帰路に就く
6月。ぐずついた天気が多く梅雨なんて名前がついたこの季節。私にはとても楽しみにしていることがあった。
1年中休むことなく活動している坂田さんが唯一ひとりでステージに立つライブ。「AHO NO SAKATA LIVE TOUR 2023 -Home-」は6月10日、名古屋公演から始まった。
OPは、坂田さんの寝起きから。
目覚ましを止めて起き上がり眠たげな顔をしたままカメラに視線を向け、少し微笑んだあと再度布団を被り画面は暗くなる。
余韻に浸る間もなくステージが照らされると途端にザワつく会場。会場中の視線と期待がステージ中央の少し膨らんだベッドに寄せられ、今日の主役が登場するのを今か今かと待っていた。
それぞれの家
前半はストーリー仕立てでライブが進行していく。舞台は坂田さんのおうち。バンドメンバーが後ろに控えたなんとも贅沢な家に、今日は坂田さんの「好きな人」が来るという。一体誰なんだろうか、皆目見当もつかない。
曲の合間合間に小芝居を入れて次の曲へ繋ぎ、少しも目を離す隙を与えない。それぞれの曲に意味を持たせその世界観へと誘う演出は紛れもなく坂田さんが作りあげた、坂田さんだけのライブだった。何年も活動を続けている坂田さんが、ここにきて原点とも言えるコンセプトにした理由はこんなところにもあるのかもしれない。
さて、次から次へと場面が変わるhomeだが、実は今回セトリ変更は1曲もない。セトリ順にプレイリストを作成しているときに「そういえば・・・」と驚いた程だ。そのくらい坂田さんは毎公演違う物語を見せてくれた。曲中に羽織るジャケットを変えてみたり、セリフを変えてみたり(というかほぼアドリブだった)。
ワンマンでは4年ぶりの声だしライブということで、ストーリーの中でも観客との掛け合いが多くあった。私たちの反応によってセリフや行動を変えていく坂田さんに、乙女ゲームのそれを感じたのはきっと私だけでは無いだろう。そうだと信じたい。
本当にそれぞれの公演にそれぞれの「home」があり、全く別のライブを見ているようだった。
ゆめのものまね
またその話?と思ったあなた、すみません。反省はしていません。
ライブ後半、ゆめのものまねを歌う前に坂田さんは少し長めのMCを挟む。公演によってその内容は様々だが、大枠は同じ。ゆめのものまねの歌詞に沿って、活動やリスナーへの思いを語っていく。
「ゆめのものまね」は昨年の夏にリリースされた浦島坂田船のアルバム「Toni9ht」に収録されており、夏ツアーでもセトリに組み込まれ幾度となく会場を涙の海に沈めてきた。ただ坂田さんはこの曲の歌詞について「俺の事を好きな人なら分かると思う」と言ってあまり多くは語らなかった。それを、坂田さんはワンマンで紐解いていったのだ。ワンマンという特別な空間で、坂田さんのことが好きで好きでたまらない坂田家と名前が付いた大勢の観客の前で。
坂田さんは、1人のステージで静かに話し始める。「僕の人生は皆さんが全てです。みんなが嬉しいと嬉しいし、悲しくなるのも皆さんのせい、って言ったらアレですけど笑」笑いも交えながら真っ直ぐな言葉を綴っていく坂田さん。その表情はどこまでも暖かく優しかった。こんなに幸せな居場所をくれて、こんなに素敵なライブを見せてもらって、「人生」とまで言ってくれるのだ。
そんな柔らかく包み込むような坂田さんの言葉を受け取ったあとに聴くゆめのものまねは、何にも代えがたい夢のような空間だった。
何があっても帰れる場所があること。それがどんなに幸せなことか、今回のツアーを通して改めて実感した。いつでも帰ってきていいと坂田さんがそう言ってくれたことを、私はきっといつまでも忘れない。ここが私の拠り所、ここが私の「home」なのだから。