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“管理栄養士に相談”を当たり前にしたい——パーソナル食事指導サービス「eat+」

eatasの皆さん。左から:管理栄養士 八住香代子氏、代表取締役CEO/管理栄養士 手嶋英津子氏、CTO 四橋健氏、管理栄養士 山﨑恵氏、エンジニア 七字晃正氏

2012年9月に「スタートアップ都市ふくおか」を宣言してから11年。福岡市のスタートアップ環境は発展を続けてきました。

直近ではヌーラボやQPS研究所のように福岡で誕生した企業が資金調達を経ながら成長を遂げ、グロース市場に上場する例も生まれています。この連載では、現在199社が集う福岡市のスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next(FGN)」の中から、注目の入居企業を3社紹介します。

今回取り上げるのは、管理栄養士によるパーソナル食事指導サービスを提供するeatas(イータス)です。eatasは2021年3月の創業。「健康診断の数値を改善したい」「痩せたい」という人が無理な食事制限をせずに体を変えられるよう、専用アプリとカウンセリングを組み合わせたサービスを提供しています。

アプリと管理栄養士による伴走型サポートで食事を改善する「eat+」


管理栄養士による食事分析。ユーザーの食事内容からカロリーやタンパク質・脂質・炭水化物の比率(PFC比)、脂肪酸、ビタミン、ミネラルなど詳細なデータが分かる

eatas代表取締役の手嶋英津子さんは、自身が管理栄養士の資格を持ち、大学や企業で勤務してきました。食事制限をせずに体を変えるには、管理栄養士の専門的な知識が求められます。しかし、食事指導を必要とする人の身近に必ずしも管理栄養士が十分にいる状況ではありません。

管理栄養士の側も課題を抱えています。管理栄養士の登録者数は全国でおよそ27万人(2022年末現在)ですが、そのうちの約3分の1しか資格を活用した仕事に就いていないのが現状といいます。

eatasでは、運動で体を変えることをサポートするパーソナルトレーナーのように、食事で体を変えることを管理栄養士が支援するサービス「eat+(イータス)」を展開。食事を改善したくても何から手を付ければいいか分からず、管理栄養士の存在すら知らない人にサポートを提供すると同時に、食事で困っている人のサポートをしたい管理栄養士には専門職としての仕事の機会を増やそうと取り組んでいます。

eat+は、専属の管理栄養士による伴走型のサポートが特徴。管理栄養士が詳細に食事を分析し、ユーザーがビフォーアフターを視覚的に把握できるように工夫されています。eatasが運営する管理栄養士のコミュニティには現在70人ほどが所属し、同社からの依頼を受けてサービスにおける食事指導を実施します。

サービスは個々のユーザーに合わせてオーダーメイドで提供され、外食や会食、コンビニエンスストアの食事が多くても、その中で何を食べればよいかが具体的に提案されます。

専用アプリでデータを管理。ユーザーは食事の記録をアプリのチャットで送るだけで、目標や記録が管理栄養士と共有され、よりよい食事行動の習慣化をサポートする

eat+では、食事指導用のアプリとシステムも開発・提供。データを蓄積しながら管理栄養士による分析や指導を容易にすることを目指しています。定期的なチャットとオンライン面談を通じて、課題認識と現状の確認、目標とのギャップを埋めるための食事行動の変化を促し、ユーザーの食事改善の習慣化を図ります。

このサービスは管理栄養士がコーチングのようにユーザーに寄り添う点が特徴です。このため、人にコストがかかりますし、スキルのばらつきも生じます。サービス拡大のためには、スキルが一定の水準に保たれ、指導にかかる時間を削減するシステムが必要です。現在開発中のシステムでは、AIが管理栄養士をサポートし、質の高い指導を短い時間で実現することを目指しています。(手嶋さん)


eatas 代表取締役CEO / 管理栄養士 手嶋英津子氏

食事で困ったら管理栄養士に相談するのが当たり前の世界を目指す

eat+は個人向けのほかに、フィットネス事業や美容関連事業などを営む法人向けにもサービスを提供。フィットネスクラブや美容クリニック、アスリートのトレーナーなどが顧客に食事指導をサービスとして組み込む際、BtoBtoCの形態で利用されています。トレーナーやクリニックの担当者はそれぞれの業態における専門の指導を担当し、eat+側では管理栄養士が食事のアドバイスを担当します。

