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最推しに曲を書いてもらったオタクの話

 この記事はobscure.さん主催のボカロリスナーアドベントカレンダー2023に参加しています。

 この記事を書こうと思ったのは主催のツイートを見て企画を知ったきっかけがあったからです。開催ありがとうございます。
※自慢・素人語りが多く含まれます。ご注意ください。


はじめに

 ほとんどの人には初めまして。河豚と言います。インターネットの隅の方でオタクをしています。最推しのPはてにをはさん。出会いや好きなところや好きな曲や救われた経験や人格形成において及ぼされた影響やプロセカ書き下ろしが決定して床を転げ回ってたら家族に心配された話など語りたいことはたくさんあるのですが、長くなるので割愛。他にも稲葉曇さんやはるまきごはんさんなども大好きで、最近発見した良さげPさんは世界電力さん、あとカゲプロキッズです。あんまり深くディグったりはしないのですが、ボカコレランキングTOP100のプレイリストを日々よく聴いています。たまに小説を書いたり短歌を詠んだりします。

全ての始まり

 さて、わたしのようなボカロオタクレベル1にとってはこれさえ追ってれば何となく大丈夫!みたいな認識のデカイベントであるボカコレですが、魔法のiらんどという小説投稿サイトとのコラボで小説コンテストを行なっていることは皆さんご存知でしょうか? ボカロPさんとタイアップして、そのPさんがテーマを設定して小説を募集、選考委員も務め、大賞を取った小説をもとに曲を書く、という企画です。第一回目はかいりきベアさんが担当され、制作された曲の「アナタサマ」はYouTubeでミリオンを達成しています。一番最近のコンテストではさらに少女まんが誌のりぼんもコラボし、大賞受賞作は楽曲化だけでなくコミカライズもされることになっています。

 そんなボカコレ×魔法のiらんど小説コンテストの第三回目。去年の暮れくらいに発表があり、今年の二月にかけて公募が行われました。担当Pさんはなんと、我らが最推してにをはさん
 
 この告知を見たわたしはさあ大慌て。何故ならわたしは小説を書いたりするからです。参加できちゃうじゃん……。小説を書くボカロオタクのためのコンテスト、嬉しい。さらにこのコンテストではボカロPさんは選考委員も務めています。ご存知の方はご存知だと思うのですがてにをはさんは作家活動もされていて、わりと多くの小説を出しています。最近だと「またころ」シリーズが有名ですね。小説を書くのを生業にしてる推しに自分の文章を読んでもらうチャンスってこと!? あと、ほんとにワンチャンだけど、大賞を取ったら、推しが自分の小説を曲にしてくれるわけです。一世一代の大チャンスすぎる。単純に企画も良いですよね。てにをはさん、自身の曲を小説にしたり、逆に自身の小説にテーマソングを書いたりもしてるので慣れてると思うし。テーマの「すこし不思議な物語」もすごくてにをはさんの趣味というか作品傾向に合ってて良いし。

 提出するまでの経緯は自分語りになってしまうので省いて、さあドキドキしながら小説を投稿。あとはてにをは薬師如来に祈るだけ。

 てにをはさん、わたしの小説、読んでくれたかな……

 どの小説が大賞になるんだろう……

 そんなことをぼんやり考えながら迎えた四月某日。メールボックスに届いていた、魔法のiらんど運営事務局からの一通のメール。

 大賞受賞のお知らせ……

 ハ???????? 

 
えらいこっちゃ。推しの小説コンテストで推しの審査の結果大賞を取り、推しが自分の小説を元に曲を書いてくれることになりました。夢かな……

影響を受けた作品について

 そんなこんなで大賞をとった拙著『人媒花』です。(宣伝みたいになっちゃった)

 「桜(ソメイヨシノ)ってすごく綺麗だけど品種改良によって人工的に作られてて日本中全部一本の木からの挿し木で殖えたから同じDNAって怖くない?」みたいなホラーです。

 何の創作にも言えることですが、わたしの小説ももれなく過去の様々な作品の影響を受けていて、そのあたりも込みでてにさんには楽しんでいただけたのかな〜と思ったりします。ここではわたしが自覚している限りでの影響を受けた作品について言及していきたいと思います。

