発芽玄米酒むすひの衝撃と『発酵道』
京都の古本屋さんカライモブックスさんを通して買わせていただいた、『発酵道』という本。
著者は、自然酒蔵元『寺田本家』23代目当主の故・寺田啓佐(けいすけ)氏。
この本を読んで、寺田本家が発芽玄米酒むすひ(読みは「むすび」)という型破りなお酒を造っていることを知り、さっそく札幌の自然食品店まほろばへ行き、ためしに買ってみた。
発酵にともなって炭酸ガスが発生するようで、開栓に十分注意を! という注意書きがあった。そんな期待を裏切らず、少しあけては閉め、またちょっと開けては閉め......を繰り返さないと吹き出してきてしまうような、しょっぱなからそのエネルギーに圧倒された。
私はそこまで日本酒を飲み倒しているわけではないので、「むすひ」の異端性については十分に語り切らないが、酸味が強く、五臓六腑にしなやかに流れ込んでゆく感じが気に入っている。
『発酵道』には「むすひ」について以下のようなことも書かれている。
調べてみたらわかったことだが、驚くことに、『むすひ』の中にはどこの蔵でも恐れられてきた火落ち菌が存在する。それでも腐ることなく、びんの中で調和がはかられている。まさに掟破りの酒なのだ。
どんな世界でも、業界の常識とされているものを一旦疑ってみることも、とても大事なことなのだろう。
さらに『発酵道』では、寺田氏が哲学者の常岡一郎氏にかけられたことばが紹介されている。
「あなたのお酒は、お役に立ちますか」
寺田氏は、自分の蔵で造っている日本酒が人の役に立つかなどということは、考えてもみなかったという。
そこから、次第に「人の役に立つ酒を造る」ことが、自分のテーマになっていったという。
人の役に立つか立たないかは、“即効性”というモノサシでは図れなさそうだ。長いスパンで、人の役に立つ――そんなものづくりの一端に触れられる「むすひ」をこれからも折にふれて飲んでゆこうとおもう。