FF8考察 / それこそがファイナルファンタジー
予め断っておかなければならないことが、幾つか。
まず本考察では、作品の内容を丁寧に解説するつもりはありません。一記事としては態度が大きくなりますが、作品をプレイしてから記事を読むことをお勧めします。ゲームは例え、物語を十全に理解しなくとも十分楽しめるよう作られています。考察を知って得るカタルシスの程度にも影響しますので、是非。
次に考察は、当然ながら必ずしも正しいわけではありません。あくまで一個人の解釈にすぎないことを踏まえて、肩の力を抜いてゆったり楽しんで下されば何よりです。
前置きはここまでにして、作品には未だ解明されていない謎が多く残されています。そして本考察では、それらについて可能な限り取りこぼしのないよう言及してゆくつもりです。
作品が提示した奥深い設定、その裏に潜む真実を、愛をもって紐解いてゆきましょう。
歴史を解釈してみる
さて早速ですが、FF8に4000年以上に渡る歴史背景が用意されていることは、ご存知でしたか。私たちにとってみれば紀元前にまで遡るほどの途方もない世界観は、作中ではチュートリアルを除いて触れられることがなかったため、見逃してしまった方も多いかと思います。また関心を示した方でも、それらの情報が物語にどう作用するのか判然としなかったのではないでしょうか。
実のところ、公式の攻略資料集『FINAL FANTASY VIII ULTIMANIA』でしか取り扱われない重要な情報も存在しているため、ゲーム本編のみで本作の世界史に輪郭を持たせるのは困難極まります。
考察を披露するためにも、まずはそれらの情報を前提として共有しておく必要があります。以下に攻略資料集の記載を引用し、以降その内容を基軸に、順を追って歴史を解釈してゆきましょう。
要約をすると、
「人間を生み出した『ハイン』が行き違いから反乱に遭い、敗北したことにより身体の半分を差し出した。しかし人間の怒りを沈めることができず、人間は身体のもう半分にあたる『魔法のハイン』を捜し回った」となります。
この内容は「ある日のガーデンの授業風景」というタイトルのもと、ガーデン教師が教鞭をとるかたちで描かれました。授業では、この『魔法のハイン』が、魔女のはじまりであった可能性についても言及されています。
ここで考察記事と題を打っておきながら出端を挫くようですが、既に他の考察者さまによって判明している核心を突いた考察を紹介しなくてはなりません。
というのも、情報を先に知って貰うことで以降の内容が理解しやすくなるうえ、他人様の考察から知見を得た事実は早くに表明したほうが、個人的に都合が良いからです。
・判明していること
取り上げさせて頂くのは、YouTubeにて活動をなさっている考察者「FANTASY ACC.」さまの考察動画です。この動画では、分裂した『ハイン』のそれぞれの正体についての言及が為されています。
本記事では詳細を解説するつもりはないため、根拠など詳しく知りたい方は、リンクを踏んで内容を確かめるようしてください。
本動画で語られた結論は、『魔法のハイン』がラスボスであるアルティミシアに相等し、『抜け殻のハイン』が隠しボスであるアルテマウェポンに相等するのではないか、というものでした。
本来一つの生き物であったそれらは分裂し、かたや人間の女性ハインにジャンクションすることで身を隠し、かたや遥か南西の海底遺跡「大海のよどみ」に長いあいだ封印されていたのだろう、と。
動画は、FF8の考察界隈では有名なKiss The Moonさまの「アルティミシアは月の王」にも言及していました。こちらはアルティミシアが「月の涙で飛来するモンスターと同じく月からやって来た」という考察です。Kiss The Moonさまは、他にも魔女と月に関連する多くの考察をブログ上に残されています。
(ブログのリンクは、記事の末尾に掲示させて頂きます)
「月から来た」に関して、個人的に蛇足を付け足すならば、神話「パンドラの箱」に言及したいところです。神話では、箱の中に眠っていた厄災が解き放たれ、その後「エルピス」という概念が箱に取り残されます。エルピスの詳細は一旦省くとして、箱には「エルピス・厄災」という二つの概念が本質的に内包されていることになります。
作中では、ルナティック・パンドラが月のモンスターという厄災を呼び寄せており、また魔女のアデルが箱に残るように描かれていました。この描写からも、魔女とモンスターの由来は同じ場所に、つまり月にあるということが演出面からも導かれます。
以上より、授業で描かれた『ハイン』がアルティミシアに置き換わること、アルティミシアが月にいたこと、そしてアルティミシア分裂後のおおよその顛末が推測できるようになりました。
以降では、これらの考察を前提に本考察を進めます。
・順を追って読み解く
本考察に入ります。記事の書き方として、授業で描かれた歴史の文脈をひとつずつ抜き出しながら推測してゆきます。都度記事をスクロールする必要はないので、安心してください。
「まだ昼と夜が混じりあっていたころ。」
試しに初めの一節を抜き出してみます。この記述は非常に推測がしやすく、地球に昼夜の概念がある理由を想像すれば、意味を読み解くことができます。
私たちが暮らす惑星に昼夜の概念がある理由は、地球が太陽系に所属していて、且つ太陽を中心にして公転しているからです。裏を返せば、太陽のような恒星の重力に引き寄せられない星には公転がなく、またその光を受けることもないため、昼夜が無いことになります。
「混じりあう」という表現は、つまりどちらの概念も存在しないに等しいため、記述は恒星系の外にある星の様子と重なるでしょう。
そしてスコールたちが暮らす星には昼夜の概念が存在していることからも、この記述は作中で強調されていた「月」を描写しているのではないか、と発展してゆきます。つまりFF8で描かれる月とは、星から分裂した従者としての衛星ではなく、舞台となる恒星系の外からやって来た、独立した惑星である可能性が高まるわけです。
元より人間はアルティミシアによって産み出された種族であるため、月の目線に立って神話が語り継がれていたとしても不自然ではありません。
と、このようにして全文を解釈してゆきます。原文は必要に応じて、任意で確認して下さい。
「『ハイン』という存在があった。『ハイン』は大地が生み出した、たくさんのケモノとの戦いに明け暮れていた。『ハイン』は魔法を持っていたので、その力に頼って長い戦いを勝ち抜いた。こうして『ハイン』はこの大地の支配者となった。」
『ハイン』はアルティミシアに置き換わり、上の考察の時系列から「大地」は恒星系に加わる前の月となるため、内容がアルティミシアの月での経験に基づいて描かれていることが分かります。
月がモンスターの発生源であることは作中でも印象深く描かれ、月の涙に周期が存在していることからも「たくさんのケモノ」が絶え間なく湧き続けている情景が目に浮かびます。
一つ注意すべき記述があるとすれば、それはアルティミシアに限らず月のモンスターも魔法を扱える、という事実が神話から省かれていた点でしょう。言うなれば、アルティミシアとは月で産まれた最強のモンスターに変わりなく、差別化できる点は生物としての地力以外には存在しません。
そのため上の記述については、神話の語り手である人間が羨望というフィルタを通して脚色をしていたこと、あくまで相手が創造主であることを踏まえての誇張表現がなされていたことが推測できます。