また現在、一般企業の従業員向けのサービスとしても、実証実験を行っているということです。

もともとeat+は、健康や食事に対する意識が高い層をユーザーとして想定し、フィットネスや美容の事業者をターゲットにサービスを始めました。加えて2024年は、個人や一般企業の従業員も対象ユーザーとしてサービスを広げていきたいです。一般企業の従業員の方を対象とするとユーザー数は拡大できるんですが、モチベーションを保つことのハードルが高くなります。実績や事例を積み重ねて、企業の健康経営に対する意識や従業員の方のモチベーションも上げられればと考えています。

さらに次のフェーズでは、生活習慣病を診療するクリニックや病院を対象に見据えています。今、内科や循環器科のクリニックに管理栄養士の資格を持つ人がいることはほとんどありません。糖尿病の方でも9割以上が管理栄養士の食事指導を受けられていない実態があります。そうしたクリニックなどとの連携を進めて、皆さんの健康状態の悪化を防ぐことにつなげられればと考えています。(手嶋さん)

食は、万人がターゲットとなる領域。しかしビジネスとしての価値提供と価格設定のバランスは難しいと手嶋さんは言います。

食事指導は、管理栄養士の独占業務というわけではありません。病院で食事指導によって診療報酬を請求するには管理栄養士の資格が必要ですが、ジムのトレーナーやクリニックの医師・看護師でも誰でも、食事の指導自体はできます。

ただ、管理栄養士は国家資格を有する唯一の専門職です。食べ物は体をつくるもの。知識がない人が単に痩せればいいと考えて体に不具合を生じたり、一時的に痩せてもリバウンドし、より太りやすい体になることもあります。風邪をひいたら医者に行き、髪を切るなら美容室に行くように、食事で何か困ったら「管理栄養士に相談しよう」と思うことが当たり前になり、それをすぐにかなえられるような世界を実現したいと考えています。(手嶋さん)

他の入居スタートアップの存在がよい刺激に

手嶋さんは福岡県福岡市出身。eatasは創業時から福岡市を拠点としていますが、サービスはオンラインで提供でき、管理栄養士も地域を問わず参加しているため、当初起業にあたって特に地域にこだわりはなかったといいます。

福岡で起業したきっかけは2020年、起業家・エンジニア養成スクールを核としたコミュニティ「ジーズアカデミー」の福岡拠点に参加したこと。手嶋さんはそこで、スタートアップ支援施設・FGNの存在も知りました。

ジーズアカデミーで福岡市の手厚いサポートを知り、福岡は起業しやすいと感じました。実際に、FGN内にある「スタートアップカフェ」で相談したら、登記など、「開業ワンストップセンター」ですごくサポートしてもらえて、するするっと起業できました。起業後しばらくはオフィスを構えず、オンラインでメンバーと仕事を進めていましたが、ジーズアカデミーのメンターがFGN出身の起業家で入居のメリットも聞いていたので、自然な流れでFGNに入居しようと決めました。

入居前からさまざまなイベントへ声をかけて参加させてもらいましたが、2023年5月の入居後はさらに機会をいただいています。

メンバーと顔を合わせて仕事ができるようになり、別の入居スタートアップと部屋を分け合っていることもよい刺激になります。元小学校の校舎をリノベーションした施設は、校庭だった場所が芝生広場として利用でき、よい環境ですし、カフェやコンビニエンスストアなども近く、福岡市の中心部に近い便利な立地もメリットです(手嶋さん)

大手企業との取引においても、福岡市が運営するインキュベーション施設に入居していることが信用につながっているとのこと。スポンサー企業とのミートアップも月1回開催されていることも、仕事につながる可能性があってよいと手嶋さんはいいます。

仕事に集中していて、なかなか他のことに気が回らないときにも、自然に情報を届けてもらえる環境で大変助かっています。(手嶋さん)