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Fender LEAD2のEdward Van Halen "Pre"Frankenstrat化(2022/2/11完成) #コスプレ

 今回は、Van Halenのギタリスト、Edward Van Halen(以下EVH)が愛用していた「Frankenstrat(或いはFrankenstein)」と呼ばれるStratocasterタイプのギターをコスプレのモチーフにしたいと思います。ただ、Frankenstratは時期により仕様が異なるため、その変遷の中からモチーフを選択する必要があります。
※参考サイト
A Different kind of truth


Frankenstrat

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EVH Frankenstrat

 Frankenstratは、Fender社のStratocasterタイプのギターにGibson社のPatent Applied For(P.A.F.)と呼ばれるタイプのハムバッキングピックアップを搭載した、俗に"SuperStrat"と呼ばれるギターの礎として有名です。


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Michael Hampton's Stratocaster

 EVH以前にも、Funkadelic/ParliamentのMichael Hamptonがリバースヘッドで3ハムバッカーという仕様のStratocasterを使用してはいましたし、ネック・センター位置へのハムバッカー搭載ということであればBay City RollersのEric FaulknerやMC5のWayne Kramerの存在も挙げられます。また、Allan HoldsworthもEVHのデビューより少し前に2ハムのストラトタイプを使用していました。しかし、人口に膾炙したのはやはり、Frankenstratを抱えたEVHがVan Halenとして鮮烈なデビューを果たしてからではないでしょうか。


 Frankenstratの仕様としては、Van Halenとしてデビューした後の白黒のストライプ柄ボディーが有名で、自身の名を冠したEVHブランドからトリビュートモデルが発売されています。


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EVH Frankenstrat

 後に赤白黒のストライプに変わるこのFrankenstratですが、ボディー塗装以外にも、ネック、トレモロユニット、ピックガード、ピックアップ等が入れ代わり立ち代わり変更されています。更に言えば、デビュー前にも様々な仕様の変遷があったようです。


"Pre"Frankenstrat

frankenstrat変遷2
Frankenstrat仕様変遷

 EVHのFrankenstratについては、その変遷に関する推測が参考サイト上で為されていて、まとめると上の表のようになります。
 そもそもは、1961年製とされるStratocasterのブリッジピックアップをハムバッカーに交換したことに始まり、ボディーが変わりネックも変わり、ということで最終的にはよく知られた白黒のFrankenstratが誕生する事になったようです。
 白黒Frankenstratの時点で残っているStratocasterのパーツは非常に少ないかもしれません。というのも、搭載されているトレモロユニットは1958年製のStratocasterから取ったとの記述があるからです。ただ、ネックジョイントプレートのシリアルナンバーは、1959~1962年製のStratocasterであることを示す「61071」ですので、1961年製のStratocasterから流用された可能性は十分にあります。


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1977 Pre-Frankenstrat

 この仕様変遷の中で、ローズウッド指板のStratocasterネックに無塗装のアッシュ材Stratocasterシェイプボディーを組み合わせた、上の画像の仕様を今回のモチーフに選定いたします。


仕様

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LEAD2 Body

 コスプレの内容ですが、ローズウッド指板のLEADシリーズのボディーを無塗装状態にして、ゼブラボビンのハムバッキングピックアップなどのアッセンブリーを搭載する、というものになります。
 まず、塗装が極度に劣化していたLEAD2のボディーをサンディングで無塗装状態にしていきました。ただ、トレモロユニットを搭載するには木部加工が必要となるため、Provision Guitar社に無塗装っぽいつや消しのナチュラルフィニッシュに仕上げてもらうよう依頼しました。


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ボディーの「割れ」

 ところが大変残念なことに、ボディーに割れが見つかってしまいました。木部のザグリ加工が困難と考えられるため、取り敢えずシンクロナイズドトレモロユニットの後付については中止し、対応を検討することにしました。


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Control

 コントロール部ですが、モチーフにはドーム型のメタルノブが2つ搭載されています。Stratocasterでいえば2つのトーンの位置にノブがあるのですが、LEADシリーズの場合ピックガード上にアウトプットジャックが取り付けられているため、ノブの位置は通常のヴォリューム・トーンと同位置にします。
 回路ですがトーン回路は配線していない1ヴォリューム仕様にしています。上の画像では、暫定的にLEAD1の塩化ビニール製ピックガードを載せています。


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アクリル板ピックガード

 Frankenstratのピックガードは、EVHがアクリル板から手づから切り出したものだと言われています。こちらは予定通りProvision Guitarさんにお願いし、2mm厚のアクリル板を用いて綺麗に仕上げてもらいました。
 全体の形状はLEAD1のピックガードと同様ですが、スイッチ用の穴とピックアップ高さ調整ネジ用の穴は空けていません。
 アクリル製のピックガードは塩化ビニールと比較して硬度が高く、出音に対する影響は幾分有りそうです。


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EVH Custom Low Friction Pot 500k

 ヴォリュームPOTは暫定でCTS社の500kΩでソリッドシャフトのものを採用していましたが、最終的にはEVHブランドのEVH Custom Low Friction Pot 500kを搭載しました。その名の通りヴォリューム操作時のトルクは非常に小さく、ヴォリューム奏法が捗りそうな感じです。


ピックアップ

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Mighty Mite Pickup?

