リプレイスメントパーツを用いたFender Player LEAD3のAllan Holdsworth "1973 Stratocaster with Dick Knight Neck" 化 #コスプレ
今回のモチーフはAllan Holdsworth が1970年代後半に使用していた1973年製のStratocasterです。ネック・ボディーを含め、リプレイスメントパーツを使用して組み上げています。
Allan Holdsworthと使用ギター(1970年後半~80年代前半)
Allan Holdsworthはイギリスのジャズフュージョン、プログレッシブロックのギタリスト、作曲家です。1970年代よりTempest、Soft Machine、Bruford、U.K.などのバンドへの参加や、Tony Williams、Jean-Luc Ponty、Gordon Beckなどとの共演でも知られていますが、1980年代以降はソロアーティストとしての活動が主になります。
Allanの使用ギターの変遷はこちらのサイトで詳細に表されていますが、そのうち1970年代後半から1980年代前半に使用していたStratocaster系のものについて以下にまとめました。
1~2個のハムバッキングピックアップをピックガードマウントという仕様が共通していますが、これらの中でもネックをDick Knight製のものに換装した1973年製のStratocasterについて調べてみました。
Dick Knight
Dick Knightはイギリスのギター製作家です。1907年3月22日に生まれ、1967年からは義理の息子であるGordon Wellsと一緒にギターを製作するようになり、1986年までの間、Dickがギターを作り、Gordonがリペアを担当したそうです。1986年以降はGordonがギター製作を行うようになり、現在もKnight Guitarsとして修理・製作を行っていますが、主なラインアップはソリッドエレクトリックギターではなくアーチドトップギターです。
AllanはイギリスでDickと出会い、Stratocaster用にナット幅が1 3/4インチ(44.45mm)と幅広で、指板Rも大きい太めのネック作成を依頼したようです。メイプル材に貼られたエボニー指板にはバインディングも付けられていて、アーチトップギターでよく採用される仕様であるといえます。ヘッド形状はStratocasterのスモールヘッドと呼ばれるものに形状こそ似ていますが、厚みが大きくヘッドロゴの位置もオリジナルのStratocasterとは異なります。ペグはScharller社製のロトマチックタイプで、ストリングガイドはつけられていません。
このDick Knight製のネックに換装した1973年製のStratocasterですが、オリジナルの仕様としては以下のようになります。
ラージヘッド、メイプル1ピース or ローズウッド指板ネック
Fキーペグ、羽根型ストリングガイド2個
ボディー材はアルダー(ボディー色によりアッシュの場合あり)
3ボルトネックジョイント
亜鉛ダイキャスト製ブリッジサドル・トレモロユニット
Allanが購入した際の使用詳細は不明ですが、塗装を剥ぎナチュラルフィニッシュにされた状態の画像を見る限り、ボディー材はアルダーであると思われます。
元のボディー色については、モノクロ画像で見る限りBlackではないかと思えるのですが、上の画像の通り明度を上げるとピックガードの黒との相違があります。
1973年頃のFender社で選択できた範囲ではWalnutの可能性があります。
また、搭載されているハムバッキングピックアップのボビン色ですが、SG CustomからいわゆるPAFを移植したのであれば、年代的に考えて黒となります。その後DiMarzio社製PAF(ボビン色はクリーム)に換装され、最終的には同じDiMarzio社製でもボビン色が黒のものを搭載したとのことですので、ボビン色の変遷としては黒→クリーム→黒であったとと考えられます。
ピックガードはネック同様Dick Knight製で当初は黒、後にべっ甲柄になり最終的は白っぽいものになったようです。
これらを踏まえてDick Knight製のネックを搭載していると思われるStratocasterを時系列順に並べてみたのが上の画像です(2022/6/29、 レジェンダリー・ギタリスト アラン・ホールズワース[コンプリート・エディション].シンコーミュージック,2022,P2~14.の記述に基づき修正)。ボディー色の変遷については最初がWalnutで、それを剥がした後白にリフィニッシュ白にリフィニッシュした後剥がしナチュラルとなり、その後黒に再リフィニッシュであれば辻褄は合います。
なお、Guitar Player誌のインタビューでは
とありますので、何度かリフィニッシュされていることは間違いないようですが……
