詩人・長谷川忍さん
抒情詩人とは、私の憧れの存在だ。
私の敬愛する抒情詩人は岡島弘子さんだが、私の8年来の詩友で、やはり抒情詩人の長谷川忍さんの作品も魅力的だ。彼の代表詩集・「女坂まで」(H氏賞候補作)は、水に関する詩が中心で、川の流れや、水の持つ、穏やかさの中にある狂気や悲しみ、優しさ、美しさが描かれていて、素晴らしい詩集だ。
また、長谷川さんのエッセイも魅力的で、彼は、永井荷風をこよなく愛す。長谷川さんの文体は、荷風のような漢文調の文体ではないが、まるで水の流れのような、柔らかく瑞々しい文章を綴る。また、長谷川さんは、映画にも詳しい。彼が大好きな映画監督は小津安二郎。小津監督の、普段何気ない日常の中に生きる人々の、愛情や優しさ、素朴さを描いた作品が好きだと言っていた。
長谷川さんは、お酒もよく嗜む方で、たまに上野や船橋界隈で一緒に飲むが、飲み方も、肴の食べ方も綺麗な方だ。長谷川さんは、上野や谷中、根津、千駄木のいわゆる「やねせん」が大好きで、高校生の頃から、谷中にはよく電車でふらりと訪れては散歩を楽しんでいたという。若かりし頃の長谷川青年は、心に決めた。「絶対、お酒の美味しく飲める東東京に住もう」と。
長谷川さんは、神奈川県川崎市生まれで、三人兄弟の長男。実家は歴史ある老舗の畳屋さん。10代から東京に想いを馳せていた長谷川青年は、合格見込みだった大学の進学を蹴って、工業系の企業の社員になり、42年間、定年まで勤めあげ、今もまだ会社勤めをしながら作品を書き続けている。住まいはやはり、念願だった台東区にあるマンションを40代の時に購入した。
私は、長谷川さんの人生は本当に詩人だと思う。
水の流れのように、意のままに、穏やかに、時に激しく、そして優しくある。長谷川忍という詩人は、文筆家になるために、お酒を愛するために、街を愛するために、そして、川や海や水辺を愛するために生まれてきた人間だと言っても過言ではない。
長谷川さんのように、穏やかに優しく生きることが出来たなら、私は幸せだ。「もしも、人生に迷ったら 自然に問え 自然に向かえ」とは、葉祥明の詩の一節。自然に問え 自然に向かえ。
まるで、長谷川さんのようだ。
私も、穏やかに生きていきたい。