 今回モチーフとしたデビュー前のFrankenstratに搭載されていたピックアップは、Mighty Mite社のピックアップ(ボビン色はクリームまたはゼブラ)だったようです。所謂Hex PolesあるいはAllen Screw pole Pieceと呼ばれる12本のポールピースを有しており、調整には六角レンチが必要です。その外観はDimarzio社のSuper Distortionに酷似していて、実際DiMarzio社の創始者であるLarry DiMarzioはインタビューの中で「当時Mighty Mite社はDiMarzio製品の販売を担当していたが、ミシシッピー川以西での販売という契約を守らなかったため、我々は契約を破棄したところ、彼らはコピー製品を作り始めた。」と述べていますが真相やいかに?!
 Mighty Mite社のピックアップは現在でも復刻版を入手可能ですが、選択できるボビン色が黒のみということで今回は採用を見送りました。


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Dimarzio Super Distortion

 というわけで、今回採用したのはMighty Mite社のピックアップの元になったとされるDimarzio社のSuper Distortionです。当然ですが外見は酷似しておりゼブラボビンの入手も比較的容易です。ボビン上部には、1・2弦用と5・6弦用のポールピースの間に穴が空いていますが、これはMighty Mite社のものには認められません。


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Bumble Bee

 また、EVHの使用していた別のギター(通称Bumble Bee)には実際にSuper Distortionが搭載されていたようです。ただし、Guitar Player誌1980年4月号のインタビューによれば、EVHはSuper DistortionのマグネットをGibson社のPAFのものと交換していたようです。


Super Distortion

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Super Distortion01
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Super Distortion02

 Super Distortionは、Gibson社の所謂ラージハムバッカーと呼ばれるピックアップと似た構造から開発をスタートしました。
 セラミックマグネットとコイルの巻数を増加させた最初のサンプルは、通常のハムバッカーに比べて少しサイズが大きかったようですが、すぐに対応され現在のサイズになったようです。また、1972年の発売開始時には、ピックアップの「足」部分の形状がGibson社のものと同様に四角かったようですが、現在では三角の形状をしています。発売時のピックアップワイヤーは2芯シールド線です。


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Elegant Gypsy/Al Di Meola, 1977

 Dimarzio社によれば、Super Distortionは「リプレイスメントピックアップの先駆けであり、チューブ・アンプをトータル・オーバードライブさせるために特別に設計された最初のピックアップであり、他のすべての高出力ピックアップを評価する基準である」とのことです。トーンバランスについては「厚みのあるブーストされた中音域、大きな低音域、太い高音域というクラシックなもので、このサウンドは、30年以上にわたって、 Ace Frehley、Al Di Meola、Paul Gilbertなど、さまざまなプレイヤーのプラチナ・レコードで聴かれてきた」ものだそうです。


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Super Distortion兄弟機種仕様比較

 Super Distortionには兄弟機種とも呼ぶべきピックアップがあります。Dual SoundとSuper 2です。
 まず、1974年にDual Soundが発売されました。ピックアップワイヤーが4芯シールド線であること以外はSuper Distortionと同仕様だったようです。しかしその後Super Distortionにも4芯シールド線が使用されるようになったため、現在Super DistortionとDual Soundの間に差異はありません。なお、識者によれば過去Dual Soundの販売パッケージには配線変更に使用できるミニスイッチが同梱されていたとのことです。
 1977年にはSuper 2が販売されます。こちらは外見こそSuper Distortionと同様ですが、直流抵抗値や出力などが異なります。Dimarzio社の説明文では「Super 2は、クラシックなSuper Distortionサウンドを採用し、EQをハイエンド側にスライドさせている」とのことです。なお、1994年にはSuper Distortionの高音域を削り中音域を増やしたSuper 3も発売されています。その他にもDimarzio社の高出力ピックアップには、Super Distortionの外観を踏襲しているものが多数あります。


マグネット交換

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Rough Cast Alnico Magnet for HB 2 & 5

