【Deeptech】iPS細胞×不妊治療スタートアップ:前編
「Femtech-X」はフェムテック産業の「今」を伝え、「未来」をつくるメディアとして、日本のフェムテックプレーヤーの創業の思いや事業概要を発信しています。
第7回は、株式会社Dioseve CEO 岸田和真さんにお話を伺いました。
前編では、起業の背景や、iPS細胞由来の卵子作製技術「DIOLs」の強みなどについて伺いました。
インタビューの様子はYoutubeのFemtech Community Japan 公式チャンネルでもご覧ください!→https://youtu.be/osMKFWHeihE
1. 人生を変えるバイオテクノロジーの力を実感し、起業を決意
ーーまず、岸田さんが起業された経緯について教えてください。
大学卒業後は、M&Aアドバイザリーを専門とする投資銀行に新卒で入りました。いつか起業をしたいと思っていたので、その後繋がりがあったVCの方に「起業したいが、何かできませんか」とプランもなくお話しに行きました。元々、私がバイオをやりたいことはそのVCの方も知っていたので、共同創業者の浜崎を紹介いただきました。彼と知り合って意気投合し、会社を創業して3年になります。
ーー投資銀行から、再生医療やバイオの領域は結構距離があるように思います。この領域に関心を持たれていた背景についてお伺いできますか。
私の原体験に基づいています。高校生の時にある治り難い病気に自分がかかっていることが分かりましたが、その当時は治療法がありませんでした。しかし、その2~3年後、アメリカの製薬会社が作った薬が日本で承認され、それは即効性の高い薬で、副作用もなく、治る確率が98%というすごい薬剤でした。私自身、その薬のおかげで病気が治っていま元気に生活できています。こういった自分の経験から、「バイオテクノロジーは本当に人の人生を変えることができる」と強く感じました。
世の中に、もっと自分より苦しんでいる人たちは間違いなくたくさんいます。バイオテクノロジーに救われた1人として、 そういった方に「この薬をであなたの病気が治るよ」、「この治療法であなたも子供が持てるよ」と新しい選択肢を提供できる会社を作っていきたいという思いで、バイオの世界へ飛び込もうと考えたのがきっかけです。
治療法があれば希望を持つことができます。 医師に「治療法がありません」と言われると、患者にとっては絶望しかありません。もうダメなんだと。今は日本で事業を進めていますが、日本でできた治療法でも、世界の患者に求められ広げていくことを考えています。
ーー共同創業者の浜崎さんとはどのような経緯で出会われたのでしょうか。
これは結構ユニークだと思います。浜崎はアメリカの大学で研究をしています。初めて話をしたのは2021年当初で、パンデミック状況の中オンラインで議論をしました。 本当に紳士的でビジネスに対するリスペクトも非常に持ってらっしゃる方だと感じました。
その後、2週間に1回の頻度でオンラインで議論を続けました。彼を紹介したVCも同席し、3人で、卵子を作る技術を軸に、「これをどうやってビジネスにしていくのか」「どんなビジネスアイディアが考えられるのか」ということをかなり密に話しました。
実際、最初に浜崎と対面で話したのは創業から1年後ぐらいでした。それまでは、オンラインで話をしている状況でしたが、元々仲が良く、信頼関係ができていているVCに紹介してもらった研究者でした。そのため、何も不安はなく、「この人と一緒にやらないとダメだ」と思って、会社を創業しました。
ーー共同創業は、起業家にとって難しい面もあると言われます。共同創業者として会社を運営するコツはありますか。
ここまで、続けることができている理由としては、自分の得意分野とそうでない分野の切り分けです。具体的に、弊社の場合、ビジネス側は私が担当し、研究に関しては私は当時は素人だったこともあり浜崎に全部任せています。
お互いの役割をしっかり明確に分け、自分の役割は、しっかり全うしなければいけないと理解し合っているので、大きな衝突は起きていません。
2. 事業概要
ーー御社の事業について教えてください。
弊社は、iPS細胞から卵子を作製する技術をもつ会社です。血液などから作る「iPS細胞」は、2012年京都大学の山中先生がノーベル賞を取られた技術です。いろいろな研究者が、今、その技術で作ったiPS細胞を更にさまざまな臓器に変えることを世界で取り組んでいます。
この技術は、もちろん不妊治療にも適応できますし、生殖細胞と呼ばれる人や生物の一番最初の細胞を作っていることを考えると、さらには、遺伝病の原因解明や、その研究に基づく治療薬など、そういった領域にも展開していきたいと考えています。
3. ビジョンに込めた思い
ーービジョンには、どのような思いが込められているのでしょうか。
