「ミシュランガイド新潟2020 特別版」雑感(その1)
7月17日に「ミシュランガイド新潟2020 特別版」が発売されました。近所の大型書店では即日完売。地元の方も我が街の馴染みのレストランがミシュランガイドに掲載されているのか? どのような評価なのか? まだ自分が知らない美味しいレストランはないか? 人々の食に対する興味や関心の高さを窺わせる事象です。
まずご報告ですが、フェルミエのレストランは「ミシュランプレート(ミシュランの基準を満たした料理)」のレストランとして掲載いただきました。
お料理の評価については私は素人なので言及できませんが、期待を上回る評価で喜ぶお店、評価に不満なお店、掲載されて困るお店など悲喜こもごも…。以下はお酒(ワイン)に携わる立場からの個人的感想です。
「興味深いワイン」・「興味深い日本酒」
私が個人的に注目するのは、「興味深いワイン(🍇)」・「興味深い日本酒(🍶)」マークが付いたお店(飲食店・レストラン)です。
新潟市内の星つき12店を含む122店の掲載店には「興味深いワイン」印の店は一軒もありません。これもミシュランからのメッセージと受け止めます。(ちなみに新潟市内の「興味深い日本酒」印が8店です。私は必ずしもこの8店のことをよく理解してませんが、県外酒を主体に供する「吟」、「ひのと」、「いっこう」などを除くと、新潟清酒を主体に供する「興味深い日本酒」マークの掲載店は一握りしかありません。)
お料理ととともにワインやお酒を楽しむことは、美食家にとっては呼吸するのと同じくらい当たり前のことですから新潟市のこの現実は寂しいものです。私も職業柄、国内外を問わずミシュラン店にお邪魔することも儘ありますが、実際、そこでは必ずと言っていいほど料理と合わせてそのお店に相応しいワインやお酒を楽しむことができます。
別に成金趣味の田舎親父よろしく高価なブランドワインを揃えれば良いということではありません。それぞれのお店のスタイルや料理の特徴に合わせて何を選択してお客様にどのようにプレゼンするか、お店自らが考える提案型のおもてなしが求められます。飲食店の方は自らの料理ではそういった努力を惜しまない一方で、ワインやお酒にまで気が回らなかったりしてませんか? 美食家は料理がどんなに美味しくてもワインの品揃えがイマイチだったり、お料理とお酒がちぐはぐではまずリピートしないでしょう。
ミシュランガイド新潟版で「興味深いワイン」印がついた店は新潟県全県に目を移しても少ないのですが、例えば井上さんご夫妻がナチュラルワイン中心にマニアックなワインをストックする「UOZEN」、オーストリアワイン大使 塩田さんの「アンドラモンターニュ」、イタリアワインにこだわるピッツェリア「ピットーレ」、「興味深いワイン」・「興味深い日本酒」両方の印がついた山岸さんチョイスの「玉城屋」などがあります。
改めて”酒どころ 新潟”の底力を。
店側としては、世界中の数多あるワインや全国の日本酒の中から選りすぐってドリンクメニューを構成する方法がスタンダード。しかし、この方向性では、地方の小さな店では前出のような余程マニアックな方がお勤めにでもならない限り情報の収集・更新や高い次元での専門分野への特化はハードルが高いですし、在庫キャパシティの問題などもあり品揃えにも限界があるでしょう。訪れるお客様も地方のお店にそのような期待はしないかもしれません。世界のトレンドの最先端を東京に行けば体験できる訳ですし。
むしろ、お料理で地元食材を使うのと同じように、地元に良いワインや日本酒があればそれらを主体にメニューを構成する方法が双方にとって理想かもしれません。私なら地方(含む海外)を訪れたら、ソムリエには必ず”その地のワイン”をリクエストしますもの。どちらか一方ではなく両立させる方法もありでしょうが。
世界的にヘルシーでライトな志向がトレンドの食の世界では、フレンチ・イタリアンなどと和食の相互乗り入れのような料理も増えてきました。今回のミシュランガイド新潟を眺めると、新潟でも若いシェフを中心にいち早く柔軟に今の時代に即応している料理のスタイルが現れ始めた一方で、新潟のワイン・お酒は宿題を課されているように思います。ワインと日本酒を混同すると歴史ある新潟の日本酒業界の方に怒られそうですが、パリのフレンチレストランで日本酒が供され、和食でもワインが楽しまれる時代です。新潟ワインはおろか、新潟清酒の威光も今の時代のミシュラン基準においては埋もれつつあることを冷静に受け止め、自戒の念もこめて、まず私達造り手が足許を見つめ直して精進せねばなりません。そして飲食店の方にも知恵を絞っていただき、新潟のローカルガストロノミーとともに、それに相応しいワインや日本酒でも新潟を訪れるお客様をおもてなしして喜んでもらいたいものです。そもそもミシュランの評価云々の前に県外からお客様をお迎えするにあたりそのような取り組みは必須とも思えます。「所詮、新潟だからしょうがない」と思われて終わるのか、「さすが酒どころ 新潟」と思わせることができるのか新潟の底力が問われているのではないでしょうか。改めてフェルミエは良質な新潟のワイン造りに努め、飲食店さんにも”新潟ワイン”のお取り扱いを提案させていただこうと意を強くした次第です。
PS:
ミシュランガイド新潟版の表紙をめくって最初のページにいきなり岩の原葡萄園さんの1ページ全面広告が飛び込んできました。さすがサントリーさん! こういう形での新潟ワインのPRの仕方があるんですね。脱帽です。フェルミエは蟻のように地道に歩を進めるしかありません(笑)。どうか皆さんのお力も貸してください。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?