
Fender Player LEAD3のValley Arts Larry Carltonモデル化 #コスプレ

今回のコスプレモチーフは、ギタリストのLarry Carltonがかつて所有していた、Valley Arts社のStratocasterシェイプカスタムギターです。
Larry Carlton

Larry CarltonはThe CrusadersやSteely Danでの名演でも知られるギタリストです。愛機としてGibson社のES-335を使用しており、Mr.335の愛称は有名です。Gibson社からはLarryの愛機を元にしたシグネチャーモデルも発売されています。
過去にはValley Arts社のギターを複数所有・使用していた時期もあり、今回のモチーフはその中でもLarryが最初に手に入れたものとなります。
Valley Arts

※リットーミュージック、ギター・マガジン1986年4月号P190より
上の画像のギターは、1979年のクリスマスにValley Arts社のMike McGuireがLarry Carltonに贈ったとされる、Valley Arts社最初期のほぼプロトタイプと言われているものです。キルトメイプルと思われるサンバーストフィニッシュのボディーに特徴的な形状のべっ甲柄ピックガードが搭載されており、パーツ類はゴールドでブリッジはハードテイルという仕様です。ヘッドもマッチングヘッドと言えるサンバーストフィニッシュで、ストリングガイドの形状と位置が特徴的です。

作成当初はヘッドシェイプもStratocaster同様だったそうですが、Valley Arts社固有のヘッドシェイプを持つネックに換装されています。また、当初搭載されていた1/4インチサイズと思われる大径ポールピースを持つピックアップも、最終的にはEMG社製のピックアップに交換されたようです。
※GUITAR HOUSEのサイト参照

形状変更(ハードテイルブリッジの後端部にピックガード下端が並ぶ)の目的ですが、製作当初に搭載されていたであろうシンクロナイズドトレモロを、ハードテイルに仕様変更した際にその埋木跡を隠す目的ではないかと推測されます。上の画像ではトレモロユニットを右用から左用に替えた際の埋木跡がよくわかりますが、おそらくは同様の状態になっていたのではないかと考えられます。
実際GUITAR HOUSEのサイトにあるボディー裏面の画像を見ると、スプリングカバーの位置にブラス製と思われる金属板が、また、それに埋め込む形で搭載されているストリングフェラルが確認できます。

今回モチーフにしたギター以外にも、Valley Arts社はLarry Carltonモデルとして、StratocasterやTelecasterのボディー形状を持つギターを販売していました。上の画像の通りこれらのいずれにもメタルノブが採用されており、Larryの好みが伺えます。また、ブリッジにはTune-O-Maticが採用されており、Gibson社伝統の仕様を踏襲しています。つまり、今回のモチーフとしたギターをLarryに贈る(贈った)際、基本的にトレモロアームを使用せず、Gibson社の仕様を好むLarryの要望に沿うため、シンクロナイズドトレモロからハードテイルへとブリッジの換装が行われたのではないかと推測する次第です。
歴史

Valley Arts社の歴史についてはこちらのサイトに詳しく記されています。
要約すると、Valley Arts社はDuke Miller Guitar Centerという楽器店をMike McGuireとAl Carnessが買い取る形で1970年代初頭~中頃に創設されており、社名は所在地の地名から取られています。修理・改造で高い評価を得ていく中で、Larry Carltonの来店を契機としてSteve LukatherやRobben Fordなどの著名なギタリストも訪れるようになったようです。

1977年頃、Mike McGuireが最初にゼロから作ったのが、今回モチーフとしたギターであるといわれています。当時Mike McGuireは非常に多くのピックアップを試していたようですが、大径ポールピースを持つこのピックアップが何であったかの詳細は不明です。上の画像ではSeymour Duncan社のSSL-4ではないかと推測されています。また「1979V.A.(Valley Arts)ファイアーバード・ストラト」との表記ですが、他に用いられているのを確認できておらず、掲載誌独自の呼称ではないかと推測されます。

その後Valley Arts社はLarry CarltonやSteve Lukatheのモデルを製作し、専用の工場を持つまでになります。販売されていたギターの特徴としては、シースルーカラーで美しい木目を活かしたボディーにゴールドのハードウェア、Floyd Rose社のロッキングトレモロを搭載し、ピックアップにはEMG社やSeymour Duncan社のものが多く採用されていたようです。
1980年代中頃からは、日本でもValley Arts社のギターがライセンス生産されるようになりましたが、1990年のクリスマスに小売店が放火されたことが契機となり、会社の経営は悪化します。
1992年には株式の50%を韓国のSamick社に売却するも、1993年には創業者の二人は会社を離れてしまいます。2002年12月に、Valley ArtsはSamick社からGibson社に売却され、Mike McGuireを中心としてブランドを再開しますが、売上が思いのほか伸びず2012年にMike McGuireが引退、2016年には生産が打ち切られてしまいます。
コスプレ概要

