【Femtech-X】#1 株式会社YStory:更年期×Deeptechスタートアップ
新シリーズ【Femtech-X】はフェムテック産業の「今」を伝え、「未来」をつくるメディアとして、日本のフェムテックプレーヤーの創業の思いや事業概要を伝えていきます。まだまだ知られていないフェムテックの社会的・経済的インパクトとその理解を促進し、フェムテック市場参入の推進や協業のきっかけになれば幸いです。
第一弾として、更年期デジタルセルフケアアプリを提供する株式会社YStoryのJanet Yu氏に、起業の背景からアプリの強み、更年期領域の成長性や社会的インパクトについてお話をお伺いしました。
※インタビュー動画はFemtech Community JapanのYoutubeチャンネルで公開しています。
YStoryに込めた想い
──起業した経緯について教えてください
中国から10年前に来日し京都大学を卒業後、コンサルティングファームArthur D Littleのヘルスケアチームで経営コンサルタントとしてヘルスケア、ファーマの事業やMedtechに関わりました。その中でFemtech領域の中の更年期の分野のアンメットニーズの高さと世の中にソリューションがないことを実感したんです。
Co-FounderのSherryはプレ更年期世代だが、月経がこないということがあり受診をしたところ更年期に差し掛かっているとの診断を受けたがソリューションがないことに課題を感じたんです。このような2人のバックグラウンドから、Sherryと自分の強みであるAIやデジタルの力で更年期領域にチャレンジしたいと思ったことが創業のきっかけです。
──CEOの二人が出会ったきっかけは?
コンサルティングファームのデロイトで5年以上戦友でした。プロジェクトの話だけでなく女性として健康の話題、プライベートの話もよくする中で、更年期への不安とソリューションのなさに課題感を持っていました。
事業内容
更年期デジタルセルフケアアプリ
──更年期は「症状のデパート」と呼ばれるくらい症状が多岐にわたり難しい領域だと思います。貴社の事業概要について教えてください。
医師側は更年期患者さんが自分の症状を適切に伝えることは難しいと認識しています。患者がパニック状態にならずデータを可視化した上で自分の症状を示すことができるものがあるのではよいのではないかと考え、更年期デジタルセルフケアアプリを立ち上げました。また女性自身もヘルスリテラシーが低いという課題に対してまずは自分の状態を把握し「更年期」について理解をしたうえでセルフケアを促進するというvision・missionの実現に向けて、女性の健康プラットフォームを開発している。
──「更年期」だと分かるだけでも安心できると感じる女性は多いですが、そうした女性のなんとなくの不調が今まで注目されてきませんでした。実際、アプリ開発の上で苦労したことはありますか。
開発ではどのようなデータをトラッキングするのかという部分に課題がありました。更年期症状の中でも身体や心、デリケートゾーン、睡眠という重症化しやすい症状を中心にトラッキングし、かつやさしいUI/UXでつくりたいという想いでこのアプリを開発しています。
トラッキングする症状のデータについては、ユーザーのフィードバックを参考に京都大学の研究者と整理し、α版・β版を踏まえ現在のアプリに至っています。デザインの部分についても力を入れており有名なGAFA企業のリードデザイナーに依頼しています。現在も多くのユーザーからフィードバックを得ており、それらを1つ1つ改善し、より質の高いUI/UXのプロダクトを開発に繋げています。
トラッキングの方法と可能性
──意外なフィードバックや仮説が外れた経験はありましたか?
ユーザーからは体温記録のニーズがあるが、実際に京都大学の研究者と話してみると「体温は更年期を判断する指標ではない」ということが分かっています。PMSや妊娠と比べると更年期で把握したいデータはかなり違うので更年期に特化したプロダクトを開発していきたいと思っている。以前、他社が更年期のトラッキングに挑戦していたがトラッキングするデータそのものの有効性が重要になってくると考えている。キーとなるようなデータを使って引き続き開発していきたい。
──バイダルデータのように自動的にとれるようなデジタルデータに対して、ユーザーが記録する必要があるデータもある。月経とは異なり様々な症状がある更年期についてユーザーが記録することは手間にならないか?
