Fender Player LEAD3のRobert Crayモデル化(ThroBak FL-II MXV Custom Pickups搭載) #コスプレ
今回のモチーフはFender社のRobert Cray Stratocasterです。
Player LEAD3にはPurple Metallicというボディー色があるのですが、Robert Cray Stratocasterのボディー色にもViolet(後述)があり、紫の系譜に連なるものであるというやや無理筋の共通点を見出したことと、ブリッジがどちらもハードテイルである点に基づき、コスプレの標的といたしました。
Robert Cray
Robert Crayはヒット曲"Smoking Gun"などで知られる、アメリカ出身のブルースギタリスト/シンガーです。"Bad Influence"はEric Claptonにカバーされています。
上の動画でVioletのRobert Cray Stratocasterを弾く様子が見られます。ピックアップについてはネックポジションや所謂ハーフトーン(ネック+ミドル、ミドル+ブリッジ)の使用が多いようです。
Robert Cray Stratocaster
Fender社によるRobert Cray Stratocasterの開発開始は1990年にさかのぼります。1990年の終わりに、最初はカスタムオーダーとしてのみFender Custom Shopによって製造が開始されました。1弦側の弦落ち防止の為にボディーに対しネック中心をややずらして取り付けている点や、ピックアップの高さをピックガードと同じくらいまで下げている点などがセッティングの特徴だそうです。
シングルコイルピックアップの高さを下げた場合、通常出力は下がりますがポールピースが弦を引っ張る力は弱まります。Fender Custom ShopのMichael Stevensによれば「弦とピックアップの間の距離が長くなると、アタックは弱まりよりアコースティックなサウンドになる」、「アンプのボリュームを少し上げなければならないが、Robert Crayのトーンの多くは、彼の指と本当に低くセッティングしたピックアップから来ている」とのことです。
外見上の最大の特徴であるハードテイルブリッジの選択理由は、チューニングの狂いを最小限に抑えるためだそうです。ハードテイルのStratocasterは多数派ではないのですが、Stratocasterの発売当初からラインナップされており、The Rolling StonesのRon WoodやChicのNile Rodgersが使用しています
ネックシェイプは、1960年代初頭のStratocasterのものを踏襲しています。
元々クロームだった金属パーツは、1998年半ばにゴールドに置き換えられ、指板のRは1990年代半ば頃に9.5 "から12"に変更されました。
最初に設定されたボディー色はViolet、Inca Silver、3tone Sunburstの3色です。その後メキシコ製のものが生産開始となりますが、その時期は10年以上遅れた2003年となります。
現在Fender社から販売されているRobert CrayモデルのStratocasterには上述の通り2種類あり、Violetのボディー色はFender Custom Shop製にのみ用意されています。また、メキシコ製は金属パーツがクロームメッキ、指板のRは9.5"のままです。
ピックアップについてはいずれにおいてもいわゆるヴィンテージタイプのシングルコイルピックアップが搭載されているようですが、インタビューによればTexas Specialが搭載されていたこともあったようです。
仕様
コスプレの内容としては、ブリッジの換装、ピックガードの新調とアッセンブリーの移植・ピックアップ交換など、主にボディー側のモディファイとなります。
ブリッジベースにはCallaham社製American Standard用Hardtailを、サドルにはKTS社のチタン製プレスサドルPR-14を採用しています。
ピックガードはホワイト3プライ(形状はPlayer LEAD2)のものを、いつものごとくProvision Guitarで製作してもらい、アッセンブリーはPlayer LEAD2のものを流用しました。
ピックアップには、Stratocaster用で所謂ヴィンテージ仕様のものを選択したいところです。そこで今回は、基本的にヴィンテージ仕様でありつつも、Player LEAD2用のリプレイスメントピックアップであることを謳っている、ThroBak社の FL-II MXV Custom Pickupsを搭載しました!
ThroBak FL-II MXV Custom Pickups
ThroBak社は、Gibson社のハムバッキングピックアップ(通称P.A.F.)を、オリジナル製作当時の巻線機を実際に用いることにより、当時と同様の製法で再現することに成功したことで知られています。
P.A.F.以外にもP-90やFender社のStratocasterやTelecaster用のピックアップも製作しており、その他エフェクトペダルや弦なども手掛けています。そんなThroBak社が、よりにもよってなぜPlayer LEAD2用に新たなモデルを製作・販売するに至ったかは不明です。
上の動画はThrobak社によるFL-II MXV Custom Pickupsの紹介動画です。アップロードが2020年4月20日ですので、これまで気づかなかったことを恥じ入るばかりですが、Player LEAD2の発売後まもなくであったということには驚きを禁じえません。ピックアップ交換の際にリード線を途中で切ってつなげる方法を紹介しているのには驚きましたが、Player LEADシリーズに採用されているスイッチがあまり頑丈ではない点に異論はなく、この手法への理解は及ぶところです。ただ、端子部以外での空中結線にそこはかとなく抵抗を感じるところもあり、今回は端子部での配線交換とします。
到着したパッケージを開けると同時注文した弦(古い機械を使って作っているそうです)とともに、ピックアップの外箱が出てきました。
