#020 『万年筆談義』
1980年頃から1990年頃、ボールーペンに押されていた万年筆に新たなライバルが登場した。ワープロとパソコン。家電量販店には争うように新機種が並んだ。ワープロ・パソコン関連のムックが飛ぶように売れた。その影で、文房具屋の万年筆売り場は年々縮小され、万年筆関連の書籍も出版されなくなってきた。店仕舞する万年筆専門店もあり、そのうち万年筆は消えていくのではないかと思われた。まさに凋落という単語がピッタリする状況だった。
その後、万年筆は再び注目されるようになったのだが、そのとき、1990年頃の凋落状況を万年筆の歴史として記録しておきたいと考えるようになった。万年筆専門店や万年筆売り場、そして人々の意識がどのような状況だったのかを書籍にしておきたい。フェルマー出版社の編集会議で、そのことを提案したのだが、アッサリと却下されてしまった。話題になっていて、多くの人が関心を持っているものを扱うのなら、本を買って読んでくれるだろうが、万年筆のそんな「過去の」「暗い歴史本」を誰が読むっていうんだ。
確かにそうだ。2010年を過ぎた頃には、万年筆に凋落時期があったことなど忘れてしまいそうなくらい、万年筆業界に活気が戻ってきていた。
しかし、私は、何とかして万年筆の歴史を文章に残しておきたいと思い続けた。そして、万年筆研究会WAGNERの森睦さん、画家の古山浩一さんに声を掛けて、3人の力で、手探りしながら1冊の書籍を作り上げた。それが『万年筆談義』だ。2019年10月31日発行。3年前になる。
この『万年筆談義』が、世の中にどのように受け入れられたか、私には分からないが、一つの仕事を終えたという思いだった。森睦さんと古山浩一さんには多大な迷惑を掛けてしまったことは反省している。