 まず、桜を綺麗で同時に怖いものとする作品って名著にたくさんありますよね。梶井基次郎とか坂口安吾とかのが有名だと思います。わたしは無教養なもので両方とも未読なのですが、「桜の樹の下には屍体が埋まっている」の一文は知っていました。有名です。
 てにさんの作品に限って言うなら、小説では『秘祭ハンター椿虹彦』がノンシリーズものの中では一番好きなんですが、この作品で桜は主人公が畏怖する対象としてモチーフに選ばれています。曲だと「さくらさくや」「桜花蕭々」が印象に残っています。ホラー的文脈からは外れるんですが、どちらもED的な意味合いを持つ曲であり、締めくくりを飾るにふさわしい雄大さや幽玄さを持つ植物として描かれています。

 ホラー全体に焦点を移します。てにをはさんホラー作品で特に言及すべきなのはてにみきもんコンピレーションアルバム「霊々はくしょDX」やてにをはさんが脚本を務める怪談ドラマCD「西園寺古書堂怪奇譚」シリーズかなと思います。「お花を届けにお宮まで」、大好きです……「古書堂」弐のクロスフェード見たときは飛び上がりました。先にはノンシリーズもの小説一選として『秘祭ハンター』を上げさせてもらいましたが、シリーズでは「女学生探偵」が殿堂入り、その中でも『能面島神隠し事件』が特に好きです。「鬼は敲く月下の門」も大好きです。いわゆる因習村的雰囲気とか、ぼんやりした不気味な事象が連続していく感じの展開とか、もうバリバリに影響受けまくっています。タイトルの「人媒花」も明らかに「女学生探偵」シリーズのワードセンスの影響だし。ホラーとまでは行かずとも妖怪をテーマにとった作品には「怪異物ノ怪音楽箱」「モノノケミステリヰ」シリーズ、『ひゅうおどろ 煤川石坐の怪異譚』などがありますね。てにさん、妖怪が好き。わたしも好き。(みんなゲ謎見た?)
 一般作品では、わたしがホラー大好きなこともあり、摂取してきた作品が書ききれないため省略しようと思います。思うのですが、最後ひとつだけ言わせてください。
 てにさん、絶対京極夏彦好きですよね?
 わたしも好きです。ていうか京極夏彦読み始めたのてにさんがきっかけだし。オタクは全員京極夏彦読んでると思ってる。

本題

 そして投稿されたのがこの曲、「夜祭」です!!!!

 キャーーーーーッ!!!!!!!!!!!!!(寿命が絶える音)

 投稿日は八月七日。夏ボカコレ最終日ですね。
 だいたい今夏に出るよ〜とだけ知らされていたわたしは夏が近づくにつれソワソワドキドキバクバクしながら待っていました。17時を過ぎボカコレの期間が終わり、まだだったかあと思ったその瞬間。

 予告。

 
 あなたっていつもそう!! 油断した隙を突いて!!!
 あと当日に言うのはどうして!!!!せめて前日までに言ってください!!!!!!それと投稿時間も教えてください!!!!!!!後生なので!!!!!!!!!!!

 まだかなまだかなあと待っていてもいざ本当に来るとなるとまだ来ないでって思うもんですね。寿命を宣告されたような気分でした。投稿時間もまさかの19時20分みたいな予想してない時間だし。危うくお風呂入るところでした。

 見て!!! 推しの動画の概要欄にわたしの名前がある。何ならニコニコではタグがついてる。なんで??????? 原案だからです。ハ??? 何言ってんの????(錯乱)

 で、曲………………。
 良すぎる……………………(敗北)

 これはごめんなさいなんですが、コンテストが春だったのもあってめちゃくちゃ春の桜の歌を真夏に投稿することになっちゃってるんですよね。
 でもそこを流石てにをはさん。歌詞の中に「花」「春」といったモチーフを出しながらも、「夜祭」というタイトル通りにお祭りの夜っぽい妖しい雰囲気を融和させている。お祭りってなんか夏のイメージありますよね。

 あとこれはわたしの性癖の話になるのですが、わたし、てにさんの曲が持つ色気みたいなのにすごく弱くて……。「髄まで愛して」とか「浮雲」とか「肩甲骨を羽にして」とか「抱いて溶かして」とか。えっちなんですよ。てにさんの「トコヨトキヨ」以降くらいのキラキラで夜っぽくてカッコいいロックも「女学生探偵」シリーズみたいな和ロックもだーいすきだけど、しっとり曲も大好き。
 桜って綺麗だよねえということを何とか伝えられないものかとたくさん頑張って色々書いたりしたんですが、それがてにさん流の色気に解釈されてズギャーーーンと返ってきてしまった。ファンサが過ぎないか? しぬ。