もう一つの特徴としてはストラップピンの取り付け位置が挙げられます。上の画像のように6弦側ホーン部のストラップピンは外され、ネックジョイント部に移動されています。この仕様はCharvel社やIbanez社のものにも踏襲されています。
DickはアメリカのBoogie Body社製と思われるメイプル材のStratocasterタイプのボディー用にもネックを作成したようですが、そちらにはバインディングはなく、ヘッドデカールも貼られていません。ただ、ヘッド形状やペグ、ストリングガイドなしという仕様は共通しています。ピックガードは黒の1プライでノブは黒のトップハットタイプです。
上の動画は1979年のBrufordのライブです。ブリッジサドルはMightymite社製のように見えます。
使用パーツ概要
上述の通り今回は市販されている様々なリプレイスメントパーツを用いて組み上げました。以下は使用パーツの概要です。
ネック
ネックですがFender社の American Channel-bound Stratocaster Replacement Neckで、一見するとバインディング付きに見えますが、実際にはメイプルネックの指板部をくり貫き指板材のローズウッドを埋め込んでいるような仕上がりになっています。ペグは手持ちのFender社製です。
ネックジョイントプレート
ネックジョイントプレートですが、Fender社の4-BOLT AMERICAN SERIES GUITAR NECK PLATE WITH STAMPです。Micro Tilt neck adjustment system用に空いた穴を利用して、ネックジョイント部にストラップピンを取り付けるために採用しました。
ピックガード
ピックガードはべっ甲柄の3プライでProvision Guitar社製です。
ピックアップはDimarzio社のDP103 PAF 36th Anniversaryで、ボビン色はクリームです。
POTはボリューム・トーンともCTS社の500kΩで、トーン回路にはローカットとハイカットを切り替えられるSprit Tone Controlを採用しています。
スイッチはピックアップセレクターとローカット/ハイカット切り替えスイッチです。
ブリッジ
ブリッジはボディーに付属していたもので、ネジ穴の位置等は全く問題ないのですが、サドルの幅は10.8mmとオリジナルLEADシリーズの10.5mmよりも広めです。形状をオリジナルのFender社亜鉛ダイカスト製のものに似せるため、GOTOH社のS200に交換しています。
ボディー
ボディーですがカナダのToneBomb社製アルダー材ボディーを入手しました。表面の仕上げはなかなか粗めで、サンディングを行った後、Xotic社のXotic Oil Gelで塗装しました。塗装後はキャビティー内に導電塗料(SONIC社SP-01 Water-Based Shielding Paint)を塗布して完成です。
この後ストリングブッシュを打ち込み各ハードウェアを取り付けて組み込み完了となりました。
まとめ
元のボディー重量が1.57kgと軽量であることもあり、完成後の重量も約3.0kgと軽量です。ただ、ストラップピンの位置と相まってめちゃくちゃヘッド落ちします。
そこで、ジョイントプレートを上下反転させてみたところ、ストラップピンの位置をボディー上方に数センチ移動させることができました。これにより、ヘッド落ちはずいぶん改善しました。
Dimarzio社PAFはかなりハイが出る好みのタイプのピックアップで、これならばローカットトーンは必要なかったような気もしていました。ただ、しばらく使っていると、トーンフルの状態であっても切り替えると高域の感じが変わってそれはそれで使いでがあると思えてきました。
Channel-boundのネックは正面から見るとそれっぽいのですが、上の画像のような角度だとバインディング感がいまいちかもしれません。このように各部に未熟さが垣間見える仕上がりとなったものの、全体としてはかっこよく仕上がったと自負しております。
Allan HoldsworthがアメリカでStratocasterを購入し、イギリスに戻ってハムバッキングピックアップを搭載したのは1976年7月以降と思われます。それから遅れること約半年、1977年の1~2月頃にはEdward Van HalenがStratocasterにハムバッキングピックアップを搭載したようです。インターネットなど当然ない時代ですが"Dick Knight" Stratocasterの仕様はアメリカまで伝わり、後のFranken Stratに影響を与えたのでしょうか。Boogie Bodies製ボディーの採用は双方に共通していますが、80年代に入ってからのCharvel製のAllanモデルはブリッジポジションにハムバッキングピックアップ1発という仕様である点はEVHからの影響なのか、妄想を膨らませるだけなら容易ではありますが……
【了】