 Super Distortionとその派生モデルには一貫してセラミックマグネットが使用されていますが、今回は前述のインタビューの内容に倣い、アルニコマグネットへの交換を試みました。
 マグネットはMontreux社のRough Cast Alnico Magnet for HBのうち2と5を用意しました。いずれもロングタイプです。
 選択理由ですが、Music Man社、Peavey社、そしてEVHブランドから発売された各シグネイチャーモデルに搭載・別売りされているピックアップのマグネットが2あるいは5であったという事に拠ります。また、前述のBumble Beeに搭載されていたSuper Distortionのマグネットもアルニコ2であったとの記述があります。


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Super Distortion側面

 Super Distortionのボビン外周に巻かれているアセテートテープを剥がすと、2つのボビン中央下にセラミックマグネットが見えます。


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ベースプレート内部

 ベースプレートを外したところです。セラミックマグネットはホットボンドのようなもので固定されていました。


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マグネット比較01

 セラミックマグネット(上)と、交換用のアルニコマグネット(下)では厚みも長さも異なります。


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マグネット比較02

セラミック(上)
57.2mm(2.25inch)×10.7mm(0.42inch)※×5.59mm(0.22inch)
アルニコ(下)
63.5mm(2.5inch)×12.7mm(0.5inch)×3.05mm(0.12inch)
※セラミック短辺はアルニコと幅を揃える目的で装着されていると思われる鉄板を外しての数値


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マグネット置換01

 そのままアルニコマグネットを装着してみると、厚みが異なるためベースプレートとの間に大きな隙間ができてしまいます。


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マグネット置換02

 そこで木片をスペーサーとして用い固定しました。このあと新しいアセテートテープをボビン外周に巻いて完成です。


結果

追記:2022/2/11

 前述の通り使用予定のボディーが割れてしまいましたので、ローズウッド指板でアッシュボディーのLEAD2に用意したアッセンブリーを搭載してみました。ボディーが無塗装ではありませんので、この時点で本コスプレの「未完」が確定しました。 
 別ネック・ボディーに置換し一応のコスプレ完成となりました。(2022/2/11追記)


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スラントマウント

 ピックアップはボディーに直付けで、固定用のネジと高さ調整用のスペーサーにはストリングガイド用のものを流用しました。サドルはプレスタイプで、Fenderの刻印の入った幅10.5mmのものです。
 LEAD1のピックガード穴はSuper Distortionを余裕でスラントマウントすることが可能な大きさであるため、モチーフに傾きと位置を似せてはみましたが、サドルの幅が異なるため限界を感じます。
 マグネットの比較では、アルニコ5もセラミックよりは好ましく感じたのですが、アルニコ2の方がよりEVHらしいと感じたため2を採用しました。約14KΩの直流抵抗値にアルニコ2という組み合わせがブラウンサウンドの秘密である、とまでは到底申せませんが一定の「EVHっぽさ」は内包しているように感じます。なお市販のピックアップでは、前述のEVHブランドの「EVH Wolfgang Pickup Bridge」やSeymour Duncan社の「SH-11 Custom Custom」などがアルニコ2&直流抵抗値約14kΩという仕様です。


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EVH Pick

 上の画像は1989年1月29日のVan Halen京都公演の終了後に、京都全日空ホテル(当時)のラウンジで本人から直接もらったピックで、厚みは約0.4mmです。


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Fender Pick

 市販品で近い厚みのものを探したところ、Fender社のティアドロップ型「THIN」が厚さ約0.5mmでしたので、本機の演奏時に使用しています。


モノクロ化画像比較

 ブリッジポジションにハムバッカー1発、1ヴォリュームという仕様のギターに009-042ゲージの弦を張り、半音下げチューニングにして薄いピックで弾けば、やはり幾分かの「EVHらしさ」が感じ取れます。
 外観的にも画像処理(モノクロ化)によってある程度モチーフに近づけられたとは思いますが、オイルフィニッシュで仕上げている関係上、処理後も幾分「艶」の存在を感じます。この個体の塗装も部分的に痛みがあり、現時点で決して良い状態とは言えないため、リフィニッシュとシンクロナイズドトレモロユニットの搭載のための木部加工をする決心がつけば、未完のコスプレは完成に向け前進することになります。


追記:2022/2/11 

 上の画像の通り、ネック・ボディーを置換し、一応のコスプレ完成となりました!(2022/2/11追記)


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EVH Signature & Pick

 本記事執筆の時点で2020年10月6日の命日からは1年以上が経ちました。30年以上経ちましたが、サインとピックをくれたときの素敵な笑顔を忘れることはないでしょう。R.I.P EVH……

【了】

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