当時の人間はその羨望から、魔法そのものでなく『魔法のハイン』に数百年も固執していたわけで、反面天才であるオダイン博士はモンスター研究の末に、わずか一代で疑似魔法を確立していますからね。
「『ハイン』は自分のイスに座ったまま、ずっと遠くまで見通したいと思った。ところが『ハイン』のイスの場所からでは山が邪魔で東の海が見えなかった。山を壊してしまおうとしたが、長い戦いで疲れていたので『ハイン』は山を切り崩す道具を作って、それに仕事をさせようと考えた。(中略)。ハインは道具を人間と名づけた。」
ここにきて抽象的な表現が目立ちはじめます。もちろん、内容を鵜呑みにしてはいけません。アルティミシアの正体を隠す目的で、原文ではハインに恭しいほどに『』が付けられていました。ここでも同様に、隠された意図を読み解く必要があります。
記述に違和感を覚えるとすれば、それは「イス」が片仮名表記である点でしょう。表記によって表現をぼかすことは、含意の幅を広げる手段の一つだからです。
まず「イス」の意味をストレートに受け取ってみたとして、地理の側面から1度目のイスが指し示している地点とは、言うまでもなくアルティミシアの留まっていた月でしょう。
つぎに前文で描写されていた「支配者となった」を、とっかかりにしてみます。
支配者である月の王。そして王となった存在が得る象徴的なものとは、その地位を誇示するための玉座に他なりません。つまり「イスに座ったまま」は「支配者としての地位を維持したまま」と解釈できるわけです。
この理屈には、少なからずの違和感を覚えるでしょう。アルティミシアは月の支配者であって、その地位は簡単には揺らがないはず。
ただ、ここまでを理解したうえで原文を読み返すと、あるべき重要な描写が抜け落ちていることに気付くはずです。
それこそが、月の王が物語の舞台となる星に飛来した過程が明文化されていないことです。であるなら、後に続く「ずっと遠く」という表現からは月と星——惑星間の距離が浮かび上がっては来ないでしょうか。つまりアルティミシアが月からやって来たのは、このタイミングなのではないかと。
そして、異なる星に飛来したことによって、支配者としての地位が揺らぐ理由なんてものは数えるほどです。
アルティミシアが星に飛来した地点(2度目のイス)からでは、山が邪魔で東の海が見えなかった。この「山」と表現されるものこそ、アルティミシアから産み出された人間とは根本的に異なる、先史文明と原生人類の存在を示唆しています。
人間とは、先史文明を滅ぼすために産み出された、野蛮な道具に過ぎなかったのです。
「人間は数を増やしながら山を切り崩していった。全部の作業が終わったあと、人間はつぎに何をしたらいいのか『ハイン』に聞きにいった。しかし『ハイン』は疲れてぐっすり眠っていた。仕方がないので人間は勝手に大地を作り変えていった。」
星に来て間も無く眠り始めているいることからも、アルティミシアが月を脱出した理由とはまさに、モンスターとの争いに疲れ果て嫌気が刺したことにあるのでしょう。言い得て妙ですが、月の環境は天然の蠱毒のようなものです。疲れは結果ではなく、動機足りえます。
一方で人間は「全部の作業が終わった」ようで、先史文明は滅び去り、地上の覇者として生を謳歌していたようです。
ここにきて、果たして僅か一文で省略されてしまうような文明が存在するのか疑念が残るでしょう。拡大解釈と受け取られても無理はない現状ですが、しかし、先史文明は確かに存在しています。それを証明するために、冒頭で述べた4000年という期間は用意されているのです。
それは4000年前に誕生し1000年前に忽然と姿を消した、セントラを中心に栄えた文明。世界のあらゆる場所で、その痕跡を確認することができる「セントラ文明」こそが滅ぼされた先史文明、星の原生人類にあたります。
・セントラ文明と、その行方
アルティミシアの話は一旦おしまいです。授業の内容と紹介した動画を見ることで、十分な理解を得られるでしょうから。
ここからは、アルティミシアによって滅ぼされた謎の文明の真相に迫ってゆきます。件のセントラ文明への理解を深めるためにも、まずは作中におけるセントラに関連する情報を一度振り返ってみましょう。
(上の画像で「100年以上も前」と表記されている部分について、間違ってこそいませんが、これは本来「1000年」と書かれるはずだった表記ミスです。少なくとも500年前には人間の文明が発展していたとの記載が資料集にあるので、滅亡したのはそれ以前になります。)
作品で提示されている千年単位の歴史は、4000年前と1000年前の二つのみです。文明の興りと月の涙による被害が同時に起こるはずはありませんし、100年間は文明が入れ替わるスパンとしては短すぎます。
そのため1000年前に、月の王は星に飛来したと考えるのが現実的と言えます。セントラ文明とは、アルティミシアと大石柱を擁した月の涙が直撃するまでの3000年間、星の原生人類として高度に文明を発達させていた種族でした。
そしてセントラ人は最終的に、私たちの良く知る「ガーデン」をシェルターとして用いて、世界中に散らばって行ったようです。
画像の赤の丸がアルティミシアと関係のある地域(セントラクレーター、大海のよどみ)。黄色の丸が、それぞれのガーデンの位置です。
見ての通り、ガーデンは北半球に集中しており、また相対的に見て北東方面へと移動していることが分かります。これは授業で語られた、アルティミシアが東の海を見たがっていたことと重なります。
そして、先に結論から述べてしまいますが、実のところセントラ人は作中にはっきりと登場しています。地図を見て、察しの良い方は既にその正体に気づいていることでしょう。
セントラ人とは、シュミ族です。人間とは異なる容姿を持ちながら、その出生が明かされることのなかったシュミ族こそが、星の原生人類にあたります。
根拠を提示してゆきます。
まずセントラ人は、シェルターとして移動可能なガーデンを作り出しています。しかしシェルターの本来の役割とは、文字通り地下へと避難すること。シュミ族の村も、近未来的な構造物の地下に築かれていました。
そしてガーデン同様、シュミ族のシェルターは北半球にあり、セントラから最も離れた場所に位置しています。
シュミ族であるマスター・ノーグも、バラム・ガーデンの最下層で生活していました。
ノーグの名前の由来と考えられる、ケルト神話が神話物語群の『ティル・ナ・ノーグ(常若の国)』では、ミレー族に敗北したことで地下に追いやられたダナーン族の物語が語られます。ダナーン族は後に妖精へと変化しており、これはシュミ族がムンバに変化することと符合します。
このように「シュミ族・地下・シェルター」は切っても離せない関係にあります。
またゲーム内の説明では、セントラ文明が「神聖ドール帝国」と「エスタ」の母体になったとの記載があります。
この時、二つの国が現状において人間の支配する地域となっていること、特にエスタは当時のままに現存していることからも疑問が生じるでしょう。先史文明は人間の手によって滅ぼされたと、少し前に考察したばかりなのですから。
本来であれば異種族の国など解体されるはずです。けれども実際には、シュミ族と国家は共に存続していて、広くは認知されずとも人間とシュミ族の関係は良好な状態にあると見えます。