今回コスプレのベースに選んだ個体はSienna SunburstのPlayer LEAD3です。もともとはピックアップ交換のみ行っていたのですが、Valley Artsのサンバーストと色味が似ていなくもないというだけの理由でベースに選ばれました。
金属パーツはゴールド(ネジ関連はブラック)に変更し、特徴的な形状のべっ甲柄ピックガードはProvision Guitarで作成してもらいました。ノブはゴールドのメタルノブで、スイッチはモチーフ同様のレバータイプではなくトグルスイッチを採用したのですが、その理由は後述します。
ネック(ペグ・ストリングガイド・ジョイントプレード)

ペグには、Valley Arts社M Seriesで使用されていたゴールドのロトマチックタイプを搭載しています。また、ストリングガイドですが、モチーフでは特徴的な形状のゴールドパーツが採用されているものの、同色で同様の形状のものが入手できず、やむなく色を重視しました。

ネックジョイントプレートにもM Seriesで使用されていたパーツを流用しています。
ボディー
(ピックガード・ブリッジ・ピックアップ・コントロール)

ピックガードはべっ甲柄の3プライで、形状は前述の通りエンドピン側の下端を、ゴールドに換装したハードテイルブリッジのボディーエンド側に合わせる形で形状をモディファイしています。上に重ねたPlayer LEAD2純正のピックガードと比較すると、形状モディファイの内容が理解しやすいかと存じます。


モチーフを参考に、ストリングフェラルやエンドピンなど金属パーツは基本的にゴールドですが、ピックガード固定ネジやピックアップ高さ調整ネジ、スイッチ類はブラックにしました。

スイッチは大きいトグルスイッチがピックアップの切り替え用で、小さい2つのスイッチはボディー外周寄りがネックポジションの、ノブ寄りがブリッジポジションのピックアップ配線切り替え用です(後述)。
POTにはボリューム・トーンともCTSのソリッドシャフト250kΩを採用、コンデンサはスペースの都合上ボックス型で0.022μFとしました。
Tom Anderson

搭載するピックアップについては悩んだ結果、Tom Anderson社のSA(1R,2+)を採用しました。社名としても冠されている創業者のTom AndersonはもともとSchecter社で働いており、1984年のSchecter社売却に伴いピックアップビルダーとして独立、その後はネックやボディーも製造するようになります。Tom Andersonのギターはいわゆるハイエンドギターとして名を馳せるようになります。ピックアップは単体で販売されています。
コスプレ的には大径ポールピースを有するシングルコイルピックアップを搭載すれば成立はするのですが、これまで試したことのあるQ Pickup社製のSchecter社F-500「N」レプリカやSeymour Duncan社のSSL-4については、芳醇すぎるともいえる中低域を共通して持っており、Larry Carltonサウンドとはあまり馴染まないという印象です。
大径ポールピースを持つシングルコイルピックアップには、他にSchecter社のMonster Toneなどがありますが、価格と入手のしやすさに加えて配線の選択肢が多いこと、また、歴史的な経緯を考えればモチーフに初期のTom Anderson社製ピックアップが搭載されていた可能性も0ではないことなどが搭載の決め手となりました。

画像の通りピックアップはいわゆるスタック構成で、コイルがマグネットを挟んで上下に位置しており、その結果ピックアップの高さは24.4mmとかなり高めになっています。

ただ、ピックアップがカバーレスであることと、Player LEADのキャビティーの深さが約22mmあるため問題なく搭載可能でした。

また、SA-1Rが92g、SA-2+が98gと重量に違いがありますが、おそらくはコイルのターン数の違いに起因するものと思われます。
上の画像ではピックアップの裏面が写っています。Dimarzio社のVirtual Vintageシリーズなどのスタック(ヴァーティカル)構造のシングルコイルサイズピックアップでは、下のコイルは空芯で弦振動を拾わないように設計されているそうですが、SAシリーズでは下のコイルまでポールピースが通っていることがわかります。
Switcheroo

