Fender LEAD2のRitchie Blackmore Stratocaster化(後編) #コスプレ
こちらの後編では搭載するピックアップの選定結果に加え、関連する電気系統のあれこれについて記述してまいります。
※参考資料
ザ・ギターマン 特集●RBギターズ[改訂版] シンコーミュージックムック
※参考サイト
http://bernd-meiser.de/bsm-tonezone/ritchie-blackmore
ノイズ対策と出音
前編で記したとおり、1979年以降RitchieはStratocasterに様々なピックアップを搭載していたわけですが、その理由について資料等に基づき考えてみたいと思います。
Ritchieは、Stratocasterに搭載されているオリジナルピックアップのサウンドを気に入りつつも、ステージを飾る電飾の規模増大に伴うノイズの増加には苦慮していたようです。対策を試行錯誤しているうちにJohn "Dawk" Stillwellと出会い、1976年頃からDawkの手でキャビティーのシールディングやピックアップのリワインド・ポッティングなどが行われました。Dawkはまた、指板のスキャロップ加工のやり直しや、特徴的なパーツ色組み合わせの選定も行ったとのことです。
電飾の規模増大がノイズの増加につながる理由ですが、エレクトリックギターのマグネティックピックアップが弦振動のみならず、電飾から発生した電磁波も拾ってしまうという構造に依ります。対応として、上述のシールディング(ノイズ混入を防ぐ)の他、ピックアップのローインピーダンス化(ノイズを拾いにくくする)や、ハムキャンセリングシステムの導入(混入したノイズを相殺する)などが挙げられます。1979年頃のピックアップ交換時にSchecter社のF-500Tが選択された理由も、音質というよりコイル側面に巻かれた銅箔によるシールディング効果を期待してだったとのことです。
資料にはRitchieによって破壊されたStratocasterのキャビティー内画像(上の画像)が掲載されているのですが、ピックガードも含め銅箔で厳重にシールディングされており、ピックアップ単体ではなくキャビティー全体をシールドしていた事がわかります。この場合、ピックアップ自体に対する銅箔シールディングの必要性は下がるため、F-500Tの銅箔が搭載後取り除かれたという資料内の記述も理解できます。
また、上の画像ではセンターピックアップの位置にはカバーのみが装着されていますが、同位置にハムキャンセルのためのダミーコイル等が装着されている場合もあります。
このように、ノイズ対策を中心としつつもそれに伴う出音への影響を修正するための様々な電装系モディファイがなされたようです。
Dummy Coil
ダミーコイルの「dummy」とは「模型の;模造の,まがいの;にせの 」という意味ですが、ダミーコイルはコイルっぽい何かではなくコイルであることに間違いはありません。この場合の「dummy」は本来拾うはずの弦振動を「拾っていない」という意味合いで使われています。
(マグネティック)ピックアップが弦振動を拾う仕組みは、楽器メーカーYAMAHAのサイトで解説されていますのでご覧ください。ダミーコイルはボビンやコイルなどピックアップ同様の構造をしていますが、マグネットを持ちません。それ故弦振動による電磁誘導が発生せず、電気信号として出力しないことになります。ただ、ノイズとなる外部からの電磁波などは通常のピックアップ同様拾うことが出来てしまいます。
YAMAHAのサイトページ下部の「ハムキャンセルの仕組み」では、ハムバッキングピックアップにおいて2つのコイルが、ノイズを打ち消し合いつつ出力が加算される仕組みが解説されています。ダミーコイルの場合、ピックアップのコイルと逆巻き状態で組み合わせると、出力は加算しませんが拾ってしまったノイズ信号は互いに打ち消し合いキャンセルするということになります。なお、大まかではありますがそれぞれの直流抵抗値をできるだけ揃えたほうがハムキャンセル効果は高いということになります。
RitchieがF-500Tと組み合わせたダミーコイルですが、通常のシングルコイルピックアップを消磁したもので、使用されないセンターポジションに搭載され、直流抵抗値はF-500Tのタップ時の値(約7.5kΩ)だったそうです。また、ピックアップ交換がされていないStratocasterではVelvet Hammer社のVHS-2R(上の画像)など逆巻逆磁極のピックアップが搭載されていました。こちらは消磁されていなかったようで、厳密にはダミーコイルではありません。ですので直列接続の場合は出音にも影響が大きく、所謂ハムバッカー風の出音になったとのことです。
LEAD2に搭載する場合、ブリッジポジションのピックアップキャビティーが広いため搭載は可能ですが、消磁していなければRobbie RobertsonのLast Waltz Stratocasterに近い配置となり、直列接続時の出音は通常のハムバッカーに似た感じになりそうです。その場合、イメージとしてあるRitchieの出音からの乖離は大きそうです。
Quarter inch rod magnets
Ritchie Blackmoreが過去に使用したピックアップのうち、手持ちの中から外観重視で絞り込んでいくとF-500レプリカかSSL-4になります。どちらも1/4インチのポールピースを持ち、ピックアップカバーレスな外観なわけですが、そもそもこの仕様のピックアップの持つ音質的特徴とはどのようなものでしょうか?