 歌詞とかフレーズがマジで全部好きなので頭から全部並べて歌詞中心の感想を述べて行きたいと思います。音楽のこと何も詳しくないのでトンチンカンなこと言ってても見逃してください。

よ よ 夜祭には
ゆ ゆ 夢囃子
咲う(わらう)花々哉 

 そんな表現あるの初めて知った……
 花々ってこれ古典的表現の桜じゃないですか。で、その桜の花がふんわり開いて咲いていって、それがまるで笑っているみたいで、でも美しさ綺麗さだけじゃなくて人を見下したような薄ら寒さみたいなものがあって……。
 え、この概念知ってる。頭にすぐ場面が思い浮かぶ。森羅万象(すべて)が理解(わか)る。何故ならわたしが原案だからです。これが……力………?
 「よ よ 夜祭」みたいに最初の音を繰り返すの、なんかてにをはさんぽいなと思います(「古書屋敷殺人事件」「化生戯画」とか、和曲に多い印象)。童謡とか民謡っぽさが出るのかな。「花々哉」の韻も好き。

咲いた 咲いた 咲いた
諸国漫遊至るとこ
鳴いた 鳴いた 鳴いた
花に舌刺す春擬(はるもどき)

  オケが怖い。可不ちゃんのンンン〜とかのエコーの掛け方が直球に不穏。好き〜〜!!
 「咲いた 咲いた 咲いた」「鳴いた 鳴いた 鳴いた」のとこ、「ハイレタ」的なナニカが喜んでいるようにも、命令形で呼びかけているようにも取れて良い。
 諸国漫遊か〜〜〜!!!! そっか!!! そうやって表すのね〜〜〜!!!
 春擬って調べてみたんですけどそれらしいものにはヒットしなくて(アニメのOPではないと思うので)、てにさんの造語なのかな? なんか鳥っぽい。花に舌を差し込んで蜜を吸っている春の鳥。
 咲いている花、それに集まって蜜を吸う鳥、描写してる風景は平和な春そのものなのにオケが静かめで不穏なのが雰囲気を出している。好き。

咲いた 咲いた 咲いた
香る万国桃色に 肉色に

 桃色→肉色の表現天才すぎる。これってクライマックスのあのシーンから来てる発想だと思うんですけど、それをこう表すのか〜! 痺れる。
 「諸国漫遊至るとこ」の時も感じたのが、小説と違い歌の詩って文字量がはるかに少ないので、どこをキーとしていかにエッセンスを抽出し少ない言葉でまとめるかの力が必要になるのかなと思います。語彙力とかセンスとか。
 一番が始まってからここまでだけで「桜は日本中至るところに咲いていて一見のどかに見えるけれども何か不穏さを感じる」という情景描写がなされているわけです。小説だと基本的な設定のほぼ全てですね。ヤバ。

こっちおいで おいで
こわいことしよとこしへに
ゆびきり

 よ、呼ばれている。古今東西怪異はあちらからこちらを「呼ぶ」ものと相場が決まっているので。
 全部ひらがななのが幼さと不気味さを出してて怖い。「こわいことしよとこしへに」の韻の響きの良さがすごくてにさん!という感じがする。とこしへが歴史的仮名遣いなのも好き。

パッと咲いて
よ よ 夜祭眠らないでね
ずっと夜更かし花見頃
にらめっこ見惚れたら負けですよ
ちょいと貴女の花粉下さいませ

 サビ!「お花を届けにお宮まで」とかもそうなんですけど、擬音でサビ始まるのすきです。空気が変わる感じがする。
 さっきからそれしか言ってないような気がするんですけど、「夜祭」「夜更かし」「花見頃」「にらめっこ」とか、そう表すのか〜〜!!!!って唸りっぱなしです。「桜と目が合う」「見られている」みたいな表現を小説中では使ってるんですが、そのあたりから「にらめっこ」とかの視線を感じさせるかつ怖い表現が出て来たのかな。これ主人公のあのシーンとかあのシーンの暗喩だと思うんですが、「にらめっこ見惚れたら負け」「貴女の花粉下さいませ」ってそんな上品にかつ怖く表現できることある!?!? あるんだなこれがてにをはさんは。マジで何食べたらそんな歌詞出てくるんですか? カツカレー? そっか。