Tom Anderson社にはSwitcherooと呼ばれる配線のシステムがあります。これは、ピックアップのコイル配線をシリーズ(直列)、パラレル(並列)、スプリット(コイルタップ)のどれにするか、各ピックアップ用のミニスイッチとコントロールキャビティー内のDIPスイッチにより選択できるというものです。
スタックタイプのシングルコイルサイズピックアップに対する配線方法ごとの特徴ですが、メーカーによる解説をまとめると以下のようになります。
・シリーズとパラレルは共にノイズフリー
・シリーズの方がパラレルより音量も大きいシングルコイルサウンド
・スプリットは素晴らしいシングルコイルトーンを得ることができる
・出力については、スプリット>シリーズ>パラレル

いわゆるラージハムバッカーと呼ばれるハムバッキングピックアップにおいて標準的な配線はシリーズであり、P.A.F.と呼ばれる伝統的なタイプではプ内部で配線が完了していて外部にはホット・コールドの2本の線のみが出ています。


一方で、ピックアップ内部の2つのコイルそれぞれのホット・コールドが全て(計4本)外部に出ていて、シリーズ・パラレル等の配線を切り替えられるタイプも少なくなく、その場合出力の関係は通常シリーズ>パラレル≒スプリット(コイルタップ)となります。

これは2つのコイルの位置関係が同一平面上であり、弦とコイルの距離がほぼ同一であるため、シリーズにおいてはそれぞれのコイルからの出力が合成されて約2倍になるためです。


通常スタックタイプのシングルコイルサイズピックアップにおいて、弦から遠い下側のコイルはノイズキャンセル用のコイルとして用いられます。ですので上の画像のDimarzio社やSeymour Duncan社の配線図例のように、上下のコイルはシリーズ配線された上で(Dimarzio社:白ー黒結線、Seymour Duncan社:赤ー白結線)、普通のシングルコイルピックアップ同様に配線するのが一般的です。理論上パラレルやスプリットも可能ですが、通常のシングルコイルとして用いるスプリットはともかくパラレルについてはそもそも想定されていません。
それに対し、Tom Anderson社では前述の通り上下のコイル間で多様に配線することを前提としています。今回採用したSAシリーズやSFシリーズでは、スプリットでの使用を想定している証左として製品名末尾に「R」の付いた逆巻き逆磁極(組み合わせたときにハムキャンセルされる)の製品がラインナップされていますが(今回のコスプレでもSA-1Rを採用)、SCシリーズではスプリットでの使用を想定していないのか逆巻き逆磁極の製品は設定されていません。

せっかくなので今回のコスプレではモチーフ同様のレバースイッチではなく、2つのミニトグルスイッチによりそれぞれのピックアップで直列・並列・コイルタップを選択可能とし、使用するピックアップはトグルスイッチで切り替えることにしました。これにより理論上は3(ネック)+9(ネック+ブリッジ、3×3)+3(ブリッジ)=15種類の音色が得られることになります。
ピックアップ配線切り替え用のミニトグルスイッチですが、ネック・ブリッジポジション用とも、ピックアップ切り替えスイッチ側に倒すとパラレル、中間がスプリット、アウトプットジャック側に倒すとシリーズとなります。

各ポジションでの直流抵抗値ですが、上の画像の通りです。パラレルでは並列の合成抵抗値となるためスプリットの約半分と低くなり、シリーズでは逆に直列の合成抵抗値となるためスプリットの約2倍となります。ただし前述の通り、直流抵抗値と出力の関係はイコールにならず、スプリット>シリーズ>パラレルという関係となります。
使用しての感想ですが、いずれのポジションにおいてもスプリットが好みで、Seymour Duncan社のSSL-4等とは異なり、高出力且つワイドレンジで「端正だけど元気」という印象です。ハムノイズも何故かほとんど気になりません。
シリーズではやや出力が下がり、Player LEAD2のピックアップとほぼ同等であると感じます。音色としてはスプリットよりもやや高域がナマり、ダイナミックレンジもやや狭く感じますが、シングルコイルサウンドの範疇ではあり、使えないという印象はありません。
パラレルでは更に出力が下がり聴感上はスプリットの半分程度です。音色的にも張りが少なく「薄い」感じになりますが、高域はシリーズよりも出ていてバッキング等に用いるには便利そうです。
これらをミックスポジションで色々と組み合わせてみましたが、9種類のうちあえて言えばスプリット+スプリットが元気のよい感じで好きです。もしもモチーフ同様にピックアップ切り替えをレバースイッチとするならば、現時点では標準の配線をスプリットとし、スイッチポットでシリーズも選べるようにする、という選択をするかもしれません。
終わりに

いつものことではありますが外見的にやや妥協の残る今回のコスプレ、ピックアップの配線切り替えによる可能性が堪能できたことはよしとして次に備えたいと思います!
【了】