通常のStratocaster用シングルコイルピックアップのポールピース直径は約4.76mmで面積は約71.1mm^2であるのに対し、1/4インチ≒6.35mmで面積は約126.6mm^2ですので、面積比では約1.7倍となり外見的にはかなり違って見えます。太いポールピースはいかにも強い磁力を持っていそうですが、長さが同じであれば磁力に大きな差異はないそうで、事実スペックシートで確認しても通常のシングルコイルピックアップと大差はありません。
では出音に対するポールピースの影響は何かと言えば、太さの違いは主に倍音の拾い方に影響するようです。
1/4インチポールピースのピックアップを評する際に使われる「音が太い」という表現は何に起因するのでしょうか。上の画像はポールピースの直径の値を変更した場合の、倍音の拾い方の違いを表したものです。通常のポールピースと比較して、1/4インチポールピースでは高い周波数での振幅がいくらか低下することがわかります。「音が太い」ことへの影響の度合いは不明ですが、確かに違いは出るようです。
スペックシートによれば、SSL-4のワイヤーゲージは細めでコイルのターン数は多く、これは一般的に高域特性の劣化と高出力化をもたらします。つまり、太いポールピースのシングルコイルピックアップには概ね以下のような特徴があることになります。
・ポールピースが太いことによる高い周波数域の倍音の拾いにくさ
・ワイヤーが細めでコイルのターン数が多いことによる高域特性の劣化
・比較的高出力(直流抵抗値が高い)
ポールピースの太さとワイヤーゲージの変更を個人で行うのは困難ですが、ターン数の変更についてはコイルタップ仕様のものを用いれば検証可能となります。
そのタップ仕様のピックアップですが、実際にRitchieが使用していたF-500Tの他、現行品ではSSL-4T等があります。SSL-4Tの場合ワイヤー色は白がホットで黒がコールド、赤がタップとなります。
コイルタップ機能の仕組みですが、上の図のように巻かれているコイルの途中でタップ線が出ていて、通常はコイル全体と内側コイルのみの使用を切り替えることになります。
ところが資料によると、Ritchieは搭載していたF-500Tについて、コイルの使い方(リワインド)を出音の調整やノイズ対策目的で度々変更していたようで、その変遷は以下のようになります。
・1979~1980年
ネック/ブリッジポジション:タップ(内側コイル)
+ダミーコイル直列
⇒出音に満足できない
・1981年
ネック/ブリッジポジション:ノンタップ
+ダミーコイル直列
⇒出音が丸く太くなり不満足
F-500Tとダミーコイルの直流抵抗値が合わずノイズ増加
・1981年末
ネック/ブリッジポジション:ノンタップ
+ダミーコイル並列
⇒ネック/ブリッジポジションのバランスが悪い
・1983年
ネックポジション:タップ(外側コイル)
ブリッジポジション:タップ(内側コイル)
+ダミーコイル直列
⇒一応満足
・1984年
ネックポジション:タップ(外側コイル)
ブリッジポジション:タップ(内側コイル)
+ダミーコイル並列
⇒さらなる出力減少、AIWA TP-1011で出力補正
変遷なのか迷走なのかは難しいところですが、ノイズ対策と出音調整の間で揺れ動いていたのは確かなところでしょう。
外側コイルを用いる場合は上の図のようにホットではなくコールドを切り替える配線となりますので、実際に行う際には注意が必要です。
上の画像はSSL-4Tの直流抵抗値をコイル別に測定した結果です。全体では13.73kΩで、内側・外側コイルがそれぞれ7.12kΩ・6.61kΩですので丁度半分とはいきませんが、概ね中間でタップされているようです。
MST(Master Tone Circuit)
資料によれば、DawkはRitchieのStratocasterに「Master Tone Circuit」なるものを組み込んでいたとのことです。以前は製品としてDawkの会社から販売されていたようですが、現在は入手が困難であるようです。
資料には「Master Tone CircuitはBill Lawrence(現在はWilde Pickups)のQ Filterに基づいている可能性がある」との記述があるため、物は試しと現在でも入手可能なQ Filterを取り寄せてみました。
Q Filterですが、黒い直方体(縦・横が約20mmで厚みが約15mm)の中にコイルが入っており、トーンコントロール用のPOTに抵抗とコンデンサとともに組み合わせて使う、所謂LCR回路によるフィルターです。
ネックポジションのピックアップには5kΩの抵抗を、ブリッジポジションのピックアップには25kΩの抵抗を使うといいかもなんて感じのことが書かれてあったので、抵抗は半固定として微調整できるようにしました。その他は推奨の配線図どおりとしました。推奨の配線図で見る限り、LCR回路によりフィルターを形成しアースに落とすという回路設計になっています。
選定
F500TレプリカとSSL-4はどちらも直流抵抗値が高く、高出力で中低域が充実しているといえますが、その他は(L-250は直流抵抗値こそ高いですが)特段高出力とは言えません。