こわいこわいね
だけどやけにきれいね
こわいこわいね
色気付いてさ

 書きたかったこと全部これで草。的確にまとめられてしまった。完。
 綺麗なものとか色っぽいものってすごい魅力的だけど、一方でなんか怖くもないですか? という感覚(性癖?)がわたしにはあります。綺麗なものって綺麗になればなるほど人間らしさとか生き物らしさから離れていくものですし。
 その感覚を、こう….…何とか表せないかなあと思って、いっしょけんめい小説書いたりしたんですけど。
 それを……さ!! こんな……さ!! 推しのワードセンスと推しのメロディで………さ!!!!!
 推しのセンスと表現力がフルパワーでわたしのヘキを描いている。これが……力………??

夜祭よ
さてまほろば はらほろり
春の宵の瀬

 「まほろばはらほろり」の語呂すき。とこしへもそうだけど古語入れてくれてるのいいな〜。「まほ、ろば、はら、ほろり」でちょっとずつ切ることで桜の花びらがはらはら落ちていく感じがしませんか?
 一番の最後を春の宵であるという情景説明で締めるのすき。実はこれまで「花」とか「咲く」とかの単語はあっても花とは桜であるとか舞台は春であるとか直接的に示してはなかったんですよね。名前を呼んではいけない感じがして良い。ていうかそういう直接的な単語を出さずにここまで描写してるの凄すぎないですか?

咲いた 咲いた 咲いた
瞳の中に天竺が
退いた 退いた 退いた
姫の衣の御披露目じゃ

 ここが曲中でいちばん好きまである。
 「瞳の中に天竺が咲いた」ってすごい表現じゃないですか? 綺麗なものを見てまるで天竺にいるような気分になったことを花が咲くのにかけて表現してるんだと思うんですけど。瞳の中に咲いたってそれって寄生されてるイメージにも繋がるし、瞳の中にいるってことはそれもう脳にもいるんですよ。(くくひ様?)もうアウトだよ。後ろのカサカサカサ…みたいな音が侵蝕されている感に拍車をかけている。見入ることと魅入られることの表現が巧すぎんか?
 「姫の衣の御披露目」も凄い。桜の花を姫とその衣に喩えるって上品すぎる。和歌オタなので刺さりますね。「姫」って呼び方とか語尾で村の人々とかの桜を守っている人たちがこれを言っているんだなと連想させるのも暗喩的で良い。桜とあの村の人々を姫とその家来に喩える発想は無かった……。「退いた」で邪魔をするなと言ってきているニュアンスもあり不穏さもあるし。

ゾクゾク怖気立つエピキュリアン
あなたこそ蠱惑の人媒花

 出た!! ハイパーファンサタイム!!!!
 急にタイトルコールをすな。心臓に悪い。初めて聴いたときにここでひっくり返って大笑いしてたらついに発狂したかと家族に心配されました。
 ここでこっそり背景情報なんですが、魔法のiらんどの担当の方と打ち合わせがあった時に「ひとばいか」か「にんばいか」か訊かれたんですよね。反映してくれてありがとう、大好き。
 細けえ〜すげ〜と思ったのは、ここでは「あなた」でサビの「貴女の花粉下さいませ」の「貴女」と違うんですよね。「貴女」は主人公を指していて、「あなた」は桜を指している。そう思うと漢字の表記がされてないことで性別が分からないのも良い。
 ここで絵の話していいですか? いいよ。
 この絵の子、桜の擬人化ですよね!?!? 色合い的にも。枝に掴まってるし。背後に描いてある木も花のつき方からして桜だし。余談なんですけど、桜の木のあの花のつき方ってちょっと気持ち悪くないですか? 幹から花だけがぴょって生えたりする。挿し木で殖やすからですかね? なんかいかにも異形感があってちょっと気持ち悪くてそこが好きです。閑話休題。この子も性別がどっちかあんまり分からないのが好き〜〜! あとめちゃ顔が良い。色素が薄くて全体的に桜色なのも目元の花びらも人外感がある。表情も良い。視線が強い。
 エピキュリアンは快楽主義者という意味だそうです。桜の美に溺れて理性的な判断がつかなくなってる感じがして好き。