なぜ因果関係にこうした不可解さが残るのか。疑問は、シュミ族をより深く知ることで解けていきます。
まず、精神面において、シュミ族は非常に内向的です。
彼らは「不自由の中にあってこそ生きる意味を見出せる」という思想を持ち、その上で人間との外交関係に線引きをしています。けれども同時に、シュミ族には転がり込んできた人間の怪我人を看病する親切さや、趣味である物作りの輪を外の世界まで広げようとする融和的な側面も見られます。
身体能力については著しく低いことが窺えます。村の工房にて「はー、いそがしいそがし」と愚痴をこぼしながら資材を運んでいたシュミ族の足並みは、台詞に反して鈍重でした。種族全体を通しておおらかで、喧嘩なんてしようものなら人間の子供にすら負けてしまいそうです。
加えて、彼らの精神性は競争主義の中に身を置くものとも異なるため、科学技術は発達していても、武力はそれに比肩しないことが推測できます。
全体を通して、彼らは非常に争いには向いていない種族と言えるでしょう。
争いには向かず、けれども月の涙を予期してシェルターを造るほどに知性の高いシュミ族ならば、人間との戦争は避けるよう行動したはずです。そして彼らには、人間と争うことなく、築き上げたドールやエスタといった国家を失わないで済む方法が一つだけ残されていました。
彼らは一定の年齢に達すると、長老になる者を除いて、異なる姿へと変化します。
どのような姿に変化するかは、周囲の環境と当時の精神状態に依存するようで、生命の危機を前に、脅威たる人間に成り変わることで淘汰を回避したとすれば筋が通ります。
作中でも、シュミ族が人間になれる可能性について言及されていましたね。
また、シュミ族もといセントラ人の文化的影響は地理に如実に表れています。
赤い円で囲まれた、よりセントラに近い地域に該当するエスタとティンバー、加えて分裂した片割れの色が残るドールでは、技術や芸術を担う作り手の心が息づいています。
一方でオレンジの円で囲まれたガルバディア、バラム、トラビアはガーデンの存在もあってか、そうした技術が都市に還元されていません。ガルバディアは軍事力こそありますが、それらはシュミ族に由来しないことが上記の考察からも推測できます。
数ある地域の中でも最も影響が現れているのが、セントラの技術を衰えながらも直に受け継いでいる「エスタ」でしょう。彼らの技術力は、セントラ文明の技術を再現できるほどに真に迫っています。
また、そこに暮らす人々の服装からもシュミ族の特徴が露見しています。
シュミ族の風習として、物作りの命とも言える「手」は何よりも尊いものです。特に地位と実力を兼ね備えたツクリテの手は、易々と他人に見せていい物ではありません。エスタの独特な服装も、他者に手のひらを見せびらかさないように袖が長く設定されています。
以上のことから、セントラ人は決して淘汰されたわけではなく、姿を変えて同化していったことが想像できます。姿を変えられない長老と一緒になって北方に移った一部のセントラ人を除き、そのほとんどは人間へと変体したのでしょう。
そして倒すべき相手がいなくなれば、人間たちは「仕事を終えた」ことになります。被害が少なかったことは種族間の怨恨を最小に抑え、それどころか、1000年にも満たない人間文明の技術を現代レベルまで押し上げるのに一役買ったのでしょう。
目を覚ましたアルティミシアが、その人口に驚いていたことも当然と言えますね。なにせ引き算をしたつもりが、足し算してしまっていたのですから。
こうして人間文明の土台は築かれました。アルティミシアは原生人類を侮り、次に人間を侮って二度の憂き目に遭ったことになります。
FF8の世界史には、4000年の積み重ねを武器に、ラスボスに牙を向けるだけの逞しさが存在しているのかもしれません。
・余談
アルテマウェポンが眠る「大海のよどみ」には、神聖ドール帝国の名残があります。
人間はアルティミシアによる創造物なので、信仰の対象は魔女の特徴でもある有翼人の形をとっています。
また、争いに勝利し『抜け殻のハイン』を手に入れた黒耳王ゼパルガは、神聖ドール帝国が支配した大陸の「名もなき王の墓」に眠っていることが推測できます。
「人間たちは『ハイン』の力が半分になれば、あまり恐くないと考えたので、その取引に応じた。」
アルテマウェポンは争奪戦の勝利者によって、しっかりと管理されていたわけです。
また、人間は有翼人を信仰の対象に選んでいますが、セントラ人は異なっていたようです。
セントラの遺跡や各ガーデンでは、ガーゴイル像が確認できます。像はガーゴイル本来の雨樋としての機能を有してはおらず、それぞれが屋上とエントランスにあることから「悪いものを寄せ付けない」といった魔除け目的で設置されていることが予想できます。
同じ有翼の像を作っても、その目的が種族レベルで根本的に違うのです。
セントラの遺跡が作られた目的については不明なままですが……この建造物には名前が与えられています。
「My Blue Heaven」は1927年にアメリカの歌手、Gene Austinによって発表された楽曲です。以下にその歌詞の一部と、作品に照らし合わせた意訳を載せておきます。
魔女とは
魔女とは、哲学者テムによって500年前に命名された、アルティミシアの魔法の力を受け継いだ人間の総称です。
500年を経たことで、正確な研究結果が出ていますね。
『魔法のハイン』もといアルティミシアは、人間から身を守るために隠れる必要がありました。そして安全のためにも、当時としては保護の対象であった女性の姿を借りています。また力を与えられて魔女にされた人間も、強力な魔法が恐れられたためか、そのほとんどが身を隠すことを選んでいたようです。
一方で1000年を経た本編では、こうした魔女に対する執着や恐怖も薄らいでいるようで、男性であるアデルにも魔女の力は継承されています。
作中にて名前が登場したのは「最初の魔女ハイン」「魔女戦争の魔女アデル」「ガルバディアの魔女イデア」「ヒロインである魔女リノア」の4名であり、判明している容姿のどれもが堕天使バラムの特徴を有しています。
「過去と現在と未来」は、アルティミシアの目的である時間圧縮に。
「人を不可視にさせる」は、人格の乗っ取りに。
「堕天」は、オープニングでのリノアの翼が黒色であったことに符合します。
・魔女の力の継承
魔女の力の継承方法には、3つのパターンが存在しています。
魔女となった人間自身の意志で、力が継承されるパターン。
魔女が倒された際に、近くにいる適合者へと自動的に力が継承されるパターン。イデアが倒され、リノアが力を継承した際の方法ですね。
アルティミシアによって力が意図的に分散されるパターン。
人間は力の継承後に魔法を使えなくなることが、イデアのステータスからも判明しています。これに対して魔女は複数人いるため、意図的に力を分散できるのは元凶であるアルティミシアだけだと分かります。
方法とは別に、魔女の力が継承されることの意義についても言及しましょう。これにはアルティミシアと人間、それぞれの立場にたって、継承の長所と短所を推測していく必要があります。
アルティミシアにとっての長所は、意識の転移先を複数用意できる点にあるはずです。ルナサイド・ベースでは、魔女リノアに憑依していたアルティミシアが、制限なく魔女アデルへと乗り移る様子が描かれていました。継承者の意識を転々とできることは、アルティミシアの当初の目的が「逃げ隠れ」であったことからも長所と言えるでしょう。
