おおらかな気持ちで。
昨日、持病の遺伝性糖尿病のために、新しい地元の
病院に行った。大学病院からの転院だ。私が今まで20年間通っていた都内の大学病院は、電車とバスを乗り継いで1時間以上掛かっていたし、第一、平日しかやっていないため、仕事を休めない。それに、担当の主治医とも相性が悪かったから、あまり良いことがなかった。今度の新しい病院は、個人病院だが、糖尿病専門医だし、院長先生も良い人だと私の地元では有名だった。
歩いて徒歩15分弱。小高い丘を登ったような坂のある住宅街の一角に病院がある。私は朝早くやってきたつもりだったが、中は超満員で、外のベンチで待っている人もいた。受付を済ませて、一時間弱ぐらいだろうか。初診のため、まずは先生のカウンセリング。院長であり主治医になるT先生は、50代半ば過ぎの、割りと若い男性医師だった。喋り方も軽快。良い感じの先生だな、とは思った。
それから、身長、体重、血圧、採血、採尿を済ませて、今度は30分弱でまた名前が呼ばれた。
私が入ってくるなり、いきなり喋り出す先生。
「んー、今回、血糖値、Hba1c見たんだけど、大丈夫!異常無し!」と言われた。
「今回Hba1cが6.9。糖尿病の基準値を下回ってるから、大丈夫。」と先生。
「んー、もう少し、下回れないかなあ」と私。
「薬、増やすの嫌なんでしょ?今のままが一番良いって。アマリール(糖尿病薬)は太るよ?」と先生。
この時、はっとした。
大学病院のあの、K医師の言っていたことと全然違う。K医師は、「薬は太らない、太ったような現象が起こるだけ。太ったのは、あおいさんが過食をしているから」の一点張りで、私は過食なんかしていないのに、私の意見は聞かず、自分の主張の一点張りで、私はどんなに疲れていたか。
「じゃあ、今のままで良いです」と私。
流石に、あの大学病院の医師は、太らない、太ったような現象が起こるだけだと言っていたことは言わなかった。代わりに、
・食べたもの、飲んだものを随時メモして生活しろと言われたこと。
・スーパーの袋野菜を「あんなクズ野菜」と言われたこと。
・お酒は毒だ、皆はお金を出して毒を買い飲んでいる。と言われたこと。
この3つはしっかりとT先生に打ち明けた。
先生は苦笑いをしながら、
「まあ…大学病院の先生の言うことと、うちみたいな個人病院の言うこととはまた、違うからね」と言っていた。
そして、T先生はこう言ってくれたのだ。
「あおいさん、今まで長い間、大学病院で厳しい指導をされて、よく頑張ってきましたね。でも、これからは、少し、もっとおおらかな気持ちで、病気と向き合っていきましょうね」と。
おおらかな気持ちで…思わず泣きそうだった。こんなことは、あの大学病院ではまず言われないし、言われたことがない。
私は、涙腺が弛むのを抑えて、
「はい。ありがとうございます!」と返した。
そして、あまりにもT先生が軽快で楽しい感じの先生だったから、思わず、
「先生、楽しいですね!」と言ってしまった。
でも、先生は笑顔で、
「私は30年間、このスタイルだからね」と言っていた。
病院を出て、隣の薬局で薬を貰い、病院を後にした。風が暖かく、満開の桜の花の花吹雪が、まるで私に、(もう、安心していいよ)と言っているように見えて、安堵の笑みがこぼれた。