お気の毒召しませ
光も闇も根はおんなじ

 「根」!!!! 無事死亡。実はあそこ小説で一番先に書いた部分なんですよね。あの描写自分でも割と気に入っています。物理的な話と慣用句的な使い方でダブルミーニングになっているのも良い。いや、わたしなんかが考えたこんなアイディアをこんな風に上手く素敵な形にしていただいて本当にありがとうございます……の気持ち。
 「お気の毒召しませ」、気の毒だけどこの毒を飲んでねとか、正気に作用する毒だよ飲めみたいな意味かな。言葉遊び的な掛け言葉だし、意味は正直何にでも取れるようなとこがいいな。気の毒→召せってなんだそのコロケーション。コーパスにはまず入ってない。

ゾッとして
よ よ 夜祭終わらないでね
いついつまで花見頃?
にらめっこ見惚れたら負けですよ
ちょいと貴女の花粉下さいませ

 「パッと咲いて」「ゾッとして」って呼応してるみたいでいいな。一番が「眠らないで」「ずっと夜更かし」と桜がこちらに呼びかけてるみたいだったのが、「終わらないで」「いつまで花見頃」と魅入られる方になってよりのめり込んでいるみたいになっていて好き。ゾッとしてるのに終わらないでって願ってるのがの、飲み込まれてる〜〜!感がある。一番と比べて不気味な面、本性が顕になり始めている感じがする。この後の展開の伏線ぽい。

嗚呼 あの子が欲しい
嗚呼 あの子はだれ?
だれ
だあれ?

 え? 怖すぎ。
 オケが静かになっていって誰? が低くなっていくのがどんどん真顔になってるみたいでやばい。マジに目ぇつけられちった……

こわいこわいね
だけどやけにきれいね
こわいこわいね
色気付いてさ
夜祭よ 
さてまほろば はらほろり
春の宵朝

 この後のとこの曲調の急変ね!!!! 「宵朝」でスッと静かになった後にぶわっとくるの好き。本性表したな…という感じがする。イラストもね〜〜〜良すぎるのですよね良い表情をするね……笑顔が怖い……妖しい……歯が鋭い……花びらがわっとなって夜祭っぽい提灯が出てくるのもなんか領域展開って感じがして良い。
 これ桜が本性を表すあのクライマックスのとこのシーンだと思うんですが、小説の展開を歌詞とか絵とかだけじゃなくて曲の展開そのものに翻案するって、そういう〜〜!?!?!? 可能なんだ!?!? 世界の原理として!?(?) 

デモナヰズ
さりとてまだ不安か? 錯乱のまま伏す
でもなあ
悟りてはらひら 櫻のマザーグース

 なんだその韻の踏み方は。詳しくないからよくわかんないんですけど、同じ音を繰り返すのと同じ母音を繰り返すのが両方あってすごいなあとおもいます。
 てにをはさんの歌詞の韻ってぜんぶ凄いんですけど、その中でもわたし能面島神隠し事件の「春は山河ほころんだったらにっちもさっちも朗らか朗らか 旦那さんが口論だったら天罰旱魃子々孫々」が特に好きです。だいぶ前にTwitterで読んだ意見そのまま受け売りなんですが、だるまさんがころんだで全体的に韻を踏みつつ、春望をパロディしてミステリの文脈も出してくるってどういうこと?? すごすぎる。これにも似たものを感じます。「錯乱のまま伏す」「櫻のマザーグース」好き。

散開 なんか企むかい?
散開 まるで博覧会
散開 なんか企むかい?
錯乱かい?

 「かい」を繰り返すのも桜と錯乱で韻踏むのも好き!!
 ダンダン!「錯乱かい?」好き〜〜目を覗き込まれて言われている感じがする。シャバダバ言うてるのも好き。

勘違いでも愛
芽吹いた純情を嬲るような雨足
メモラヰズ
香りにつられて I am shit

 曲調が変わってから韻ふみふみゾーンになってるのやば。「雨足」「I am shit」好き〜。「芽吹いた純情を嬲る」てにさんのこういう描写の色気やばくないですか? 雨足で花に雨を連想させてるのも良〜〜!!

