九州大学発技術で低コストかつ高効率な二酸化炭素回収を実現するJCCL/第92回Growth Pitchレポート
岸田内閣が2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付けてから約2年。政府や地方行政、VCなどが中心となり、地方へのスタートアップ誘致や成長支援を推進しています。
大学発ベンチャーも2010年と比べ約10%増加。さらに2022年度から2023年度にかけては500社以上の増加がみられ、直近5年間では年間350社前後で安定的に増えています。
大学発ベンチャーの内訳としては、研究成果ベンチャーが約半数を占め、共同研究ベンチャーが10%弱、学生が立ち上げたベンチャーが3割程度となっています。地域別では関東が多く、九州は7%程度です。
産業分野別では、ITソフトウェア、バイオヘルス、医療分野での増加が顕著です。一方、製造業や化学素材、環境テクノロジー分野は安定的に成長しています。
政府もさまざまな支援プログラムを提供し、大学発スタートアップの成長を後押ししているなかで、今後この領域はどのように進化していくのでしょうか。
2024年8月8日、福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」は、「Growth Pitch 〜大学発スタートアップ特集〜」を現地・オンラインのハイブリッドで開催。
大学からスタートした4社がサービスや協業ニーズについてピッチしました。本記事では、株式会社JCCL(ジェイシーシーエル)(以下、JCCL)の模様を紹介します。
株式会社JCCL(ジェイシーシーエル)
CO₂回収技術で地球規模の課題に挑む
JCCLは2020年に設立された九州大学発のスタートアップで、CO₂の回収に特化しています。「日本初のCO₂回収技術で世界のカーボンニュートラルを実現する」をミッションに掲げ、低コストかつ高効率なCO₂回収技術の開発・実用化に取り組んでいます。
JCCLのコア技術は、アミンを含むゲル状のCO₂吸収材料です。この材料は、CO₂を繰り返し吸収・放出することが可能で、JCCLのCTOである九州大学の星野教授のチームが開発し、JCCLが九州大学から特許譲渡を受けています。
固体吸収剤(粉末状)と選択透過膜(膜状)の2種類の材料があり、固体吸収剤は工場などから出る排ガスからの回収に適しており、選択透過膜は大気など濃度が低いCO₂回収(Direct Air Capture: DAC)に適しているそうです。
JCCLの技術は、従来の技術と異なり、CO₂との結合が温和な吸収材料であるため、CO₂の回収時に高温加熱が不要な点が強みです。40〜60度の熱で再び吸収剤として使用でき、工場の排熱などを利用することで低コストでの回収が可能となります。そのため、従来技術と比較して、回収に必要なエネルギーを4分の1まで低減することが可能です。
多様な分野での革新的CO₂回収技術の実用化を目指す
JCCLは、CO₂回収からその利用までをパートナー企業とともに社会実装することを目指しています。また、CO₂回収に関するコンサルティングから試験受託、実証実験、実機導入までトータルソリューションの提供が可能で、現在はコンサルティングや受託研究、共同研究などの収入が主な収益源ですが、今後は装置販売や吸収材料の交換、ライセンスフィーなど利益率の高い事業への移行を目指しているそうです。
また回収したCO₂の再利用のスキーム構築にも注力しており、燃料への転換と農業用途での事業化を進めています。燃料転換では、環境省のプロジェクトにおいて、工場排ガスから回収する二酸化炭素と水素からメタンを生成する「メタネーション」の実証実験に複数の企業とともに取り組んでいます。農業分野では、CO₂を作物の成長促進に利用する装置の販売に向け準備中です。
今後の開発計画として、1日30kg、300kgのCO₂回収が可能な装置の開発を予定しています。さらに大型の装置については、エンジニアリングメーカーとのアライアンスによる社会実装を目指しています。
現在、JCCLでは、今年受注販売を開始したCO₂回収装置及び分離膜性能評価装置をご購入いただける企業や自治体のほか、脱炭素に取り組む企業や自治体等の協業パートナーも募集しています。また、CFO人材や研究開発・事業開発に携わる人材も募集中です。
登壇した事業開発部の馬場﨑氏は、福岡市職員として約17年間勤務した後、福岡市の特例制度を利用してJCCLに転職されております。本制度は、数年間スタートアップで勤務した後、再び福岡市役所に戻ることもできる制度ですが、「高島市長からは、市役所に戻らないつもりで頑張ってこいと背中を押してもらった。JCCLの技術を活用して、引き続きパートナー企業様や行政の皆様等と協力しながら、脱炭素という地球規模の課題解決に取り組んでいきたい。」と語りました。
文・写真/株式会社ECHO
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「Growth Pitch」では、福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」が、毎月異なるテーマのスタートアップを招集し、投資家や地域企業に向けてピッチを披露する機会を設けています。
次回は9月12日に第93回Growth Pitch「建設DX特集」を開催します。無料で現地・オンライン共に参加可能です。みなさまのご参加をお待ちしております。
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https://growth-next.com/events/growthpitch93