また、資料内にはピックガード部を側面から撮影した画像が掲載されているのですが、OBL社のL-450やFender Lace Sensorと比べ、F500Tはかなり低めにセッティングされていることがわかります。SSL-4についてはセッティングの詳細は不明ですが、搭載されていたのはブリッジポジションのみだったということで、どうやらRitchieは搭載するピックアップに対し高出力であることを望んでいなかったのではと推測する次第です。資料には、エコーマシンとしてのみならずブースターとしての活用でも有名な、AIWA社のオープンリールデッキTP-1011により、リワインド等でピックアップからの出力が下がった分を補正していたとの記述もあります
以上の推測も鑑みた上で本コスプレでは以下を採用基準にしたいと思います。
・1/4インチポールピースでカバーレスの外観
・ボビン色は黒
・高出力であることは求めない
・超高域は必要ないが低~高域にかけてのバランスの良さ
そうするとF500TレプリカとSSL-4のどちらを選ぶにしろ、出力と低域の豊潤さが気になります。どちらもそうですが、ブリッジポジションはともかくネックポジションで歪ませた場合、かなり低くセッティングしても低域が豊かすぎてちょっと御しがたいという感じになってしまいます。それぞれ微妙な違いはあるのですが「ブォー」と「ヴォー」の違いくらいです(笑)。ですので、出力を抑えたものを採用するか、豊かすぎる低域をどうにかする必要に駆られます。
前述の通り、RitchieがF-500Tを搭載した後のリワインド(あるいは結線変更)においてネックポジションではピックアップ外側のコイルを用い、ブリッジポジションではピックアップ内側のコイルを用いたとの記述がありますが、豊かすぎる低域とネック/ブリッジポジションの音量調整という目的は達成できていたようです。
ピックガード2種
結論です。採用したピックアップはSSL-4です。但し、コイルタップの検証目的で入手したSSL-4Tも活用するべく、ピックガードアッセンブリーを2つ組んでみました。LEAD2本体には、ノーブランドのハムバッカーをバラしたコイル(直流抵抗値5.4KΩ)をハムキャンセル用のダミーコイルとして組み込み、ブリッジアース線とともにコネクターで結線することとしました。ダミーコイルの設置場所ですが、ブリッジポジションのピックアップキャビティーではなく、ネックポジションからの配線材用溝を利用しています。
一つはノーマルのSSL-4+スプリットトーンコントロールです。スプリットトーンコントロールは以前別記事で検証したものですが、中低域の豊かさが過ぎるピックアップへの対策には有効と考えチョイスしました。
音出ししてみての感想ですが、ノーマルのSSL-4+スプリットトーンコントロールはやはりというか、ローカットトーンの有効性を再確認しました。今回ローカット用のコンデンサには0.002μFを用いたのですが、少し絞ったときの綺羅びやかな感じは悪くありません。また、直流抵抗値は全然合っていないのですが、豪華電飾など無い自宅環境であればハムキャンセル効果もちゃんと感じます。
ただ、ローカットした音は使いやすくはあるのですが、Ritchieっぽいかと言われるとそこはそうでもないような気もします。
この組み合わせは残念ながら落選となりました。
もう一つはコイルタップが可能なSSL-4T+Q Filterです(上の画像はQ Filter取り付け前)。タップの仕様はRitchieに倣い、ネックポジション外側コイル、ブリッジポジション内側コイルとしました。
SSL-4T+Q Filterの方は、コイルタップ回路としてネックポジションで外側コイルを、ブリッジポジションに内側コイルを使うよう配線してみました。ただ、前述の通り直流抵抗値の差が小さいからか、内側/外側の使い分けによるメリットは殆ど感じません。資料(旧版)に記述のあった、ネックポジションは常にタップ、ブリッジポジションはタップとノンタップを切り替えて使うという組み合わせがいい感じでした。また、タップしたときの出音ですが、直流抵抗値が似ているX-1との比較では、X-1では抜けて感じる中低域のある帯域がSSL-4Tのタップでは出ていて、タップしても中低域の豊潤さは残っているように感じました。
というわけで、前述の「太いポールピースでコイルターン数が少ない仕様」に関する検証ですが、太いポールピースならではの音の特色はあるように感じました。
Q Filterですが、前述の用に配線して使ってみた結果としては、フルでちょっとキラキラする感じで、絞るとキラキラが消えていき、その後低域も消えてフェイズアウトっぽい感じになります。通常のローカットトーンよりもQ Filterの方が、絞っていない状態でも何故かRitchieの音に似るような気がします。
というわけで、長きにわたる検討の結果、SSL-4T+Q Filterを採用することに決定しました。
あくまでもイメージの話になりますが、両ポジションでタップではDown To Earth ~ Difficult To Cureあたりの感じで、ブリッジポジションノンタップではStraight Between The Eyesあたりの感じに近いような気がします。
ちゃぶ台をひっくり返すようで気がひけるのですが、Ritchieのギターサウンドの中ではDeep Purple時代が筆者の好みです。ただ、今回色々と検証してみて、ある種のパーツの持つ「癖」はそこそこ大きな影響を出音にもたらしそうだ、ということがわかりました。Rainbow中期以降のRitchieの出音を真似したければ、太いポールピースのタップ可能なシングルコイルピックアップとQ Filterを搭載するのは割と有効な気がします。
【了】