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製造業のDXを加速するスタートアップ4社登壇【第88回 Growth Pitch 】

製造業の未来を変革する4つのテクノロジー

DXの本質は「X(トランスフォーメーション、変革)」にあります。単なるデジタル化やITデバイスの使用ではなく、企業の価値や競争力の向上です。

近年、日本の製造業では、労働力不足や技術承継、DX導入の遅れが課題となっています。
その課題を解決するためには、DXを推進することが重要とされていますが、既存の製造業からDX企業へと転換するのは容易なことではありません。

まずはDXのための基盤作りが鍵になります。そこでDXの導入を進めるためには下記の3つのポイントが重要です。

1.経営資源(ヒト・モノ・カネ)をあまりかけないスモールスタートで着手
2.デジタル(機器・システム)導入を検討・検証の際は、自社ビジネスへの具体的な貢献度を数値化
3.DXの推進体制として、現場にも精通し経営にも提言しやすいミドル層をリーダーに

製造業DXにおいて大切なことは、DXを一気に進めるのではなく、小さな一歩から始め、現場の実態に即した対策を立て、見える化しながら着実に進めていくことです。あくまでもDXはビジネス変革の手段に過ぎず、目的ではありません。

福岡市の官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」は、毎月テーマを設定し、そのテーマに関する事業を展開するスタートアップを集めたピッチイベント「Growth Pitch」を開催しています。Growth Pitchには登壇企業のほか、テーマに興味のある事業会社や投資家、メディアなどが参加します。

2024年4月のGrowth Pitchのテーマは「製造業DX」です。本記事ではGrowth Pitchに登壇した製造業DXに取り組むスタートアップ4社のピッチを紹介します。製造現場の効率化を進めるためのプロダクトや仕組みなど、独自ノウハウを活用した新しいサービスを展開する4社のピッチにご注目ください。

ワンストップで切り開くドローンの未来

VFR株式会社(ブイエフアール)
https://vfr.co.jp/

ドローンやロボティクス製造・販売・EMS事業を行う、VAIOの100%子会社として設立。スタートアップの量産支援に特に注力しており、海外製ドローンのEMS受託やドローンポート開発サービスなどを展開しています。

安全で信頼性の高いドローン製品の実現

VFRは開発支援から販売保守までワンストップで行っており、ハードウェアやモジュールの量産開発や生産受託を軸に、安全基準の高い機体や周辺機器の開発を手がけています。設立当初は民生用ドローンから事業をスタートしましたが、現在はロボティクス全般の領域に事業を拡大。2023年には、経産省からドローンの格納庫開発で20億円、内閣府のプロジェクトで5,000万円の資金調達に成功しました。

ドローンはスタートアップにとって参入が難しい分野ですが、政府との密なコミュニケーションを心がけ、国内のドローン・ロボティクス関連企業とも連携を深めてきました。安全保障・防衛分野への展開も視野に入れており、昨年は日米技術フォーラムに登壇。今年6月にパリ・ユーロサトリで行われる展示会への出展も予定しています。

これまでドローン産業では性能ばかりが注目されがちでしたが、VFRはユーザー目線に立ち、品質・信頼性・コストを重視。現在のところ自社のブランド製品は開発していませんが、ホワイトラベルの製品開発を推進中です。

垂直統合型ではなくサプライチェーン全体をカバー

一般的なドローンメーカーが垂直統合型のビジネスモデルを採るのに対し、VFRは製品企画のサポートから製品開発、調達、生産までバリューチェーン全体を自社で担っています。社内には大手企業出身者が多数在籍し、研究開発や生産技術の専門家が共存する点が強みです。

協業先として、モジュールメーカーや販売・マーケティング、保守企業などを希望しています。サプライチェーンの見直しが必須とも指摘しており、部品・素材メーカーとの対話を重視する考えです。これまで自動車産業の技術やドローンへの新素材の活用など、異分野の技術移転にも取り組んできました。現在は米国防省の研究プロジェクトに参加するなど、海外展開も視野に入れています。

今後の展望として、代表の蓬田氏は「国内でドローンメーカーやロボティクススタートアップとお取引をしてきましたので、ハードウェア系のものづくりをしたいというときに一度私たちにご相談いただければ、幅広く意見交換ができると思っているので、ぜひ声をかけてほしい」と述べました。

IoT重量センサーで製造現場の課題を解決

株式会社スマートショッピング
https://smartshopping.co.jp/product

スマートショッピングは、IoTを活用した実在庫の把握支援により、在庫管理を高度化や現場のオペレーションを改善する「Smart Mat Cloud」を提供しています。

IoTとクラウドで革新的な在庫管理を実現し、製造業のDXを牽引

従来の在庫管理は、人手による目視確認に依存しており、作業の非効率性や人的ミスのリスクがありました。スマートショッピングはこの課題を根本から解決すべく、「重さの再発明」と称する新しいアプローチを提案しています。

具体的には、マット型のIoT重量センサーに在庫を乗せっぱなしで測り続けることで、人手を介さずに24時間365日の自動在庫計測を実現しました。5gのネジが15gあれば、すぐに3個だと分かるように、シンプルかつリアルタイムの実在庫把握が可能になります。

この仕組みにより、製造現場での悩みの種である、大量の部品管理、遠隔地の在庫管理、粉体や液体の計測など、これまで人手に頼らざるを得なかった課題を一挙に解決できるようになりました。足りない在庫で生産ラインが止まる事態を防げるなど、大きな生産性向上に貢献できます。

リアルタイム在庫可視化により生産性大幅向上

「Smart Mat Cloud」は、IoTデバイスからデータを収集し、クラウド上で可視化。そこから得られる実在庫データを活用して改善を促すサービスです。現在900社以上に導入され、自動車業界でもトップ企業に採用されるなど成長を続けています。