Throbak社によるFL-IIの特徴は以下のとおりです。
•USAカスタムキャストアルニコ5マグネット。
•42AWG※プレーンエナメル被膜のマグネットコイルワイヤー。
•MeteorME-481A(1960年代初頭のStratocaster用ピックアップを巻くために使用されたものと同モデルの巻線機)による、パワフルなヴィンテージトーン。
•ポールピースは、現代的な指板のRに一致するように配置されている。
•ヴィンテージコットン被膜のリード線。
•ビンテージスタイルのワックスポッティング。
•ミドルポジションでのハムキャンセル効果(ペアの場合逆巻逆磁極)。
•ビンテージスタイルのバルカンファイバー製ボビン。
•100%米国製。
※AWG⇒American wire gaugeの略で線の太さを表し数字の大きいほうがより細い
価格はペアで$185と、Throbak社のピックアップの中では廉価です。
(※2022年9月現在ペアで$310とかなり価格上昇しています)
(※2024年5月現在ペアで$460と大幅に価格上昇しています)
以下はThrobak社による説明文です。
いかがでしょうか?説明文を読む限り、夢のようなピックアップに思えてきましたね!それでは詳細を見てみましょう。
Player LEAD2の純正ピックアップとの比較です。上2つがFL-IIで下2つが純正品です。純正品のボビンはプラスチック製ですが、FL-IIは黒いバルカンファイバー製です。
純正品のポールピースは面取加工がされているため、ポールピースの直径がやや小さく見えます。
FL-IIのリード線はヴィンテージコットン被膜のプッシュバックワイヤーと呼ばれるもので、ネックポジション用がベージュ/黒、ブリッジポジション用が黄/黒となっています。純正品のリード線は一般的なビニール被膜のもので、ネックポジション用が白/黒、ブリッジポジション用が黄/黒です。
ポールピースの面取りの有無により、上の図の如く方向ごとの磁力線強度が異なるようです。この違いが実際の出音にどう影響するかは不明です。
裏面です。FL-IIにはブランド・機種名の書かれたステッカーが貼られていますが、純正品では白色のペンで数字が書かれています。ポールピースの直径がほぼ同じであることもよくわかります。
側面です。ボビンとコイルワイヤーの素材や形状の違いがよくわかります。コイルワイヤーは、FL-IIが42AWGのプレーンエナメル皮膜であるのに対し、純正品は43AWGのポリウレタン皮膜で、一般的にはポリウレタン被膜のほうがプレーンエナメル被膜よりも薄くなるようです。
ThroBak社によれば直流抵抗値はネックポジション用が6.2kΩ、ブリッジポジション用が6.8kΩとのことでしたが、実測値はネックポジション用で6.41kΩ、ブリッジポジション用で6.97kΩでした。
また、純正品はネックポジション用で7.75kΩ、ブリッジポジション用で8.40kΩでした。
採用されているコイルワイヤーは純正品がポリウレタン皮膜の43AWG(約0.055mm)、FL-IIがプレーンエナメル皮膜の42AWG(約0.063mm)とのことですので、仮に巻数が同じ場合コイルワイヤーが細い純正品のほうが直流抵抗値が高くなりますが、実際に巻数が同数か否かは不明です。
また、これも巻数が同じであるという仮定においてですが、コイルワイヤーの細いほうがインダクタンス(コイルに誘導される起電力)は減ります。インダクタンスが減ると高域が出やすくなると言われているため、純正品のほうが高域は出やすいと言えるかもしれません。巻数が同じであれば、ですが。
他にもコイルを巻く際のテンションや巻き方のラフさ等によっても直流抵抗値やインダクタンスは変わるそうですので、結局は色々と不明ですね。
終わりに
コスプレとしての完成度ですが、そもそもVioletとPurple Metallicというボディー色の相違もあり、Robert Crayモデルのコスプレと認識してもらえるか否かは微妙なところです。また、ブリッジ・サドル以外はほぼノーマルのPlayer LEADですので、生成りにおいて特筆すべき変化はありません。ただ、サドルの違いにより、コードを弾いたときに少し弦ごとの分離がいいような気もします。
ピックアップの高さについては、上の画像の通りネックポジションピックアップの6弦側でほぼピックガードと同じくらいまで下げてみました。音量のバランスを取ると1弦側はやや高くなりますし、ブリッジポジションでは流石にピックガードと同じ高さには出来ませんでしたが、これだけ下げれば確かにアタックは弱まります。
FL-IIの出音についてはThroBak社による説明文のとおり「ネックポジションではクリアでふくよか、ブリッジポジションではリードプレイに最適なパワフルな音」です。これと比較すると純正品が「音が細く、緩く、ジャリジャリ」とされてしまうのも宜なるかなと。特にネックポジションでのヌケの良さと、ブリッジポジションで適度にパワフルな点は好感が持てます。ただ、P-90(Les Paul Special搭載)っぽいとまでは思えず、やはり古いStratocasterに搭載されているピックアップとの共通性を強く感じます。
オリジナルLEAD2搭載のX-1との比較では、初期のX-1(上の画像、黄丸内)がFL-IIとボビンの材質や形状等において似ていますね。音の比較ではX-1のほうが癖が強いというかエグみがあるというか。押し出し感は強いのですが繊細さに欠けるという印象です。
FL-IIは、各弦に対するポールピースの高さ設定こそ現代的であるものの、その他の点においては1960年代のStratocaster用シングルコイルピックアップの仕様を踏襲しています。現代のギターであるPlayer LEAD2を古き良き時代のFender社のギターに近づけたい場合には、良い選択肢の一つであると思います。ただし、それは同時にオリジナルLEAD2の持つ個性からは離れることを意味しますので、結局は求める方向性次第かな、と。取り敢えず筆者は2セット目を発注済みです!
【了】
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