アルティミシアにっとての短所とは、継承の結果として魔女の力が分散され、本来の力量を発揮できなくなることにあるはずです。根拠は単純で、時間圧縮の中で見た歴々の魔女の外見からも、有限の力を程度で分散していることが想像できるからです。これなら、魔女戦とラスボス戦で力量に差があった理由も補完できます。
人間にとっての一長一短は同じ要因にあって、他者を死ねない魔女にしてしまう短所と、継承を行うことで自身が死を迎えられる長所にあります。
(魔法の行使も長所と捉えられますが、作中には世襲制の魔女の国が登場しないので、継承の理由として不十分です。)
まとめると、アルティミシアは意識の転移先として魔法の力を複数人に継承できて、人間は死にたい一心で継承を行い且つ力を分散できない、ということになります。
力の移動を数字で表すと「10→2+3+5」のように分けるアルティミシアと、「2→2」の人間の違いです。
・G.F.とは
私たちは既に、アルティミシアがモンスターと同じく月から飛来したことを知っています。またオダイン博士は、モンスター研究の末にG.F.を発見したようです。
それぞれを比較すると、アルティミシアがジャンクションした魔女は魔法が使えて、G.F.がジャンクションした人間も魔法が使えています(擬似魔法はモンスターからドローできるため、効果は純粋な魔法と変わらない)。
またアルティミシアから分裂した『抜け殻のハイン』は魔法を扱えないようですが、モンスターにも全くと言っていいほど魔法を使わないものが多くいました。
ここで一度、アルティミシアがグリーヴァや魔女リノアに、ジャンクションしていた際のことを思い出してください。
それぞれ体の一部にぽっかりと虚が出来て、中から何かが覗いています。これはジャンクションの特徴で、内側が外側の存在を利用していることを表現しています。この特徴を覚えていて下さい。
比較に戻ります。
G.F.は人間の意識に常駐場所を作るようで、結果としてその対象の記憶を奪っています。そしてアルティミシアも、その意識というより、正確には自律エネルギー体の転移先として、人間の内側に常駐場所を設けていることが視認できます。
また魔女になる人間は、キャパシティと相性によって選ばれる、とチュートリアルには記載されていました。ここで重要なのは、人間には意識の受け皿に容量があるという点です。
であるなら、スコールたちが独立した意識を持つG.F.を使いこなせる理由も、キャパシティの占有率が低く止まっているからだとは考えられないでしょうか。少なくとも「魔女は力の拡散を避けている」とチュートリアルでは説明されていました。
なぜか。それはキャパシティを一定量占有していないと、対象の意識を奪うことが出来なくなるからに違いないでしょう。
だとすれば「G.F.の真の恐ろしさ」とは、まさに……。
・時間圧縮とアルティミシアの死
アルティミシアの力の全貌が判明しつつあります。彼女がG.F.の恐ろしさを知っていた理由も、当然と言えば当然なわけです。
ここで魔女の項目の締めとして、彼女が行使した最大魔法の一つ「時間圧縮」について簡単にまとめてしまいましょう。
資料によると、時間は過去を起点にして圧縮されているようです。そして最終的にアルティミシアがいる未来へと辿り着く。
記述はとても素直なもので、ゲーム内で使える時間魔法を思い出せば、容易に仕掛けが解けてしまいます。
アビリティ「時空魔法精製」で生み出せる魔法の内、時間魔法に該当するものは「ストップ・ヘイスト・スロウ」の3つです。これを上記の説明の通り当てはめると、以下の図のようになります。
より遠い過去ほど速く、より未来に近い現在ほど遅く、そうして時間を調節した先にある未来の終着点では時間を止めてしまう。時間は圧縮される。
特別な魔法を使っていたわけでもなく、それぞれの時代に点在するアルティミシアが、シンプルな魔法を最大限の出力で扱った結果が、効果として現れていたんですね。
そして時間は限りなく点に近い一瞬へと圧縮されます。これは時間という概念が、ほとんど無くなってしまうことに等しいと考えて良いでしょう。
残る概念は「空間」のみ。同じ人物は同じ空間に、一人しか存在できません。
アルティミシアに「すべての時代の魔女の力が合わさって」いることは、時間圧縮の世界で歴々の魔女が倒されたことによる「魔女が倒された際に起きる力の自動継承」が済んでいるからだと理解できます。
そしてラストバトルにおいて、アルティミシアの付近にいた魔女はリノアのみでした。加えて、有名なリノア=アルティミシア説を踏襲すると、アルティミシアは既に未来のリノアにジャンクションしていることになります。
同じ空間に同じ人物は一人しか存在できませんから、全ての力を持ち合わせたアルティミシアが倒されたあとの転移先は、リノア以外の継承者であるべきで……そして時間の終着点には該当する人物が存在しませんでした。
そうです。
ループものと囁かれて久しい本作は、エンディングに辿り着いた時点で円環の脱出に成功していたのです。アルティミシアは確かにあの瞬間、死んでいました。
——少なくとも、この時間軸では。
・休題
少し記事が長引いてしまいました。読み疲れてしまったでしょうか。ただ申し訳ないことに、考察はやっと前座が終わった段階です。『FINAL FANTASY VIII』の核心については、以降の項目で触れてゆきます。
そのため、ここで改めて忠告させて下さい。
もし記事を読み進められた方で、未だゲームをプレイしていない方がいたなら、押し付けがましいのは百も承知ですが、一度ご自身の手でクリアをしてから先を読んで頂きたいです。「他人のプレイ動画を見ました」では不十分で、自身の体験と結びつかないままにこの先を知ってしまうことは、本作を楽しむ上での損失です。
これは布教目的などではなく、まったくの良心です。どうか騙されて下さい。
続けます。
エルオーネの力の真実
・エルオーネとは
愛称はエル。出身は、花畑の広がる田舎町ウィンヒル。
父母と一人娘の小さくも幸せな家庭は、アデルによる魔女戦争の災禍に曝されて泡沫と消えます。突如として襲いかかったエスタ兵の銃撃に、為す術もなく両親は他界。
のちに町へと流れついたラグナおじさんと、隣人であったレインに保護され、新しい家族の愛を受けて彼女は健やかに成長してゆきます。銃撃の痕が残る実家に、ラグナの目覚ましのためだけに赴けるほどには、彼女は幸せの中にありました。
そんな彼女は間もなくして、魔女アデルの後継者探しによって二度目の不幸に見舞われます。後継者として攫われたエルオーネは、彼女が元来に持ち合わせていた謎の力を見出され、ラグナに救出されるまでオダインの研究対象として扱われていました。
作中を通して、彼女は特有の力を持ったことで追われ続ける立場にありました。
エスタの魔女アデル、ガルバディアの魔女イデア、そしてサイファー。全ては彼女の力を求める未来のアルティミシアによって仕組まれていたことが判明しています。
そして、そんな彼女の力の正体は作中で明かされることのないまま、物語はエンディングを迎えてしまいます。これには多くのプレイヤーが頭を悩ませたことでしょう。
エルオーネは魔女だったのか。
いいえ、違います。継承者ならば、未来のアルティミシアによって直接ジャンクションされています。ジャンクションが可能ならば時間を超えて居場所が分かるため、捜索はされません。