競合にあたる企業は少なく、重量を計測するマット内のロードセル用ファームウェアや機械学習を含むソフトウェアに事業の優位性があるといいます。

直近では医療分野での在庫管理や自治体のオーバーツーリズムによるゴミ置き場の管理まで幅広いニーズに対応。登壇した成島氏は「今後は在庫管理から工程改善、サプライチェーンまで用途の活用を広げ、エリアも国内から海外まで展開を加速させていきたい」と述べました。

少量多品種化と短納期化に特化したAI製造管理システム

ものレボ株式会社
https://monorevo.jp/

ものレボは、短納期・少量多品種製造の生産性向上を支援する製造現場向け工程管理SaaS「ものレボ」を提供しています。

作り手と調達側の両方の課題解決を目指す

製造業では近年、多様化するマーケットニーズに対応すべく、少量多品種化と短納期化への需要が高まっています。多くの現場でスケジュールや在庫の管理が求められているなか、ものレボは、AI技術を活用した製造業専用のDXアプリ「ものレボ」を開発。煩雑な管理業務をデジタルで見える化することで、大幅なコストカットを実現しており、製造業に関わる多くの人々をサポートしています。

製造業のトレンドである少量多品種化と短納期化は、今や世界的な流れとなっています。この状況は、製造現場と調達する側の両方に影響を与えており、「ものレボ」ではその両者の課題解決を目指しています。

まず少量多品種を担う製造現場、特に中小企業の製造現場のデジタル化に着手。その後デジタルで工場を繋げていくことで部品調達のアプローチに取り組み、管理水準や収益性の向上を目指した、攻めの投資を提案します。

「ものレボ」の特徴は、図面を読み取り、ベテラン社員と同等のアルゴリズムでアウトプットができる「見える化管理」です。2機のAIを使い、ニューラルネットワークを使って図面から工程設計とリアルタイムの情報を加味して最適計画をアウトプットします。

「ものレボ」が実現する新しいサプライチェーン

一方、部品調達側の課題は、どの会社で作るかを探して交渉し、監督することにありますが、「ものレボ」はこの3つの工程をAIで自動化します。具体的には、アップロードした図面から1機目のAIが適切な企業を探し、2機目のAIが納期に間に合う企業を選定して見積りを作成、さらにSaaSで製造管理を行うことで、探索レス・交渉レスを実現します。

社内には、AIのプロと製造のプロによるチームがあり、すべての開発を自社で行うことで、お客様のニーズにも素早く対応できる点が強みとなっています。今後は中小製造業の工程管理の世界展開を目指しており、中小企業支援者やメーカーとの協業を求めています。現在は既存のユーザーデータを活用してサプライチェーンのマッチングから始め、PoC も開始しているところです。

今後の展望として、代表の細井氏は「日本の中小製造業を世界に開放していこうという想いと日本のものづくりのよさを活かしていくためのサプライチェーンを作っていきたいと考えている」と述べました。

製造業界初のオートノマスAIの活用で外観検査を完全自動化

株式会社Anamorphosis Networks(アナモルフォーシスネットワークス)
https://anamorphosis.net/

製造業の業務効率化支援として、オートノマス(自律型)AIを活用した自動検査装置や棚卸し自動化システム、製造自動化ソフトウェアなどを提供しています。

オートノマスAIで画期的な検査自動化を実現

製造業の人手不足問題を解決すべく、アナモルフォーシスネットワークスが検査業務の自動化に取り組んでいます。現在製造現場では、従事者の約20%が検査業務に携わっていますが、外観検査は製品ごとの選別基準が必要で、完全自動化が難しいとされてきました。

しかしアナモルフォーシスネットワークスは、"オートノマスAI"と呼ぶ独自の技術により、従来自動化が困難とされていた目視による「官能検査」の自動化に成功。具体的には、ユーザー企業の不良品サンプル(NG見本)を学習させ、NGとする類似度の閾値を設定することで、自動で不良品を検出できるという仕組みを開発しました。

検査装置のラインナップは4種類で、オフライン自動検査装置とインライン自動検査装置に分かれ、前者は人手によるマテリアルハンドリングを残しつつ検査自動化、後者は検査から製造ラインまで一貫自動化。さらに既設の検査装置にも後付けで連携可能な組み込み検査機もあります。

自社の不良品サンプルへの色塗りだけで、簡単に学習可能なのが大きな特長です。一般の競合製品が、学習回数や画像の水増しなど、AI調整を必要とするのに対し、理論的な裏付けがあり、単純な操作で運用できることが強みとなっています。

革新的AIを他業界に展開へ

さらに、前処理とAIの判定処理の組み合わせを、AI自身が自動で試行錯誤し、最適化する「オートノマス学習」機能を搭載。同じ学習データでも、より高い検出精度が得られるよう自動最適化されます。

アナモルフォーシスネットワークスは、この先進技術を製造業界に留まらず他の業界にも展開していきたいと考えており、すでに製造業向けに数十社への導入を実施。今後は新たな領域にも技術移転を目指しています。
画像検査・解析の市場は国内で年率19.2%、世界でも5.7%と急成長が見込まれる有望分野です。独自の自動化AIを武器にさらなる展開を狙います。

最後に代表の炭谷氏は「これからはAI自身が試行錯誤を重ねて最適解を導き出すオートノマス学習の時代が来る」と述べました。

文・写真/園田遼弥


今回ご登壇いただいた4社への質問・マッチング等のご希望は随時受け付けておりますので、下記お問い合わせまでお気軽にお問い合わせください。

https://growth-next.com/contact

また、次回は6月13日に第90回Growth Pitch「Web3 特集」を開催します。みなさまのご参加をお待ちしております。

https://growth-next.com/event/growthpitch90