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林やは「紡がれるほとり」



あらゆる脈がある、たどって、先へいく、いずれ、なにものでもないところがあるはずだ、救済、といいたい、飽和かもしれない、望んでいる、欲望もある、そのとちゅうで、つわりのようなものに支配される、死か、生か、選択しなければならない、あるいは、産むものになるかどうか、孤独はこわい、けれど、自発的にそうなることもある、脈はたった一筋かもしれないし、複合的なものかもしれない、ぴちゃ、と、水滴の落ちる音がする、あるとき、突然に水が降ってくるのだ、そうして、覚醒することもある、

めいしん、とつぶやくときの、あの神秘的な空気の含み、だれのものでもない、発音は、もとから世界に存在していたかのように、世界とぴったり重なり、溶けていく、森のささやきは、それに似ている、現れては溶ける、生命とはすこしちがうが、循環ともいえる、そのくりかえしのなかで、オオカミは生きている、

「それは使役されているということ?」
「いや、ちがうな、存在しているというだけのことだ」
「存在、だけで満足できるの?」
「これほどまでに生きてしまえば」

何百年、絶えない生命とともに暮して、産まれたものと、果てたものとを、交互に眺めた、循環は、退屈なものになっていく、あたりまえというのは、忘却を促す、オオカミは寡黙に生きた、代わりにことばに耳を澄ませた、導かれるように、この森へたどりつき、生涯棲むことになった、体は土になじみ、風に抱かれ、森中の動物に敬われ、ついには泉の番人になった、永いときのなかで、泉は枯れることはなく、ただそこにあり、オオカミもまたそうだった、
もはや土の香りより、泉の揺れのほうが、季節を知らせてくれる、泉には、過去も現在も未来もある、オオカミは泉のほとりにあり、ここではないばしょを知るつもりもない、ただ、兎がやってくることは、想定外だった、

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さまざまな個性を持った7編の小説からなるアンソロジーです。参加作家は、佐川恭一・河野咲子・旗原理沙子・林やは・二宮豊・竹中優子・和泉萌香。…

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