ユーザーからはどちらかというと「もっとこうしたデータを記録したい」というニーズのほうが多いんです。面倒くさいというより1人1人パーソナライズのデータを記録したいというニーズが強い。もちろん、applewatchなどのウェアラブルデバイスと接続できる機能も開発しておりデバイスで手軽にデータを記録できるようにしていきます。また更年期障害の確定診断に使用できるバイオデータのトラッキングもソリューションとして開発していく予定です。
医療との連携
──患者側の理解不足だけでなく、更年期に関する専門的な知識をお持ちでない医師も多いと理解しています。患者さんの伝え方の課題や医療側の課題への対応として、より症状を的確に説明できるようになるものは開発されていますか。
そうした機能は次のバージョンで提供する予定です。ユーザーには処方された薬を服薬する患者も一定数おり、更年期で受診するときにだいたい自社のアプリを開いて見せています。月単位や過去3カ月といった単位でのレポートを医師に見せて自分の状態を伝えたいという声がでています。また、医療側にも問診に近いものを提供していくことで、スムーズな医師と患者のコミュニケーションにつながると感じます。
コミュニティの力
──コミュニティ機能について工夫されている部分はあるか。
更年期は1人1人症状が違うため、友人や同僚に話しても理解してもらうことが出来ずに1人で悩み、孤独になってしまう女性が多いんです。自分と似ている症状の人たちとコミュニケーションをとれるようにコミュニティ機能を作りました。アプリ登録者のうち90%がコミュニティ機能を利用しており、「自分と同じような症状の方と話せて安心感がある」「他の人の対処法を知ることができ参考になった」といった声や、コミュニティを通じて「孤独ではない」「更年期は自分のせいではない」という思いを持てている女性が多いです。今後もコミュニティ機能は強みとして押し出していきたい。
──実際に同じような症状の人たちで「私もこういう症状で悩んでいる」といったコミュニケーションをとっているのでしょうか?
そういったコミュニケーションは活発に行われています。例えば、動機のあるユーザーがコミュニティでそれをつぶやくと、他のユーザーが「私も動悸がある」「動悸に対してこのように対処した」といったコミュニケーションが活発に行われています。アドバイスをもらうことができる側面もあるが、どちらかというと情緒的価値として安心感を求められている方が多い印象です。更年期を一緒に乗り越える仲間ができるコミュニティになっていると感じます。
──実際のユーザー層、ペルソナは?
40代で少し月経不順があり更年期なのではないか?という問いをもってアプリを使い始める方が多いです。またすでに更年期障害で通院している患者さんで、服薬しながら自分の健康状態を管理したいというユーザーもいます。
ビジネスとしての更年期領域
ヘルスケアとDTx(デジタルセラピューティクス)2本柱の強み
──更年期についてリサーチを進める中で、男性に更年期について理解してもらうことはとても難しいと感じています。更年期のトラッキングといったあまりないプロダクトをリリースするにあたり、資金調達に向けて投資家に伝える際に苦労されたことはなんでしょうか。
投資家への説明で1番重要なのは、「更年期」というペインがどれくらい大きいのかということです。スタートアップとしてどのようなソリューションを提供していけるか。
YStoryはヘルスケアとDTx(デジタルセラピューティクス)の2つの事業をみており、そこでプラットフォームを立ち上げたいという想いでヘルスケアアプリを開発に加えてDTxについても京都大学と共同開発をしています。この取り組みを説明することで、資金調達の面では可能性があると思っています。
今後はどのようなエビデンスをもっているかが最重要になってくるので、最適なエビデンスのあるものを継続して開発し成果を出していきたいです。
今後の展望
──これから新規に取りこみたいターゲット層や、今後取り組んでいきたいことなどはありますか。
更年期デジタルセルフケアアプリについては、更年期に悩む40代・50代の方に使っていただきたい。日常生活の中で一緒に頑張りましょう!アプリの中にはたくさんの仲間がいますのでぜひ試してみてください。また、35歳以上は女性ホルモンが少しずつ減少しその後の女性ホルモンの変動が更年期となるります。そのため更年期予防という文脈から35歳以上の女性も更年期に関するリテラシー向上や健康管理に活用できると思います。
──今後協業していきたい提携先があれば教えてください。
更年期領域は、他の疾患領域と異なり基礎研究すら進んでいないのが現状です。1980年代で研究が止まってしまっているんです。そのため研究に取り組んでいる大企業とコラボしていきたいです。また、ペイシェントジャーニー上から見てみると診断・治療の面で、まだまだアンメットニーズがあります。診断の面では、自社の症状データをもってバイオデータをもっている企業との協業であったり、治療のソリューションがある製薬企業との協業も検討しています。
自社の強みは、デジタルの力が強い、AIの開発が早い、データサイエンティスト・AI研究者が多いことですので、この強みを活かしながら取り組んでいきたいです。
木村:チームはかなりグローバルに富んでいる印象です。
かなりグローバルで多様性の高いチームですが開発チームは基本的に日本や米国のメガベンチャーから組成しています。かなり強い技術力が組成したチームです。
木村:最後に読者の方へのメッセージをお願いします!
更年期は1人1人の孤独なJourneyですが、1人1人のYourStoryをYStoryに共有していただいて私たちは伴走支援していきたいと思っています。
よろしくお願いします!
インタビュー協力:株式会社Y Story Co-Founder&CEO Janet Yu氏
インタビュアー:Femtech Community Japan 理事 木村 恵
取材協力:Femtech Community Japan 金井 響加
執筆:Femtech Community Japan 城口 薫