そもそも彼女の力は合理的に説明できるものなのか。
確証を得るためにも、まずは彼女の力の輪郭をはっきりさせる必要があります。作中の描写から、能力の性質を具体化してゆきましょう。
・過去を見る力
どうやら、能力については彼女自身も説明できないようです。さっそく壁にぶつかった感じを覚えますが、気にせず先に進みましょう。
能力の名前は「接続」。
効果は、人の意識を過去に送ることであり、過去に送れるのは面識のある人物のみ。また接続の際、同伴するようにして、彼女自身も接続先の人物の過去へと飛ぶようです。本人も能力を上手く説明できず、力をコントロールできていないことが台詞からは読み取れます。
(因みに、なぜこのタイミングでエルオーネが眠っていたかというと、宇宙のルナサイド・ベースに向かうカプセルの中で冷凍睡眠していたからだと予想されます。…どうでもいいですね。)
さて「接続」と言われると、なにかピンとくるものがありますね。
そう「ジャンクション」です。junctionは「連結、接合」を意味します。未来でオダインが生み出すことになるJ.M.E(ジャンクション・マシーン・エルオーネ)も、その能力がジャンクションに近しいものであると間接的に評しています。
そして「接続」と「接合」は、人の意識に干渉している点でも一致しています。
比較のためにも、各能力の要素を抜き出してみましょう。
正反対と表現するべきでしょう。
照らし合わせると、彼女の能力は他者の記憶を奪うことなく、むしろ過去を想起させ、生身によって行使されていることが分かります。ただ、能力が真逆であると判明したところで、何かを証明するには不十分であることも事実です。
実のところ、上記の能力だけではエルオーネの力の全容は掴めません。
というのも作中では、過去を見る能力とは異なる、第二の能力の存在が仄めかされているからです。見落としがちですが、ある場面においてその性質が確認できます。
どうして彼女はそのようなことが分かるのでしょう。
この時点の彼女は、誰も過去に送っていないはずなのに。
「他者の思考を読み取る力」
それこそが、エルオーネが持つ第二の能力です。
1つが、認知している他者の過去を見る力。
1つが、他者の思考を読み取る力。
そして、それは生身の「人間」によって行使されている。
もうお気づきですね。
もう一度この画像を見て下さい。深く窪んだ虚の中に「あなた」はいったい何が見えますか?
・作られた世界
未だに納得のいかない方もいるでしょう。
なにせ、もしもFF8が本当の意味でゲームの中の物語に過ぎなかったのだとしたら、彼らの葛藤すらたちまち陳腐になりかねませんから。
しかし、私たちはゲームをプレイする過程で、既に違和感を抱いていたはずです。
思い出して下さい。
森のフクロウとの作戦が失敗し、次の作戦をティンバーで考えていた頃を。17年ぶりの電波放送が始まる直前、電波障害でノイズを発するモニターの前で、スコールとリノアは喧嘩別れをしていました。
やがて放送が始まり、キスティスとサイファーによる別動隊がデリング大統領を襲撃、直後にティンバー班が呼び出され、スコールたちはTV局へと駆け出して——。
突如として、砂嵐が画面を覆いました。
若い世代には伝わらないかも知れませんが、FF8が発売された当時は液晶型ではない、ブラウン管と呼ばれるテレビが普及していました。そしてブラウン管では、映像を受信していないチャンネルに切り替えた際に、こうした「砂嵐」が一面に映し出されていたのです。
直後に映像が飛んで、私たちは何事もなかったかのように、スコールたちが襲撃班の元に「着いたあと」のドラマを見せられます。
さて、本項はエルオーネの能力を解明する章であり、そんな彼女の力について、いまだ言及していないことが1つだけありました。
それは彼女の能力には、1つの欠点が存在しているということです。
ルナサイド・ベースが月の涙により崩壊し、一行が脱出ポッドに乗ってこれを逃れた際、スコールは宇宙空間へと放り出されたリノアを助けたい一心で、エルオーネに接続を願い出ました。
そして過去を見る能力のもと、スコールは魔女イデアが倒された瞬間のリノアへと飛ばされ、そこで魔女の力を継承したばかりのリノアに、アルティミシアが「接続」していたことを知ります。
スコールが現在に引き戻されると、エルオーネは体勢を崩しており、苦しそうにしながらこう聞いてきます。
彼女は接続した人間の過去を見ることができる、にも関わらず、このような疑問を投げかけていました。まるで、自分は何も見ていなかったとでも言うように。
ここで改めて、彼女の能力を表記してみましょう。
エルオーネ → 知人A to 知人Bの過去
であり、この場合は
エルオーネ → スコール to リノアの過去
となります。
そして、この瞬間にリノアに接続していたのは、スコールだけではありませんでした。
エルオーネ → スコール to リノアの過去
J.M.E → アルティミシア to リノアの過去
これが正しい状態です。
もしも、知人Bが複数の人物から同時に「接続」された際に、「混線」を起こすのだとしたらどうでしょう。それが砂嵐の瞬間にも起こっていて、私たちがゲーム機を通してスコールに「接続」していた際に、同様に何者かによってスコールが「接続」されていたのだとしたら。
ゲーム機 → プレイヤー to スコール
J.M.E → ??? to スコール
電波障害は17年前にはじまり、その原因が魔女アデルのパッキングにあったことから、私たちはこの文字列をアデルが発しているかのように、長らく勘違いしていました。
しかしオープニングの映像で流れた文字列が英語表記であったことを思い出して下さい。
これはスコールとリノアが、いつかのループで交わした会話であるという主張が通説となっています。
そして電波障害で文字が表示されたのは、2人が喧嘩別れをする少し前。
未来のアルティミシアから人格を奪い返し、薄れる記憶の中で、最愛の人を思い出そうとJ.M.Eから接続してきた彼女の言葉は、しかしスコールに届くことはありませんでした。
0と1な彼ら
・ゲームの都合を優先します
ガルバディア・ガーデンのドドンナに騙されて、魔女暗殺計画に駆り出されたスコールは、作戦を実行に移すも魔女イデアに襲撃を悟られ、呆気なく返り討ちに遭いました。右胸を深々と穿った氷魔法は、そのままスコールの背骨を砕いて体を貫きます。
しかし昏倒から目を覚ました頃には目立った外傷もなく、スコール自身その異様さに困惑を隠せずにいました。あれは錯覚でもなく、確かに致命傷であったはずなのにと。
この場面、違和感を抱いた方も多いはずです。シナリオの改変を疑うのも無理はないでしょう。ただ、私たちは既に一つの視点を得ているので、この疑問についても考察の余地が生まれています。
2度目のラグナ編において、いじわるな先輩エリート兵の命令により、ラグナ部隊はセントラくんだりまで単独偵察へと向かわされていました。
この時のラグナは「なんか嫌な予感がする」と珍しく直感を当てており、エスタ兵蔓延る大石柱の偵察は、精鋭とはいえ少数すぎるラグナ部隊を死の淵にまで追いやります。
キロスとウォードが先に倒れ、ラグナは2人を担いで海へ投げ込むと、崖下のボートを目指してとくべつ情けなく落下して……。