ビジョンは、「全ての生命に新しい選択肢を」です。これは、私自身の原体験を強く反映しています。当時、私の病気は治療の選択肢がない状況でしたが、別に何か悪いことをしたからそういった状況になったのではなく、生まれながらにそうなることが運命づけられていました。その時の悔しさを、強く鮮明に覚えています。
実は、飛行機のパイロットになりたいという高校生らしい夢があったのですが、パイロットは健康な人がなる職業で、かなり厳しいヘルスチェックが求められます。その中で、病気のためにパイロットを諦めた時は本当に悔しかったです。
その時に自分が同じくらい熱くなれることは何かを考え、当時、稲森和夫さんの著書を読んでいたこともあり、起業家として社会を動かすことの魅力を知り、起業の道に進むことを決めました。
4. 卵子自体の問題にアプローチし、生殖補助医療の課題に挑む
1995年、日本では「生殖補助医療」と呼ばれる不妊治療の実施回数がまだ数万回でした。2019年には45万回、2021年は50万回近くまで増えており、年々すごいスピードで伸びています。
一方で、生殖医療の成功率、つまり治療を受けているみなさんが本当に子供を授かれているかという点では、アメリカで23%、日本で13.5%という状況です。決して、満足のいく治療が現場で行われているとは言えません。
その理由の1つとして、女性の卵子の老化が指摘されています。女性の卵子は生まれて一回も増えません。一回作られた卵子は、その後30~40年も体内でずっと保存され使われ続けており、その間に卵子としての機能がだんだん落ちていきます。
一方で、晩婚化が進んでいる現況から考えると、ある意味、「生物として持つもともとの機能」と「現在の社会構造」のギャップがますます開いています。そのため、多くのカップルが妊娠しづらい状況が生まれていることが背景にあります。
ーー妊娠できない原因に対し、どう解決していけるのかということがDioseveさんの事業の課題の中心になっているのでしょうか。
おっしゃる通りです。不妊の原因はいろいろありますが、大きく分けると、母親側の機能、卵管(子宮の横についている管)や子宮自体の問題などが挙げられます。
しかし、現在、一番治療が難しいのは卵子自体の問題です。女性の年齢、つまり卵子自体の年齢が関係する問題によって、多くの女性が不妊に悩んでいる状況があります。
弊社では、iPS細胞にいくつかの遺伝子を入れる技術を開発しています。実際に、iPS細胞から作製した卵子と精子を受精させると、見事に受精卵を作り、細胞分裂と呼ばれる子供に育っていくプロセスを開始したことが大きな発見です。
5. 卵子作製技術「DIOLs (Directly Induced Oocyte-like cells)」の強み
ーーiPS細胞自体はどんな細胞にもなれる可能性がある細胞で、御社の技術「DIOLs」の核となっていますね。「DIOLs」について詳しく教えてください。
実は、iPS細胞から卵子を作る技術は、弊社の発明の前から存在していました。一方で、サイエンスとしては非常に素晴らしい技術ですが、その技術を社会実装するためにはいくつかのハードルがありました。
まずは、培養期間です。ヒトのiPS細胞から卵子まで分化誘導するには一年ほどかかると言われています。また、成長因子と呼ばれる高額な試薬を大量に使う必要があり培養にかかる費用が高いこと、再現性がすごく難しいことなど、いろいろな課題がありました。
一方で、弊社の技術では5日で卵子を作ることができます。高額な成長因子が不要のため、費用も安く、再現するのも簡単です。専門の経験がない大学生でも再現できる実験という強みがあります。
さらに、胎児の卵巣、要は赤ちゃんの卵巣組織と一緒に培養するプロセスがなく、作れる卵子の数も無制限で、実用化しやすいところが大きな特徴です。弊社では、この技術の社会実装に取り組んでいます。
ーー卵子を作る既存技術をもっている企業との差別化が御社のユニークな点で、強みになっているということですね。
生殖細胞を作る会社は、世界で見てもまだかなり少数です。生殖細胞を作る技術レベルでは、日本は間違いなく世界のトップの国です。DIOLsはその中で生まれてきた技術で、海外の会社と比較しても弊社の研究は一歩進んでいます。加えて、簡単に早く大量に作ることができる特徴があるので、世界で戦っていける技術だと考えています。
DIOLsの発明自体はマウスの研究成果ですが、2021年にはイギリスの科学誌『Nature』にこの発明が掲載されました。
後編へ続く→https://note.com/femtechjapan/n/n378e913ee9ea
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