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#119 万年筆専門店にて

 都内のある万年筆専門店で「万年筆浴」をした。どの万年筆もキラキラと輝いており、どれも美しい。
 この万年筆を作る人たち、使う人たちのことを想像し、万年筆に夢中になった我が人生を少しばかり振り返りながら、壁に陳列してある万年筆を見て歩いた。このような店で働くことができたら楽しいだろうなあとも思いながら・・・。
 その店では書籍も販売していたので店員に声を掛けて、『万年筆談義』の販売依頼交渉をしてみた。販売は可能だが、店と出版社間の契約の書類作りが結構面倒だとのことで諦めた。その書類作りは何度か経験したことがあるので、面倒なことは知っていた。
 その会話の中で、ビシッとスーツに身を固めている青年が「fuenteのでべそさんですよね」と聞いてきた。昔、萬年筆くらぶに入会し、北欧の匠での交流会にも参加したことがあるという。引っ越しを繰り返したのでfuenteが届かなくなったと話してくれた。
 萬年筆くらぶの会員数は多いので、交流会で一度会っただけでは記憶に残らない。北欧の匠での交流会はコロナ前のことだから、しばらく前のことであり、尚のこと記憶に残ることはない。申し訳ないので、名前を尋ねて、帰宅してから会員情報を記録してあるシステム手帳で調べることにした。

 Mさん。
 あった、あった。2014年1月7日入会。19歳とある。
 19歳のとき既に万年筆に夢中になり、萬年筆くらぶの扉を叩いた。
 そして、10年後のいま、都内の万年筆専門店で職を得ている。夢を実現したんだな。Mさんは私の教え子ではないが、まるで教え子が夢を叶えたような気がして嬉しい気持ちになった。

 私が萬年筆くらぶを発足したのが38歳のとき。現在の彼は、その歳には達していない。私の万年筆人生よりも長いものとなるだろう、彼の万年筆人生は、どのようなものになるのだろう。
 Mさん、豊かな万年筆人生を楽しんでほしいな。