言及されておらず、おそらく、新発見ではないかと思われます。クラシックギター曲と民俗音楽の両方を聴かない限り分からないわけで、私も娘がクラシックギターをしていなかったら気づきようがなかったです。
どのような形で発表すべきか悩み中
私はかねてから、クロスオーバーの事例に興味があり、いつか自分でも発見をしてみたいものだと思っていました。それが、突然、自分の身の上に起こり、喜ぶのと同時に、重い課題を背負った気持ちになりました。
これから、それが本当に新しい発見であるかあるかどうか確認していくことも含めて、民俗音楽に詳しいピート・クーパー先生に相談するなどして、みなさんによい形で続編をお伝えできたらいいなと考えています。
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