ここで重要なのは、そうした事の顛末ではなく、キロスとウォードが大ダメージを負わされることになったエスタ兵が倒れぎわに放つ技「ソウルクラッシュ」です。
その効果は、例えキャラクターの体力が満タンであったとしても、HPを”1”にまで削られてしまうというご都合主義そのもの。プレイヤーですら、これには為す術がありませんでした。
そして、このときラグナたちに接続していたメンバーは「スコール・セルフィ・キスティス」の3人でした。さっそく意識を取り戻したばかりの、彼らのステータスを見てみましょう。
引き継いでいますね。
ゲームとしては至って問題ありませんが、しかし物語としては不自然極まりない待遇を受けていると言えます。なにせ夢を見ただけで、死にかけているのですから。
これが罷り通るというなら、その逆もあり得るはずです。
魔女イデアの魔法で死にかけていたスコールも、直後に過去のラグナへと接続されています。そしてラグナ編が無事に終わると、目を覚ましたスコールも万全の状態で復活していました。ゲームシステムに命を救われたなんて信じがたいですが、この場面はそうでもしないと説明がつかないでしょう。
第四の壁を意識させるための、ゲームならではのトリックは、現代ですら先鋭的に映ります。
・もしもこれがゲームなら
作品には他にも、この世界が作られたゲームであることを示唆する情報が散らばっています。
例えば、オダインはエルオーネを研究した際に「脳を流れる微電流を解析した」と述べています。当初はシナプスを行き交う電気信号のことを表しているように思えましたが、作品が電子上の世界を描いているのなら全ては電流から解析する他ありませんね。
例えば、アルティミシアによって生み出されたG.F.グリーヴァが放つ最強の技がショックウェーブパルサー(電磁衝撃波)であることや、彼女がわざわざ「時間圧縮のアルゴリズム(作業手順)の中に溶け込むがいい!」と独特な言い回しをしたことも腑に落ちます。
アルティミシアが倒された時だって…。
また、作品世界には絶対に映るべきでないものが映ることも。
もしもこれがゲームなら、当然”バグ”だってあるでしょう。エルオーネが、プレイヤーである私たちと同じ力を持っていることにも、そうして説明付けができます。
作品世界からイデア(idea)として想起(anamnesis)される立場にある我々と、それに等しい神(El)の力を与えられた、孤独(lone)な似姿(eikon)のエルオーネ。
おや?この場合、予定調和ということなのでしょうか。
アルティミシアの目的
再び彼女を掘り下げる機会がやってきました。果てある未来で私たちを待ち受けていた、彼女の真の目的とは何だったのでしょうか。
・最初のループ
アルティミシアとは。
月の王であり、最強のモンスターであり、人間の母。侵略者として舞台となる恒星系の外からやってきた経緯を持ち、二度の失態を経て星における覇権争いに敗れた惨めな生き物です。当たり前のように人間の子供を殺していたことからも、共感とは程遠い存在として映ります。
本編においても、他者を一方的に乗っ取り、その記憶や人格を踏み台にして「過ぎたはずの時間」「起きたはずの物語」を無かったことにする時間圧縮を発動するなど悪役としての立ち回りを貫いていました。
しかし、ただの悪者で終わってしまっては退屈でしょう。その目的が伏せられているからこそ、彼女が悪役に至るまでの物語には、それに見合うだけの納得の余地が残されているはずです。
例えば、彼女は人間に半身を与えた時点で戦意を失っていました。そんな彼女が、どうして我々の前にラスボスとして立ちはだかることになったのでしょうか。
「困った『ハイン』は人間たちと取引をした。自分の半身とその力を与えよう、と。人間たちは『ハイン』の力が半分になれば、あまり恐くないと考えたので、その取引に応じた。
『ハイン』は自分の身体を半分に切り裂き、半分を人間に差し出した。これで『ハイン』にとっても人間にとっても穏やかな日がくるはずだった。」
彼女はアルテマウェポンを人間に譲渡した時点で戦意喪失していました。アルティミシアは「穏やかな日」がくることを望んでいたのです。
G.F.が土地にジャンクションして私たちを待ち構えていたように、彼女も自律エネルギー体として、独立して生きていくことが出来ました。それが他者を支配すること以外で彼女が初めて選んだ、ささやかな幸せでした。
しかし事態は悪い方へと向かってゆきます。
「人間たちは『ハイン』の力の半分とは、当然、神秘の力である魔法の半分だと思っていたが、『ハインの半身』は『抜け殻のハイン』だったのだ。その話を聞いたゼパルガ一族は怒った。約束を破った『ハイン』を今度こそ倒そうと考えた。」
約束の内容を一方的に曲解した人間によって、アルティミシアは追われる身となってしまったのです。当然、一処に留まることなど出来ない彼女は、移動可能であり保護の対象でもあった人間の女性にジャンクションせざるを得なくなります。
複数の人間に魔女の力を継承することで、可能な限りの逃げ場を作りながら、ただ穏やかに暮らすために。
彼女の苦難は続きます。
作中では「騎士のいない魔女は悪い魔女になる」という話がしばしば語られてきました。騎士のいない魔女アデルも「力を自分の欲望のために利用することをためらわない魔女」とイデアによって評されています。
同様にして、当時もアルティミシアに乗っ取られていない魔女の中から、そうした悪い魔女が生まれていただろうことが想像できます。人々に恐怖される魔女の存在は、良い魔女と、そして魔女を乗っ取ることで安寧を築いていたアルティミシアの肩身を狭めたことでしょう。
アルティミシアが悪い魔女に該当しないことは、以下の台詞からも読み取れます。
ただ平穏を欲していた。たったそれだけの願いすら思い通りにならない彼女の心中は、ままならないものだったでしょう。
しかしそうした苦境にあっても、最初のループにおける彼女は、平穏という目的のためだけに粛々と生きていたはずです。目立ったことはせず、できるだけ他者に疎まれないように生きてゆく。人間に殺されるくらいなら、そうした不満も甘んじて受け入れようと。
けれども、世界はそれすら許しませんでした。
これはゲームであって、電子上の世界の出来事。オープニングがあってエンディングがあるように、ゲームには容量があって、決められた終わりが用意されています。
スコールたちが、時間圧縮の世界を未来へ進んだ果てに辿り着いた終着点において、その足場は酷く心許ないものでした。
——その瞬間、世界は崩壊を始めたのです。
・アルティミシアの動機
これには、流石のアルティミシアも動揺したことでしょう。わけも分からぬまま、世界から色も形も失われる。見慣れた光景が、ありふれた常識が音を立てて崩れてゆく。一寸先が文字通り闇に吸い込まれるなんて酷い冗談です。
彼女も否応なしに、その身の死を悟ったはずです。
しかし彼女は、残酷な結末を前に黙って俯くような存在ではありませんでした。アルティミシアは月の王。か弱い人間が足をすくませて恐怖に打ち震えるとなりで、彼女の心を埋め尽くしたのは、まったく別の感情でした。
それは怒り。沸々と湧いて止まない、心の底からの憤り。
なぜ約束を守ったのに、命を狙われたのか。
なぜ平穏を求めたのに、人間の汚い欲望のために安寧を奪われたのか。
なぜ世界は「ただ生きていたい」というささやかな願いすら、我が物顔で否定するのか。
その全てが、始めから決まりきった運命だとでも言うように!!