散開 なんか企むかい?
散開 まるで博覧会
散開 なんか企むかい?
散開

 「散開」でたたみ掛けてスッと終わるのが、なんていうか本当に小説の展開のままでほんとに感動する。桜の花びらが舞い散るシーンを場面転換などに繰り返して使っているんですが、小説の描写ってそういうふうに音楽に落とし込めるんだ!? という感動がずっとある。

 曲を通して「そう来るか!?」「そんなことができるんですか!?」「そう表すんだ!?」の連続です。原案てほんとに贅沢ですね。自分の作品に対する推しの解釈をお腹いっぱい存分に味わえる。ベースはものっそ思いあたる節のある概念なんだけど、その上に生えた表現はぜんぶ推しの表現で、わたしのこんなアイディアって推しの凄腕にかかるとこんなふうになるんですか!? やっば!! が永遠にある。言い換えとか比喩とか曲の展開とか演出とか。こういう立場だからこそ痛感する推しの表現技巧の凄さってありますね。てにをはさんはやっぱりすごい。

てにをはさんに会ってきた話

 去る10月28日・29日、代官山の蔦屋書店にて星海社という出版社さん主催の「ミステリカーニバル」というミステリ作家のサイン会が行われました。数多の参加者さんの中に、てにをはさんの名前も……! てにをはさんに、人生で初めて、会える!!!(プロセカのズマケは普通に落ちました)

 というわけで

河豚なのに人の手がある

行ってきました。

河豚なのに人の手があるしワンピースを着ている

 ナ、ナニコレ!?!?エ??肉筆宛名入サイン????(記憶喪失)

 てにをはさん、人の顔してた………びっくり……てっきりあのアイコンの人魂が喋ってるもんだと…………あと生放送アーカイブの通りの声が目の前から生で聞こえてくるもんでビビった………

 焦ってて心の準備が全然出来てなくてだいぶ取り乱しちゃってほんとに申し訳なかったんですが(突然泣き出したりしてマジでごめんなさい)、なんとか曲も小説も大好きなこと、辛いときの心の支えなこと、そして大賞に選んでいただいてこんなに素敵な曲を書いていただいたことへの感謝を伝えてきました(伝えられたのかな……ほんとに動揺してたから自信がない……)。

 てにさんにもなんか認知してもらって(サインに書くために名前名乗ったら「ああ、本物だ!」言われたんですけど心の底からこっちの台詞ですが???と思った)、応援の言葉をもらって、握手までしてもらいました。いいのかなこんなに。本当に嬉しくて、小説頑張っててよかったと思ったし、これからも頑張ろうと思いました。

おわりに

 以上、なんか推しに曲を書いてもらって大優勝したオタクの話でした。人間て生きてるとこんなこともあるんですね。
 ボカロ小説って昔からたくさんあるし(最近でもスノーマンとかトンデモワンダーズとか結構立て続けに告知が来てびっくりしました)、こないだはpixivとR Sound Designさんがコラボしてイメージ小説コンテストをやってたし、過去のアドベントカレンダー企画の記事を読んでたら小説を載っけてる方もいたし、短歌でもtoron*さんのwowakaさんに寄せて作った連作みたいな例もあるし。
 ずっとボカロへの関わり方が聴くことのみの受け手一辺倒だったのですが、もっと積極的に創作的になれるのかなと思ったりしました。もっと創作やりたいな。

 作品のリンクは曲は基本的にニコニコ、本は出版社のページがなければAmazonの作品ページに繋げました。動画の上がっていない曲はそのCDのクロスフェードになっています。アルバム曲のうちでもYouTubeにアーカイブが残っている弾き語りライブの中で聴けるものも多いので、ぜひ聴いてみてください。だいたい有志の方がコメント欄にタイムテーブル貼ってくださってます(いつもありがとうございます)。声良いので作業BGMなどにオススメです。わたしはアーカイブを流しながら編み物するのが好きです。

 この記事のサムネイルは「夜祭」のスクリーンショットからお借りしました。もし何か問題などあれば差し替えます。

 ものすごく蛇足なのですが、わたしはこのコンテストの賞典副賞の三万円で最推しの一人である(ジャンルが違うから最が複数居てもいいこととします)歌人の塚本邦雄ピの研究会参加京都遠征をキメることができました。ボカコレ運営と魔法のiらんど運営ありがとう。ちなみにこの塚本邦雄はFrog96さんの「黒塗り世界宛て書簡」の歌詞「液化したピアノと夜を明かす」の元ネタである短歌「革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ」を詠んだ歌人さんだったりします。以上今日の豆知識でした。


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