ファイナルに向けて
2022年9月24日、この日は随分と空が青かった。台風一過という言葉の通り雲ひとつない青空。本来であれば快晴であることを大いに喜ぶであろうその日、私は地の底にいるような気分だった。
話は前日の23日に遡る。
私は静岡県のエコパアリーナで行われた「浦島坂田船SUMMER TOUR 2022 Toni9ht」のセミファイナル公演に参戦していた。ライブ自体はそれはもう本当に楽しかったのだが、問題はその後。台風15号の影響により交通機関が麻痺し、身動きが取れなくなった私たちはエコパのサブアリーナで一夜過ごすことになったのだ。
私はこの日の体験を一生忘れないと思う。
会場内で待機していた時の暖かい雰囲気、虫に脅えながら雨を凌いだコンコース、固く冷たい床で、それでも屋根があることに安堵したサブアリーナ。
ネットには様々な言葉が飛び交っていた。何が正解かは今でもわからない。ただ、誰に何と言われようがセミファイナル公演が最高に楽しかったということだけは自信を持って言えた。後悔などするはずがなかった。
サブアリーナに移動してから1時間ほど経ち、時刻は3時頃。暇つぶしのために点けていたスマホの充電が切れそうになっていたため、今日のライブの素敵な景色を思い出しながら私は眠りについた。
翌日、私は連番と朝早くに会場を出て40分程歩きレンタカーを借りた。
疲労と寝不足と空腹で満身創痍の私たち。ずっと落ち着かない状況下にいたせいか、助手席に座ったときはホッと胸を撫で下ろした。
4人乗りの車にもう2人友人を乗せ4人で浜松まで帰っている途中、1件の通知が来た。嫌な予感がして急いで開いてみるとそこには「公演中止」の4文字があった。
絶句。
もう何も言葉が出てこなかった。
どんなに辛くても、「でもファイナルがあるから」と頑張ってきた私たちは一体これからどうすればいいのだろうか。どうして神様はこんなにも無情なのか。
絶望感に苛まれる私たちを嘲笑うかのように空だけが晴れていて、それが無性に腹立たしくて窓の外を見ながら静かに涙を流した。
月日は巡って2023年1月。
遂に浦島坂田船の「SUMMER TOUR 2022」がファイナルを迎えようとしている。公演中止から約4ヶ月。真冬に夏ツアーを開催するというのもなかなか風情がある。会場はエコパアリーナで、振替公演のお知らせとともに追加公演も発表された。やはりタダでは起きないのが浦島坂田船だ。
そして1週間前には待望の声出しが解禁された。ライブから観客の声が奪われたこの3年間、4人は再三「crewの歓声が聞きたい」ということを口にしていた。それがやっと叶えられる。歓喜の声に包まれるTLを見ながら今度は嬉し涙を流した。
悔しい思いもやるせない思いもネガティブな感情にするどころか前を向くエネルギーに変えてくれた。本当に浦島坂田船には貰ってばかりだ。
4人がこの夏を「最高に楽しかった」と笑顔で締められるよう、私も全力で声を届けたい。少しでも幸せを返せるように。