彼女は魔女でもあり、オダインとの繋がりがあったのかJ.M.Eの存在を認識していました。
J.M.Eに登録された過去の魔女へ「接続」できれば、時間を圧縮して、過去を未来まで引っ張ってくることができる。そして限りなく圧縮された未来の一瞬で、つまり同じ空間において過去の魔女へと「接合」できれば、圧縮を解除し時間が正しく紐解かれたあとの過去へ、エネルギー体である自分も飛び立てる。
——私は、生きていられる。
はじめは、それほど遠い過去へは飛べなかったことでしょう。時間の猶予はなかったはずですから。
しかしアルティミシアは、J.M.Eに元となる少女がいたことをループで知ります。
——これで更に遠い過去へと飛べる。今が続けば未来なんて必要ない。
次はもっと入念に準備しよう、命がかかっているのだ。時間をかけて丁寧に。エルオーネを捕まえて幽閉できれば何より。ふたたび未来に辿りついたあとでも居場所を見失わないで済む。
何度も、何度も、何度でも何度だって——巻き戻して、生きてやる。
たとえ決められた役割を与えられていたのだとしても、
それが誰かの悲劇の幕開けだったとしても、
未来永劫舞い続けよう、恐怖をもたらす魔女として——
・ファイナルファンタジー
こうして世界はループに囚われました。
同じような出来事が幾千回も繰り返される世界で、彼女はループの度に過去を改変します。より遠くへ、より確実に戻って来られるように。
過去改変。それは本来、死にゆくレインの元へラグナを連れ戻せなかった、エルオーネが望んで止まなかった力です。
当初はこのような想いを抱いていた彼女ですが、物語の終盤において、彼女の過去への向き合い方は変化していました。
ゲームを通して、キャラクターたちは最後まで過去を変えることは出来ませんでしたが、未来は変化しています。最終的にはアルティミシアは倒されて、物語は永遠を抜け出しています。
どうして未来は変化したのか。それは私たちが「接続」したことにより、ゲームがクリアされたからに違いないでしょう。
アルティミシアが過去を変えたように、私たちには未来を変える力があったんだ。諦めることなくゲームを最後までプレイして、にっくきアルティミシアを倒したことで大団円。謎は残ったままだけど、なんだか皆んな笑顔だし、ハッピーエンドで良かったね。じゃあゲームは押入れに仕舞っておくね。
…………。
それ、本当にハッピーエンドですか?
「ULTIMANIA」のシナリオ攻略チャートには、そこでしか確認することのできないキャラクターの心理描写等の追加情報が掲載されています。
その最後の情報として掲載されたものが、エンディング後のガーデンで共有された、セルフィが更新していたブログの内容でした。
なぜ、よりにもよって魔女でもないセルフィが、アルティミシアの目的に共感できてしまうのか。
私たちはゲームをクリアしました。
……クリア……してしまいました。
ゲームが終われば次のゲーム。
飽きたら忘れて次の趣味。
何も、何も間違ってはいません。
けれども『FINAL FANTASY VIII』は、ただのゲームじゃなかった。
本作においてエンディングを迎えることは、アルティミシアの生命を奪ってしまうということ。未来を確定して、世界の先が無くなるということ。
それはつまり、私たちが愛したキャラクターたちの、その先すら——
この物語に、甘美な幻想に、終止符を打つこと。
そうです、それこそが——
エンディングの解釈
物語はハッピーエンドだったのか、そうではなかったのか。
結論をつける前に、エンディングについての解釈を済ませておきましょう。
・目的地へと
私たちは苦戦の末に、アルティミシアを倒しました。今となっては無闇に悦べませんが、それでもキャラクターたちにとってみれば、ループから解放れたことに変わりはありません。
そうして彼らは白で埋め尽くされた、解かれはじめた時間の中へ辿り着きます。
最後の作戦を開始する前、メンバーはラグナから「仲間と一緒にいるところを一番思い浮かべやすい場所」を思い出すよう言いつけられていました。彼らも時間の歪みに落ちないように、必死に思い浮かべます。
幼い頃に仲間と共に過ごした孤児院を、最愛の人と約束を交わしたグッドホープの神殿を。
しかし、そこにスコールは居ませんでした。
彼はただ一人だけ、黒く染まり切った時間の歪みへと迷い込んでしまっていたのです。帰路を見失ったスコールは、何度仲間の名前を叫んでも、必死に約束の場所を思い浮かべてもひとりぼっちのままでした。誰かに声が届く気配もなく、聞こえてくるのは早まる鼓動の音だけ。
やがて時間の歪みから吐き出されるようにして、気づくと彼は13年前のイデアの孤児院にいました。
どこで何を間違えてしまったのか。スコールは13年前の孤児院で、衝撃的な光景を目の当たりにします。
それはスコールと同じように、未来からやってきた魔女の姿。13年前のママせんせいに未来の魔女が力を継承しにやってきた、まさにその瞬間でした。
スコールは魔女の前に立ちはだかりますが、しかしママせんせいはそれを制止します。自分が魔女の力を引き継ぎさえすれば、孤児院の子供たちは守られる。それならと。
アルティミシアの死を以て確定した過去で、力の継承は滞りなく終えられ、魔女は消えてゆきます。そしてスコールはママせんせいと短い言葉を交わしたのちに、気まぐれな世界によって再び時間の歪みへと飲み込まれてゆくのでした。
・もう1人のリノア
エンディングを解釈するにあたって最も重要な点とは、オープニングで描かれたリノアの扱いについてです。漆黒の翼の中から現れ、タイトルアートでは爪を尖らせて描かれたリノアは、一つ前のループを生きていたと目されています。
彼女の特徴としては、本編のリノアと比較して、胸にかけた指輪の数が一つ少なかったことが挙げられるでしょう。
なぜ指輪の数が異なるのか。その理由については、リノアが見たという夢の内容から補完することができます。
「スコールと約束するの。一緒に流れ星を見る約束なの」
「おしゃれして、もらった指輪もつけたの」
「でも、さあ、お出かけって時になっても待ち合わせの場所、思い出せないの」
「約束の場所、思い出せないけどスコールに会いたくて走るの」
台詞の通り、もう一人のリノアは、スコールからプレゼントとして指輪を貰っていたんですね。本編では、リノアが頼み込むことで指輪を複製していたので、これらが全く異なる時間軸の出来事であると分かります。
そして夢の結末を怖がり、約束が果たされないことを心配するリノアに対して、スコールは新たに約束を取り付けていました。
「ちゃんと約束しなかったからだ」
「俺はここで待ってるから……」
「誰を待つの」
「俺、ここでリノアを待ってるから……来てくれ」
これは、オープニングで描かれた会話の内容から変化しています。
ほんとうに、以前の二人は「ちゃんと」約束をしなかったのでしょうか?
・約束の場所
アルティミシアがその生を渇望するたびに世界は繰り返され、記憶は露ほども残らない。自分が何者であったのか、かつて何をしてきたのか、考えてきたのか。
分からない。思い出せないことすら、もう思い出せない。
スコールは時間の歪みを彷徨い続け、そしてある時、枯れ果てた荒野に辿り着きます。
——また自分はひとりぼっちだ。ひとりぼっちになったら、立ち直るのは大変なのに。
先は見えない。足も絡れる。もう、この辺りで一息ついてもいいんじゃないだろうか。もう、進むことをやめたっていいんじゃないだろうか。
スコールは、じっとその場に止まり、腰を落とします。
——結局、端から無理だったんだ。約束は、果たせなかったんだ、、。
……ひとひらの白い羽が、足元へと舞い下ります。
ここは、、どこなのだろう。気付けば、随分と大袈裟な部屋にいる。
外に出てみれば、ここがどこだか思い出せるのかも知れぬ。こうして何かを考えるのも随分久しいように思える。丁度いい。気分転換といこう。
どうやら、私の居るここは城のようだった。それも大層立派なようで、展望からでは全体像を理解できないほどだった。
先ほどまで眠りこけていた玉座をあらためて振り返ると、自分が王にでもなったようで悪くない。身の上が思い出せないからこそ、余計にそう思えた。
城はずっと下の方で、鎖に繋がれていた。まるで、もう一方に繋がれた岬から離れることを拒んでいるみたいに。そういえば、岬に建つ神殿のようなものには見覚えがある……気もしたが、忘れてしまったのなら大した由縁もない場所なのだろう。
外は寒い。もう戻ろう。
とにかく私は待たなくてはならぬのだ。そう、約束したんだから。でもおかしいな、、いったい誰と待ち合わせてたんだっけ、、。
海を越えて、荒野を越えれば、一面の花畑が見えてくる。
起きたはずの過去、あったはずの物語で、
……彼女はひとひらの約束を宙に託します。
それでも世界は繰り返された。
最愛の人が決して帰ってくることのない、残酷な物語。
繰り返して、その度に約束は交わされ直す。すべてを忘れてしまうとしても、絶対を信じてやまない約束を、何度も、何度も。
二人は出会えない。この先、彼女は数えきれない時間を待ち続けることになる。それすら思い出せないのだから、やっぱり約束をする。
いや……たとえどれだけ待つことになっても、何度も、何度も、何度も。
何度も。
・これは愛の物語
届かなかった想い。守れなかった刃。
あらゆるループの中でこびり付いては、無かったことにされた記憶の数々。無念の中で消えていった、全てのリノアの幻想たち。
それでも彼女は待ち続けました。
例え人格がアルティミシアに乗っ取られようとも、その城があるのは、スコールとの約束の場所。口調が年老いてしまうほどに長い年月を待ち続けて、誰が迎えに来てくれるのかすら分からなくなってしまっても。
——だって彼は……スコールは、ちゃんと「約束する」って言ったんだから。
これは愛の物語。
リノアはスコールの愛を信じ続け、答えるように、スコールは約束の再開を果たします。
スコールは判然としないまま、今にも泣き出しそうな、けれども笑顔を崩さないリノアの抱擁を受け入れます。そして最愛の人を抱きしめた瞬間に、スコールは繰り返してきた全ての事象を思い出します。
まだ自分が、誰にも接続されていなかった頃の過ちを。
その手にかけた相手が、最愛の人に変わりなかったという事実を。
忘れかけていた、愛の全てを——
これまで見つけられなかった分、守れなかった分、スコールはリノアを目一杯抱き締めます。
黒い翼は、もう必要ありません。
時間圧縮の世界で、同じ人物は同じ空間に存在できない。
スコールの隣でこれからを歩んでゆくのは、未来の終着点に辿り着いてしまったリノアではなく、今のリノア。未来のリノアにとってスコールがいる今とは、あったのかもしれない、けれども、もう取り戻せなくなってしまった時間そのもの。
リノアの、スコールを抱き締める力が強まって、そしてしだいに弱まってゆきます。
彼女は消えゆくその瞬間まで、愛する人の腕の中で、幸せに包まれていたのでした。
最後に
この後もエンディングは続きます。けれども考察は、ここまでにしておきましょう。これ以上の言及は野暮でしょうから。
さて、結局のところ『FINAL FANTASY VIII』という作品はハッピーエンドで締め括られた物語なのかという疑問についてですが、実は私も答えを持ち合わせておりません。
世界はいずれ滅びます。彼ら彼女らの笑顔があとどれだけ続くのか、それは誰にも分かりません。
それどころか、私たちがゲームをやり直すたびに、作品は似たようなストーリーラインを辿ってゆきます。違うのはレベルとか、何を集めたとか、どのイベントを消化したとか、その程度です。
もし初めからこの結末を知っていたのなら、ゲームを始めることを躊躇ったでしょうか。なんて悩んだとしても、既にゲームをクリアしてしまった私たちに、過去を変える術はありません。
言うまでもなく、本作のテーマは「愛」です。であるなら、私たちにとって本当に大切なことは、今こそ作品を愛することなのではないでしょうか。
作品を愛して、その愛を忘れたり、無かったことにしてしまわないことに。結末だけで、彼らが歩んだ道のりの全てを、悲劇だったと決めつけてしまわないことに。
「思い出したことがあるかい」
「子供の頃を」
「その感触」
「そのときの言葉」
「そのときの気持ち」
「大人になっていくにつれ」
「何かを残して、何かを捨てていくのだろう」
あなたは何を捨てて、何を残しましたか。
捨てたものは下らないものでしたか。残ったものを、今でも愛せていますか。
本記事では、敢えてすべてを考察しておりません。
これは、あなたが終わらせることに意味が生まれる物語だからです。
さあ!今一度終わらせましょう!
あなたが始めた幻想を!
もう戻れない、少年時代に別れを!
そのために彼らは、あなたのことを待ち続けているのですから。
参考にさせて頂いた方たち
・『FANTASY ACC.』さま
・『Kiss The Moon』さま
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